歓迎会の夜
どうもみなさん、東美帆です!
私は今、とあるパーティ会場に来ています。
会場には黒色の制服をまとった大勢の女性がいて、それぞれ立食を楽しんでいます。
私はその中心で、同じ戦車に乗る仲間達と共に、色々な人に囲まれています。
なぜ私が囲まれているかというと、今回私が参加しているパーティの主役が、私達だからです。
今回のパーティの目的、それは、この度私が入団することになった戦車道のプロチーム『東京エンパイアズ』の新人歓迎パーティだからです。
つまり、今回のパーティの主賓が私なのです。
先程私はパーティ会場にある壇上で所信表明を行いました。それはとても緊張するものでした。
『私東美帆は、このチームで精一杯努力し、チームの優勝に貢献したいと思います!』
我ながら、大層なことを言ったものです。しかし、それぐらいの意気込みがないとプロではやっていけないと思いました。
でも、やっぱり思い出すと顔が赤くなってしまいます。
私はその気恥ずかしさをごまかすために、ジュースを飲みながらテーブルに置かれている食事を手に取ります。
うん、このからあげ美味しいですね。
「ねえ東って大洗の隊長だったんでしょ? 凄いよねぇ名門チームの隊長だもん。やっぱりいろいろ気苦労とかあったんじゃない?」
「私も高校時代は大洗に負けたなー。でも大洗からの選手は今うちのチームに大きな力になってくれるからありがたいけどねー」
先輩方が私にいろいろと話しかけてくれます。先輩方は私よりもずっと年上です。
年上の方と話すのはエリカさんとの生活で慣れているものかと思っていましたが、そうでもなかったようです。
だって今、私は話しかけられてどう答えていいのかよく分かっていないのですから。
「え、えっと……」
私は苦笑いをしながら答えを探します。
うーんどうしたらいいのでしょう。私は周囲を見ます。
「いえ、私はそれほどでは……すべては美帆さんのおかげで……」
私の戦車に一緒に乗り、同じく東京エンパイアズに入団した砲手の米田さんは普通に受け答えしていました。
凄いなあ、肝が座っています。
「……私は私の仕事をするだけですから……」
操縦手の歩場さんは普段とても無口なのもあって、無口なりに頑張って受け答えをしています。私よりも人慣れをしていない人なので大変そうです。
他にも、装填手の甲斐路さんしどろもどろになっています。あれはまた後で物に当たるんでしょうねぇ……。通信手の府頭間さんもなかなか答えられていないようです。府頭間さんここぞというときに踏ん張りが足りないから心配です。
うーん、私達こんな調子で、プロでやっていけるんでしょうか。
私は一抹の不安をいだきます。
その不安をかき消すように、私は手に持っていたジュースを一気飲みしました。美味しいですねこの白ぶどうの炭酸。
「皆さん、あまりそんなに新人さんに質問責めにしてはいけませんよ。困っているではありませんか」
そのとき、困っていた私を見かねたようにワイングラス片手に話しかけてきてくれた人がいました。
すらっとした長身に白い肌、美しい黒髪のその人を、他の誰かと見間違うはずがありません。
「あっ……ノ、ノンナ選手……!」
その人は、プロリーグにおいてもトップを争う砲手と言われる、ノンナさんでした。
私は慌てながら頭を下げます。
「頭を上げてください東さん。それと、ノンナでいいですよ。私達は今日から同じチームメイトなのですから」
「えっと……は、はい。ノンナ……さん」
「ふふ」
少し困りながら答える私に、ノンナさんは笑いました。
そして、ノンナさんは私のすぐ隣にまでやってきました。
「東さん。改めて入団おめでとうございます。あなたの高校時代の成績は知っています。これから同じチームで戦えることを嬉しく思います」
「こ、こちらこそ! 私もノンナさんのようなトップ選手と一緒に戦えるなんて、嬉しいです……!」
「だからそう固くならなくてもいいですよ。……と、言っても難しい話ですね。私も最初は緊張したものですから」
