if~刹那君は操縦者~   作:猫舌

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第13話

刹那サイド

 

 

翌日、ISの実習が始まった。だが、外で訓練するのは僕達だけ。残ったクラスの皆は旅館内で筆記授業らしい。まあ、理由は分かるけど。そう思いながら僕は何故か混ざっている篠ノ之さんに視線を一瞬向ける。

彼女はまるで玩具を買ってもらう子供の様な目をしていた。そんな篠ノ之さんを見ながら鈴が言った。

 

 

「あの、どうして箒が?」

 

「ああ、それh「私が説明するよ」ふん・・・来た、か?」

 

 

織斑先生の言葉を誰かの声が遮った。その方向に視線を向けると、そこにはキャリアウーマンな恰好をした篠ノ之束がこちらへと歩いて来ていた。頭に何時も付けていたウサ耳の様なメカも取り外し、髪も後ろで結んでポニーテールになっている。

彼女の過去を知る織斑姉弟と篠ノ之さんはポカンとしている。その他のメンバーも相手が誰か分からずにその場に固まる。

 

 

「久しぶりだね、《ちーちゃん》」

 

「束・・・なのか?」

 

「そうだよ。幼馴染の顔も覚えてないの?薄情だね」

 

「ね、姉さん?」

 

「箒ちゃんも、久しぶりだね。うん、大きくなった」

 

 

そう言って微笑む束は間違いなく姉としての威厳があった。それに対し、篠ノ之さん達は再びポカンとなる。そんな中、山田先生が息を切らして駆けて来た。息を整えながら束に話し掛ける。

 

 

「こ、此処は関係者以外の立ち入りは禁止してるんです」

 

「あれ?話は通した筈なんだけど。それじゃあ、改めて」

 

 

そう言って束は僕達や山田先生にペコリとお辞儀をして自己紹介を始めた。

 

 

「初めまして、私がISの開発者の篠ノ之束です。今日は、妹である箒ちゃんに専用機を渡す為に来ました」

 

「束が敬語・・・だと」

 

「姉さんが敬語?」

 

「束さん、どうしたんだ?」

 

 

知り合い組が顔を青くして震え出す。僕は知っているのでノーリアクションで何もしない。隣に居るシャロ達は既に理解が追い付いていないのか、魂が抜けた様な表情だ。

山田先生に関しては腰を抜かしてその場にへたり込む。いや、どんだけ驚いてるんですか?

そんな山田先生に束は手を差し出した。

 

 

「驚かせてごめんなさい。立てますか?」

 

「は、はい・・・ありがとうございます」

 

「束が他人に優しい、だと?」

 

「まさか偽物では?」

 

「でもあの声と顔は絶対に・・・」

 

 

それを見てまた話し出す三人。そんな三人を見て、束は言った。

 

 

「それじゃあ、箒ちゃんに機体を渡すよ」

 

「はい。それで、その機体は何処に?」

 

「うん、これだよ」

 

 

そう言って束はポケットから携帯を取り出して操作する。すると携帯から量子変換されていた機体が姿を現した。

篠ノ之さんの目の前に出現したISは一言で表すなら紅。それに尽きた。

 

 

「これが箒ちゃんの専用機、《紅椿》だよ」

 

「紅椿・・・」

 

「箒の専用機か・・・」

 

 

篠ノ之さんと織斑が呟きながら紅椿を見つめる。そして束は話を続けた。

 

 

「それじゃあ、最適化を済ませるから装着して」

 

「分かりました」

 

「あ、君も手伝ってくれるかな?」

 

「僕ですか?」

 

 

束は他人に話し掛けるかの様な口調で僕を呼ぶ。束がイリアステルに所属している事がバレると色々ヤバい。主に束の逃避行が再開される。

よって、他の人の前では他人行儀にする事に決めていたのだ。

 

 

「君の処理能力は束さんの耳にも届いているからね。是非お手伝いを頼みたいんだけど、良いかな?」

 

「分かりました。僕で良ければ」

 

「ま、待ってください!」

 

「どうしたのかな、箒ちゃん?」

 

「何故不動に手伝わせるのですか!?こんな男に任せる事はないでしょう!」

 

「でも彼の実力は本物だよ?無人機IS、暴走したISの無力化。本来だったら表彰物だと束さんは思うな」

 

「馬鹿を言わないでください!」

 

 

束の言葉に篠ノ之さんは怒号を発する。そんな篠ノ之さんを悲しそうな目で見つめた後、束は言った。

 

