大洗の戦車道作戦会議室――大洗が強豪校となってから新設されたものである――において、緊迫した空気が漂っていた。
暗闇に包まれる中、唯一発光しているプロジェクターの光を映し出す、天井吊りのスクリーンを、大勢の戦車隊の隊員達がどこか暗い面持ちで見つめている。スクリーンの横には、いつになく真剣な表情をしている、大洗女子学園戦車道隊長、東美帆が指示棒片手に立っていた。
そして、その部屋の隅の暗がりに、美しい銀の長髪を持った女性、逸見エリカが、その見えない目に部屋全体を映していた。エリカは白杖を床に立て、その上に両手を乗っけている。
作戦会議室にいる隊員達が見ているスクリーンには、戦車戦の光景が映し出されていた。片方の部隊には大洗のエンブレムが、そしてもう片方の部隊には黒い十字をあしらったエンブレムがあしらわれていた。大洗と黒森峰の試合である。
スクリーンに映しだされている戦車戦は、大洗優勢で進んでいた。大洗の戦車が一方的に黒森峰の重戦車を翻弄しており、勝利は火を見るより明らかだと思われた。
しかし、次の瞬間、大洗のフラッグ車であるシュトルムティーガーが黒森峰のキングティーガーに撃ち抜かれた。黒森峰が巧妙に隠していた戦車隊のところに誘い込まれたのである。
そして、大洗のフラッグ車は白旗を上げた。
「……以上が、今回の練習試合の結果となります」
美帆がそう言うと、部屋に明かりが灯り、スクリーンが上がっていく。美帆はわずかに移動し、背後にあるホワイトボードから見てちょうど中央になる位置に立った。
「今回の練習試合は、見事に黒森峰に誘導された結果となりました。戦況をこちらの有利と見せかけておいて、その実向こうの有利な状況に誘い込まれていた……悔しいですが、完敗です。今回の練習試合について、何か意見のあるものはいませんか?」
「…………」
美帆が問いかけるも、隊員達はお互いに気まずそうに見合うだけで、口を開こうとしない。
美帆もただ口を閉じて、隊員達が発言するのを待っているだけだった。
気まずい静寂が続く。
その中で、一人すっと手を上げたものがいた。それは、隊員達の中からではなかった。
「……エリカさん」
手を上げたのは、エリカだった。その顔は、極めて厳しいものだった。
「少しいいかしら」
「……はい、おねがいします」
美帆はエリカに恭しく頭を下げた。エリカは白杖片手に、器用に腕を組み、口を開く。
「はっきり言って、今回の責任はあなたにあるわ。美帆」
はっきりと言い放つエリカのその言葉に、隊員達は息を呑んだ。
「黒森峰は現在でこそ弱小校になってしまったとは言え、保有している戦車はドイツの高性能な戦車ばかり。そこに高度な戦術が伴えば、いつ強敵になってもおかしくない。その可能性は十分理解していたはずでしょう?」
「……はい」
美帆は沈痛な面持ちでエリカの言葉を聞く。他の隊員達も、気まずい表情で地面を見つめているものが多かった。
そんな雰囲気を察しながらも、エリカはあえて語気を強める。
「だというのに、あなたはそのことを考慮せず単なる力押しで黒森峰と戦った。練習試合であるとは言え、大切な試合の一つであるというのに、相手の分析もしないで。そこに、驕りがあったのは明白よね? この前全国大会に優勝したばかりで、慢心があったんじゃないの?」
「……っ」
美帆は唇を噛み締める。
その日の大洗戦車隊の空気が悪かった要因の一つがそれであった。大洗はついこの間、全国大会で優勝の栄冠を勝ち取ったばかりであった。
その全国大会優勝校が、現在は弱小校扱いされている黒森峰に敗北したことは、衝撃的なことだった。
周囲が受けた衝撃もそうだったが、一番そのことに驚いたのが、当の隊員達である彼女らであった。
十五年の間に培われてきた強豪校としての誇りを持っていた隊員達にとって、その敗北は信じがたいものだった。
「まず隊長であるあなたが、あらゆる可能性を考慮して慎重に敵の動きを見なければいけなかったのに、あなたはそれを怠った。それは普段のあなたならまず犯さなかったミスだわ。だからこそ、今回の過失は目立つのよ」
