【完結】光ささぬ暗闇の底で   作:御船アイ

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こちらは第二部IFルートの続きになります。
エリカと美帆のその後の日常です。
本編と違って明るい展開でのオリキャラとのイチャイチャものですのでそういうのが苦手な人には注意です。
一応、少しばかり性的な描写があります。


IFルートアフター
キスの後は……


 私、東美帆の初恋は、普通の人とはちょっと違った形の恋でした。

 まず、相手は男性の方ではありません。女性でした。私は女性でありながら同性に恋してしまったのです。それも仕方のないことです。その相手は、まさに絶世の美女と言うべき人だったのですから。

 スラっとした長身、豊満なバストとくびれたウェスト、美しいヒップの織り成す女性らしいプロポーション、歌劇団の男役のように整った端正な顔立ち、そして、太陽の光を何倍にも輝かせるような、美しい銀髪。

 まさに雷に打たれたかのような衝撃でした。こんな人がこの世にいるだなんて。

 私は最初見とれて言葉が出ませんでしたが、すぐさまその人が他の人とは異なっているということが分かりました。

 その人は、目が見えなかったのです。

 私はすぐさま助けないと、と思いました。惚れた相手だからというのもありますが、困っている人を助けるのが私の信条のようなものでしたから。

 そして、その日私は必死にその人の面倒を見ようとしました。しかし、なかなかうまく行かずその日を終えてしまいました。

 もう二度と会えないのだろうかと落ち込んでしまいましたが、次の日、まさかの出来事が起きました。

 その人が、私の学校にやってきたのです。私は心から喜びました。しかも、その人は戦車道の講師だったのです。戦車道を勉強したいと思っていた私にとっては、まさに運命的と言える出会いでした。その人は、逸見エリカさんという名前でした。美しい名前だと思いました。

 それからの私は、これまでの人生にないほどに積極的になりました。エリカさんに個人的に戦車道を教えてもらうことを約束してもらい、その次には一緒に帰る約束を、さらにその次にはエリカさんの部屋におじゃまさせてもらう約束を取り付けました。

 エリカさんの部屋に行こうとしたのは、もちろんエリカさんの生活をお手伝いしたいという気持ちが強かったですが、下心がなかったと言えば嘘になります。

 そして私は毎日のようにエリカさんの部屋に入り浸り、ついにデートをしてもらえることになりました。その日の私のはしゃぎっぷりと言ったら、とても人様には見せられません。

 そしてデート当日、私は必死にエリカさんをエスコートしました。結果としては、途中まではとても上手くいっていたと思います。でも、そのデートの最中、私は聞いてしまいました。エリカさんには他に想い人がいることを……。

 私はそのことを聞いた瞬間、目の前が真っ暗になり、分けも分からず道路に飛び出してしまいました。そのとき、一台のトラックが私に向かって走ってくるではありませんか。

 そのことに気付いたときはもう手遅れで、私は死を覚悟しました。ですが、その瞬間、エリカさんが身を体して私を守ってくれました。私の代わりにトラックに轢かれてしまったエリカさんの姿は、きっと二度と忘れることはできないでしょう。

 かろうじてエリカさんは一命を取り留めましたが、もしエリカさんが死んでしまっていたら私はどうなっていたか分かりませんが、きっとろくでもないことになっていたことは確かです。

 エリカさんが目を覚ますと私は安堵すると同時に、もうエリカさんとは二度と会わないようにしようと決めました。私のせいでエリカさんに大怪我させて、一体どんな顔をすればいいか分からなったからです。

 ですが、エリカさんは逃げ出そうとする私の腕を掴むと、私のことを好きだと言ってくれました。昔に想い人がいたのは確かだが、今好きなのは私だと。

 その瞬間、私は涙を堪えることができませんでした。罪悪感と幸福感が混ざり合った、不思議な涙でした。

 こうして私とエリカさんは結ばれました。それからはいろいろとありました。喧嘩したこともありましたし、壁にぶつかったこともありました。でも、どんなときでも二人で一緒に乗り越えてきました。まさに愛の力ですね。

 そうこうしていくうちに、三年の時が流れました。私は今のエリカさんと過ごす生活にとても満足していますが、一つだけ、一つだけ不満な点があって、それは……。

 

 

