if~刹那君は操縦者~   作:猫舌

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~出発前日[刹那&楯無ROOMにて]~


楯無「やだやだやだ!私も行きたい!」

刹那「無理ですよ。一年生のイベントなんですから」

簪「止めてお姉ちゃん。見てて反吐が出るから」

楯無「簪ちゃん!?」

刹那「まあ、諦めてください」

楯無「だって二人の水着姿が・・・特に不動君のビキニ見たかったぁ!」

刹那「着るかそんな物」

楯無&簪「「えっ?」」

刹那「えっ?」


第12話

刹那サイド

 

 

遂に臨海学校の日がやって来た。宿泊する旅館へとバスで移動する。窓側の席へと割り当てられた僕はボーっと窓の外を眺めていた。

 

 

「どうした刹那?」

 

「・・・別に」

 

 

隣に座る織斑が声を掛けて来る。諸悪の根源に言われても腹が立つだけだ。正直な話、今すぐバスを降りたい。徒歩でも良いからコイツと離れたい。

あれだけやらかしておきながらヘラヘラと笑って来る織斑に僕は怒りが天元突破しそうだった。しかもまたシャロって呼んで冷たい目で見られてたし。最近は鳳さんもあまり織斑と関わらなくなったな・・・。

 

 

「・・・何故アイツなのだ」

 

 

後ろの席から篠ノ之さんの爪を噛む音と陰口が聞こえて来る。やれ卑怯者だの、軟弱物だの、やかましくて仕方がない。くじ引きで決まってしまったからには文句の言い様がないし。

ああ、何故セシリア達とこんなにも離れてしまったんだ。現実が嫌になった僕は目を瞑って、眠る。織斑達の声が遠くなり、次に聞こえたのは誰かがお茶を啜る音だった。

 

 

『おお、マスターか。よく来たな。まあ、茶でも飲め』

 

『ありがとう。セシア達は?』

 

『セシアとラファールは映画を観に行ったぞ。映像装置の中へ侵入して観るそうだ』

 

『それ、バレたら僕が捕まる気が・・・』

 

『問題ない。あの二人がそんなヘマやらかす様に見えるか?』

 

『そうだね。何の映画観に行ったんだろう』

 

『確か愛知の方で撮影された御当地映画と言っていたな』

 

 

そう言ってお茶を飲む白鋼の隣に座って僕もお茶を飲む。御当地映画ねえ・・・。

 

 

『内容とかって聞いた?』

 

『そう言えばこの辺に・・・あった。パンフレットを貰っている』

 

『どれどれ・・・《儂の名は》?』

 

『織田信長が主人公らしいぞ』

 

『嫌な予感がするから止めておくよ』

 

 

結局、宿へ着くまでの間は白鋼と雑談して時間が過ぎて行った。

到着すると、誰かが僕を起こした様で意識が戻る。若干気だるさを感じながらもバスを降りた。

 

 

~宿泊地前~

 

 

「此処が今日からお世話になる旅館だ。迷惑を掛ける様な事はしない様に」

 

『お世話になります!』

 

 

海の前に建てられた旅館。その入り口で、女将である女性に全員で頭を下げる。女性は上品な笑顔で返してくれた。

 

 

「皆様、どうぞごゆっくりしていってくださいな。・・・あら、このお二人が御噂の?」

 

「はい。お前等、挨拶しろ」

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

「不動刹那です。お世話になります」

 

「ふふっ。そんなに畏まらなくても良いですよ。それでは、お部屋の方へご案内させていただきます」

 

 

女将さんの案内で僕達は部屋へと案内される。女子達がそれぞれの部屋へ割り当てられる中、僕と織斑は先生達の宿泊する部屋の前まで来た。まあ、なんとなくは予想してた。

 

 

「では、ごゆっくり」

 

「ありがとうございます」

 

 

ペコリと頭を下げてから歩いて行く女将さんを見送ると、織斑が疑問の声を上げる。

 