「えーっ!? ノンナそんな緊張してたかぁ!? 嘘くさいなー!」
そのとき、ノンナさんの後ろから別の声がしました。
そこから現れた人影に、私は驚きます。やってきたのは、東京エンパイアズの副隊長を務めている、安斎千代美選手、通称アンチョビさんだったからです。
「あ、安斎さん……! ど、どうも! 東美帆です! よろしくお願いします!」
「おう東! よろしくなー! にしてもノンナ、お前が緊張してたなんて嘘だろー! 同期だから分かるがお前入団時もすごくいつも通りだったぞー。まあプロリーグ発足時だから先輩後輩関係が殆どなかったけどさー」
「あら、私は私なりに緊張していましたよ? すでに大学や社会人で活躍していた先輩方がいっぱいいましたからね。まあ、千代美さんほどではありませんが」
「う、うるさい! 私だって緊張ぐらいする!」
「とは言ってもすごかったですよね。声が上ずって変な声を出して。アンツィオのドゥーチェ・アンチョビの面影が全然ありませんでしたし」
「う、うるさいなー!」
安斎さんとノンナさんは楽しく思い出話に花を咲かせ始めました。
その様子から、二人が長年戦ってきた戦友として、仲がいいことがよく伝わってきました。
「……っと。おいおい思い出話をしてる場合じゃなかった。主役の東がここにいるんだ。私は東と話をしにきたんだった」
「最初に思い出話を始めたのは千代美さんですけどね」
「もーお前がすぐ揚げ足を取るー! ……ま、いいや。どうだ東? プロになった実感は?」
「えっと……その、実はまだそんなに実感はないんですよね……。まだまだプロは雲の上の世界、って感じがして」
「当然でしょう。まだちゃんと試合もしていない歓迎会の段階なのですから。そこを千代美さんは分かっているのですか?」
「う、うるさいな! そうだよなー確かにそうだ。今のは私の質問が悪かった、すまないな東」
「い、いえ!」
私は大きく首を振ります。その様子に、安斎さんとノンナさんは笑い始めます。
「ははっ、初々しいなあ! 高校戦車道界の覇者、期待の大型新人の東美帆も緊張には勝てないか!」
「そ、そんな持ち上げないでください……私なんて皆様に比べたらまだまだで……」
「おや、意外と心得ているのですね。あのエリカさんの弟子ですから、もっと不遜な態度の子かと思っていましたが」
そこでエリカさんの名前が出たことで、私はピクリと体を震わせます。
そうでした。ノンナさんも安斎さんも、エリカさんと高校時代、ライバル同士として戦った間柄なのでした。
つまり、私の知らないエリカさんをよく知っている人達なのです。
そこに、私は俄然興味が沸いてきました。
「あの……高校のときのエリカさんってどんな感じだったんですか? エリカさん、その頃の話は恥ずかしがってあまりしてくれなくて……」
「おや、そうなのですか? そうですね、東さんが話しやすくなりそうですし、昔話に花を咲かせるのもいいかもしれませんね」
そう言いながら、ノンナさんは片手に持っていたワイングラスを口に含み、中に入っていた白ワインを飲みます。
「そうだなー、久々に昔話をするのもいいかもしれんな」
それに続いて、安斎さんが近くのテーブルに置いてあったピザを手にとって口に含みます。
「そうですね……昔のエリカさんは、簡単に言えばとても気性が荒い人でした」
「エリカさんが……」
「ええ。今のエリカさんはそうでもないのですが、昔のエリカさんはまさに狂犬と言った感じでしたね。黒森峰、特にまほさんに絡んだことになると誰にでも噛み付いて、とにかく強気でモノを話すような人でした」
「そうだなー。正直高校のときの逸見はちょっと苦手だったぞ。私のいたアンツィオなんて弱小校だなんだと言われたりしたからな」
「そうなんですか……」
正直、私にはあまり想像できませんでした。
今のエリカさんはとても温和で――と言っても怒るときは怖いのですが――優しく、私を包み込んでくれる人だからです。
「今のエリカさんはだいぶ丸くなりましたよね」