 

「キスより先に、いけないんですよ!」

 

 私は大洗にあるとある喫茶店で、ガシャンとテーブルを叩きながら叫びました。

 その私の姿を見て、対面に座っていた、エリカさんの友人であり私にとっても親しい仲である武部沙織さんが困ったように私に手のひらを向けてきました。

 

「ちょ、美帆ちゃん! 声大きいって!」

 

 確かに周りの人が何事かと見つめてきます。ちょっと大声を出しすぎたようですね。

 私は置いてあったクリームソーダをストローでずずっと飲んで冷静になります。うん、美味しいです。

 

「……で、私に話したいことってそれ?」

「はい」

 

 沙織さんはなんだか呆れ返ったような視線で私を見てきます。私、そんなにおかしなことを言ったでしょうか?

 なお沙織さんとは大洗に学園艦が寄港した折に、こっそり会う約束をしていました。エリカさんには、「ちょっと人と会う約束があります。すぐ戻ります」とだけ言ってあります。

 

「エリカさんたら酷いんですよ? いつも私がエリカさんとおやすみの口づけを交わしてドキドキしてるというのに、キスしたらそれっきりで寝てしまって。この前なんて全国大会に優勝して最高に盛り上がるタイミングだったというのに、結局何もなしだったんですから」

「あーはいはいお熱いことで……。というか、なんでそれを私に話すの?」

「え? だってこんなこと話せるの沙織さんぐらいじゃないですか?」

 

 何もおかしいことはありません。私とエリカさんの関係は隊内などでは半公式と化しているようですが、それでも深いところまで話せるのは私とエリカさんについて馴れ初めから知っている沙織さん以外ありえません。それに、沙織さんにはエリカさんを任せると言われましたからね。義務のようなものです。

 

「えーと、信頼されてるってことでいいのかな……? まぁそれはそれとして、大会に優勝したときの写真でキスしたって聞いたけど、それは大丈夫だったの?」

「……それはその、あとで必死に誤魔化す羽目になりまして……いやキスしたときは最高に盛り上がったんですけどね……いやー一時のテンションて怖いですね、はい。……エリカさんが素知らぬ顔でオーバーなスキンシップみたいなものと言い張ってくれたからなんとかなりましたけど」

 

 事情を知らない方々から必死に問い詰められたときはどうなるかと思いましたよ本当に。

 エリカさんとしては関係がバレても問題なかったようですが、エリカさんに迷惑をかけてしまうのは心苦しいですから、なんとか口裏を合わせてもらいました。私達の関係を公表するのは、私がもっと大人になってから、ということで。それにしても終始エリカさんは余裕の態度だったなぁ……これが年季の差というものでしょうか。

 

「それよりも! どうにかお願いしますよ沙織さん! かつて沙織さんはモテ道という道の名のもと数々の男達を手のひらの上で転がしてきたと聞きます! どうか私にその応用テクニックのご教授を!」

「え、ええ!? ちょっと美帆ちゃん!? それ誰から聞いたの!?」

「え? 沙織さんの昔の後輩さんからですが……」

 

 そのことを話すと沙織さんは顔を真っ赤にしながら手のひらで顔を覆ってしまいました。何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのでしょうか?

 沙織さんはやがて顔を覆っていた手をどけると、一呼吸置いて私をきっと見つめました。

 

「ま……まぁね! 私ほどのモテ道を極めた女にかかれば、美帆ちゃんの頼みぐらい朝飯前よ!」

「本当ですか!? それでは……!」

「ええ! 相談に乗ってあげようじゃないの!」

 

 沙織さんは自分の胸をドンと叩き高らかに言ってくれました。

 ああ、やっぱり沙織さんに相談してよかったです!

 なんだか沙織さんの顔が依然として真っ赤で体をぷるぷるさせている気がしますがきっと気のせいでしょう。

 

「……でも、全国大会優勝のときの盛り上がりようで駄目だったら、えりりんにはその気はないんじゃ……」

「えっ……」

 

 確かにそうです。あの日は私もエリカさんもかなり喜びを分かち合って、心がつながっていた感覚があったのに、結局何もありませんでした。

 ということは、エリカさんにとって私はそんなことをする価値がない女ということで……。

 それでは、今まで一緒に生活してきた意味は……?

