誤字修正・2017/01/23 09:20:44
ー旅に出よう。
なんの前触れもなくそう決めたアマツマガツチ。
何故そのようになってしまったのかは謎が多いが、彼女(後に発覚したが、このアマツマガツチは雌である)の性格故かそうなってしまった。
渓流に行き着いて早三ヶ月。
彼女は色んな事を経験した。
時にエリア7にて乱闘……してはいないが様々なモンスターに出くわしたり。
一撃で倒してしまったが、二つ名モンスターという存在がいるという事を知ったり。
ユカリなどの強者ハンターがこの世にいることを理解したり。
その結果、アマツマガツチは一つの答えに辿り着く。
ーもっと強くなければいずれ死ぬだろう。
古龍である彼女だが、古龍は古龍でも死ぬのは嫌であろう。
それに少し大きくなっただけで未だに未成体。
攻めて準成体まで成長を遂げたい、と彼女は思う。
……そう考えつつも彼女は水辺で寝っ転がってる。
考えは素晴らしかったが、やってる事は相も変わらずだらしない。
しかも今日は流れが早いのか自動的にスーッと流れてしまってる。
それをたまたま見かけてしまうロアルドロスは「またこいつかよ」という視線を送り、タマミツネは何故か「すげぇ!水面に浮かんでる!!アマツマガツチさんマジ凄い!!」と言わんばかりに尻尾を振り、目を輝かせている。
……ロアルドロスはまだ分かる。
何せ同じ経験をしているのであるから。
ただ、何故タマミツネは逆に感心してるのか?
それはあの紅兜との戦闘の時だった。
自分が巨木の下敷きになってしまい、紅兜にトドメを刺されそうになった時、アマツマガツチはただガノトトスが捕れた事を自慢したく、やって来ただけだったが、それが自然的に攻撃方法となってしまい、結果的に助かった。
つまり、タマミツネはアマツマガツチを「自分の命の恩人」だと思い込んでいる。
その為か、アマツマガツチの大半の行動を感心してしまっている。
さて、タマミツネの説明も終えたところで現段階の状況に話を戻そう。
アマツマガツチは思っていたのだ、もう旅立つ時期ではないか、と。
また世界をもっとこの目で見てみたい、と。
……はっきり言ってマイペースな彼女がここまで興味を持つとは珍しい。
明日が嵐にならないことを祈ろう。
そして彼女は体勢を立て直し、空中に浮かび、空を見上げる。
ここで彼女の全身が変化してる事に気付く。
体格は前より大きくなり、チャナガブル並の大きさとなっている。
黒い甲殻は甲殻種には劣るが強度が付き、並の武器では弾かれるであろう。
纏う風はやっとの事か空の王者の互角の風圧を得ている。
そして極めつけは【ヒレ】。
本来なら汚れのない純白なヒレを持つが、彼女の場合、何故か薄い水色に覆われていた。
これが一体何を意味するのか?
……それは成体になるまで解けないのでお話はまだまだ先のこと……。
ロアルドロスは急に起き上がったアマツマガツチに【ある意味】驚き、その隣にいたタマミツネは旅立つ事を悟ったのかシュンとしていた。
それを見ていたアマツマガツチは水辺の上で身体を丸くして自分の出せる風力を貯めて高速回転させる。
結果的に竜巻が発生し、その変にいた魚が大量に巻き上げられ、地面へとへたりこむ。
まだ成体には劣るが自分が放つ竜巻は充分な威力を持っていた。
そしてその魚の雨だがロアルドロスもタマミツネも……そして臭いにつられてやって来たアオアシラや紅兜、そしてクルペッコとドスジャギィもそれを食す。
……多分、アマツマガツチはこの渓流の住民に対しての恩返しなのだろう。
そしてアマツマガツチは大きく咆哮を放ち、天に向かって泳ぎ出す。
その咆哮は人間でいえばこう言ってるんだろう。
ー行ってきます、と。
だが、全員魚に夢中のため咆哮には気付かない。
……いや、いた。一頭だけ。
あのタマミツネだ。
タマミツネも尻尾と前足を振り、見送っている。
……こんなモンスターの姿を人間は目撃出来ないだろう。
本来なら縄張り争いをする筈だが、この場にいるモンスターははっきり言ってどうでもよかった。
だって、大食いマグロがめっちゃいるからだ。
それは魚を食す者としては見過ごせない。
……ちなみに、さっきの竜巻でガノトトスまでも陸地に引きずり込まれてしまった。
みんなが食してる後ろでビチビチと暴れ回ってる。
アマツマガツチはそれを見た後、皆に背を見せ空を飛ぶ。
まだ自分が見ぬ世界を。
まだ自分が見ぬハンターを。
まだ自分が見ぬモンスターを。
そして自分自身を鍛え上げるため。
アマツマガツチは渓流を後にした……。
その後、食事を終えた者達は争いには発展しなかった。
理由としては食べ過ぎ。
全員腹いっぱい食ったのか寝っ転がってる。
ただ、ガノトトスはビチビチと跳ねているがやっと水辺に戻ることに成功し「あぁぁぁんまりだあぁぁぁぁ!!」と言わんばかりの高速泳ぎでトンズラする。
なお、このエリア7に起きた魚の大量発生は古龍観測隊が目撃し、ギルドに報告。
後にこれを【魚の雨怪現象】と呼ばれる噂が広まってしまった。
そしてそこに居たユカリだが……今もなお魚釣りをしている。
だが、例のアマツマガツチの姿が見当たらなかったので少しだけ哀愁感が漂っていた。
けれど彼女は諦めていない。
いつかまたあの古龍に会うと、いつかあの古龍と戦うのだと、そう決意した。
彼女は……空に浮かぶ月を眺めながらそう思っていた。
ー渓流篇・完ー
さて、世界をもっと見たいという理由に渓流を後にしたアマツさん。
一体どこへ行き着くのでしょうか(´・ω・`)