if~刹那君は操縦者~   作:猫舌

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第14話

刹那サイド

 

 

ISを纏った僕達は、福音が留まっている海域へと飛行する。今度はシャロ達も含めて全員による総攻撃だ。もし、僕達が突破された場合は束と織斑先生が止めるらしい。

IS開発者と世界最強による双璧とか、怖いにも程がある。

チラッと隣に目を向けると篠ノ之さんの頬が紅く腫れていた。そう言えばラウラが一発殴ったって言ってたな。そう思っているとラウラから通信が入る。

 

 

『篠ノ之、刹那。もうすぐ福音の反応がある場所へ到達する。準備は良いな』

 

『問題はない』

 

「こっちも同じく」

 

『そうか。後ろは任せろ。だから全力で福音を叩け。そしてコアを回収するんだ』

 

『何故姉さんはコアの回収などと・・・』

 

「見えた。福音だ」

 

 

白鋼のセンサーに掛かった福音がディスプレイに映し出される。海上で子どもの様に体を丸めてその場に留まっていた。やはりコアの声は聞こえない。

その事実に思わず僕は歯噛みするが、すぐに頭の中をリセットする。そして福音の背後に回った僕と篠ノ之さんは瞬時加速で接近する。

篠ノ之さんは両手に刀を。僕はGNアームズを解除してエクシアのGNソードを構えて福音へと攻撃を開始する。

 

 

『ra・・・♪』

 

「このっ・・・!」

 

 

最初の時と同じように歌う様な声を上げながら福音は僕達の攻撃を躱す。だが、僕達は既にそれを読んでいた。篠ノ之さんと反転し、福音に向けて斬撃のビームを放つ。そして福音の動きを誘導した所で僕はGNビームダガーを投げ付ける。

GNビームダガーは見事福音の左肩に直撃し、左腕部が爆発した。福音は左側をスパークさせながら僕達から距離を取る。

そして背中のパーツから大量のビーム弾を放った。

 

 

「シャロ!」

 

「任せて!行っけえぇ!」

 

 

シャロがイリアステル製の新パッケージを装備して構える。頭部に装備されている小型の《頭部バルカン》、両腕に二門ずつ搭載された《ビームガトリング》、肩部に内蔵された《マシンキャノン》と《ホーミングミサイル》。そして胸部の装甲に搭載された《胸部ガトリング砲》。最後に両足に装備された《マイクロミサイル》を全て展開し、弾丸の嵐へと撃ち込んだ。

並ではない火力によって、捌き切れなかった数のビーム弾は過半数相殺された事で残りを苦労もなく撃ち落とした。

 

 

「シャロ、助かった」

 

「間に合って良かった。でも此処までの火力だなんて・・・」

 

 

そう言ってシャロはシミュレーションと実戦の差に驚愕していた。

シャロに与えられた新パッケージである《ヘビーアームズ》は火力を重視した物になっており、逐一武装を取り出すのではなく初めから装着させた状態で戦闘を行える様になっており、その分武装を搭載する容量を増やした。

その分、弾薬を多く積む事で長時間の射撃戦闘を行う事が出来る。

更に右腕のビームガトリングの下には《アーミーナイフ》が取り付けられており、緊急時には接近戦も可能だ。

シャロ本人の希望でパイルバンカーも積んであるが、何故かラウラが腹部を抑えて震えていた。

 

 

『ra・・・♪』

 

「これでも頭部に傷一つだけ・・・」

 

「いや、攻撃が当たるだけマシだ。このまま押し切るよ!」

 

「分かっている!」

 

 

再びシャロを下がらせて僕と篠ノ之さんで追い詰める。福音が逃げる先を今度はセシリアが空中から狙撃する。セシリアも新パッケージである《ストライクガンナー》を展開して射撃を続ける。

この形態はビットを全て推進力に回す事で高速で飛行できる形態だ。そして新しい大型レーザーライフル《スターダスト・シューター》を構え、福音に追撃を掛ける。

 

 

「その腕、貰いましたわ!」

 

『ra・・・♪』

 

 

セシリアの宣言と共に、福音の右腕を一筋のビームが撃ち抜いた。それにより、福音の右腕の肘から先が破壊される。それでも尚、福音は変化の無い声を出しながら再びビーム弾を多数展開する。だが、SEが尽きて来たのかその数は明らかに少なく、広がり方にムラがあった。