 あっ、なんだか泣きたくなってきました……。

 

「えっ!? ちょ、美帆ちゃん泣かないで!? 大丈夫だから! 冗談だから! きっとえりりんもタイミング見失ってるだけだと思うから! ねっ! ねっ!?」

「うう、そうでしょうか……?」

「そうだって! ほら元気だして! 一緒にキスより先にいける方法考えてあげるからさ! さ!」

 

 沙織さんが必死で私を慰めてくれます。

 そうです、まだ完全に芽がないとは決まったわけではありません。もしかしたら、エリカさんが奥手なだけかもしれないじゃないですか。

 そうです、きっとそうです。

 機嫌を直した私を見て、沙織さんはほっと胸を撫で下ろしたようです。

 

「ふぅ……それで、さっそくどうするかだけど……確か、えりりんには美帆ちゃんのことだけは見えてるんだよね?」

「はい、そうらしいです」

 

 本当に不思議な話です。目が見えないはずのエリカさんですが、私の姿形だけは見ることができるなんて。お医者さんもどうしてか分からずお手上げでした。

 エリカさん曰く「あの子からの贈り物ね」らしいですが、その話をすると私が不機嫌になるので最近はあまりしません。

 当然です。いくら私を助けてくれた恩人とは言え、それとこれとは別です。恋人の口から過去の女の話をされて楽しいわけがありません。今のエリカさんの恋人は私なんですから、私だけを見ていて欲しいものです。

 

「うーんそうだねぇ……あ、だったらこういうのどう!?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 日はすっかり落ち、時刻は夕食時。

 家に帰った私は一人で食事の準備をしています。

 エリカさんは私が帰ったとき、何やら外に用があるらしく外出していました。しかし、それはこれから私が仕掛けるエリカさんへのアプローチを考えればむしろ好都合です。

 

「ふんふ~ん♪」

 

 私は上機嫌で料理を進めます。早くエリカさん、帰ってこないでしょうか?

 帰ってくれば、きっと今すぐキスより先の段階へと進みたくなるはずです。

 

「ただいまー」

 

 と、ちょうどいいタイミングでエリカさんが帰ってきました。私はいつも通り元気よく応えます。

 

「おかえりなさい、エリカさん!」

「ええ、もうご飯作ってるのかしら? 今日のご飯はな――」

 

 エリカさんが私を見た瞬間固まりました。ふふふ、どうやら私の姿から目が離せないようですね。

 それもそのはずです。今の私は、黒いマイクロビキニの上からエプロンを羽織っているのですから。

 正面から見たら完全に裸にエプロンです。とてもエッチです。

 これが作戦その一、擬似裸エプロン作戦です!

 扇情的な姿でエリカさんの情欲を掻き立てる作戦です。私はエリカさんほどではありませんが、プロポーションには自信があります。クラスでのプール授業では他の友人達からまじまじと視線を受けることだってあります。

 マイクロビキニは喫茶店を出た後大洗で買いました。沙織さんには「え、それ本当に着るの……?」と言われた気がしますが、きっとそれも気のせいでしょう。だって立案者は沙織さんなんですから。私がその作戦にノリノリで乗ったときに笑って返してくれましたし沙織さんもよく分かっているはずです。

 

「……ねぇ美帆、その格好何?」

 

 エリカさんが私の格好について訪ねてきました。ふふ、どうやら効果は覿面ですね。これは今すぐ押し倒されてしまうかもしれません。

 

「ああこれですか? いえ、ちょうど新しい水着を買ったので、今すぐ試しに着たくなったんですよ。せっかくいい水着を買ったのに、海までおあずけだなんて我慢できないじゃないですか?」

 

 私はあくまで平常心を保ちます。そんな気ないですよと素知らぬ顔を決め込みます。東美帆はクールな女です。

 しかしここでぐぐっとポーズを取ります。胸の谷間を強調するグラビアアイドルみたいなポーズです。

 肌色分マシマシです。殆ど裸のような姿から見せられる胸……これはかなり効果大なはずです。こんな格好、エリカさん以外にはとても見せられないほどです。

 きっとエリカさんはこんな私に耐えられるはずもなく……ほら、来てくださいエリカさん!

 

「……そう。風邪引かないようにね?」

 

 ……あれ?

