if~刹那君は操縦者~   作:猫舌

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第17話

刹那サイド

 

 

「「本当にすみませんでしたっ!」」

 

「あ、頭を上げてください・・・」

 

 

翌日、研究所に戻った筈の束とブルーノが簪に土下座を決め込んでいるのを僕達は麦茶を飲みながら見ていた。

理由は、今日の朝に研究所に戻った所で新しい発明が浮かび、実践した結果大爆発を起こして研究室を吹っ飛ばしたらしい。幸い研究所は無事だったが、中の一部が大惨事になってしまった。よって簪の機体開発は延期となってしまった。

 

 

「あ、明日には正常稼働する様に手配するから。本当にごめんなさい!」

 

「全力で修理に当たらせてもらうよ。本当にごめん!」

 

「私は大丈夫ですから・・・!それに手伝ってもらうだけでもありがたい事なのに」

 

「凄いね簪。あの篠ノ之束に土下座させてるよ」

 

「刹那・・・!」

 

 

簪が涙目で睨んで来るが、視線を逸らして麦茶を飲む。隣ではラウラがニコニコしながらコップの中身を飲み干す。どうやら麦茶が気に言ったらしい。

それから数分して、ようやく束達は顔を上げて帰って行った。すると母さんが立ち上がって言った。

 

 

「それじゃあ、今日はお買い物に行きましょうか!私も暫くは休日だし」

 

「母さん、そんなに休んでて良いの?」

 

「・・・院長とかにいい加減休めって言われて。私はまだまだ平気なのに」

 

 

家の両親は若干働き過ぎな面もある。

すると僕はふと思い出して言った。

 

 

「あ、僕はパスでも良い?実は今日、遊ばないかって友達に誘われてるんだ」

 

「あらそう?それじゃあ、今日は女子会と行きましょ。美味しいランチのお店に連れてってあげる」

 

「私は刹那様のお世話を」

 

「僕は平気だから、クロエも楽しんで来なよ」

 

「ですが・・・」

 

 

その後、クロエを説得して母さん達を見送る。一応父さん達にも話を通して、外に何人か見張りを張ってもらった。

僕は部屋に戻って机の引き出しを開き、ヘッドギア型のゲーム機の[ナーヴギア]を取り出してコードをコンセントに入れて頭に取り付ける。そしてゲームカセットをセットしてベッドに横になった。そして目を閉じて呟く。

 

 

「リンク・スタート!」

 

 

次の瞬間、景色は切り替わってログイン画面になる。それから再び景色が変わり、そこはファンタジー感溢れる世界の一室だった。僕はそこから出て、外へと向かう。そこは完全無欠の異世界だった。といっても此処はまだ森の中にあるログハウスだが。

此処は、フルダイブ型ゲーム《ALO(アルヴ・ヘイム・オンライン)》の中である。

ふと窓を見ると、黒いコートにズボン。背中に大剣を下げた"黒髪"の僕が写っていた。移動すると、待ち合わせ中の友達を見つけたので声を掛ける。

 

 

「おーい」

 

「お、来たな!こっちだぜ《クロナ》!」

 

 

クロナは僕のプレイヤーネームだ。黒髪の刹那だからクロナと言うなんとも安直な名前だろうか。これでも二時間近く悩んで付けたんだよねぇ。

 

 

「久しぶり、《ユーマ》、《ナッシュ》、《カイト》」

 

「おう」

 

「昨日のメールぶりだな」

 

 

昨日のメールの相手であるかっとビング先生こと《ユーマ》と、シャーくんこと《ナッシュ》。そしてハルトオォォ!こと《カイト》の三人である。トマトは残念ながら予定が合わずにこの四人で遊ぶ事となった。

このゲームでは、数種類ある種族から好きなものを選んでアバターを作る事が出来る。僕は《スプリガン》と呼ばれる種族を選択している。

ユーマは《サラマンダー》、ナッシュは《ウンディーネ》、カイトは《シルフ》とそれぞれ好きな種族の姿をしている。

 

 

「さて、今日は何のクエ行く?」

 

「それだったら最近アップデートされた新クエスト行こうぜ!」

 

「此処の何階層だっけ?」

 

「2階層に新しいダンジョンが出来て、そこでイベントがあるそうだ」

 

「へえ」

 

 

ナッシュの情報を聞いて僕は地図を確認する。この世界では面白い事に、ALOの世界の他に、二年前にとある事件を引き起こしたゲーム《SAO(ソードアート・オンライン)》に登場するステージ《浮遊城アインクラッド》が突如として出現した。