「…………」
美帆は表情を変えずに、しかし指示棒をぎゅっと握りしめながらエリカの言葉を受け止めていた。
普段のエリカと美帆からは考えられないようなエリカの厳しい言葉に、場の空気はより悪くなっていく。
「そもそも、今回の――」
「待ってください!」
そこで、エリカの言葉を遮るような大声が飛んできた。何かと思い美帆は目を向け、エリカは耳を傾ける。
それは、困惑する隊員達の中から飛んできた声だった。
席に座っている隊員達の中から、一人の隊員が立ち上がっていた。
その隊員は、まだ入隊したばかりの一年生だった。彼女はまだ戦車には乗ったばかりの、まだまだ未熟な部分の目立つ隊員だったと美帆は記憶している。
しかしその隊員が今、手足を震わせながらも、一人立ち上がっているのだ。美帆は驚きを隠せなかった。
その隊員は、恐る恐るといった様子で口を開く。
「お、恐れながら! さすがにそれは言い過ぎだと私は思います!」
うわずり今にも裏返りそうな声でその隊員は言った。エリカに反論するその言葉に、周囲のどよめきは大きくなる。
だが、当のエリカはただ黙って聞いているだけだった。
「相手の戦術を読めなかったのは私達に落ち度があったと思いますし、そ、それに、それに何より! 試合を見ることができない逸見先生にそこまで言われたくありません!」
最後のその一言で、他の隊員達の困惑は喧騒となった。
いくら不満があったとは言え、そのことだけは言ってはいけないと、誰もが思っていた。
言った当人ですら、自分の言ったことのあまりの失言ぶりに気づき、口を手で押さえ顔を真っ青にしていた。
誰もがエリカが怒り出すのではと思っていた。エリカは普段は温厚だが、怒らせると怖いことは大洗の隊員達にとっては一般的な常識として知れ渡っていた。
しかし、エリカは黙ったままだった。それが逆に不安を煽った。
一方、エリカとは違いあからさまに怒りが見て取れる人物がいた。
美帆だった。
美帆は表情こそ変わってはいないものの、その視線は抜身の刀のように鋭く、失言した生徒を今にも切り刻んでしまいそうな雰囲気だった。
いつもはどんなことがあっても優しく諭してくれるため、誰も美帆の怒った姿を見たことがなかった。だからこそ、先程の失言がとんでもない地雷であったことを、失言した隊員は改めて思い知った。
「……ご、ごめんなさ――」
「あなた、今言ったことの意味を分かっているんですか?」
その隊員が謝るよりも前に、美帆の冷たい声が場を凍りつかせた。
美帆は指示棒をパシパシと手の上ではたかせながら、ぷるぷると震えている隊員を見る。
その雰囲気に、先ほどまでどよめいていた隊員達は、一斉に口を噤んでいた。
美帆はその場にいる隊員達の誰もが聞いたことのない声を出す。
「あなたは今、越えてはいけない部分を越えてしまったんですよ? 分別ある人間なら、そんな発言はしないはずですが?」
「ああ、うう……」
失言をしてしまった隊員は完全に萎縮してしまっていた。
そしてそれはその隊員だけではない。他の隊員も、雰囲気に飲まれ、萎縮していた。
美帆は指示棒を、バチンを大きく手のひらの上に叩きつけると、すぅっと軽く息を吸った。
失言した隊員はこれからどんな怒号が飛ぶのかと恐れ、さらに身をギュッと縮こまらせる。
が、そのときだった。
「待ちなさい、美帆」
その美帆を止めたのは、他の誰でもない、エリカだった。
「エリカさん、ですが――」
「いいから、少し冷静になりなさい」
「……はい」
有無を言わせないエリカの口調に、美帆は少し肩を落としながらエリカの言うことを聞いた。
そしてエリカは、見えない目で、声の方向から判断したその隊員がいる方向を見て話し始めた。
「……確かに、あなたの言うことも一理あるわ」
「……えっ」
失言をした隊員は思わず声をこぼした。まさか、怒られるのではなく、肯定されるとは思ってもみなかったからだ。