 

「分かったよ。態々呼んだのにごめんね、不動君」

 

「いえ、お気になさらず」

 

「そう言ってもらえると気が楽だよ」

 

 

そう言って高速でコンソールを操作し、最適化を済ませる。その光景にシャロ達が絶句していた。最早言葉も出ないらしい。それから30秒程で最適化が終了した。

 

 

「最適化も終わったし、早速試運転と行こうか。箒ちゃん、まずは飛行してみて」

 

「分かりました」

 

 

束の言葉に篠ノ之さんが上空へと飛翔した。流石、束が設計しただけあって中々の機動性だ。でも、白鋼達には劣るな。

 

 

----当然だ。私達はリミッターを外せば更に性能が上がるからな。

 

----本気を出せば世界なんて何時でも滅ぼせます。

 

----マスターがそうしたいなら、するよ?

 

----遠慮しておきます。

 

 

頭の中に響く声に苦笑して上空を見つめ直す。そこでは篠ノ之さんが両腰に搭載された日本刀型ブレードを振るっていた。それを見ながら束が僕達に声を掛ける。

 

 

「あ、皆はこっちに来て。今からミサイルを発射するから、その破片が当たると危険だからね」

 

 

束の言葉に全員が寄る。そして僕達を特殊なバリアが覆った。そして束がミサイルを出現させて空へ撃つ。篠ノ之さんはブレードの一本を横薙ぎにすると、刀身から複数のビームが放たれ、ミサイルを全て破壊した。

幸い、破片が降って来る事もなかった。バリアが解除され、篠ノ之さんが降りて来た。その表情は笑顔だった。確かに専用機をようやく手に入れた気持ちは分かるが、その笑顔に僕は嫌な予感がした。

そんな時、

 

 

「お、織斑先生!緊急事態です!」

 

 

山田先生が再び全力疾走で向かって来た。どうやらまた面倒事が舞い込んで来た様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~旅館内[仮設ブリーフィングルーム]~

 

 

「・・・以上が、現在の状況だ」

 

 

そう織斑先生が締め括る中、僕は一人苛立っていた。どんな内容かと思えば、アメリカの軍事用IS《銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》が謎の暴走を始め、こちらへ向かっているそうだ。それを僕達で止めるのが、今回の指令。

何故、他国の尻拭いをしないといけないのだろうか。せめて援軍を送るなりしてほしい。現在の日本に存在するアメリカの軍事基地にはISが配備されている筈である。それを回してくれても良いと思うが、保身に走ったな。

 

 

「織斑先生、福音のスペックデータの詳細を教えていただいてもよろしいですか?」

 

「構わない。だが、口外した場合は覚悟しておけ」

 

「あの、一つ良いですか?」

 

「なんだ、不動」

 

 

織斑先生に僕は口を開いた。

 

 

「この作戦は強制参加なんですか?」

 

「いや、強制はしない。だが参加してくれると戦力的にはありがたいが・・・」

 

「では、僕は参加しません。失礼します」

 

 

僕は立ち上がって、部屋を出る。だが、それを織斑に止められた。

 

 

「なんでだよ刹那!」

 

「なんでって・・・強制じゃないからだよ」

 

「福音がすぐそこまで来てるんだぞ!?」

 

「だったら生徒と旅館の従業員を今すぐに避難させてアメリカに援軍でも頼めばいい」

 

「俺達でやれば良いだけろ」

 

「・・・死ぬよ、君」

 

 

僕は織斑を軽く睨む。織斑は怯んで僕から手を離した。それから周りにも視線を移して僕は言う。

 

 

「相手は暴走したISだ。加減は勿論、ISが解除された場合でも襲って来ないなんて保障も無い。ラウラは兎も角、僕達は命の取り合いなんてした事は無い。そんな僕達がぶっつけ本番で戦場に放り込まれて何時も通り戦えるとでも?答えは否だ」

 

「そんな事はねえ!俺達が力を合わせれば福音なんて・・・」

 

「そうだ。こちらには、白式と私の紅椿がある。問題はない」

 

「相手が人だって事、分かってる?」

 

 

僕の言葉に織斑達が止まる。この二人、映像しか見てなかったな。チラリと映像に目を向けると、福音は全身装甲のIS。襲撃された経験のある織斑達には無人機に見えたのだろう。

 

 

