リアルが忙しい身で更新する暇もありませんでしたが、今ようやく落ち着いたため更新を続けていただきます。
我らがアマツマガツチが雪山に来て早三日が経つ。
アマツマガツチは相も変わらずガムートの背に乗って睡眠を、ガムートはこの状況にもう慣れたのか気にも止めずに雪山草を鼻で器用に摘んで口に運ぶ。
この二頭が現在佇んでる場所は雪山に生息するドスランポスのようなモンスター【ドスギアノス】が率いるギアノス達の縄張りだったが突然の乱入者達によって呆気なく去っていった。
さらに言えばアマツマガツチがこの地に降り立って最初に遭遇した雪獅子【ドドブランゴ】とブランゴの群れでさえ我先にと逃げ去っていく。
のんびりとした二頭だが、巨獣が持つ大きさと嵐龍から放たれる古龍としてのプレッシャー故か最早敵無しだった。
…ただ敵無しではあるが、中にはちょっかいを出す輩もいる。
今二頭がいる場所は薄暗く、ジメジメとした氷の洞窟。
つまりは…【奴】がいる。
ー?
何かの気配を感じたのかアマツマガツチは目を開き、キョロキョロと首を左右に振って辺りを見渡す。
それと同時にガムートも何かを感じ取ったのか鼻で摘んでいた雪山草を手放し、鼻を上に上げて匂いを嗅ぐ。
…結論から言えば二頭とも気配を感じるだけであってその気配の持ち主が誰なのか分からない。
ただ何かがいる、というのは理解出来ている。
時折トッ、トッ、トッという足音が聞こえればグチョグチョとした液体のような何かの音が聞こえる。
…間違いない、何かいる。
その答えは洞窟の上に佇んでいた。
いや、張り付いていた、と言った方が正しい。
それは鱗や甲殻を持たず、白いブヨブヨの皮膚を持つ飛竜【フルフル】である。
そのフルフルはヨダレを垂らしながら二頭へと頭を向ける。
フルフルは洞窟など暗い場所を好むためか目が極限に退化した代わりに嗅覚が極限に進化している。
スンスンと匂いを嗅ぎ、位置を特定し二頭の真上にのしかかろうとする。
ードスッ
しかし、もちろんの事だがガムートの上にはアマツマガツチがいる。
そのアマツマガツチの上にフルフルが乗っかる。
ー!!
ここでようやくフルフルの存在に気付いた。
…ガムートが。
ではアマツマガツチはというと…。
ーzzz…
…寝ている。
フルフルの下敷きにされてるというのにも関わらず睡眠を取っている。
フルフルは攻撃のつもりだったんだろうが、彼女からすればただ単に【掛け布団】のような感覚なのだろう。
ー離せぇ!!
そんないつもと変わらないアマツマガツチはさておき、突然現れたフルフルに対してガムートは当然の様に抵抗する。
鼻や頭、体を激しく揺さぶってフルフルを無理矢理引き剥がそうとする。
もちろんの事だがアマツマガツチも巻き添えを食らう…が、彼女には効果が無い。
何故ならしがみついているからだ、寝ている癖に。
そのアマツマガツチの上に乗っかってるフルフルも自身が持つ粘着力の高い皮膚を使って振り落とされてたまるかと言わんばかり必死にアマツマガツチにしがみつく。
そしてフルフルは抵抗し始めた。
体内にある電気袋を使って全身に電気を纏い始めた。
ガムート…いや、正確にはアマツマガツチの上に青い稲妻が走り、二頭とも電撃に巻き込まれる。
ー!!
ガムートは突然の電撃攻撃に驚いたのかやや怯んだ。
…対してアマツマガツチは効果が無いのか、また電撃攻撃に気付いてないのか、未だに睡眠中。
しかも律儀にヨダレがガムートに付着しないようにと体の外側から垂れ流している始末。
雷を直撃しても怯みどころか平然としてるところを見れば流石は古龍と言えるが、案の定睡眠中なので少しマヌケにも見える。
そうこうしてるうちにガムートは仕方ないとそのアマツマガツチごとフルフルを鼻で包み、そのまま地面に叩き付けた。
フルフルは地面に叩きつけられた事により転倒状態、一方のアマツマガツチはそれがどうしたと言わんばかり仰向け状態で睡眠中。
それを他所にフルフルは立ち上がり、ガムートを見上げながら威嚇する。
ーやんのかワレェ!!
ーアンタ誰よ!!
まさに二頭の雰囲気はそんな感じだった。
…それと言い忘れたが、このガムートは雌である。
そしてガムートは地面に頭をつけ、フルフルに向かって突進。
フルフルは体に電気を纏わせて飛びかかる。
…アマツマガツチはやっと目が覚めたのかブルブルと体を震わせて仰向けからうつ伏せに体勢を変える。
ガムートの頭にフルフルが張り付くが、ガムートはそれを無視して突進を続ける。
その突進の先には壁が…フルフルを挟んで潰そうという戦法だろう。
だがその戦法にいち早く本能で気付いたフルフルはガムートから一時離れ、別の壁に張り付いた。
そしてガムートはそのまま壁に激突。
力が強過ぎるせいか振動が発生し、壁に張り付いていたフルフルは無理矢理引き剥がされ、仕方なく大地に着地する。
対してアマツマガツチは振動によって巣から現れたランゴスタ数匹を見上げ、何故か尻尾をフリフリと揺らして眺めている。
…食べるつもりなのだろうか?