「確かに私は、自分の目で戦いを見たわけじゃない。すべては聴いた上での判断。だから、そんな私が美帆に説教をするのがおかしいというのは、何も変じゃないわ。……それに、私はあくまで非常勤の教官。本来の教官ではないのだから、そもそも物事をあまり強く言える立場でもない」
「そんな、エリカさんは――」
途中で我慢できずに口を挟もうとした美帆だったが、エリカにばっと手のひらを出され制止され、その口を閉じた。
エリカはさらに言葉を続ける。
「……でもね、美帆には、あなたたちを隊長として導く役目がある。そして、その上で過失を犯したのならば、そのことは追及されるべきなの。そして今本来の教官がいないのならば、私がそのことを言うしかない。あなたがいくらそのことを不満に思ってもね」
「…………」
失言をした隊員はコクリと小さく頷いた。もちろん、その姿はエリカには見えないのであるが。
「……まあ、今回の敗戦は美帆一人の責任とは言えないのも確かだけどね。あなたの言ったとおり、隊全体にも責任はあった。誰かが慢心せずに、冷静に戦況を把握できていれば、敗戦はなかったでしょう」
エリカの言葉に、誰もが暗い表情で自分自身の失態を思い返した。
誰もが、自分達の心に慢心があったと、相手を甘く見ていたと、深く反省を始めた。
その場は、再度重い沈黙に支配された。
「……今日はこれまでにしましょう。まずみんな、ゆっくり頭を冷やす必要がありそうだしね。美帆、締めて」
「あっ、はい……。それでは、今日の反省会を終了とします。各車長は、今回の試合の反省点をレポートにまとめて、明日までに提出してください。それでは……解散」
美帆の言葉で、隊員達はそれぞれ緩慢にだが立ち上がり始めて、作戦会議室から出て行った。
失言をした隊員は、しばらく立ち尽くしていたが、部屋から殆ど人が消えると、彼女もまたゆっくりと部屋をあとにした。
美帆とエリカは、誰もいなくなったのを確認してから、部屋を出て行った。
――その日の夜。エリカと美帆の部屋にて。
「……エリカさああああああああああああああん!!!! ごめんなざああああああい!!!!」
美帆は、制服姿のまま泣きながらベッドに腰掛けるエリカの胸に飛び込んでいた。
エリカは、そっと美帆を抱いて優しく美帆の頭を撫でる。
「おうおうよしよし、泣かないの」
「ううううううううううっ……」
美帆はしばらくエリカの胸の中に顔を埋めていたが、ある程度泣くと、エリカの胸から顔を離した。
その顔は、目も鼻も真っ赤になっていた。
「うう、本当にごめんなさい。私が調子に乗ったばっかりに……」
「反省してるならそれでいいのよ。ああ強く言ったのは、隊長としての立場が担う責任として、隊全体の過失をあなたに肩代わりさせたまでのことだし」
「そのことはよく分かってるつもりです。私が、隊長としての責任を果たさなければならないことはよく……。だから、エリカさんが気に病む必要なんてこれっぽっちもないんです」
美帆はエリカの横にちょこんと座りながら言った。
その顔は、未だに深く後悔したような面持ちだった。
「大丈夫、私はなんとも思ってないから。それよりも、あなた、あれはちょっとまずかったわよ? いくら失言したからって、あんな露骨に感情を表にして。もっと冷静に諭すことだってできたはずよ?」
エリカが諫めるように言う。それはもちろん、昼の失言を言った隊員への態度のことだ。
美帆が隊長としての責務以上に、感情を露わにしていたことは誰もが感じ取っていたことだった。
そして、そのことはエリカにもよく伝わっていた。
「は、はい……で、でも」
「でも?」
美帆が俯きながら言ったため、エリカは美帆の顔を覗くように顔を傾ける。すると、美帆はばっと顔を上げエリカの目を見ながら言った。
「私、悔しかったんです!!」
「悔しかった?」
エリカが不思議に思い聞き返す。不適切な発言をしたことへの怒りなら分かるが、悔しかったというのは一体何のことだろうか?