「確かに、白式の零落白夜は絶大な威力を誇っている。でも、それの大きな欠点は加減が効かない事だ」

 

「加減が、効かない?」

 

「知らないの?零落白夜は要は防御をほぼ貫通してダメージを与える物だ。相手のSEが満タンなら兎も角、残り僅かの時に当ててみろ。言葉通り、真っ二つだ」

 

 

話し終えると、部屋は鎮まり返った。特に織斑は酷い。ようやく自分のISが殺人兵器になりうる可能性があると認識したか。それ位察しろ。最悪の場合、織斑と白式の両方に消えない傷が刻まれる事になる。

 

 

「織斑先生、此処に居る面子では無理な事だと思うんですけど」

 

「そう、だな・・・近くの軍事基地と自衛隊に連絡を入れる」

 

「ちょっと、良いかな」

 

 

そう言って束が襖を開けて部屋へと入って来た。

 

 

「此処は立ち入り禁止の筈だが?」

 

「流石に目の前で起きてる暴走事故は放っておけないよ。だから、束さんは作戦を提案したいんだけどどうかな。最高指揮官さん」

 

「・・・良いだろう。言え」

 

「うん。でもそれには不動君の協力がどうしても必要なんだよね」

 

「えぇ・・・」

 

 

思わず僕は声を出す。だって他人の尻拭いで命掛けるって馬鹿のやる事だよ?

でも束には何か考えがある様で、取り敢えず聞いておく。

 

 

「簡単に言えば全員で総攻撃だね。不動君がいっくんを運んで福音と交戦。オルコットちゃん、鳳ちゃん、デュノアちゃん、ボーデヴィッヒちゃんの四人は後ろから追いかけて防衛線を張りつつ援護。そして福音を倒せば良い」

 

「待ってください姉さん。どうして私が居ないのですか?」

 

「確かに、箒ちゃんの紅椿のスペックがあればもっと事態が有利に進むよ」

 

「ならn「箒ちゃんが乗ってない事が前提だけど」はあ!?」

 

「専用機を今日貰ったばかりの箒ちゃんが、まともに戦える訳がないでしょ」

 

「そんな事はありません!私は紅椿を使いこなしています!」

 

 

篠ノ之さんは声を張り上げる。でも、束の案に反対の者は誰も居なかった。その場の全員が篠ノ之さんの浮かれ具合に気付いている。あの織斑ですらだ。

だが、そんな事は露知らず。篠ノ之さんは騒ぎ立てる。

 

 

「私はもう足手纏いではない!この紅椿と共にこの任務を全うしてみせる!」

 

「・・・分かった。でも、もし箒ちゃんが何か問題を起こしたら紅椿は没収するね」

 

「良いですよ。ですが、そんな事は万が一にもありえませんが」

 

「そう。なら箒ちゃんがいっくんを運んで。不動君も一緒に着いて言ってくれるかな?紅椿と同等のスピード、出せるよね?」

 

「分かりました。あの篠ノ之束に頼まれたのなら、断れませんしね」

 

 

諦めて作戦に参加する事にした。福音の詳細データを確認して、準備をする。今回は白鋼で出撃だ。本当はラファールを使いたかったけど、新しいシステムの調整が上手く行かない為にお休みだ。

海岸でISを展開する。

 

 

----モード《エクシア》。それと、

 

----分かっている。《GNアームズTYPE-E》展開。

 

 

次の瞬間、僕の体をエクシアの装甲が覆う。更に全身を大きな装甲が展開され、僕自身が収納される。これがエクシアの追加装備であるGNアームズだ。

それを強襲用コンテナを追加する事で装備の追加も可能にした。これで福音まで一直線に進む。GNドライブ搭載型の大半は紅椿よりも早く移動出来る。僕は収納された中からモニターで織斑達の様子を確認する。

どうやら篠ノ之が調子に乗っている様だ。このままでは間違いなくやらかすだろう。そう思っていると、通信が入った。個人用通信《プライベートチャネル》だった。

 

 

『不動』

 

「篠ノ之さんの事ですか?」

 

『そうだ。織斑だけでは心もとないのでな』

 

「分かりました。では、出撃します」

 

『頼んだぞ』

 

 

そう言って織斑先生は通信を切った。隣で僕のISを見て驚いている織斑達に声を掛けて、準備をする。

 

 

「準備は良いか、一夏。不動も」

 

「俺は良いぜ」

 

「何時でも」

 

「では、行くぞ!」

 

 