 

 

「これなら私に任せなさい!一気に燃やし尽くすわ!」

 

「僕も手伝うよ!」

 

 

新パッケージ《崩山》によって四門となった龍砲から不可視の弾丸ではなく、赤い炎を纏った弾丸が拡散して放たれる。それは明らかに今までの龍砲の威力を超えていた。

ビーム弾は爆発に巻き込まれる様に次々と無力化されて行き、流れ弾をシャロが撃ち落としていた。

その隙に僕達は再度接近して攻撃を仕掛ける。

 

 

「此処は、僕の距離だ!」

 

「天誅!」

 

『ra・・・♪』

 

「私も居るぞ!」

 

 

僕達の斬撃は福音の両翼を確かに捉えた。更にラウラが突如福音の上空に現れ、左腕の槍で叩き落とす。翼を付け根から切断された福音はそのまま海へと落下して行く。僕は束に渡されたプログラムを発動させる為に福音へと向かった。

だが・・・

 

 

『・・・キハハッ♪』

 

 

そんな笑い声と共に福音は再び繭に包まれ、僕は吹き飛ばされた。その光景に誰もが止まる。体制を整えながら僕はその繭を改めて見る。次の瞬間、自分の中の直感が最悪の展開を予想する。思わず僕は叫んだ。

 

 

「全員撤退!」

 

「え・・・」

 

 

誰が発したのか、分からぬ声を最後にセシリアが繭から放たれた一撃で近くの島まで吹き飛び、墜落した。そして繭がゆっくりと開き、福音が新たな姿で再誕した。

二次移行の時よりも機械質なパーツが増え、更に巨大な両翼が展開される。そして腕部は巨大な爪になっており、凶暴性が増している。

福音は僕達に顔を向けて始めて普通の声を出した。

 

 

『ネェ・・・アソボォ?』

 

 

無邪気な子どもの様な声からは一種の残酷性を感じた。僕は全員に再び撤退を促すとGNソードを構えて接近する。

 

 

『アソボォ!アソボォ!キハハハハハッ!』

 

「早い・・・!」

 

『エイッ!』

 

「ぐぁっ!」

 

 

エクシアのスピードを軽く上回るスピードで回避した福音は僕の背中に衝撃を与えた。衝撃に耐えながら福音に視線を向けると、巨大な爪の一つ一つからビーム刃が展開されていた。

 

 

----《三次移行(サードシフト)》だと・・・!

 

----マスター!撤退してください!

 

----でもアレ絶対宿まで来るよ!

 

----分かってる。でも・・・。

 

 

僕は白鋼達と会話しながらラウラ達に通信を入れる。

 

 

「皆、今から言う事を良く聞いて欲しい。セシリアを回収したら全力で撤退して。そして宿で織斑先生達と共闘するんだ」

 

『撤退って・・・アンタはどうすんのよ!?』

 

「僕は殿を務める。この中でギリギリまで福音を止められるのは僕だけだ」

 

『待て!それなら私も残るぞ。ゴールドフレームの装備ならば十分戦力になる筈だ』

 

「駄目だ。ラウラの機体じゃ火力は兎も角、福音に追い付けない」

 

『だがそれでは刹那が!』

 

「誰かがやらなきゃ皆死ぬ!」

 

 

怒鳴りつけながら、福音をギリギリ捉えて攻撃を回避する。

 

 

「君は軍人だろう。作戦中に情で動くのは駄目でしょ」

 

『刹那・・・』

 

「行け!皆の為に今は僕を斬り捨てろ!」

 

『・・・死ぬなよ!』

 

 

ラウラはそう言って通信を切った。そして全員が作戦海域から撤退して行く。僕は福音を遠ざけながら反撃の機会を伺うが、中々チャンスは来ない。だから無理やり作る事にした。

福音がビームクローを再度展開して接近して来た所で僕もGNソードを構える。居合い斬りの要領で構え、福音との距離がギリギリになった瞬間、一気に振り抜いた。

だが・・・

 

 

「あ・・・」

 

 