美帆は流れるように言葉を続ける。
「確かに、言ってはいけないことを言ったことへの怒りもかなりありました。でもそれ以上に、悔しかったんです。エリカさんがまるで馬鹿にされたみたいで……! 私、知ってるんですよエリカさん。エリカさんが私達のために、常日頃から新しい戦車道の勉強をしていること。そのために、昔の知り合いのところにいっぱい頭を下げに行っていること。わざと自分から憎まれ役を買って出ていること……」
美帆がそこまで言うと、エリカは驚いたように美帆を見た。
「えっ!? あなた、どうしてそれを……」
「そんなの、分かります。エリカさんは隠し事あんまり上手じゃないんですから……。それに、この前エリカさんの知り合いだって言うプロリーグの選手の人と会う機会があって、そのときに教えてもらって……」
美帆がそのことを言うと、エリカは苦笑いを浮かべながら親指を噛んだ。
「は、はは……一体誰よそれ。ノンナ? それともケイ? ああダージリンもありえるわね……」
エリカが脳内で必死に犯人探しをしていると、美帆はエリカの肩に頭を傾けた。
「……だから、私、エリカさんのことを悪く言われたのが、どうしても許せなくて、悔しかったんです。でも、今では後悔してます。そのせいで、エリカさんをまた困らせてしまって……」
美帆のエリカを思う気持ちが、エリカの心に、体にじんじんと伝わってきた。
その気持ちに、エリカはとても暖かい気持ちになり、ぽんぽんと美帆の頭を叩いて、そのまま撫でる。
「……ありがとうね、あなたの気持ち、とっても嬉しいわ。私には、それだけで十分。例え他の誰かに分かってもらえなくても、あなたにさえ分かってもらえれば、私にはそれでいいの」
「エリカさん……」
美帆はエリカのその手が、その言葉が、その微笑むエリカの顔が、とても嬉しかった。
自分とエリカは、心の底では繋がっている。そんな気さえした。
だから美帆は、感極まって言葉をこぼした。
「エリカさん……好き、です。大好きです。世界で一番、愛しています」
美帆は、目を潤わせながら、儚げな笑顔で、エリカに言った。
暗闇が支配するエリカの瞳に唯一映る、情欲すら掻き立てるその美帆の姿に、エリカもまた、心の奥底から感動と興奮が沸き上がってきた。
そして、その噴火しそうな気持ちを、エリカは抑えることが出来なかった。
「美帆……私もよ。私も、愛してるっ!」
「きゃっ!?」
エリカは、美帆の肩を掴みそのまま美帆をベッドの上に押し倒した。
美帆は、顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに片手で顔の下半分を覆った。
「や、やめてくださいエリカさん……」
「あら、どうして? こういうことされるの、いや?」
「いやじゃ、ないです……むしろ、嬉しいです……でも……」
「でも?」
美帆はゆっくりと片手を顔から外し、赤らんだ顔と潤んだ瞳でエリカを見て、呟くように言った。
「制服……皺になっちゃいます」
その言葉に、エリカはふっと口角をニヤつかせ、美帆の耳元で囁いた。
「気にしないで……印として刻み込んであげる。制服にも、体にも」
エリカの唇が、静かに美帆の唇へと重なった。
そうして、二人の長い長い夜が始まった……。
翌日、美帆とエリカは一緒に学校へと足を運んだ。
それ自体はいつものことだったが、美帆はいつも以上に機嫌が良かった。
少なくとも、昨日の重たい雰囲気が嘘のようであった。
「うーん、今日もいい天気ですね。エリカさん!」
「ええ、体で感じる風が気持ちいいわ。……それにしてもあなた、随分と元気になりすぎじゃない?」
「え? そうですか?」
「まったく、わかりやすい子なんだから……。せめて隊員達の前では、しゃきっとしなさいよ」
エリカは苦笑いを浮かべながら言う。
美帆は、笑顔で「はい! もちろんです!」と言い放った。