 

「織斑先生、俺達の部屋は?」

 

「女子達の近くにしたりすると馬鹿共が騒ぎそうだからな。お前達二人は同室・・・と言いたい所だが、また暴力事件を起こされてもたまらん。よって、織斑は私と同室。不動は山田先生と同室だ」

 

「なっ!?あれは刹那が!」

 

「理由がどうであれ暴力を振るったのはお前だ」

 

「くそっ・・・!」

 

 

荒れる織斑に先生は溜息を吐く。僕は一人逆ギレしてる馬鹿を放置して山田先生に頭を下げる。

 

 

「臨海学校の間、よろしくお願いします。異性と同室と言う事に抵抗があると思いますが、そこはどうか許していただきたい。僕も殴られるのはごめんなので」

 

「不動君も気にしないで良いですよ。寧ろ私も新鮮な体験ですし、それに不動君だったら・・・」

 

「そう言ってもらえると助かります」

 

「よろしくお願いしますね♪」

 

 

そう言った山田先生と共に部屋の中へと入る。流石教師用の部屋なだけあって中々に広く、高級感がある。荷物を置いて、鞄から本とイヤホンを取り出して窓に置いてある椅子に座る。イヤホンを携帯に繋げてから音楽を流し、読書を始めた。

そんな僕に山田先生が声を掛けて来る。

 

 

「ふ、不動君?海は・・・?」

 

「行きませんよ?」

 

「でも水着買ったんですよね?休日に」

 

「買ったけど泳ぐとは言ってませんよ?」

 

「じゃあ何の為に?」

 

「此処の温泉、露天風呂があるじゃないですか」

 

 

僕が言うと山田先生がコクリと頷いた。なんとなく可愛らしさを感じさせる仕草に苦笑しながら続ける。

 

 

「でも露天風呂は混浴になってるんですよ。入りたかったら水着を着用と書かれていたので買っただけです」

 

「で、でも折角海まで来たんだから泳がないと・・・」

 

「良いです。僕、"泳げない"んで」

 

「・・・ふへ?」

 

 

山田先生が間抜けな声を出して固まる。そう、僕はカナヅチだ。小さい頃から泳ぐのが苦手だった。父さんは泳ぎが上手いのに僕はその真逆。

でも父さんも昔泳いでて母さんに[・・・里帰り]とか言われて泳ぐの止めたんだよね。やっぱり蟹って言われるのショックなんだなぁ・・・。

 

 

「と、言う訳で僕は此処で本を読んでいるか寝てますのでどうぞごゆっくり」

 

 

僕は山田先生から視線を外して読書を再開する。すると部屋の障子戸が開けられ、織斑が入って来た。

 

 

「刹那、海行こうぜ!」

 

「嫌だ」

 

「そんな事言うなよ。もしかしてお前、泳げないのか?」

 

「そうですけど何か?馬鹿にするんだったらご勝手に」

 

「するかよ、そんな事。俺が教えてやるから行こうぜ」

 

「断る。引き摺るなバッグに触るな!?」

 

「よし、行こうぜ」

 

 

僕の言葉に耳も貸さず、織斑は僕の本と機械類をバッグに仕舞ってから無理やり海へと連行した。部屋にはポカンとした山田先生が取り残されていた。

 

 

~ビーチ~

 

 

「・・・暑い」

 

「そりゃそうだろ。晴れの海だし」

 

 

水着の上にパーカーを羽織った僕はパラソルの中で愚痴る。それを織斑が溜息を吐いてツッこんだ。溜息を吐きたいのはこっちだよ。

暫くすると女子達が水着を着て歩いて来た。

 

 

「あっ、織斑君達だ!」

 

「私可笑しい所無いかな?」

 

「不動君の萌え袖パーカー可愛い!本当に女の子みたい!」

 

「織斑君の腹筋凄ーい!」

 