理由は知ってはいるが、一応は秘密となっているので言わない。そこは100層まであるステージをフロアボスを倒しながら攻略して行くゲームで、僕はそこの22層に自分の家を買い、そこを拠点にしている。

 

 

「それじゃあ、行きますか」

 

「久しぶりに四人揃うな。楽しみだぜ!」

 

「数か月ぶりだからって足引っ張んなよ」

 

「もしもの時は俺達がサポートする」

 

 

それぞれ笑いながら言って来る友人達に僕は笑顔になる。そして僕達は街を移動する為のオブジェクトを利用して2層へと飛ぶ。そして暫く歩くと、今まで見なかった洞窟の入り口があった。

 

 

「それじゃあ、ナビゲーションよろしくね"三人共"」

 

「「「はーい!」」」

 

 

そう言って僕の胸ポケットから三人の妖精が姿を現した。このゲームのオプションで手に入る《ナビゲーション・ピクシー》と呼ばれるお助けキャラだ。まあ、その正体はハッキングして成り変ったセシア達だけど。バレたら僕垢BANなんですけど・・・。

セシア達にマッピング等をお願いしてダンジョンを進む。するとゲームの世界観に似合ったモンスターが出現した。《リザードマン》と表示された三体のモンスターは腰の刀を抜いて僕達に迫って来る。

僕とユーマが前に出てナッシュ達は後ろで魔法を唱えて援護する。強化系の魔法で僕とユーマは攻撃力とスピードが上がった。僕は大剣でリザードマンの首を両断する。ユーマも二本の刀で切り裂いた。

残りの一体がナッシュ達の方へと向かったので僕は大剣の切っ先を向ける。すると両脇が展開し、巨大な弓となった。剣の持ち手を引くと僕のMPが消費されて切っ先に魔力が集中する。そして手を離すと魔力の矢が放たれてリザードマンの頭を撃ち抜いた。

 

 

「ふう。まあ、こんなものかな」

 

「相変わらずお前の武器すげえな」

 

「ソロプレイ用の限定クエスト。しかも先着一名のみのクエストだったか」

 

「これは苦労したよ」

 

 

なんとも理不尽な内容のクエストに何度か心が折れそうになったが頑張ってクリアした。初見で。

フレンドのスプリガンである少年の悔しがる顔は印象的だった。その後、ウンディーネの恋人に引き摺られて行ったが。尻に敷かれてるなーあの子。

 

 

「それってまだ機能があるんだろ?」

 

「うん。双剣にもなるし、盾と剣に分けて叩く事も出来るよ。実は僕も把握出来てないんだよね。手に入れてすぐにIS学園に行っちゃったから」

 

「学校では禁止だと言っていたな」

 

「例の事件があったからね。よくないイメージが定着してるし。それに学園は二人一部屋だから同居人に迷惑掛けたくないんだよ」

 

「確か生徒会長と一緒の部屋だろ?」

 

「まあね。楽しくやってるよ」

 

 

何気ない話をしながらダンジョンを進むと、最奥部の巨大な扉の前に来た。そしてそこには老人のNPCが立っており、彼に話し掛ける事がイベントの発生条件の様だ。

僕達は話し掛ける。

 

 

「ご老人。こんな所でいかがなさいました?」

 

『おお!勇敢な戦士たちよ、この部屋に取り残された仲間を助けてはくれんか?興味本位で入ったら、魔物に襲われてしまったんじゃ。仲間の一人があそこに取り残されてしまっての。どうか頼む!』

 

[クエスト《守りし者》を受けますか? YES NO ]

 

 

選択肢が浮かんだディスプレイのYESを選択すると、扉が開く。僕達は体制を整えてその先へと踏み込む。すると部屋に明かりが点いて、巨大なリザードマンが姿を現した。その横にHPバーと《リザード・キング》と名前が表示される。その足元には残り僅かなHP倒れているシルフが居た。

 

 

『うう・・・た、助けて』

 

 

どうやら苦悶の声を上げる彼が例の仲間の様だ。僕達は作戦通りに近付いて、リザード・キングの足元を斬り付ける。想像以上に固くて刃が少ししか通らなかったが、そのまま押し切ると、リザード・キングは足を取られてその場に転んだ。

その隙にユーマがNPCのシルフを抱えて部屋の外へと出ようとするが、何も無い筈の空間に結界が張られており、脱出出来なかった。やっぱり守りながらの討伐クエストか。

 

 

「ナッシュ、カイト!二人は防御の魔法に集中して!僕とユーマの動きならなんとかなる!」

 

「分かった!」

 

「任せろ!」

 

「行くよ、ユーマ」

 

「おう!かっとビングだ、俺!」

 

 