 エリカさんは悩殺ポーズを取る私を横目に素通りしてしまいました。

 どういうことでしょうか。計画ではここで上手くいってもおかしくなかったのですが……。

 ま、まぁ! いきなり成功するなんてさすがにそんな上手く行き過ぎることは夢を見過ぎですよね!

 私は気を取り直して次の作戦へと移ることにしました。

 

 

 

「さあエリカさん! 晩御飯ですよ!」

 

 私は食卓に次々と料理を置きます。エリカさんは私から見て反対側の椅子に座っています。

 なお私は、服は着替えました。さすがにずっと水着でいるのは恥ずかしいです。

 もちろん、エリカさんには料理は見えませんから私が説明するまで匂いなどでしか料理の内容を推測することができません。

 なので、一体今日の食事は何なのかを当てる遊びというのが、半ば私とエリカさんの間で行われる遊びとしてありました。

 

「さあ、今日の料理はなんでしょうか?」

「そうねぇ……今日は一段と分からないわね。今まで嗅いだことのない匂い……。なんだかグツグツいっているから、鍋料理があるのは分かるのだけれど」

 

 エリカさんは指を顎に当てながら必死に今日の献立を考えています。ですが、今日の献立は当てられないはずです。なにせ今日はとびっきりを用意しましたから。

 

「……分からないわ、正解を教えて頂戴」

 

 エリカさんがとうとう音を上げ答えを聞いてきました。

 待っていましたと言わんばかりに、私は今日の献立を発表します。

 

「はい! 今日の献立は、すっぽん鍋にレバ刺し、うなぎの蒲焼きです!」

 

 そう、これがもう一つの作戦だったのです。

 作戦その二、精のつく料理作戦です!

 精のつく料理をエリカさんに食べさせ、エリカさんの精力を高めてその気になってもらう作戦です。

 沙織さんが旦那さんとキスより先の段階に行きたいときにはたまに使う手だそうです。そのことを沙織さんに詳しく聞こうとしたら、沙織さんは耳を真っ赤にして口ごもってしまいました。何故でしょう?

 

「さあエリカさん! 召し上がってください!」

 

 私は両手を広げてエリカさんに食事を進めます。ちなみにエリカさんは盲目の生活が長かったためか、食器を置く音でどこに何があるかがだいたい分かるらしいです。それと箸で触れさえすれば、後は健常者と同じ感覚で食事ができます。さすがですね。

 

「……まあなんというか、随分とスタミナのつきそうな献立なのね今日は」

「え? そうですか? まあ偶然ですよ偶然。ちょっと変わったものを作ってみたくなりまして」

 

 あくまで私は偶然を装います。意図してこんな料理を出したわけではないと言い張ります。

 そうすればほらエリカさんだって普通に食べてくれますよええ。

 

「それじゃあ……いただこうかしら」

 

 そう言ってエリカさんがうなぎに手を出しました。見えない目ながら器用にうなぎの位置を探り、それをそのまま口に運びます。

 

「ふむ……うなぎは久々に食べたけどやっぱり美味しいわね」

「ありがとうございます!」

 

 エリカさんに料理を褒められると、やはり作ったかいがあったなと思えます。エリカさんが食べ始めるのを見て、私も自分の分を食べ始めます。うん、自画自賛になりますがやはり美味しいです。

 そうして私達は談笑しながら食事を食べ進めていきます。すっぽん鍋は初めて作りましたし初めて食べますからお互い苦労しましたが、なんとか食べきりました。

 そして食事を終え、食器を片付けます。

 さあ準備は整いました。これでエリカさんがいつ襲ってきても大丈夫です。

 きっとエリカさんは精をつく食べ物を食べて昂ぶっているはずです。というかまず私が昂ぶっています。ああ、これ自分のことをすっかり忘れていました……。

 

「美帆、食器洗い終わった?」

「は、はい!」

 

 来ました! きっとこれはお誘いに違いありません! ただ呼ばれただけの気もしますが今のふやけた私の脳回路だとそういう風に聞こえたんです!