「ブックス!」

 

 

なんか一人、面白き盾とか呼ばれてそうな人の声が聞こえたが気にしない様にしよう。なんとか持って来る事が出来た鞄から本と機械類を取り出して、部屋と同じ体制になる。織斑が何か言い出したが、音量を上げて無視した。

すると、僕の前に藤原さんが来た。なんとも布面積の少ないビキニなんだろうか。織斑が顔を紅くして慌てている。

 

 

「どう坊や?お気に入りのブランドなの」

 

「露骨過ぎて怖い。セクハラで訴えるよ?」

 

「もう、連れないわね。でもそこが良いわ」

 

「分かったから離れてくれないかな?」

 

 

僕の体にスルスルと手を伸ばして来る藤原さんを追い払う。あの人もセクハラ魔人だな。会長と同じ類としてカテゴリ付けしておこう。

そんな事を思う僕の前に今度は人影が複数立つ。視線を上げるとそこに居たのはセシリア達専用機組の面々だった。

 

 

「ど、どうですか刹那さん。私の水着は?」

 

 

セシリアはそう言って、恥ずかしそうに水着姿を見せて来る。恥ずかしいならしなきゃ良いのに。そんな事を思いながら僕は改めてセシリアに視線を向けた。

彼女のイメージカラーである青のビキニと腰に付けた白のパレオの組み合わせは控えめに言って似合っていた。流石お嬢様と言うべきか、水着姿でも上品さを醸し出している。

 

 

「うん、凄く似合ってる。綺麗だよ、セシリア」

 

「はうっ♡」

 

「せ、セシリアがやられた!?」

 

「流石刹那・・・笑顔であんな台詞を。アレを正面から受けたら、私は意識を保っていられないぞ、シャルロット!」

 

「ぼ、ボクだってそうだよ」

 

 

そんな事を言いながら僕が選んだ水着を着たシャロと、何故かタオルでグルグル巻きになっているラウラだと思われる何かが慌てる。うん、まるで意味がわからんぞ!

それから数分、覚悟を決めた表情でシャロが前に出る。

 

 

「どうかな、刹那?」

 

「バッチリじゃないか。僕の見立ては間違ってなかった」

 

「本当!?」

 

「嘘言ってどうするのさ。それに、シャロに似合うと思って選んだ水着なんだから。自信持ちなよ。凄く似合ってる」

 

「えへへ・・・♪」

 

 

僕の言葉にシャロは笑顔になる。シャロもビキニタイプの水着で、これまたイメージカラーに合ったオレンジだ。シャロもその容姿故に凄く似合っている。

まあ、僕が選んだ水着を着てる時点で今更感のある反応な気がするけど、口には出さないでおこう。

 

 

「・・・で、君はラウラで良いんだよね?」

 

「そ、そうだ」

 

「何そのタオル。ビーム兵器無効のマントか何か?」

 

「なんだそれは?」

 

「いや、ただの宇宙海賊の話だから気にしないで」

 

「う、宇宙海賊?」

 

 

首が動かない代わりに体を横に逸らして疑問符を浮かべるラウラに笑いそうになりながら僕は誤魔化す。

するとラウラは唸り声を上げ始めた。なんか面白い、この子。

 

 

「う~・・・こうなったら玉砕覚悟だ!刹那よ、私の生き様をその目に焼き付けろ!」

 

 

そう言ってラウラは己に巻き付いていたタオルを取り払う。

大変男気のある言い方だったが、地面を見てモジモジし始めた。どうしたもんかと考えていると、シャロに小声で[何か言ってあげて]と言われたのでラウラに視線を向ける。

上下黒のビキニを身に付けたラウラは、何と言うかこう、一歩階段を上がった様な感覚を思わせる。髪型も合わせてツインテールになっていた。ぶっちゃけた評価は背伸びした中学生と言った感じである。と言うかビキニ流行ってるのかな?服装の流行って分からない・・・。