「そうだなー。昔の逸見と比べたら別人に思えてくるぞ」
「それも、あなたのおかげなのですかね」
ノンナさんは私を見て言います。
「わ、私の、ですか?」
「ええ。エリカさんとは彼女が失明した後もそれなりにお付き合いをさせてもらっていたのですが、あなたに会う前のエリカさんはどうにも覇気というものがない、そんな部分がありました」
「ああ。その……あの事故があってからというもの、抜け殻みたいな感じになっていたよな」
「それが、東さん。あなたに出会ってからというもの、心に灯火が再び灯ったようになりました。それだけ、あなたという存在が大きいんでしょうね」
「私という存在が……」
「ああ、私もそう思うな。あいつ、最近会うとすぐお前の話をするんだもんなー。まったく妬けちゃうぞー? うん?」
そう言って安斎さんは私の肩を抱きました。
先程までピザを食べていたせいか、ちょっとチーズ臭いです。
「は、はい。ありがとうございます。私はその……エリカさんとはもう切っても切れない関係ですから」
「おっ! 言うねぇ! そういや同棲もしてるんだったか? もしかして二人とも、こういう関係なんじゃないかー?」
そう言って、安斎さんは小指を立てました。
その安斎さんを見て、ノンナさんは安斎さんの首元を掴みます。
「千代美さん。そんなことを言うものではありませんよ。東さんが困っているではありませんか」
「は、ははは……」
まあ実際本当のことなのですから私は何も言えません。
ノンナさんがうまくフォローしてくれて助かりました。
「それにしても懐かしいですねぇ。あの頃は、まさに大洗によって高校戦車道というものが改革期に入って……」
「おや? 昔話かい? 二人共、昔話に耽るなんて随分と老けたねぇ」
そのとき、また別の声が私達の側から飛んできました。
その声のほうを見ると、私はまた驚きました。
そこにいたのは、チューリップハットを被ったどこか浮世離れをした雰囲気の女性。
この東京エンパイアズの隊長である、ミカさんがそこに立っていました。
「おやミカさん。残飯あさりはもう終わったんですか?」
ノンナさんが急に皮肉たっぷりに言います。
ミカさんをよく見ると、その手にはタッパーが持たれていました。
「ああ、やっぱりこういう場はいいね。タダで食事が手に入るんだから」
「はあ……あなたももういい年でしかもエンパイアズの隊長なのですから、もっといい生活をしたらどうですか。それに、慎みというものがありません。まったく、高校のときからそういうところは全然変わりませんね」
「君の小言も昔から変わらないね。私は私の生きたいように生きているだけさ。すべては風の吹く方向に生きるだけだからね」
「だからと言って限度というものがあります。もう三十を越えているというのにいつまで風来坊のつもりなのですかあなたは」
ノンナさんはミカさんに眉をひそめながら言います。
お二人はあまり仲がよろしくないのでしょうか? 私は少し不安になります。
「あー東。大丈夫だぞあの二人に関しては。あいつらは昔からずっとあんな感じなんだ。未だに高校のときのプラウダと継続の微妙な関係を引っ張っているというかなんというか。それでも戦いのときはすっごく相性がいいんだよ。ま、あれかな? いわゆるケンカップルってやつなのかな?」
「誰がカップルですか!」
「誰がカップルだって?」
私に寄って話す安斎さんに対し、ノンナさんとミカさんが同時に言います。確かに息は合っているようでした。
ミカさんは、タッパーをテーブルの上に置くと、私のもとに近づいてきました。
「やあ東さん。入団契約のとき以来かな? 随分と緊張していたみたいだね」
「は、はい……」
私がそう答えると、ミカさんは笑顔のまま「ふふん」と顎を触ってから、私の肩を叩きました。
「そんなに体を固くする必要はないよ。このチームは確かにプロリーグでも上位のトップチームだが、みんな自由にやっているんだ。君も自由にするといい。すべては風の吹くまま気の向くまま、ゆるやかにやってくのが一番だよ。枠に閉じ込められていては、発揮できる才能も発揮できないからね」
