【完結】光ささぬ暗闇の底で   作:御船アイ

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Last summer memory

「んー……」

 

 まだ朝から日差しが厳しい夏の日。

 東美帆は、カレンダーを睨みつけ唸り声を上げていた。外で鳴く虫の声が美帆の声と重なり合う。

 

「どうしたの、美帆?」

 

 そんな美帆に、同居人である逸見エリカがソファーでくつろぎながら声をかける。

 

「あ、エリカさん。いえ、夏休みもあと一週間で終わりだなぁと思いまして」

 

 美帆はカレンダーの今日の日付を指でなぞりながら言う。日にちは八月二十四日。学園艦における夏休みの終わりは、殆どが八月三十一日である。そのため、八月最後の日まであと七日だった。

 

「あら、もうそれしかなかったのね」

「はい、そうなんですよ」

「エキシビションマッチもついこの前のようだったように思えるのにねぇ……」

 

 エリカが懐かしむように言う。

 大会後のエキシビションマッチは、大洗と継続対サンダースとプラウダの組み合わせで大洗本土を舞台に行われた。

 結果としては、大洗、継続チームが勝利を納めた。

 

「エキシビションは楽しかったですね。他の学校と一緒にチームを組むだなんて、そうそうない体験ですよ。連携して戦うというのは、いい経験になりました」

「そうね、なかなか得難い経験よね」

 

 エリカは美帆に対ししみじみと返す。

 

「私も昔、色んな学校と連合を組んで大学選抜と戦ったことがあったんだけど、あれも今思えば貴重な体験だったわ」

「そんなことあったんですか? 聞かせてください、その話」

 

 美帆はエリカの横にそっと座る。その美帆に対し、エリカは昔のことをゆっくりと思い出しながら話し始めた。

 

「そうねぇ、あのときは――」

 

 プルルルルル!

 そのときだった。

 美帆の携帯電話が、突如なり始めた。着信音からして、メールではなく電話のようだった。

 

「む……ちょっと待っててくださいエリカさん」

 

 美帆は少し不機嫌な顔をしながら、机の上に置いてあった携帯電話を手に取った。

 

「はい、もしもし東ですが」

『美帆さん! 助けてくださいませんか!?』

 

 美帆が電話に出た瞬間、電話越しから大声が飛んできた。

 

「えっと……理沙ですか? どうしたんですか突然」

 

 電話の相手は、大洗戦車隊で分隊長をやっている弐瓶理沙だった。

 美帆は少し驚いていた。

 理沙のここまで慌てた声は聞いたことがなかったからだ。

 

『はい、理沙です。それで美帆さん、助けて欲しいんです』

 

「まず落ち着いてください。慌てていては何がなんだかわかりません。落ち着いて何があったか教えてください」

 

 美帆は理沙に冷静になるように促す。

 何があったにせよ、落ち着いて相手の話を聞かなければどうにもならないと思ったからだ。

 

『はい……その……終わってないんですの……』

「終わってない? 何がです?」

『夏休みの課題が! 終わってないんですの!』

「……はぁ?」

 

 美帆は、今まで生きてきた中で一番かもしれないと思うほど、呆れ果てた声を上げた。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「……つまりこういうことだと。余裕こいて夏休み生活をエンジョイしていたらいつの間にか一人ではどうしようもないほどに課題が溜まっていたのに気づいたと」

「……はい」

 

 電話のほぼ直後、美帆は学園艦の上にあるとあるファミリーレストランへと来ていた。

 美帆の前には、申し訳なさそうに頭を垂れる理沙の姿があった。

 

「……理沙はもう少し賢い子だと思っていましたが」

「すいません……」

「しょーがねーよ理沙って育ちいい癖にこういうところは馬鹿なんだから。去年もギリギリだったし」

 

 理沙の横に座ってそう言ったのは、副隊長の百華鈴だった。鈴は頭を両手の後ろに乗せながら、カラカラ笑いながら言った。

 