僕は気が付けば砕けたGNソードを見つめながら落下していた。腹部に熱と鈍い痛みを感じる。どうやらあの一瞬でISの防御を打ち破ったみたいだ。ふと上を見上げると、そこには一機の飛行機が飛んでいた。鳥の様な巨大な爪からビーム刃を出して、笑い声を上げながら僕をの上を旋回する。

そしてそれは福音へと姿を変えた。無人機となったからこそ出来る大規模な変形機構。飛行形態となる事で速度を上げて僕の攻撃を掻い潜り、切り裂いたのだ。そんな結論を冷静に組みたてながら僕は重力に逆らって降下して行く。

 

 

「・・・白鋼」

 

『・・・《二次移行(セカンドシフト)》、開始』

 

 

白鋼の声によって機体が一歩上のステージへと進む。学園に居る間は使う気は無かったけど・・・やるしかない。

腹部の痛みを堪えて僕は福音を睨み付ける。そして相棒から声が発された。

 

 

『二次移行完了。各モードの潜在機能解放』

 

「《TRANS-AM(トランザム)》システム起動」

 

 

次の瞬間、僕は福音をビームサーベルで弾き飛ばしていた。機体は赤い光に包まれ、背中のGNドライヴからは通常の倍以上の量の粒子が発されていた。

トランザムシステム。それはGNドライヴが搭載された機体の切り札。高濃度圧縮粒子を全面開放する事で機体性能を三倍に引き上げるシステムだ。

これがエクシアのワンオフアビリティーでもある。だが、このシステムにも大きな弱点があり、使用時間の制限と使用後の粒子チャージまで機体性能が大幅に低下する事だ。

 

 

『主殿、SEをセシア達からも分けて貰っている分長く戦える。もって10分だ』

 

「それだけあれば十分だ!」

 

『キハハッ!キタキタ!』

 

「ああ来たさ!君は僕が救う!」

 

 

こうして僕と福音による一対一の戦いが始まった・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

セシリアを回収したラウラ達は無事、海域を離脱して宿へと到着した。そして千冬達に説明を終えて待機する。セシリアを医務室に預け、ラウラ達は打鉄を纏った千冬と見た事も無いISを纏った束と旅館の近海で待機する。

 

 

「刹那・・・」

 

「ボーデヴィッヒ。今は目の前の事に集中しろ」

 

「は、はい」

 

「でも君の気持ちは分かるよ。でも大丈夫」

 

「何故、そう思うのですか?」

 

 

全員が重い沈黙の中、束が笑顔で言った。それに対してラウラは不安そうな表情で問い掛ける。それに彼女は自信満々な表情で答えた。

 

 

「だって、私の知る不動刹那は決めた事は絶対に諦めないから」

 

 

その答えにラウラ達は何かを思い出した表情になり刹那が戦闘を行っている海域を見つめる。それに束は安心し、千冬は彼女に何かを察した目で見つめていた。

少女達は彼を信じ、待機し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~《某国:地下施設》~

 

 

モニターに映し出された赤く発光した機体で福音を追い詰める少年を見ながら一人の女性が笑っていた。

 

 

「不動刹那・・・やっぱり欲しいわね」

 

「なあ、《スコール》。あんな奴別にいらねえだろ。さっさと殺してISだけ奪えば良いだけじゃねえか」

 

「そんな事ないわよ、《オータム》。彼には十分利用価値があるもの」

 

 

そう言って陰から歩いて来たオータムと呼ばれた女性に対し、スコールと呼ばれた女性が笑う。

彼女達こそが今回、福音を暴走させた犯人であり、今も福音を通して刹那の戦闘を見ていた。二次移行による隠し玉に思わずスコールは口角を吊り上げる。

 

 

「私達と彼がどう世界を動かすか・・・楽しみじゃない」

 

 

三人称サイド終了

 

 

刹那サイド

 

 

「無駄に速いんだよ君は!」

 

『モットアソボォ!』

 

「上等だコラぁ!」

 

『落ちつけ主殿!と言うか割と余裕無いか!?』

 

「常にテンション上げてないと傷口が痛むんだよ。まだ塞がらないの?」

 

『細胞を活性化させているんが、塞がり掛けたタイミングで誰かさんが無茶な動きして戦うからな』

 