ユーマと二手に別れてリザード・キングの足を斬り付ける。僕達のパーティはあまり綿密な作戦を立てるよりも直感で行った方が上手く動けるのだ。

そのままひたすらに攻撃する。ユーマの攻撃が辺り、その巨体が後ろに傾いた所で僕はその体を駆けのぼり、その脳天に大剣の切っ先を刺し込む。そのまま弓に変形させて連続で矢を放った。

ガリガリとHPは削れ、リザード・キングはガラスの様な音を立てて砕け散った。そしてその場には[Congratulations]と書かれたディスプレイと、モンスター討伐によるアイテムのドロップ画面が表示されていた。それを取り敢えず閉じて、結界が解除された部屋を出る。

 

 

『おお・・・!感謝する!』

 

 

[クエスト《守りし者》をクリアしました]

 

 

イベントクリアの画面が表示され、NPCが姿を消した。暫くすればまた戻るのだろう。僕達も来た道を引き返す。洞窟を出ると、そこには三人の人物の姿があった。

その中心の僕と同じスプリガンの少年は僕を見つけると、手を振って声を掛けて来た。

 

 

「クロナ、お前も来てたのか?」

 

「うん。君も相変わらずだね、《キリト》」

 

 

キリトと呼ばれた彼は、僕がこのゲームを始めた当初、偶々一緒に行動する事になってちょっとした大冒険をした仲だ。

 

 

「もしかして例のイベントか?」

 

「クリアしたけど、難易度は高くないね」

 

「だろ?問題は、アイテムのドロップなんだよ」

 

「ドロップ?」

 

「極端にドロップ率が低いらしい。情報だと、今までアイテムをドロップした奴は居ないらしいぞ。なんでもそのクエ限定のレアな装備が貰えるとか」

 

「えっと・・・もしかして、コレ?」

 

 

僕はディスプレイを操作して、先程ドロップしたアイテムを表示する。

それは《忘れ去られた衣》と書かれており、見た目はただの白いローブだ。だが、ステータスを見ると、防御力がそこそこ高い上に耐魔力性能が最高レベルだった。

 

 

「ま、またクロナがドロップかよ・・・」

 

「あはは・・・」

 

「クロナ君の装備って幸運値が上がるんだよね。後は本人の運もあるんじゃないかな?あ、久しぶり」

 

「お久しぶりです《アスナ》さん。《リーファ》も久しぶり」

 

「うん。久しぶり」

 

 

キリトを励ますウンディーネの《アスナ》さんはリアルでもキリトの恋人である。ゲーム内では結婚している。そして《リーファ》と呼ばれたシルフは、キリトのリアルでの妹である。

このゲームでは、彼らとは何かと遊ぶ事が多かった。そんな事を思い出していると、キリトが立ち上がって言った。

 

 

「今度、皆でオフ会をやらないかって話になったんだけどクロナ達もどうだ?」

 

「良いね。夏休み中なら大体は良いよ。IS学園に用事も無いから何時でも予定は捻じ込める」

 

「そうか。じゃあ、クロナやユーマ達にもメール送るから。よっし!俺達もドロップするまでやるぞ!」

 

「もう、キリト君ったら・・・」

 

「完全に思考が廃プレイヤーのそれですよね」

 

 

そう言ってキリト達はダンジョンへと消えて行った。僕はユーマ達に先程の装備について話をする。

 

 

「正直僕は使わないから三人で好きに決めて欲しいな」

 

「だったらカイトにあげても良いか?」

 

「そうだな」

 

「俺に?」

 

 

ユーマとナッシュの提案にカイトは狼狽する。僕はカイトを見てなるほど、と思った。

 

 

「カイトだけ社会人だからあまりイン出来てないでしょ?装備が一人だけ古いし」

 

「そうだな。夜は疲れて眠る事が多かったからな」

 

「俺とナッシュは放課後に遊んでたもんな」

 

「ああ。俺も装備はこの前一式変えたばかりだ。だから此処はカイトに渡すべきだと思う」

 

「それじゃあ、はいカイト」

 

「ありがたく受け取らせてもらおう」

 

 

カイトは受け取ったローブを装備する。中々様になっていて、僕達はホクホク顔で22層の家に戻った。

リビングで寛ぎながら今後の事を話す。

 

 

「良ければなんだけど、僕の家に来るの8月でも良いかな」

 

「何時でも大丈夫だぜ。でも何でだ?」

 

「今月はちょっと研究所の方で進めたい事があるんだ。ちょっと缶詰状態になりたくて。だから来月まで待ってもらえないかなと」

 

「そっか。クロナも忙しいんだな」

 