「そうなんですか……というか鈴は大丈夫なんですか? 私のイメージだと鈴もちょっと危なそうなイメージなんですが」

「そのイメージはひでーなおい! いやまあ俺は大丈夫だよ。一応残ってるけど苦手な現代文だけだし」

「そうなんですか、苦手を先延ばしにするのはどうかと思う部分もありますが、それでも鈴は理沙よりしっかりしてるんですね……」

「うぐぅ!」

 

 理沙が声をあげる。

 鈴と比べられて駄目と言われたことが、かなり堪えたらしい。

 

「はははっ、理沙ちゃんは普段一番しっかりしてるのにこういうところだけはなんだか駄目だよねー」

「ふん、課題をやりきれないほど残すだなんて、自己管理のできていない証拠だわ」

「……それで、なんであなた達までいるんですか。梨華子、アールグレイさん」

 

 笑いをこぼしたのは黒森峰の隊長である渥美梨華子、嫌味を言ったのは聖グロリアーナの隊長であるアールグレイ二世だった。

 

「いやーそろそろ自分の学園艦に戻ろうと思ってたところで、理沙ちゃんが困ってるって聞いて……」

「私もたまたまこちらに用があったところを、たまたま面白そうな話があるから聞いて来たのよ。このアールグレイがあなた達の勉強を見てあげようと言う気持ちになったのよ。感謝しなさい」

「で、本音は?」

「私も丁度終わってない課題があったしタイミングいいなーと」

「私もその……計画的にやっていた課題の最後の残りをやるにはいい機会だと思いまして……」

 

 笑顔で問い詰める美帆に対し、笑顔で返す梨華子と少し恥ずかしそうに俯くアールグレイ。

 その二人を見て、美帆は大きくため息をつきながら片手で頭を抱えた。

 

「……まあいっぱいいっぱいになってる理沙以外は別にいいでしょう。終わる予定で組んできてますからね。それにしてももうちょっと……」

「そういう美帆はどうなんだ?」

 

 鈴が体勢を変えずに聞く。それにまた、美帆は呆れたようにため息をついた。

 

「あのですね、私一応受験生ですよ? それがいつまでたっても課題終わらせてないわけがないじゃないですか……」

「それもそうだな」

「この子頑張ってるからね。夏休み中はわりと勉強漬けだったのよ?」

「……あのよ。さっきから気になってたんだけどよ」

 

 鈴が美帆の横を向いて言う。

 

「……なんで逸見先生までここにいるんだ?」

 

 美帆の横では、微笑みながらグラスに入ったアイスコーヒーをストローで飲んでいるエリカの姿があった。

 ずずずとストローで少しコーヒーをすすると、エリカはそのコップを一旦机に置いた。

 

「だって、面白そうじゃないの」

「そういう動機のやつばっかりかここは!」

 

 鈴が大声で言う。

 それに対し、美帆は乾いた笑いをこぼし、理沙はエリカをすがるような目で見ていた。

 

「エリカ先生がいると心強いですわ! エリカ先生がいれば美帆さんが呆れて帰ってしまうなんてことがなくなるので……」

「エリカさんを都合のいいストッパー代わりにしないでください!」

 

 美帆がテーブルに乗り出して言う。その剣幕に、思わず理沙は体を怯ませる。

 

「あ、すいません……」

「いえこちらこそ……」

 

 お互いに謝りあう美帆と理沙。

 その姿に周囲は苦笑いをする。

 

「……まあ、とりあえずやりましょうか。みなさん、勉強道具を出してください」

「はい……」

 

 美帆のその言葉によって、各々が勉強道具を出した。

 それを見て、美帆はまた呆れた様子になる。

 

「鈴は現代文、梨華子は英語、アールグレイさんは物理、そして理沙は……全教科……はぁ……」

 

 美帆はやれやれと頭を抱えつつも、自らの勉強道具を出す。

 エリカはその美帆をクスクスと笑う。

 