その様子に、本当に大丈夫かと、少々心配になるエリカだった。
そして、二人が談笑しながら校門の前に差し掛かったときだった。
二人の前に、さっと一つの人影が飛び出してきた。
「あっ、あのっ!!」
美帆とエリカは驚き歩を止める。その人影は、昨日失言をしてしまった隊員だった。
隊員は昨日と同じようにぷるぷると震えながら立っていた。
その手には、何か長方形の薄い箱が持たれていた。
「隊長! 逸見先生! 昨日は本当に申し訳ありませんでしたっ!!」
隊員は、激しい勢いで頭を下げる。
その様子に、美帆もエリカもただ戸惑って立っていることしかできなかった。
「私、昨日からずっと考えてたんです! 私が悪かった、どうにかして謝らないとって! でも、なんて謝っていいのか分からなくて……それで、もうとにかく謝ろうと思って……その、あの……本当にすいませんでしたっ!!」
そのあまりに必死な姿に、美帆とエリカは顔を見合わせる。そして、軽く笑うと、二人は再びその隊員の方を向いた。
「大丈夫です。もう怒ってませんよ。ちゃんと反省したのなら、それでもう済んだことですから」
美帆が隊員を見ながら笑顔でそう言う。隊員は、恐る恐る頭を上げて、美帆の顔を伺った。
「……ほ、本当ですか?」
「はい、そうですよね? エリカさん?」
「ええ、もちろん。大切なのは失敗を反省し後に活かすことであって、それをいつまでも引きずることではないからね」
二人がそう言うと、その隊員は心底ほっとしたような表情を浮かべた。
そして、思い出したかのように手に持っていた長方形の薄い箱をエリカに差し出してきた。
「そうだ! あ、あのこれもしよかったら! お詫びの印としてどうぞ!」
「え? ええ……」
エリカは手探りでその箱を受け取る。そして、その箱をぺたぺたと触って確かめた。
「ありがとう……でも、これは?」
「あっ、はい! タオルです! 何かお詫びの品がないかずっと考えてて……でも、ろくに思いつかなくて……それで、そんなつまらないものでよかったらですけど……あの、やっぱりこんなもの受け取れませんかね……?」
不安そうにエリカを覗き見る隊員。
エリカはその雰囲気を見えずとも察したのか、ふと笑顔を浮かべ、箱を小脇に抱えて声の方向から位置を割り出してその隊員の頭に手を置いた。
「大丈夫よ。迷惑なんかじゃないわ。ありがたく使わせてもらうわね。ありがとう」
そのまま、エリカは隊員の頭を何度も撫でた。
すると、隊員の顔がみるみるうちに頭から煙を出しそうなほど真っ赤になっていった。
「ひゃ、ひゃい!? こ、こちらこそありがとうございますっ!! あ、あの! その! それでは私、これで失礼させていただきますね!」
隊員は慌てて一歩下がると、そのまま二人に背を向けて学校へと走り去っていった。
エリカはそんな隊員の挙動を感じ取りクスクスと笑う。
「ふふふ、なんだかんだでいい子じゃないの。あの子」
「……ええ、そうですね」
しかし、なぜだかそれに応える美帆は不機嫌そうだった。
しかも、じぃっとエリカが抱えている箱を見つめている。
そして、顎に手を当てエリカに聞こえないような小さな声で呟き始めた。
「……まず帰ったらタオルの色と柄を把握して……あっその前にどこで買ったのかを聞き出さないと……それで同じのを買って……」
「ん? どうかした美帆?」
「いえっ! なんでもありませんよ? それよりも、早く行きましょうよエリカさん!」
美帆は素早く笑顔に切り替え、エリカに笑いかけた。
エリカはよくわからないまま美帆と一緒にそのまま学校へと向かった。
その日の作戦会議は、昨日の緊張を残しつつも比較的穏やかに進んだ。美帆は自分の過失を認め、また隊員達も自分たちの過ちを認めた。
もう、彼女らは二度と慢心はしないだろう。
そしてまた、美帆の戦車道がまた一つ前進したのは、言うまでもない。