そんな事を考えながら僕の口から出た言葉は、

 

 

「あ、可愛い」

 

「ほっふん!?」

 

「ラウラ!?」

 

 

シンプルだった。シンプルに可愛い。今まで制服とISスーツのラウラしか見て来なかった所為か、凄く新鮮に感じる。うん、可愛い。

その本人は、何故か顔を紅くしてそのまま後ろに倒れた。それをシャロが抱える。なんともカオスな状況なのだろうか。

 

 

「ラウラさんがダークホースでしたのね・・・!」

 

「何言ってるの、セシリア?」

 

「な、何でもありませんわ。それより、刹那さん」

 

「ん?」

 

「私にオイルを塗っていただけませんか?」

 

 

そう言ってセシリアは持っていた籠からオイルの入った容器を取り出した。別にやる事も無いので了承する。

 

 

「別に良いよ」

 

「ありがとうございますわ(言ってみるものですわね!)」

 

「それじゃあ、そこに寝そべってもらえる?」

 

「は、はい・・・」

 

 

セシリアはシートにうつ伏せになって水着の紐を解いた。僕は袖を捲ってからオイルを手に取って、ある程度温める。それからセシリアの背中にオイルを滑らし始めた。

 

 

「ふぁっ♡せ、刹那さんお上手ですのね・・・♡」

 

「そうかな?あまりやった事がないんだけど」

 

「ど、どこかで御経験が・・・ぁっ♡」

 

「母さんの実家にプールがあってさ。そこでよく母さんにオイル塗らされたから慣れてるんだ」

 

「な、なるほどぉ♡」

 

「せ、刹那ストップ!セシリアが危ない顔してるから!?」

 

「はい?まあ丁度終わったから良いけどさ」

 

 

セシリアの背中を塗り終わった僕は手を離す。セシリアはうつ伏せだったから表情が見えなかったけど何故かビクビクしてた。そんなにくすぐったかったのかな。

 

 

「えっと、大丈夫?」

 

「ら、らいひょうふれすわぁ・・・♪」

 

『・・・ゴクリ』

 

「すっげ・・・」

 

「何鼻の下伸ばしてんのよ馬鹿ぁ!」

 

「ぐえっ!?」

 

 

呂律が回っていないセシリアを少し心配しながら僕はオイルをタオルで拭う。何故か周りから生唾を飲む音が聞こえたが、意味が分からずに首を傾げていた。あと織斑が鳳さんから見事なタイキックを喰らった。

読書を再開しようとした時、声を掛けられる。それはのほほんさんと簪だった。

 

 

「ふ~ちゃ~ん!」

 

「ほ、本音・・・声大きい」

 

「どうしたの、二人共」

 

「ふーちゃんに水着を見せに来たのだ!」

 

「は、恥ずかしい・・・」

 

「みず・・・ぎ?」

 

 

僕はのほほんさん達を見て疑問の声を上げる。簪は水色のビキニだ。純粋に似合ってると言えるだろう。問題はのほほんさんの方だ。彼女の水着はその・・・キグルミ?

恐らく狐と思われるキグルミを着用しているのだ。正直、何も言えない。

 

 

「えっと・・・こ、個性的で良いんじゃないかな!」

 

「えへへ~、褒められちゃった~♪」

 

「(本音、刹那の頬が引き攣ってるよ・・・)」

 

「簪も、その水着可愛らしくて似合ってるよ」

 

「あ、ありがと(やった・・・!)」

 

 

のほほんさん達が何やらそれぞれの反応を示していると、のほほんさんが急にビシッとポーズを取った。

 

 

「思い出した!ふーちゃんにもう一個ごほーこく!」

 

「どうしたの?」

 

「向こうに海の家があって、食べ物いっぱい売ってたよ~」

 

「な ん だ っ て ! ?」

 

 

僕は鞄から財布を取り出して金額を確認する。うん、これなら満腹になれる!