「あなたはもっと枠にはまることを覚えるべきだと思いますがね」
ミカさんが言った言葉に、ノンナさんが横槍を入れます。
そんなノンナさんに、ミカさんは笑ったまま向き直ります。
「おやおや、せっかく私が新人の子を励ましているというのに君はそれを邪魔するのかい? やれやれ、ひどい先輩もいたものだねぇ」
「邪魔しているわけではありません。むしろ、東さんに変なことを吹き込まないか心配しているのです。あなたに感化されて東さんまでちゃらんぽらんになられては困りますからね」
「私こそ、東さんが君みたいに四角四面にならないか心配だよ。堅苦しいったらありゃしないんだから君は」
「あーもうすぐそうやって喧嘩しようとするな! 東が困ってるだろー!」
「ははは……」
安斎さんの助け船のお陰で、なんとか二人は喧嘩をやめました。
どうやらこの三人は三人でいることによってうまくバランスを保っているようです。その関係性に、やはり私は私なんかではまだ立ち入ることのできない信頼関係を感じ取りました。
「まあ、東さんには期待しているよ。何せ、高校大会での優勝経験者はいいチームの戦力になる。それが隊長であるなら更にだ。とはいえ、勝つことに固執しないようにね。勝利だけが人生に大切なものというわけではないからね」
「あなたはまたそういうことを言う。もっと勝ちを狙っていかないと、ファンの方にもうしわけないでしょう」
「まあなー。私達は商売で戦車道をやっているわけだからなー。ま、でも勝ちにこだわりすぎて戦車道の良さを忘れるのも怖いから、そこはいい塩梅でやっていくのが大切だなー」
「私は……できることなら、勝ちたいです」
私の言葉に、三人が私に注目しました。私はその視線に一瞬怯みましたが、意を決して口を開きます。
「私の戦車道はエリカさんの戦車道です。だから、私は勝つことでエリカさんの戦車道はここにあり、と証明したいんです。そのためには、どんな努力でもするつもりですし、してきました。それは、これからも変わらないと思います」
「なるほどね……」
ミカさんは私の言葉をどう受け取ったのか、私が話した後軽く頷きます。
そして、そっと私の肩を叩きます。
「君がその意気込みなら、もう私から言うことはないかな。戦う理由は人それぞれ。そこに意見をするほど私は野暮じゃないからね」
「私にはいつもつっかかってくるくせにですか?」
「つっかかってくるのは君だろう?」
「だーかーらー! すぐ喧嘩して周りを困らせるのはやめろー!」
ミカさんとノンナさんがすぐまた喧嘩を始めようとして安斎さんが仲裁したので少しばかりの言葉でしたが、私は嬉しく思いました。
私の戦う理由を、ミカさんは肯定してくれました。私の意志は、時折人にとっては良くないものに思われることがあるようです。
曰く『もっと自分の意志で戦え』とのことです。私は十分私の意志で戦っているのですが、人によってはそう見えないことがあるようです。
でも、ミカさんは肯定してくれました。ノンナさんも安斎さんも、何も言わないところを見ると少なくとも否定はしていないようです。
私の気持ちを大切にしてくれる先輩方に、私は心が温かくなります。そこには、人の意志を尊重する大人の世界があるように思えました。
「そうだ? 逸見さんは元気かい? 最近会えていないからちょっと気になっていたんだよ」
と、そこでミカさんが聞いてきました。私は頷きます。
「はい。とても元気ですよ」
夜のほうとかはいつも私がやられちゃうぐらいには元気です。
まあ、それもエリカさんらしくてとても嬉しいのですが。
「そうかい。良かった。いやあ、一時期私も逸見さんに同棲を申し込んだことがあるんだけど断られてね。今同棲してる君が言うなら良かったよ」
「え!? ど、同棲を申し込んだ!? ええっ!?」
ちょっと待って下さい私それ聞いてないんですけど!?