その声を合図に僕達は移動を開始した。白式を背負った紅椿を隣にしながら飛行する。暫くすると、福音の反応をキャッチした。

 

 

「目標を確認した。織斑、一撃で仕留めるなんて考えないで。こっちは連携して戦える事を頭に入れておいてね」

 

「分かった・・・」

 

「見えたぞ」

 

 

篠ノ之さんの声に下を見ると、海上に福音が滞空しているのが目に入った。よし、此処からコッソリと・・・

 

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

「ばっ、声出す・・・」

 

 

叫びながら零落白夜で突っ込む織斑。そして刃が福音に当たる直前でヒラリと避けられた。僕は舌打ちしながら強襲用コンテナからGNミサイルを発射する。

 

 

「なんで声出したのさこの大馬鹿は!?」

 

「い、いや気合を入れようと・・・」

 

「不意打ちするのに叫ぶとか本当に君は・・・!」

 

 

しかも見事にミサイルが全て福音から射出されたビーム弾によって撃ち落とされた。データ以上のスペックじゃないか。あいつら嘘の記録を提出してたな。

 

 

「兎に角、シャロ達が来るまでの間持ちこたえるんだ!」

 

「分かった!」

 

「待つ必要など、無い!」

 

「箒!」

 

 

篠ノ之さんがブレードを抜いて斬りかかるがヒョイヒョイと避けられる。そして再び大量の弾丸が発射された。僕は織斑達に叫ぶ。

 

 

「二人共僕の後ろへ!《GNフィールド》展開!」

 

 

僕達の周りにGN粒子のバリアが発生して弾丸を防ぐ。再びGNミサイルを発射して牽制するが、弾切れになったのでコンテナを解除する。そしてGNアームズが展開された。

左右には《大型GNソード》が二本装着され、上部には二基の《大型GNキャノン》が搭載されている。

その中心にエクシアの太陽炉を接続して足場に両足を乗せる。これで展開完了だ。

ビーム射撃を行いながら福音に接近する。

 

 

「まずはその武器を破壊する!」

 

『ra・・・♪』

 

 

福音の腕に取りつけられた銃に剣を振り下ろすが、やはり躱される。その上、こちらを馬鹿にするかの様な声を出す。ララァのアレみたいな音出しやがって・・・!

 

 

「篠ノ之さん!織斑は?」

 

「なに・・・一夏ぁ!何をやっている!」

 

「二人共!下に船がいるんだ!」

 

「はいっ!?」

 

 

織斑の声に僕は素っ頓狂な声を上げた。今はこの海域は封鎖されてる筈じゃ・・・。

 

 

「多分、密漁船だ!」

 

「ああもう次から次へと!織斑は船を安全圏内まで誘導して!僕達で抑える!」

 

「分かった!」

 

「一夏!そんな奴ら等放っておけ!今は福音を止める事が先決だ!」

 

 

織斑に対して篠ノ之さんが怒鳴る。更に彼女は続けた。

 

 

「そんな犯罪者なぞ捨て置け!」

 

「何言ってんだよ箒!」

 

「話す暇があるならとっとと動いてくれるかな!?」

 

 

叫び過ぎて喉が痛くなって来た・・・。福音の射撃を防いだり弾きながら攻撃を加える。そして密漁船が離れた所で本格的に攻撃を開始した。

弾幕を張りつつ、二基の大型GNソードで斬り付ける。福音はそれを両腕で受け止めた。だが、ジリジリと福音の腕に刃が入り込んで行く。

福音はその両腕からバチバチと火花を散らして後退した。僕はそれを追いかける。砲撃を続けて攻撃の余裕を与えない。そして福音に再度接近して最後の一撃を叩き込む。

 

 

「はあっ!」

 

『ra・・・♪』

 

「なっ!?不動下がれ!」

 

 

僕が攻撃した瞬間、福音がその体を光の繭で包み込んだ。篠ノ之さんが飛ばしたビーム斬撃によって、福音と距離が出来た僕は巻き込まれずに済んだ。

 

 

「あれは一体・・・」

 

「篠ノ之さん、後ろに居る織斑と合流して後退して。それからシャロ達に伝達。セシリアと鈴は一緒に後退して宿の近くで待機しながら指示を待って」

 

「いきなり何を言い出すのだ?」

 

「良いから早く!あれは・・・二次移行だ」

 

「っ・・・!だ、だが此処で引く訳にはいかん!それにこの紅椿があれば!」

 