 

 

「ふーちゃん、一緒に行こ~」

 

「勿論さ。よし、目指すはメニュー全制覇!」

 

「お~!」

 

「程々にね・・・」

 

「それじゃ~、れっつらご~!」

 

 

そう言ってのほほんさんは僕と簪の手を掴んで走り出した。僕と簪は転びそうになるが、なんとか立て直してのほほんさんに着いて行く。自然と僕達には笑顔が浮かんでいた・・・。

海の家でとりあえずアイス系以外のメニューを全て注文する。後はのほほんさん達の分も代金を払った。基本お小遣いとか使わないからかなり余裕がある。頼んだメニューは完成次第持って来てくれるらしく、僕達はパラソルがある所へ戻った。臨海学校中は僕達しか居ないらしく、すぐに分かるそうな。

頼んだメニューが来たのはそれから10程度経ってからだった。

 

 

「はいよ、ラーメンとカレーにから揚げとたこ焼き、イカ焼きとフランクフルトお待ち!」

 

「ありがとうございます」

 

「他のも直ぐに持ってくっからな!」

 

 

そう言って店員の男性は走って海の家へと戻って行った。僕は並べられた料理を食べ始めた。

 

 

「いただきます。・・・はむっ」

 

「ふーちゃんやっぱり食べるね~」

 

「・・・見てるこっちがお腹いっぱい」

 

「泳がない分、こっちで楽しまなきゃね」

 

「泳がないの?」

 

「泳げないの。昔から水泳だけは苦手なんだ」

 

「なんか意外・・・」

 

 

驚愕する簪の表情に苦笑しながら僕は食事を続ける。店員さんが次の料理を持って来た時には全て食べ終わっていた。

 

 

「次のお待ち!サザエの壺焼きと魚の塩焼き、焼きホタテと枝豆ね!」

 

「あ、ラーメンとたこ焼きのおかわりお願いします。お金はこれで丁度ですよね」

 

「まいど!姉ちゃんすげえ食いっぷりだな」

 

「僕は男です」

 

「わ、悪かったな。たこ焼きの数サービスすっから許してくれや」

 

「許します!なのでおかわり!」

 

 

追加の料理を食べながら目の前を見る。皆が大はしゃぎしている。なんとも平和な光景だ。そう思っていると後ろから声を掛けられた。

 

 

「うわっ、相変わらずの食欲ねアンタ」

 

「鳳さん、泳がないの?」

 

「今から泳ぐ所よ。一夏とあそこまで競争しようかなって」

 

 

そう言って鳳さんはかなり向こうにあるブイを指差した。僕は溜息を吐いて鳳さんに言った。

 

 

「悪い事は言わないから、浅い所で遊びなさい」

 

「なんでよ。別に良いじゃない」

 

「君だけの時なら一向に構わないさ。でも、今は集団行動だ。もし君か織斑が足でも吊って溺れたら全員に迷惑が掛かる。そこの所、よく考えなよ」

 

「うっ・・・分かったわよ」

 

「そんな顔しないでよ。ほら、枝豆あげるから」

 

「どうも。それじゃあ、行って来るわ」

 

 

そう言って鳳さんは歩いて行った。それから数分後、織斑に担がれて鳳さんが戻って来た。僕と簪は思わず溜息を吐く。のほほんさんは笑っていた。この子何気に酷いな。

 

 

「・・・足吊った」

 

「言わんこっちゃない」

 

「浅い所じゃなかったら危なかったぜ、鈴」

 

「反省してます・・・」

 

「旅館まで運んでやるよ」

 

「良いわよ。此処で見てるから、アンタは遊んで来なさい。シャルロット達とビーチバレーやるんでしょ?」

 

「そうか?じゃあ、行って来る。刹那、悪いんだけど鈴の事頼んでも良いか?」

 

「はいはい」

 