「ああ、そんなこともありしたね。一時期エリカさんにやたら入れ込んでましたよねあなた」
「ああ、あの物憂げな美しさに心打たれてね。どうにか彼女と共にいられないか考えてた時期があったからね」
「あーそんなこともあったよなー。ミカはすぐ良くわからない熱の入れ方をするもんなー……って東、どうした?」
ミカさんはエリカさんに同棲を申し込んだ。エリカさんをそういう目で見ていた。つまりミカさんは私の恋のライバルであってエリカさんも同棲してないとは言えミカさんのアプローチを受けていたわけであってそれは私の知らないエリカさんの一面や過去を知っているということであってそれはつまり私よりもアドバンテージがある部分があるというわけであってもしかしたら今でもエリカさんに懸想しているかもしれないということであって――
「おーい、東ー?」
「……はっ! な、なんですか!?」
「いや、なんか怖い顔になってたからどうしたのかなーと」
「な、なんでもありませんよ!?」
「ん? そうかーそれならいいんだけど」
安斎さんに呼ばれて私は意識を元に戻します。私が考え込んでいる間にまたミカさんはノンナさんと喧嘩を始めたようで、ちょっと思い込んでいたのはバレていないようです。危ない危ない。バレたらちょっと色々やりづらいですからね、色々と。
「ほらーお前らも東ほっぽいて喧嘩するなよなー。もう何回言ったんだこれ」
「おっとごめんね」
「ごめんなさい」
「い、いえ……」
私のほうも暴走していたからおあいこなんてことは秘密です。
「あ、そうだ。そういえばうちのオーナーが君と話したがっていたよ」
「お、オーナーさんがですか?」
「ああ……と、話をすればだ」
ミカさんが何かに気づいたように顔を別の方に向けます。その方向を見ると、そこにはローブをまとった異様な雰囲気の女性がいました。
その女性はこちらに近づいてくると、私を見て微笑みました。
「やあ、東美帆君。私は東京エンパイアズのオーナー、遥羽天子(はるはてんこ)だ。よろしく」
「は、はい! よろしくお願いします!」
このチームのオーナー!? すっごい偉い人じゃないですか!
私は驚き萎縮しながらも勢い良く頭を下げます。
「ああ頭を上げてくれたまえ。君の活躍はよく知っているよ。だからこそ君をこのチームに引き入れたんだ。どうだい、うちのチームは」
「は、はい。皆さんとてもいい方々で、安心しています!」
「そうか、それはよかった。君の入団は我がチームにきっと新たな勝利をもたらしてくれるだろう。君も、そのつもりだろう?」
「もちろんです! 私の力に帝国に勝利を!」
遥羽さんは私の言葉に笑みを見せると、私の肩をぽんと叩いた。そして言った。
「君の将来を楽しみにしているよ」
そう言って、遥羽さんは去っていった。
私は体からどっと緊張が抜ける感覚を味わう。
「相変わらず、オーラのある方ですね」
「ああ、皇帝陛下なんて言われているだけはあるよね。十数年間になるけど、未だに威圧されてしまう」
「オーナーに目をかけられているなんて、東が凄いなー」
先輩方がそれぞれ言う。
私は、たった二言、三言のやり取りであったのにどっと疲れ、とりあえずテーブルの上にあるジュースをコップに注いで一気に飲んだ。
あー美味しい、この赤ブドウジュース。
その後、私は他のチームメイトと一緒に、他の先輩方とも色々話をし、歓迎会を楽しんだ。
◇◆◇◆◇
「ふぅ……」
私は両手にお土産の入った紙袋を持ちながら家のソファーにぐったりと倒れ込みました。
「おかえり、美帆」
その私に、エリカさんが声をかけてくれます。
私はそんなエリカさんに顔をソファーに埋めながら手を上げて答えました。
「ただいまですー……」
「随分とお疲れねぇ。そんなに大変だった?」
「ええまあ……楽しかったですけど、やっぱり今まで別世界だと思っていた人達と話すのは大変でした。あ、ビンゴ大会でお掃除ロボ貰いました」
私はゆっくりと起き上がりながら手に持った紙袋を床に置いていいました。