一方の二頭の争いは続く。
フルフルは再びガムートに飛びかかり、その巨体に張り付くと口をバチバチと雷を纏わせ、息を吸い込む。
電気ブレスを放つつもりだろう。
しかしガムートはそれを許さない。
首を左右に大きく振り、地面に叩き付ける。
大きな振動が走り、衝撃がフルフルまで伝わり、ブレスを放ったフルフルは大きく仰け反る。
その影響によりブレスは大きく外れ、天井に着弾すると三つの玉になって天井を駆け巡る。
一方アマツマガツチはランゴスタに興味があるのかその短い前脚でランゴスタに触れようとするも届かず、ジタバタと体を動かす。
しかし捕まってたまるかと言わんばかりランゴスタは高速飛行でアマツマガツチの周りを飛び回る。
ーギエエェェェェェェー!!!
ー!!?
次の瞬間、人間の断末魔のような咆哮が上がった。
咆哮を上げた張本人はフルフル、翼を折りたたんで首を長く伸ばし、口を精一杯大きく上げて咆哮を放つ。
その咆哮はかの轟竜とは違い、最早不気味としか思えない。
咆哮を食らったガムートは少し怯み、ランゴスタはその音量でフラ付き、アマツマガツチに至っては古龍の癖して頭をビクッと上げて驚いてるばかりだ。
そして耳を塞ぎたいのか短い前脚を自分の角裏に向かって伸ばすも届かず、またバタバタと上下に振る。
それを他所にガムートは体勢を立て直すと上体を上げて踏み潰す体勢に入る。
重力に身を任せ、そのまま上体を勢いよく下ろすガムート。
その重量ある前脚はフルフルを捉えた。
ーズドォンッ!!
攻撃は命中。
フルフルは流石に効いたのか痛がってるようなリアクションを取る。
だがガムートは待ってくれない。
この隙を使って頭を左右に振り回しながら突進を仕掛ける。
しかし、フルフルはいち早く体勢を立て直すと飛び上がって天井に張り付いた。
そしてそこから攻撃…ではなく、逃亡。
本能的に分が悪いと判断したのだろう。
それもそのはず、フルフルはさっきからあることを気にしていた。
フルフルは暗くジメジメした場所を好み、そこを自分の住処にしている故、目が極限に退化してるが嗅覚が異常と言えるほど進化している。
つまりフルフルは目で物を見る、のではなく鼻で嗅いで周囲を把握していたのだ。
フルフルはガムートの臭いを熟知していたが、問題はそこではない。
臭いを嗅いだことのないモンスターがいる、そのモンスターがいつ自分に攻撃するのか分からないため一度身を退くことを選択した。
そしてガムートは逃亡するフルフルを見て追跡せず、ただ息を荒くして威嚇する。
元は言え、ガムートは食事をするためにこの洞窟にやってきたのだ。
これ以上フルフルと争うのは無意味だと判断したのだろう。
ー………。
さて、勝手にちょっかいを出してきた厄介者を追い払うと放っていたアマツマガツチに目を向けるガムート。
彼女は未だにぐでーっと伸び、プルプルと体を震わせている。
…余程フルフルの咆哮が嫌いだったらしい。
ー………。
それをただ黙り込んで見つめるガムート。
ある意味、これはチャンスだ。
最初は驚いたものの、このアマツマガツチが背に乗っかかったため荷がやや重くなるのが気になっていた。
このままアマツマガツチを放っておけばまたいつものような荷が軽い生活が戻ってくる。
ー………。
そしてガムートは動いた。
ズシズシとアマツマガツチに近付くと…優しく鼻で体を包み込み、持ち上げて自分の背に乗せてあげた。
自らアマツマガツチを連れていくと決めたのだ、ガムートが。
それはただ単に連れていきたかったのか、それとも外敵から身を守るためなのか。
どちらか分からないがアマツマガツチに対して敵意がないというのは事実だ。
そして肝心なアマツマガツチは…言わなくてもわかるだろう、寝ている。
ー………ふっ。
その様子を見てガムートは少し笑った…気がした。
そしてアマツマガツチを乗せたガムートはそそくさに洞窟から出ていく。
ーだが、二頭は気付いてない。
洞窟の真上には穴が空いており、その先には夜空が広がっている。
その夜空に溶け込むように…黒い風を纏った龍が移動する二頭を見下すように見つめていた。
龍の足元にはその龍に似た姿を持つ抜け殻が乱暴に置かれ、その真上に龍が佇む。
ー………。
そして龍は無言で翼を広げ、夜空へと舞った。
この日、二頭は洞窟にいたため気付いていなかったが、外は吹雪で荒れていたそうだ。
さて、皆様が期待していた(?)あの方がご登場です。
アマツさん、そしてガムートさんはどうなるのやら。