 

適当に返事して手を振ると織斑はシャロ達の居るビーチバレーのコートまで走って行った。僕達も食事が終わり、各々の時間を過ごす。のほほんさんは友達とビーチバレーをしに行ったし、簪は僕の膝を枕にして眠っている。

僕も音楽を聞きながら読書を始めた。

 

 

「へくちっ」

 

「・・・ほら」

 

「ありがと・・・良い匂い」

 

「そりゃどうも」

 

 

くしゃみをする鳳さんに着ていたパーカーを渡した。そのまま僕は読書を再開する。でも僕は気が付けば眠気に誘われて目を閉じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・んぅ」

 

「あ、起きた?」

 

「・・・鳳さん?」

 

「そうよ」

 

 

誰かが頭を撫でる感触で目が覚める。僕の視界に入ったのは頭の上に手を置いた鳳さんだった。どうやら僕は鳳さんに膝枕されていた様で、起き上がってから頭を下げる。

 

 

「ごめん」

 

「な、何で謝るのよ」

 

「君は、その・・・織斑の事が」

 

「ああ、そう言う事ね。別に気にする事ないわ。だってこの程度じゃ一夏はどうとも思わないもん」

 

「それもそれでどうかと・・・」

 

「まあ、パーカーのお礼とでも思ってくれれば良いわ。これ、ありがと」

 

「ん。じゃあ、そう思っとくよ鳳さん」

 

 

パーカーを受け取るが、鳳さんが力を入れている所為か離れない。鳳さんを見ると、少し不機嫌そうな顔で言った。

 

 

「・・・鈴で良いわよ」

 

「なんで?」

 

「なんでって・・・セシリア達は名前呼びなのに私だけファミリーネームなのは疎外感があるのよ」

 

「織斑と篠ノ之さんも名字呼びだけど?」

 

「それはアンタが嫌ってるからでしょうに。私の事は、嫌い?」

 

「そういう訳ではないけど・・・じゃあ、僕も刹那で良いよ」

 

 

こうして僕は鳳さん改め鈴と呼ぶ事になった。こうして臨海学校初日は夜を迎える。

この日を境に、シャロ達から何故かオイルマッサージをお願いされる事が増えたのだが、その話はまた何時か・・・。

 

 

~夜[旅館内]~

 

 

「はむっ・・・美味しい」

 

「本当だね。和食って凄いなぁ」

 

「や、やっと動ける様になりましたわ・・・」

 

「セシリア、大丈夫か?」

 

 

シャロ達とテーブルに座って食事を摂る。座敷とテーブルに席が別れており、シャロ達に長時間の正座は難しい事と、織斑と篠ノ之さんが近くに居る事を配慮してテーブルに座った。僕達がテーブルに移動した事で織斑と篠ノ之さんが隣同士になった。これで面倒事に巻き込まれる心配はないだろう。

鈴や簪は別クラスなので別の部屋で食事をしている。

 

 

「ねえ刹那。この緑の盛ってあるのは何?」

 

「山葵だよ。刺身に少量付けて食べるんだ。辛いから食べる時は気を付けてね」

 

「うん。えっと、ワサビをちょこっと付けて・・・美味しい!ちょっと鼻にツンと来るけど風味が良いね」

 

「多分本わさかな」

 

「本わさとはなんだ、刹那?」

 

「簡単に言えば日本原産の山葵の事かな。西洋山葵と区別を付ける為の呼び方でもあるけど」

 

「ホースラディッシュの事ですわね」

 

「そうだね。まあ、どうでも良い話はこの辺で、兎に角食べなよ」

 

 

二人はシャロの真似をして山葵を少し乗せて刺身を食べる。するとシャロと同じ反応をし始めた。海外組の反応新鮮で良いな。

その後も、海の幸に下鼓を打ち、僕達は料理を堪能した。それからシャロ達と別れてから入浴し、部屋に戻る。今日は露天風呂に女子がいっぱいだったから明日にしよう。

部屋の前まで行くと、織斑姉弟の部屋の前で篠ノ之さんと鈴、それとセシリア達が聞き耳を立てていた。

 