「あらそうなの。良かったわね。こっちも大変だったのよー。鈴と理沙がそれぞれ新隊長と副隊長に就任したんだけど、理沙がさっそく補習で……副隊長として自覚あるのかしらあの子」
「まあ理沙は戦車道のときだけCPUが増設されますからそこら辺は大目に……そういえば、会場でノンナさんと安斎さんとミカさんに色々エリカさんの話聞いてきましたよ」
「え? 私の?」
「はい。エリカさんって昔は結構やんちゃだったってこと、聞きました」
私が会場で話したことを報告すると、エリカさん苦笑いをしながら眉をひそめます。
「うっ、あいつら……余計なことをベラベラと……なんか変なこと聞いてないわよね?」
「うーん私はエリカさんの過去話が聞けたので変なこととは思っていないんですが……エリカさんが弱小校相手にすっごく強気に出ていたこととか、そういうのに当たりますかね?」
「うぐっ!? ……お、お願い。そのことは忘れて。今思い返すと恥ずかしいから……」
エリカさんは顔に手を当てて私にもう片方の手を向けて言います。
ああ、普段見れないエリカさんだ。可愛い。
「まあいいじゃないですか。若気の至りなんて誰にでもありますよ」
「一回り下のあなたに言われたくないんだけど!?」
「はははっ」
慌てるエリカさんが新鮮で、私は笑います。
今までの疲れがどっと吹き飛んでいく感じがします。
「あ、そうだ」
と、そこで私は思い出しました。
「エリカさん。昔ミカさんに同棲を申し込まれたことがあったんですって?」
「……そうえいばそんなこともあったわねぇ。ミカ、そんなことまで話したの?」
「はい。……その、どうして断ったんですか? 誰かが一緒に生活してくれれば、エリカさんの生活も楽になったでしょうに。いや、今の私から見ればこうして私がエリカさんと過ごせるようになったので、それはありがたいことなんですけど」
「そうねぇ……当時の私は、一人でいたかったのかもね。当時は……みほのことをずっと待ち続けていたから」
みほ。
私のことではなく、今はいないエリカさんの想い人、西住みほ。
その名が出ると、どうしても私は体を震わせてしまう。
「みほさん、ですか……」
「ええ。私はずっと彼女のことを想い続けていた。だから、他の人を自分の場所に、自分の心に入れようとは思わなかったのね。まったく、偏屈だったわねぇ昔の私」
エリカさんはそう言って笑う。でも、その気持ちは痛いほど私に伝わってきた。
だって私も、エリカさん以外を大切な場所に入れたくないから。
「……でもね美帆。あなたは、そんな私の心を開いてくれた。私の場所に、新たな場所を築いてくれた。それは、私にとって予想外で、でもとっても嬉しいことだったわ」
「エリカさん……」
エリカさんは私に静かに近寄ってきます。
私はそんなエリカさんを、ただ待ちます。
「美帆。今のあなたは、私にとって最愛の人よ。それはきっと、今後も変わらない」
「……はい。エリカさん。それは、私も同じです」
「……美帆」
「……エリカさん」
そして私達は、ごく自然に口づけをしました。
くちびるを重ね合わせ、舌を絡ませ合い、体を抱き合って胸と胸をこすり合わせる。
そうして私達は一つになり、溶け合います。
「んっ……あっ……」
「あむっ……んんっ……」
エリカさんがゆっくりと私をソファーの上に押し倒します。
私はそれを受け入れます。
そして、エリカさんは私の服のボタンを一つずつ外していきます。
そうして、私は下着姿になります。私はただ、されるがまま。エリカさんの手は、半裸の私の体をそっと撫でます。
「あっ……」
「……美帆。あなたをちょうだい。今夜も、あなたを味あわせて……」
「……はい、きてください。エリカさん。私は、いつだってあなたを受け入れます……」
そうして、私が新たな夢の舞台にたった日の夜。
私達の思い出に新たな一ページが刻まれる事となりました。
私は胸を張って戦っていきます。こうして、エリカさんが愛してくれる限り、私はその愛の証明のために戦うのです。