 私は意気揚々とエリカさんの元へと駆けました。

 

「じゃあ、そろそろお風呂に入りたいから手伝ってくれない?」

「え? は、はい……」

 

 あ、お風呂ですか……。

 私は消沈した気分をなんとか隠しながら、エリカさんの脱衣を手伝います。

 と、そこで気づきました。今の私の状態だと、エリカさんの裸は目の毒です。なんというか、いつも以上に興奮します。

 この三年間、ずっとエリカさんの入浴を手伝ってきましたが、こんなに興奮したのは初めてのデートで温泉に入ったとき以来かもしれません。

 ですが私だって成長しています。私はなんとかその興奮を隠しながら、エリカさんの入浴を手伝いました。エリカさんをお風呂まで連れて行って、髪と体を洗って、そのまま一緒に湯船に浸かって……。

 試練はお風呂から上がってエリカさんにパジャマを着せるまで続きました。

 正直、我ながらよく耐えたと思います。

 その後、私とエリカさんはいつも通りの時間を過ごしました。何の変哲もない、いつも通りの日常……。

 あれだけしたのに何もアプローチもないということは、やはりエリカさんは私とそういうことをする気がないのでしょうか?

 沙織さんに励ましてもらいましたが、やはり自信がなくなってきます。私は、本当にエリカさんに愛されているのでしょうか……。

 やっぱり、私なんかではエリカさんとは釣り合わないのでしょうか……。

 そんな悶々とした気持ちを抱えながら、夜は更けていきました……。

 

 

 時計はすっかりと頂点を指し示し、いつも就寝する時間となりました。

 私は今日一日何もなかったことにがっかりしながらも、ゆっくりとパジャマのボタンを外していきます。

 何故かと言うと私は寝るときいつも全裸だからです。服を着て寝られないわけではないのですが、どうも寝るときには何も身につけてほしくないんですよね。エリカさんには初め色々と言われましたが、これだけは譲れません。寝汗で濡れる服が妙に嫌な記憶を呼び起こすというか……まあ個人的な問題です。

 

「はぁ……」

 

 私はこっそりと溜息を付きます。結局、エリカさんは何もしてきてくれませんでした。

 このままでは、これからも何もないまま日々を送って行くことになります。

 それはそれでいいのかもしれませんが……いえ、やっぱり嫌です!

 こうなったら、最後の手段です。

 戦車道を嗜む淑女としてこの手は取りたくありませんでしたが……こうなれば仕方ありません。

 私のほうから、エリカさんに行為を求めます。私の理想としては、エリカさんの方から迫ってもらえるのが理想でしたが、もうそんなことは言ってられません。

 もしかしたら、エリカさんの気持ちを踏みにじってしまうかもしれません。今までの関係が壊れてしまうかもしれません。

 そんな恐怖が重くのしかかります。でも、これ以上は耐えられないんです。私はエリカさんとの繋がりを、心だけでなく、体でも感じたいんです。

 

「……よし!」

 

 私は自分の頬をペチンと両手で叩き気合を入れます。女は度胸、やらいでか!

 これから私は一大作戦に出ます。さしずめノルマンディー上陸作戦が如く重要な作戦です。

 そのとき、ギギギ……と寝室のドアがゆっくりと開きます。どうやら、エリカさんが入ってきたようです。私はエリカさんに、第一声でキスより先の行為を求めるつもりです。

 

「エリカさ……!?」

 

 しかし、そんな私の決意は、エリカさんの姿を見たとき、一瞬にして何処かへ行ってしまいました。

 なぜなら、エリカさんの格好は、普段とは大きく異なっていたからです。

 エリカさんは普段なら素っ気ないパジャマで私と一緒に寝ています。それが今日はどうでしょうか。

 なんとエリカさんは、ベビードールを纏っているではありませんか。

 しかも、ただのベビードールではありません。とても薄い生地でできていて透けていて、しかもそれだではなく、胸とか、大事な部分がその……ぱっくりと開いているのです。

 

「…………っ」

 

 その官能的な姿に、私は目を奪われてしまいました。なんと淫靡なのでしょう。もしサキュバスという存在がいるなら、きっとこういう姿をしているに違いありません。

 

「その……どうかしら?」

 

 エリカさんが、静かに口を開きました。

 

「えっ……?」

「人に選んでもらったから、自分ではどんな姿になっているか分からないのだけれど……変じゃないかしら?」

 