 

「・・・何してるの?」

 

「静かにしろ」

 

「コレよコレ」

 

 

鈴に言われて戸に耳を付けると、中から声が聞こえて来た。

 

 

『千冬姉、コレやるの久しぶりだな』

 

『そうだな。・・・んっ』

 

 

織斑の声と、小さく声を上げるその姉の声が聞こえて来た。なんとなく分かった僕は戸から耳を離して隣の自室へと戻る。戸を開けると、部屋には布団が二つ敷かれていた。その内の一つの上で山田先生がグテッとなっていた。

 

 

「山田先生?」

 

「は、はしゃぎすぎて体が」

 

「大丈夫ですか?隣に行けば織斑にマッサージしてもらえますよ」

 

「そこまで行く気力も無いので寝ますね。おやすみなさい」

 

「それなら僕も寝ます。おやすみなさい」

 

 

僕も歯磨きを終えてから電気を消して布団へ入る。いよいよ明日はIS実習だ。学園外での授業だから気合入れないと。僕は明日使うISを考えながら眠りに落ちた・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

刹那達が寝る少し前の事。織斑姉弟の部屋の戸が急に開かれ、箒、鈴、セシリア、シャロ、ラウラの5人が雪崩れ込んだ。視線を上げると、そこには彼女達を見下ろす千冬と目をパチクリさせる一夏の姿があった。

全員が冷や汗をかく。すると千冬は

 

 

「・・・丁度話をしたかった所だ。入れ」

 

 

箒達を招き入れると千冬は言った。

 

 

「お前達の事だ。大方一夏のマッサージを勘違いしてたのだろう?」

 

「うっ・・・その通りです」

 

「若いな。おい、一夏。もう一度風呂に入って来い」

 

「え?なんでだよ?」

 

「良いから行け」

 

「分かったよ。皆、ゆっくりしてってくれ」

 

 

そう言って一夏は再び風呂へ向かった。隣の部屋の刹那に声を掛けたが、爆睡中だった為に一人風呂になったのは当然だった。

そんな一夏はさておき、千冬は備え付けの冷蔵庫から人数分のジュースを取り出して箒達に渡した。

 

 

「私の奢りだ。飲め」

 

 

その言葉に箒達はジュースを口にする。それを確認した千冬は自分も冷蔵庫から缶ビールを取り出して一気に飲み干した。その光景に箒達は固まる。

 

 

「んぐっ・・・んぐっ・・・ぷはぁ!なんだ、お前達。私が酒を飲んで笑顔になったら可笑しいのか?」

 

「い、いえ!そう言う訳では!?」

 

「ただ、ギャップが・・・」

 

 

箒と鈴がフォローをするが、その動きはぎこちなかった。それを軽く笑った千冬は話を続けた。

 

 

「お前達に確認したい事があってな」

 

「確認、ですか?」

 

「そうだ。箒、鈴は一夏の事が好きか?」

 

「いきなり何を!?」

 

「なに、弟の恋愛事情を把握しておきたいだけだ」

 

 

慌てる箒に千冬は笑う。二人を名前で読んだ事から完全にプライベートモードである。

それから答えが返る。

 

 

「私は、一夏が好きです」

 

「そうか。鈴もか?」

 

「私は・・・正直分からなくなって来ました」

 

「ほう?」

 

 

鈴の口から出た言葉に千冬は目を細める。箒も目を見開き、セシリア達もポカンとしていた。それから鈴はポツポツと口にし始めた。

 

 

「前は確かに一夏が好きだった。これは断言できる。でも、最近は一夏よりもアイツの顔が浮かぶ事が多くて・・・」

 

「・・・なるほど、な」

 