「待って篠ノ之さん!」

 

 

周りが見えてない篠ノ之さんは福音に向かって斬撃を放つ。だが、それは光の繭に触れた瞬間、何事も無かったかの様に弾かれた。

そして次の瞬間、空気が震える。その発生源は間違いなく目の前の繭からだった。

 

 

『ra・・・♪』

 

 

それはまるで胎児の産声の如く響き渡った。光の繭が開き、中から最悪のISが姿を現した。全身装甲の後部に大きな翼を展開さえたその姿は天使の様だった。

だが、その機械の天使は僕には酷く歪に見えた。福音のコアの声は聞こえない筈なのに泣いている様な、そんな声が聞こえる。

悲しそうな声を上げながら福音は僕達に狙いを定める。その瞬間、僕の中の直感がヤバいと告げた。

 

 

「全員、散開!」

 

「な、なんだアレは!?」

 

 

福音の翼からエネルギー弾が放たれる。だが、その数は軽く数百を超えていた。一斉に放たれたそれを篠ノ之さんと散開して撃ち落とす。織斑も後ろでてんやわんやになっていた。

ようやく全弾を凌ぎ切った所で第二射が放たれた。久しぶりの命の危機に冷や汗が垂れる。

 

 

「このっ・・・ぐあぁ!?」

 

「一夏!貴様ぁ!」

 

「だから迂闊に前に出るな!」

 

 

篠ノ之さんがキレて福音に接近する。二次移行した事によって、武装が分からなくなった今、それはあまりにも無謀だ。僕は砲撃で篠ノ之さんの前のエネルギー弾を消し飛ばしながら追う。

何故僕はお守しながら戦っているのだろうか・・・。

 

 

「篠ノ之さん!深追いは駄目だ!」

 

「ええい!邪魔をするな!」

 

「あっぶな!?」

 

 

突然振るわれた刀をGNフィールドで防ぐ。最悪の事態が発生した。まさかの二対一だと・・・!織斑は僕達のスピードに追い付けず、後ろでノロノロと飛行している。

 

 

「味方に攻撃とか何考えてるのかな君は!?」

 

「黙れ!一夏がやられて何も思わないのか!」

 

「いや、だってアイツ死んでないし。後ろから向かって来てるから。それに戦力が分からなくなった相手に下手に攻め込んだ所で負ける未来しか見えないよ」

 

「ならば貴様だけ下がれ軟弱者!奴は私と一夏で落とす!」

 

 

そう言って篠ノ之さんは再び福音へと突撃する。僕もそれを追いかける様に攻撃態勢に入った。こちらの攻撃を完璧に読んだ福音はするりと躱しながら背中の羽から大量のエネルギー弾を放つ。

 

 

「やっと追い付いた・・・ってうわぁ!?」

 

「一夏!」

 

「チッ・・・篠ノ之さんは織斑を!僕がなんとか抑える!」

 

 

声を掛けるが、僕が言うよりも早くエネルギー弾が直撃した織斑へと向かう篠ノ之さん。戦いやすくなった環境で僕は移動速度を上げる。

 

 

「此処は・・・僕の距離だ!」

 

『ra・・・♪』

 

 

大型GNソードを振りかざし、ようやく福音にダメージを与える。僅かに仰け反った福音からギギギと音が鳴った。次の瞬間、僕の頭の中にノイズと声が響く。

 

 

----タス・・・ケ、テ。

 

 

途切れ途切れの音声が続けて聞こえた。

 

 

----ボ、ク・・・ナカ・・・タス、ケ。

 

 

『ra・・・♪』

 

 

その言葉を最後に、福音は態勢を立て直す。

すると、福音が一瞬だけ解除される。すると操縦者であろう女性の体が上空へと投げ出された。僕はそれをキャッチして離れる。すぐに福音が復活した。今度は無人機としてだ。

僕は福音に砲撃を撃ち込んで爆煙を発生させた瞬間、一気に後退した。篠ノ之さん達とシャロ達、織斑先生達にも通信を送る。

 

 

「こちら不動。福音の操縦者を確保。バイタルに異常はありません。一旦シャロ達と合流して、操縦者を避難させてから再度攻撃を仕掛けます。良いですね?」

 

『了解した。福音もその位置から移動していない。無人機故の弊害か何かは分からないが、今はそちらの人命を優先してくれ』

 

「了解」

 

 