『いっそDG細胞でも移植します?私持ってますよ?』

 

『そ、それやったら地球が無くなっちゃうよ!』

 

「僕にハート型の風穴を開けられろと?」

 

 

福音をサーベルで斬り付けながら会話する。誰も居ないから話したい放題だ。すると福音が変形して速度を上げる。そして両翼からビーム弾とビット兵器が飛び出した。

ビットからはビーム刃が飛び出し、そこからもビームが発射される。最早ビットと言うよりファングだった。

でもトランザムを発動している状態の僕には遅く感じた。それにシミュレーションで何回か対遠隔操作兵器の戦闘を経験してるからね。少しでも成果を出さなきゃ。

接近してビーム弾を躱し、ファングを斬り落とした。そして福音へと肉薄してビームサーベルを叩き付ける。ビームクロウとぶつかり合って、鍔迫り合いになった。

 

 

「この・・・!」

 

『タノシイネェ!モットモット!』

 

「だったら最後まで付き合ってやる!」

 

 

なんとか押し切って福音を弾き飛ばすが、すぐに変形して接近して来る。僕も再び加速してビームサーベルを叩き付けた。だが、その内の一つがビームクロウに弾かれて空中で爆散した。

 

 

『ヤッタヤッタ!モウイッポン!』

 

「させるか!」

 

 

腰に装着していたGNロングブレードで応戦する。完全に不意打ちだったのか福音の右腕を切断する事が出来た。それでも福音は止まらない。

 

 

『ヤラレチャッタァ!タノシイ!』

 

 

再びエネルギー弾を放つ福音に僕は無言で接近する。確かに攻撃は強力だが、動きがワンパターンだ。それにビームクロウが片方欠けた状態ならば変形されてもなんとかなる。

ビーム弾を掻い潜って、僕は福音の片翼を切り裂いた。

背中から爆煙に塗れ、福音が落ちて行く。だが、変形してなんとか持ち直した。

そろそろ決着か・・・。

 

 

「悪いけど、楽しい遊びは此処までだ」

 

『オワリ?マダアソビタイ!アソボウヨォ!』

 

「いいや、これで終わりだ」

 

 

トランザムに瞬時加速を重ねた僕は福音の左腕と残った翼を斬り落とした。そして福音の頭部を後ろから掴み、プログラムを発動させる。

 

 

『ギギギッ!?ア、ガ、GGGGGGGGGGG』

 

 

バグった様な声を上げる福音の胸部に腕を捻じ込む。そのまま一気にコアを引き抜いた。すると、福音の装甲は消える事なく落下して行き海に沈んだ。それと同時にトランザムを解除する。

 

 

「作戦、完了・・・」

 

『傷がまた開いた・・・!早く撤退を!』

 

「白鋼は限界だから、ラファール・・・お願い」

 

『任せてっ』

 

 

白鋼が解除され、僕の体をラファールが包んだ。そしてラファールによる細胞の活性化が始まる。ISって本当に未知数だよね。薄れそうな意識をなんとか保って飛行する。

ヤバい。マジで倒れそうだ・・・。

 

 

『ま、マスター!下を!』

 

「っ!?くそっ!」

 

 

海の下から、福音が火花を上げながらも宿へと向かって飛び出して来た。両翼を破壊されても尚、かなりのスピードで飛び出す。どうやら、残ったSEを無理やり推力に回している様だ。

今の福音は云わば高速ミサイルそのものだ。僕は瞬時加速を再び使用してラファールと共に福音を追う。腹部から再び激痛が走り、思わず止まりそうになるが耐える。

 

 

『マスター!追いついたよ!』

 

「砕け!スクラップ・フィスト!」

 

 

ジャンクウォリアーの状態で右の拳を全力で叩き込む。福音の飛行を止める事は出来たが、機体が爆発する事もなく飛んで行く。あれ?宿まであとどれ位だったっけ・・・。

 

 

『マスター、間に合ったよ・・・!』

 

「そっか・・・良かった」

 

 

最後に見えたのは、福音がラウラ達の射撃で大爆発を起こした瞬間だった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ね・・・きて!』

 

『・・・ん?』

 

『あ、起きた!』

 

 