「無理はすんなよ。妹の不機嫌が全て俺に向かうんだ」

 

「何かあったら頼ってくれ。機械関係の事なら多少は力になれると思う」

 

「・・・ううっ!」

 

「「「ファッ!?」」」

 

 

突然泣き出した僕に三人は慌てふためいた。最近、同性のしかも年の近い友達と会話して居なかった上にそんな優しい言葉を掛けられたら泣くに決まってるじゃないですか。

僕は機密事項を覗いて、織斑の所業を語った。終わった僕に、カイトがホットチョコレートの入ったカップを渡してくれた。

 

 

「これを飲んで落ち着け。これ、好きだっただろう?」

 

「ありがと・・・」

 

 

クピクピとカップの中身を飲んで落ち着く。バーチャル世界なのに、味覚まであるとか凄いよね、科学の進化って。

 

 

「それにしてもイラッと来るぜ、織斑一夏」

 

「刹那は悪くねえのに・・・」

 

「ユーマ。リアルネームは駄目」

 

「あ、悪い・・・クロナ」

 

「よくIS学園に残っていられるな、その男」

 

「まあ、世界最強の弟だし。あ、そう言えば」

 

「ん?」

 

 

首を傾げるユーマ達を見て、僕は言う。

 

 

「今年、《モンドグロッソ》が行われるのは知ってる?」

 

「ああ。だってISバトルの世界最強を決める奴だろ?」

 

「それに今年、織斑千冬が出るんだ」

 

 

僕の言葉にその場の三人が目を見開く。それもそうだろう。織斑千冬がISバトルの世界から退いたのは日本中でニュースになったレベルの事だ。それ以来彼女は表舞台には姿を出しては居ない。なのに唐突の出場だ。

IS委員会はエンターテイメント等と言っているが、本音は単に女尊男卑の象徴を維持したいだけなのだろう。だが、それと同時に僕にとある連絡があったのだ。それはフランスの大統領からだった。

 

 

~数日前[IS学園屋上]~

 

 

『やあ、久しぶりだね』

 

「・・・急にどうしたんですか?」

 

『モンドグロッソの話は聞いたかい?』

 

「ああ、織斑先生が出る奴ですね。今更何の用だって話ですけど」

 

『その通りだね。まあその事についてなんだが』

 

「?」

 

『君、モンドグロッソに出てみる気は無いかね?』

 

「はあ?」

 

『いやあ、君の目覚ましい活躍は我々の耳にも届いているよ。福音を止めたそうじゃないか』

 

「それ、一応は機密情報なんですけど?」

 

『私の国には優秀なエージェントが居るからね。これ位の情報や君のスリーサイズなどなんて事ないさ』

 

「ひえっ」

 

『冗談だよ。それは兎も角、フランスとその他の数カ国で君に是非出場してもらいたいと話が持ち上がっているのだよ。どうだね?』

 

「話は嬉しいですけど、織斑の方が人は見ますよ。あの世界最強の弟なんですから」

 

『あんな雑魚に用は無いよ。面白みの欠片もない。それに彼は自分の世界観でしか物事を語れないそうじゃないか』

 

「あーまあ」

 

『と言う訳で出てくれたまえ。因みに負けたら君の中学校時代の女装写真を全世界に拡散しよう。サラダバー!』

 

「えっ、ちょっ!?待てやクソジジイ!?」

 

 

~回想終了~

 

 

「・・・まあ、色々あって僕も出る事になった」

 

「おい、顔色がヤバいぞ!?」

 

「大丈夫大丈夫。アイツ絶対殺すから」

 

「唐突の殺人宣言!?」

 

 

中学の頃、学園祭で女装させられたトラウマが蘇る。まさか女装コンテストで優勝するとは思ってなかった。

体の震えを押さえながら落ち着きを取り戻す。頭を撫でてくれるセシア達を指で撫でて笑顔を向ける。ユーマ達はセシア達がISのコアだって事を知らないから下手に話せない。

 

 

「さて、クエストには一個しか行けなかったけど今日はもう落ちようぜ。そろそろ止めねえと姉ちゃんが五月蠅いんだ」

 

「俺も妹がな・・・」

 

「俺も弟に夕食を作らないとならないのでな。クロナ、今日の礼は必ずさせてもらう」

 

 

そう言ってユーマ達はログアウトして行った。僕はセシア達と少し話す。

 

 

「モンドグロッソ・・・面倒な事になりましたね」

 

「恐らくだが、あと数日で正式な通達が来ると思うぞ。しかも報酬付きで」

 

「今ハッキングしたけど、優勝したら篠ノ之束からISコアを贈呈だって。突然本人から連絡が届いたみたいだよ」

 