「なんだかんだでやる気じゃない、美帆」

「ええまあ、乗りかかった船ですしね……よし、それじゃあ行きますよ!」

 

 美帆は頬をピシャリと叩いて、自らに気合を入れる。

 そうして、美帆と課題を残した彼女たちとの勉強会が始まった。

 

 

「……そうですそうです、そこを要約して……」

「うー……要約ってめんどくせぇんだよなぁ」

「現代文は要素を掴むことが大事ですからちゃんと汲み取ってください。答えはすべて文中にあるんですから」

「美帆さーん、ここの英文なんですけど……」

「ああ、そこは前の文章がかかってますから……ここが過去進行形だから……」

「小娘! この問題が分からないわ!」

「そんなことを偉そうに言わないでください! そこはですね、この公式を利用して……!」

 

 美帆は忙しそうにそれぞれに勉強を教えていた。

 横に長いテーブルに詰めて座る四人を見渡しながら、それぞれの課題を見る。

 そして、課題についてどんどんと飛んでくる質問を捌いていた。

 

「見事な手際ね。まるで先生みたいよ?」

「お、よかったな美帆。逸見先生に褒められたぞ」

「ありがとうございますエリカさん! でもなんだか複雑な気分です!」

 

 美帆はバッとエリカに対し頭を下げる。

 そしてその後、再び理沙達の勉強を見る作業に戻った。

 

「それで理沙、どうです進捗?」

「……進捗駄目ですのー!」

 

 理沙は美帆の言葉に大きく頭を振って頭を抱える。

 

「ま、まあ頑張ろうぜ……? 俺達も終わったら手伝うからよ」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 

 梨華子とアールグレイが驚いたような反応をし、それにまた鈴が驚いた顔をする。

 

「……やだなぁ冗談だよー私が理沙ちゃん見捨てるわけないじゃないー」

「……そうよーこの高貴たるアールグレイがそんな戦友を見捨てるようなことするわけないじゃないのよー」

「本当かよ……」

 

 笑いながら言う梨華子とアールグレイを、鈴はいまいち信じきれていないようだった。

 そんな三人を無視し、理沙に勉強を教える美帆。

 五人は苦労しながらも勉強を進める。

 そうしているうちに、理沙以外の三人は自分の課題を終えていった。

 

「終わったー!」

「終わったねー」

「終わったわー」

 

「三人ともお疲れ様。私が何か飲み物奢ってあげるわ」

 

 エリカが三人に言う。三人はその言葉に目を輝かせた。

 

「本当かよ! じゃあ俺メロンソーダ!」

「じゃあ私はコーラで!」

「私はレモンティーをお願いします」

「あなた達もう少し遠慮というものを……いえいいです」

 

 美帆が諦めたように言う。

 

「大丈夫、頑張ってる美帆にも奢ってあげるから」

「本当ですか!? じゃあ私はコーヒーで!」

 

 が、エリカのその言葉ですぐに美帆の機嫌は良くなった。

 

「うう、わたくしも……わたくしにも何か飲み物を……」

「今回の原因たる理沙は水で我慢してください」

「ひどいっ!?」

「まあまあ、理沙も好きな飲み物頼みなさい。少し休憩しましょう。少し涼しくなってきたわ。日が暮れてきた証拠ね」

 

 エリカの言葉に全員が窓の外を見る。すると、日が既に暮れ始め、空が赤く染まっていた。

 

「本当ですわ……エリカ先生、よく分かりましたわね。わたくし達でも気づかなかったのに」

「ええ、目が見えないとそういうのに敏感になってね。ところで理沙、あなた今物理やっているのよね?」

「え? ええはい……」

 

 エリカが突然理沙の勉強の内容を聞く。

 理沙はそのことに少し虚をつかれながらも応える。

 

「その問題、少し読み上げてみてくれないかしら?」

 

「は、はい。ええと……」

 

 そうして理沙は問題を読み上げる。するとエリカは――

 