 

アイツ。それだけで部屋の全員が察した。箒は鈴を[何故あんな卑怯者を]と心の中で罵り、セシリア達は[またか・・・]と件の人物の建築っぷリに溜息を吐いていた。

その正体である不動刹那は有名な科学者の不動遊星を父に持つ男だ。

遊星はその昔、誰とでも仲良くなる事から《一級絆建築士》と、まで言われるほどの人たらしである。その息子もベクトルの違う一級建築士の資格を持ってしまった。故に刹那も父親譲りの人望を持っているのだ。

 

 

「まあ、悩めよ高校生」

 

「はい・・・」

 

「後の三人は・・・言うまでもないか」

 

 

セシリア達を見て千冬はわざとらしくヤレヤレと首を振る。

 

 

「聞くが、不動の何処に惹かれた?」

 

「私は、あの人の生き方に惹かれました。どんな状況でも関係無い。自分の道をひたすらに進む彼の男らしい生き方に心を奪われました」

 

「ボクは、刹那の優しさです。デュノア社の人形だった僕に変わるきっかけをくれた。白黒にしか感じられなかった人生に色彩をくれた、優しい人。そんな彼をボクは好きになりました」

 

「私は刹那の強さです。彼は言ってました。自分が強くなれたのは仲間達が居たからだと。そしてそれによって結ばれた強い関係が、絆であると。一人で戦って来た私とは違う、未知の強さを秘めた彼を好きになりました。後は、シャルロットと同じ優しさです」

 

「ふっ・・・愛されてるな。私も、不動には感謝しきれん」

 

「ち、千冬さんまでなにを!?」

 

 

セシリア達の気持ちに千冬は彼の人望の厚さを感じた。そして口にした言葉に箒が悲しそうな表情をする。

 

 

「何を驚く事がある箒。考えてもみろ」

 

「・・・何かありますか?」

 

「まずはオルコットと一夏の口論だ。あの時は私も面白がってしまったが、不動が止めてくれなければ国際問題に発展する可能性もあった」

 

「うぐっ・・・!」

 

 

千冬の言葉にセシリアが胸を抑える。彼女にとっては黒歴史なのだ。そこから刹那にフルボッコにされる破滅のカウントダウンが始まったのだ。

 

 

「それと箒に木刀で殴られた時、彼は何も言わなかった」

 

「あの男が私を恐れただけなのでは?」

 

「違う。確かにお前は何もお咎めは無しだった。だが、もし不動がその事を拡散したら箒、お前は絶対にクラスから浮く」

 

「そ、それは・・・!」

 

 

その件に関しては箒も最近思う所がある様だ。既に箒は篠ノ之束の妹として、優遇されていると思われている。結果、嫉妬によるヘイトが絶えない。もし、そんな中に暴力事件を起こして、不問同然の扱いをされたとい知られたらどうなるだろうか。確実にクラスから浮いて、最悪の場合虐めが発生する可能性もある。

 

 

「まあ、他にもあるがキリがない。今夜はお開きだ。さっさと部屋へ戻れ」

 

「教官、最後によろしいでしょうか」

 

「今はその呼び方で良い。それで、なんだ?」

 

「教官は、刹那の事が好きなのですか?」

 

 

ラウラの質問に空気が凍った。まさかの質問にセシリア達は顔を青くする。

 

 

「・・・さあな。ただ、男としては優良物件なのは確かだ。油断してると、私か山田先生が貰うかもしれんぞ?」

 

「例え教官相手でも負けません」

 

「ふっ」

 

 

ラウラ達を軽く笑って見送ってから千冬は頭の中でさっきの言葉を思い返す。

 

 

「好きなのか、か・・・年齢がなぁ」

 

 

ふざけて答えたつもりが、つい真剣に考えさせられた千冬であった。

 

 

「卒業すればワンチャン・・・あるか?」

 

 

三人称サイド終了


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