「え、これ以上増えても困るんですけど」

 

「そうですよ。本来、マスターの相棒は私だけの筈なのにエセ侍とコミュ症とか・・・ペッて感じです!」

 

「家の裏へ行こうぜ。キレちまったよ・・・」

 

「流石に怒るよ・・・!」

 

「はいはい。喧嘩は終わり。僕ももう落ちるから」

 

 

こうして僕もこの日はログアウトした。そしてその日の夜、正式に僕のモンドグロッソ出場が決定した。

やるからには、全力でやろう。目標は織斑千冬の首だ。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

刹那がALOにログインする少し前の事。IS学園の廊下で一人の男子生徒が不機嫌そうに歩いていた。その名は織斑一夏。世間ではISを起動させた一人目の男性と呼ばれている。

 

 

「なんでまた補習なんだ・・・」

 

「文句を垂れるな馬鹿者。まともに点も取れないのに家に帰るからだ」

 

「だって帰って良いって言われたんだぜ、千冬姉」

 

「今は織斑先生だ」

 

「・・・織斑先生」

 

 

後ろから出席簿で叩かれた一夏は溜息を吐く。この男、刹那が千冬にチクッた事で速攻で連れ戻されたのだ。そして千冬が監督の元で補習を受け直す事になった。

 

 

「全く・・・満点を取るまでは家に帰れないからな」

 

「なっ、なんでですか!?だって皆はもう休みで・・・」

 

「あんな解答用紙で帰せるか。少しは不動を見習え」

 

「刹那は天才だから、仕方ないでしょう」

 

「馬鹿か。確かにあいつは天才かもしれんが、それを理由に諦めたら何時までも差は縮まらんぞ」

 

「う・・・」

 

「それが嫌ならば死ぬ気でやれ」

 

「は、はい・・・」

 

 

こうして一夏は夏休みの二日目を勉強漬けで終了した。

時刻は夕方で、一夏は溜息を再び吐いて食堂へと向かう。そこでは藤原雪乃が食事を終えて食堂から出て来た所だった。

 

 

「あら、こんばんわ」

 

「こ、こんばんわ・・・」

 

「随分とお疲れの様ね。貴方は家に帰らないの?」

 

「お、俺は補習があってさ。えっと、雪乃さん、だったよな?」

 

「ええ。でも、いきなり名前で呼ぶのはマナー違反よ」

 

「でも、刹那と友達なんだろ?友達の友達は友達じゃないか」

 

「何を言ってるの?それにあの子にすら名前で呼ばれた事無いのだけど」

 

「そうなのか?刹那も他人行儀な所あるからなぁ。俺がちゃんと教えてやらないと」

 

 

一夏の上からな発言に雪乃は少しイラついた。

 

 

「さっきから不動君が悪いみたいな言い方だけど、どうして?」

 

「どうしてって、アイツは最低な奴なんだ。でも、友達として俺にはアイツを矯正してやる義務があるし、刹那も人として正しい道を生きないといけない。だから俺が教えてやるんだ」

 

「・・・そう。私はこれで失礼するわ」

 

「え、おう、またな!」

 

「・・・」

 

 

一夏の言葉に雪乃は聞く耳を持たず、鳥肌が立った肩を擦りながらその場を早足で離れた。そして自室に飛び込む。

突然のルームメイトの帰還に同室である黒髪の少女《月乃瀬=ヴィネット=エイプリル》は手に持っていた雑誌を落とした。

 

 

「ど、どうしたの!?」

 

「いや、ちょっと人生で最も吐き気を催した瞬間に遭遇しただけよ」

 

「え、ええ・・・?」

 

「貴方が気にする事ないわ。ああ、不動君を抱きしめたい・・・」

 

「また彼にセクハラするつもり?嫌われるわよ?」

 

「それもそうね。手を繋ぐ事で我慢するわ。それに近い内に会うだろうし」

 

「そっか。良かったわね・・・」

 

 

ヴィネットは雑誌を拾って椅子に座り直す。そして雪乃に聞いた。

 

 

「あの、また聞いても良い?不動君の事」

 

「すっかり夢中ね。そんなに気に行っちゃった?」

 

「そ、そういうのじゃなくて!ただ、彼の動きは凄いなって」

 

「確かにアレは想像以上よね。しかも本気出してないし」

 

 

そう言って雪乃は刹那との模擬戦の話を語り始めた。刹那の知り得ぬ所で彼に惹かれる者が増え始めていた。この学園での好感度が織斑を既に上回っており、上級生からも一目置かれている事を刹那はまだ知らない・・・。

 

 

三人称サイド終了


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