目を開けると、そこは何時もの精神空間だった。ただ一つ違う所は、僕が布団で寝ていると言う所だ。そして何故か僕を見た事もないボーイッシュな少女が抱きしめている。

 

 

『えっと、君は?』

 

『ボクは福音のコア人格だよ。《ナターシャ》とボクを助けてくれてありがとう!』

 

『そっか、君が・・・あれ?セシア達は?』

 

『皆は今外に出てる。刹那とゆっくり話せだってさ』

 

 

どうやら気を利かせてくれたらしい。せっかくなので、僕は福音と話す事にした。体を起こして、話し掛ける。

 

 

『僕って今どうなってるの?』

 

『その・・・お腹からいっぱい血を出してて、絶対安静』

 

『あ、ごめん!そんなつもりじゃ・・・』

 

 

泣きそうになる福音に僕は謝って、泣き止むように頭を撫でる。福音は何も言わずに僕に抱きついて来た。なんとなくこうするべきだと感じた僕は、何も言わずに抱きしめて頭を撫でた。

暫くして、福音は僕から離れる。

 

 

『・・・ごめん』

 

『ううん。こっちもごめん』

 

『あの!ボクの話を聞いてほしいんだ』

 

『話?』

 

『ボクがどうして暴走したのか・・・』

 

 

福音の言葉に僕は一瞬固まるが、なんとか頭の中を整理して話を聞く。

僕の表情を見て、福音は話し始めた。

 

 

『ボクは元々、アメリカとイスラエルの共同開発で生まれたんだ。それでね、今回はアメリカの海域で飛行テストの予定だったの』

 

『でもそれだったらテスト中は軍の人達に見張られるからそのタイミングでは干渉は不可能の筈だよね』

 

『流石刹那だね。ボクはその前のメンテナンスの時に細工されたらしいんだ』

 

『らしい?記憶が無いの?』

 

『うん。色々弄られちゃったみたいでね。でも、篠ノ之束が直してくれたからもう心配ないよ!』

 

『良かった。でもつまりはアメリカかイスラエルの軍の中にテロリストが居るって事?』

 

『多分・・・だから刹那が目を覚ましたら篠ノ之束に教えて。もうこれ以上ボクみたいなISを増やしたくないって』

 

『分かった。必ず伝えるよ』

 

 

僕の言葉に満足そうな表情を浮かべた福音の体は、消え始めていた。それだけじゃない。僕の体やこの空間も消え始めていた。どうやら時間らしい。

 

 

『あ、あの!もう一つだけ、良いかな?』

 

『良いよ。なにかな?』

 

『ナターシャに、また何時か一緒に飛ぼうねって!』

 

『約束する。絶対に伝えるから』

 

『うんっ!』

 

 

こうして、僕の意識は再び消えて言った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・いった!?」

 

 

とろんとした意識の中、激痛で完全に目を覚ました。どうやら医務室で寝かされているらしい。目の前には知らない天井があった。

体をゆっくり起こして部屋の戸を見ると、夜になっていた。そこそこ眠っていた様だ。首元や枕元を確認すると、セシア達が無かった。束が回収したのだろうか。

 

 

「それにしても・・・お腹空いた」

 

 

腹部は激痛だけでなく、空腹も訴えていた。腕に取り付けられていた点滴の針を引っこ抜いて、外に出る。綺麗な月が昇っており、その光に海が照らされていた。

この景色、もっと普通の状況で見たかったなぁ。そう思っていると、向こう側の岬に織斑先生が歩いて行くのが見えた。

その先には束が居るのも見えたので、僕はそこへ向かった。

暫く歩き、物影に隠れて織斑先生達の会話を聞く。

 

 

「・・・不動、そこで何をしている」

 

「あ、バレました?織斑先生と篠ノ之博士が話すのを見て、つい」

 

「お前は怪我人なんだ。まだ無理をするものではない。そこに座れ」

 

 

そう言って、織斑先生は僕を抱き上げて近くの岩に座らせた。あ、意外とフィットするなコレ。そんな僕を見て、織斑先生が言った。

 

 

「まさか束の他にも宇宙に行くと考える奴が居ようとはな」

 

「へっ?」

 

「ごめんね、せっちゃん。バレちゃった☆」

 