通信を切って、退却する。下の方から、織斑を抱えた篠ノ之さんが飛んで来た。その表情は不満の一言だったが、腕に抱えた女性を見せたら渋々納得してくれた。

5分程でシャロ達と合流し、旅館へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~旅館内[仮設ブリーフィングルーム]~

 

 

「・・・先生、一夏の容体は?」

 

「織斑自身に大きな怪我は無い。ただ、白式のダメージがかなり大きい。戦闘を継続するのは不可能だ」

 

「フィニッシャーが一人抜けたのは痛いね」

 

 

篠ノ之さんに織斑先生が答える。それに真面目な表情で束が言った。

これ、多分僕が代わりにやるんだろうなぁ。

 

 

「不動君、二人分の仕事になるけどお願い出来るかな」

 

「はい、分かりました」

 

 

白鋼のSEも回復した僕は部屋を出て廊下を歩く。すると、医務室となっていた部屋から織斑が出て来た。顔に絆創膏をペタリと張った織斑に少し笑ってしまいそうになる。

どこぞの少年漫画の主人公みたいだ。

 

 

「刹那、福音はどうなったんだ?」

 

「まだあの位置から動いてない。そっちこそ福音の操縦者はどう?」

 

「気を失ったままだけど、時期に目を覚ますだろうって」

 

「そっか」

 

「俺は今回戦えないから、頼んだぜ」

 

「言われるまでもない。それに・・・」

 

「それに?」

 

「何でもない。君に言っても仕方ないし」

 

「?」

 

 

福音のあんな声聞いたら、放っておけるわけないだろう。伊達にコア達と会話してないんだよこっちは。

 

 

----マスター、馬鹿兎から通信です。

 

----分かった。

 

 

セシアに言われて、僕は人気の無い崖まで歩いた。作戦再開までの時間はあと10分程。会話するのに差支えは無いだろう。

ボーッと景色を眺めていると、後ろから誰かが来た。振り返らずにその人物と会話をする。

 

 

「おまたせ、せっちゃん」

 

「ん。束もお疲れ様」

 

「本当だよ。まさか箒ちゃんがあそこまで酷い事になってるなんて・・・いっくんもかなり重症だし」

 

「それは世界最強の姉にでも任せておけば良い。効果は無いかもだけど」

 

「ちーちゃんかぁ・・・結婚出来るかな」

 

「やめたげてマジで」

 

「とまあ、おふざけはこの辺にして」

 

 

一度咳払いをした束は真剣な声音で僕に言った。

 

 

「せっちゃん、福音の声を聞いた?」

 

「うん。ほんの少しだったけどね」

 

「白鋼の戦闘映像を見させてもらったよ。あの子、頑張って君に操縦者を託したんだね」

 

「その思いは確かに受け取ったよ。だから今度はあの子を助ける番だ」

 

「そう言うと思って、これを持って来たんだ」

 

 

そう言って束はUSBを僕に渡す。

 

 

「この中にはISの機能を一時的に停止させる特殊な電波を発するシステムを積んであるんだ。それで動きを止めている内にコアを抉り取って」

 

「それなら僕のシステム・・・あっ」

 

「うん、せっちゃんのISの手の内を晒すのはあまり良くない。だから私からの贈り物って事で誤魔化すんだ」

 

「分かった。絶対にあの子を助けてみせる」

 

「その意気だよ。それじゃあ、戻ろっか。・・・せっちゃん」

 

「ん?」

 

「・・・無理しないでね」

 

 

珍しく不安そうにする束に苦笑しながら僕は頭を撫でる。束がイリアステルに来てから散々やていたので、慣れたものだ。でも、僕なんかの手でそんな幸せそうな表情をしてくれるのなら、嬉しい。

 

 

「大丈夫。絶対に帰って来るから。それに、僕には心強いパートナー達が居るんだから」

 

『マスターは私が命に代えてでも守りますよ』

 

『今回は私がメインだからな。そこの所、覚えておけよ』

 

『絶対に死なせないからね・・・!』

 

「ふふっ♪やっぱりせっちゃんは愛されてるね!」

 

 

珍しく音声を出したセシア達を見て束は嬉しそうに笑った。それに釣られて僕も笑う。

そして白鋼に織斑先生からの呼び出しが掛かった。

 

 

「行こう。これが、この臨海学校でのラストミッションだ」

 

 

僕達はブリーフィングルームへと、走り出した・・・。

 

 

刹那サイド終了


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