「なるほど……じゃあ答えは……十六、といったところかしら?」

「え? えっ!? 凄いですわ……あってる」

「おいおいマジか!?」

「な、なんという……」

「凄い……」

 

 理沙達が驚きで口をポカンと開ける。

 そこに、「ふふん」と美帆が鼻を鳴らす。

 

「エリカさんは元黒森峰の隊長ですからね! 物理は戦車道に必須科目ですから、これぐらい脳内で出来てしまうんですよ!」

「なんでお前が偉そうなんだよ」

「私、黒森峰の隊長だけどそんなのできないよぉ……」

 

 鈴と梨華子がそれぞれ言う。二人ともかなり驚いている様子だった。

 

「いやぁ私も最初は驚きましたよ? でもエリカさんは言うんですよ、隊長たるものこれぐらいできないとって。なので私も頑張りました。結果私もそれなりにできるようになりました!」

「マジかよ……」

「私黒森峰の隊長なのに……」

「問題で苦しんでいるわたくしには無理な話ですわ……」

「わ、私もそれぐらいでき……でき……ううできない……」

 

 四人の間にどんよりとした空気が流れる。

 それを感じ取ったのか、エリカは申し訳なさそうに苦笑いをした。

 

「あー……私余計なことしてしまったかしら?」

「そんなことないですよ! エリカさん! エリカさんは何も悪くありません! 悪いのは頭の中での物理計算ができないこの子達です!」

「いやあなたもできるまでかなり時間かかったでしょ」

「うっ……はい……」

 

 美帆が反省したようにうなだれる。

 その様子に、エリカはクスクスと笑う。それに釣られ、理沙達も笑う。

 場の空気は、すっかり休憩ムードになっていた。

 

「さて、それじゃあみんなで飲みたいもの……だけじゃだめね。ついでに夕食も食べましょう。みんな好きなものを頼んでね。私が払うから」

『はい!』

 

 一同は口を揃えて答えた。

 そうして美帆達は一旦勉強道具を片付け、好きなものを注文した。そして、それぞれが談笑しながら食事をした。

 

「それでよう、あのときの美帆ったら傑作でよぉ!」

「ちょっと! それは口外しないでと言ったじゃないですか!」

「くすっ、美帆さんったら面白い」

「あのときは大変でしたのに、鈴さんはすぐ笑い話にするんですのねー」

「まあ、大変だったのは伝わってくるわ……」

「ふふっ、そういえばそんなこともあったわねぇ」

 

 六人はいつの間にか美帆の過去話で盛り上がっていた。だいたいが美帆と一緒にいることの多い鈴とエリカ、理沙からの暴露話だったのだが。

 そんな中で、こんな話題が上がった。

 

「そういえば美帆さんは、進路はどうするんですの?」

 

 言い出したのは理沙だった。

 

「え? 突然ですね」

「ええまあ……ただ、過去話をしていたら、なんとなく美帆さんがどういう道を目指しているのか気になって……」

「……なるほど」

 

 美帆が納得したように頷く。その話に、エリカを除いた三人も身を乗り出す。

 

「私も気になる!」

「俺も副隊長として興味あるな」

「私の終生のライバルがどんな道を目指しているか、興味あるわね」

「……そうですか」

 

 その四人の期待を受け、美帆は静かに椅子に座り直した。

 

「そうですね……最初に言ったように、私は一応受験生としての自覚を持って勉強しています」

「ということは、陸の大学へ進学を?」

「ええ……ただ、オファーを受けてはいるんですよ、プロの」

 

 美帆がそう言った瞬間、四人は驚きの声を上げた。

 

「えっ!? マジかよ! 初耳だぞそれ!」

「ドラフトで選ばれるものとばかり……」

「わたくしも聞いてませんでしたわ……」

「こ、小娘! 私を差し置いて!」

 

 鈴も梨華子も理沙もアールグレイも、それぞれがそれぞれの驚きの色を示していた。

 エリカは知っていたようで、静かに頭を縦に動かす。

 