「よし、歯ぁ喰いしばれ」

 

「暴力反対!」

 

 

拳を握るが、残念ながら振り下ろす気力が無い。お腹が二重の意味でヤバいんです。

織斑先生は軽く微笑んで言った。

 

 

「別に誰かに言うつもりは無いから安心しろ」

 

「そう、なんですか?」

 

「ああ。こんなにも楽しそうな束は何年ぶりだろうな。それを邪魔する気は私にはない」

 

「やったね、せっちゃん!」

 

 

そう言って束は僕にVサインをする。僕は思わず苦笑した。それからなんて事の無い世間話や、束との出会いを話す。気が着けば、かなり時間が経っていた。そして束が僕達に背を向ける。

 

 

「それじゃあ、私は行くね。ちょっと色々調べたいからさ」

 

「気を付けてね」

 

「無理はするなよ、束」

 

「うん!あ、せっちゃんは必ず夏休みに家に帰る事。あーちゃん達心配してるから」

 

「あはは・・・分かってます」

 

「紹介したい子もいるからさ」

 

「新しい家政婦さんか何か?でも家は家政婦雇った事無いし・・・」

 

「まあそれは帰ってのお楽しみ。・・・またね」

 

 

その瞬間、強風が吹いて僕達は目を隠す。そして風が止んで、目を開けるとそこには誰も居なかった。その後、何も会話する事なく僕と織斑先生は宿へと歩き出した。

この日はもう食堂も売店も閉まっており、僕は自販機の飲み物で誤魔化す事となった。

 

 

~翌日~

 

 

「・・・初めまして、ナターシャさん」

 

「貴方が不動刹那ね。今回はありがとう」

 

「いえ。それで、福音は」

 

「篠ノ之博士が回収して行ったわ。また悪用されるよりはマシね」

 

 

宿の一室を借りて、僕は目を覚ました福音のパイロットと会話をする。やっぱり束が持って行ったか。それなら安心だ。きっと何時かまた彼女の元へと帰って来るだろう。

僕は一度深呼吸をしてから、ナターシャさんに言った。

 

 

「ナターシャさん。今から言う事は本当です。戯言なんて思わないでくださいね」

 

「・・・分かった。貴方のその目を信じる」

 

「"あの子"が言ってました。また、一緒に飛ぼうねと」

 

「っ!・・・ありがとう・・・本当にありがとう・・・!」

 

 

涙を流して俯くナターシャさんに僕は、コアの声が聞こえなくとも確かな絆を築く事が出来ると学んだ・・・。

やがてIS学園へ帰るバスが発車する時間になり、部屋から出る。バスの駐車場までは、ナターシャさんが肩を貸してくれた。まだ腹部の傷が痛む。何度も塞いで開いてを繰り返した所為か、傷口はグチャグチャだったそうな。今は綺麗に塞がっているが、痛みは残っている。セシア達は未だに織斑先生が預かっているそうだ。

 

 

「来たか。不動、もう良いのか?」

 

「はい。約束は果たしましたから」

 

「・・・そうか。貴女も不動を運んできてくれた事、感謝します」

 

「いえ、お気になさらず」

 

「不動、コレを返しておく」

 

 

そう言って、織斑先生はセシア達を返してくれた。でも昨日の会話では、セシアの事は隠して話したので、只の装飾品としか考えて無いだろう。そうであってほしい。

セシア達を付けてから、バスへ乗り込む。すると、ナターシャさんに声を掛けられた。

 

 

「不動君」

 

「はい?なんd・・・」

 

「んっ・・・この続きは、何時かしてあげる♪」

 

 

・・・今何が起こったのだろうか?目の前にナターシャさんの顔があった事と、口の中を柔らかい何かが蠢いた記憶だけしか残っていない。

答えが出そうになった瞬間、僕は顔が赤くなる。

 

 

「不動・・・大丈夫か?」

 

「アメリカ人って、大胆なんですね」

 

「落ち着け。アレは特殊だ(一夏より、不動の方が女殺しではないか?)」

 

 

ポーっとしながらも僕はバスに乗った。窓から見ていたのか、隣になったラウラにずっとキスされ続けて、僕の臨海学校は幕を閉じた。

 

 

刹那サイド終了


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