「じゃあ、プロの道選ぶのか?」

「いえ、どうしようかと……」

「決まってないんですの!? この時期に!?」

 

 四人は先程とは別の驚愕をする。

 三年生がこの時期でまだ進路に悩んでいるというのは、かなり珍しいことである。

 

「一応大学進学で進めてはいるんですが、プロの道というものを示されると、どうしようかなと……」

「あー、なるほどな……」

「……まあ、わからない話ではないわね……」

 

 鈴とアールグレイがそれぞれ理解したように頭を小刻みに振る。梨華子と理沙も、同じように反応する。

 

「私は戦車道以外に取り柄がありませんから、プロの話はとてもありがたいんです。でも私は、本当にそれでいいのかなって……実は他にも道が……エリカさんと一緒にいられる道があるんじゃないかなって、そう思うんですよ……」

『…………』

 

 一同を沈黙が包む。

 美帆のエリカを思う気持ちは本物である。皆それを知っていた。それゆえに、それを茶化す者は誰もいなかった。

 

「……エリカ先生は、どう思っているんですの?」

 

 理沙が聞く。

 するとエリカは「うーん」と苦笑いしながら天上を仰ぐ。

 

「私はね、美帆が自分でその答えを出すべきだと思うの。私のことで悩んでいるのは分かってる。でもこれは、美帆の人生の選択だから。最後に選ぶべきは、美帆自身の選択が必要なのよ。だから……美帆にはギリギリまで悩んで欲しい。それは、若い子に許された特権だから、ね」

 

 そう言って、エリカは見えない目で一同にウィンクする。

 その茶目っ気のある仕草の奥に、エリカが美帆のことを本当に思っているのを全員が感じ取っていた。

 特に美帆は、うつむいて、泣きそうになっている。

 

「……ありがとうございます」

 

 そして、そう美帆はこぼした。

 

「……うん」

 

 エリカはぽんぽんと美帆の頭を撫でる。他の四人は、笑顔でその姿を見ていた。

 

「……さて! この話題はここまでにしましょう! それじゃあ勉強の続き、頑張りましょうね!」

 

 エリカが仕切り直すように言う。その言葉に一同は

 

『……はい!』

 

 と元気に答えた。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「……ふぅー。結局深夜までかかるとは……」

 

 深夜。美帆は家に帰り、ぐったりとソファーに倒れ込んだ。

 

「本当に一人じゃ無理な量があったわねぇ」

「本当ですよ。理沙があそこまで駄目な子だと初めて知りました……」

「……でも、嫌ではなかったでしょ?」

 

 エリカが美帆の側に立ちながら言う。

 その言葉に美帆は

 

「……はい」

 

 と微笑みながら答えた。

 

「……私、実は夏休みの課題を誰かと一緒にやるって初めての経験だったんですよ。いっつも一人で早々に課題を終わらせてましたから、そういう機会がなくて。でも、いいものですね……こういうのも。エキシビションと同じくらい、いい経験になりました」

「……そう」

「……おかげで、素敵な夏の思い出が一つ増えました」

「……そう」

 

 エリカは笑って応えるのみ。だが、二人にはそれで十分だった。

 

「…………」

「…………」

 

 二人は笑顔で見つめ合う。

 そしてどれほどたっただろうか。美帆が、ぽつりとこぼした。

 

「……エリカさん。私、素敵な夏の思い出が、もっと欲しいです。もっと、もっと。この最後の夏を……私が高校生でいられる最後の夏を、思い出で彩りたいです……」

「……そう」

「だから……」

 

 そこで、美帆が言葉を紡ぐ前に、エリカはそっと美帆の唇に自分の唇を重ね合わせた。

 

「……思い出って、こういうこと?」

「……はい。でも、もっと、もっと熱い思い出をください……」

 

 美帆のその言葉を受け、エリカは静かに美帆の服を脱がし始めた。

 二人の最後の夏の思い出は、熱帯夜よりもずっと熱い、灼熱の記憶になるだろう。

 


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