 エリカさんが少し顔を赤らめながら聞いてきました。どうやら、自分がどんな格好をしているか自体は分かっているようです。

 私は、素直にその感想を言うことにしました。

 

「はい、その……とっても、エロいです」

 

 ああ、我ながらなんと月並みな表現なのでしょうか。ですが、今の動転した私には、そう言う他出来ませんでした。

 そう言うと、エリカさんはふっと私に微笑みを向けてきました。

 

「そう……よかった」

 

 そしてエリカさんは、私の思いもよらない行動に出ました。

 まず、エリカさんはいきなり私の唇を奪いました。あまりにいきなりですから私は反応することができませんでした。

 そしてその後、私を、そのままベッドに押し倒したのです!

 

「ちょ、エリカさん……!?」

「本当は全国大会優勝のときにこうして上げたかったんだけど、この下着が届くのが思った以上に遅くてね……ごめんなさい。でも、ようやくこうして貴方を抱いてあげることができる。こんなおばさんの体で悪いけど、ね……」

 

 そうしてエリカさんは、そのまま私の体につつっと、指を這わせてきました。

 指は首筋から胸を経由して、腹部を通ると、そのまま私の大事な場所に……。

 

「ひゃん! ……エ、エリカさぁん……」

「大丈夫、私にはあなたが見えてるんだから。ゆっくりと天国を味あわせてあげる……」

「あっ、ああああっ……うむっ!?」

 

 エリカさんは私の唇を、エリカさんの唇で塞ぎました。

 そしてそのまま、舌を私の口の中へと入れると、まるで別の生き物のように私の体を這うエリカさんの両手は、私の体の弱いところをまさぐって……。

 

「んっ、んんんんんっーーーーーー!!!」

 

 

 結果だけを語りましょう。私はその晩、何度もエリカさんに喘がされてしまいました。

 何度脳内に閃光が走り、視界が真っ白になったことでしょうか。

 ベッドはまるで洪水があったかのようにびしょびしょです。

 体も、汗とか、エリカさんのよだれとか、そのほか色んな液体でびしょびしょです。

 でもなによりその……気持ちよすぎて、私は一方的にされるがままでした。それはもう、こちらで何も出来ず、エリカさんに申し訳なくなるほどには。

 とにかく、私が終始一人でよがっていただけで……。

 父よ母よ妹よ。

 私はとんだ淫乱娘でした。

 どうやら私は勘違いをしていたようです。私はこれをノルマンディー上陸作戦だと思っていましたが、どうやらガダルカナルの戦いだったようです。私が日本側の。

 すべてが終わった後、外はすっかり白んでいました。

 チュンチュンと、小鳥の鳴き声まで聞こえてきます。

 ベッドの上でぐったりとしている私の横には、エリカさんが笑顔で私の顔を見つめてきます。

 その姿は、体に汗をかけど、特に疲れた様子はありませんでした。どんな体力をしているんでしょうか。恐ろしいです。

 

「美帆」

 

 エリカさんは私の頬をそっと撫でてきます。その手がとても優しくて、私は疲れが一気に吹っ飛ぶような気持ちになりました。

 

「は、はい。エリカさん……」

「いままでごめんなさいね。あなたが一人の女性として立派にまるまでは、こういうことは控えようと思っていたの。それの契機を全国大会と考えていたのだけれど……こんなにも遅くなってしまったわね」

 

 そのエリカさんの言葉と瞳があまりにも優しくて、私は嬉しくて泣きそうになります。

 

「そ、そんなことは……! あっ、そういえば、そのベビードール、一体誰に選んでもらったんですか!?」

 

 私は誤魔化すために咄嗟に質問します。実際、それは気になっていたことでもありました。

 

「ああ、これ? これはね、ノンナに選んでもらったのよ。彼女、そういうことには詳しいから」

「ノンナって、あのブリザードのノンナですか!? な、なるほど……」

 

 エリカさんの交友関係は意外と広いようです。そういえば、エリカさん、学園艦が陸に寄ると時折一人で外出するときがありましたが、まさかそのときに……。

 エリカさんは頬を撫でていた手を、そっと私の頭に移すと、今度は何度も私の頭を撫でてくれました。

 

「これからは、毎日……とは言わないけれど、定期的にこうやって抱いてあげる。あなたも、私を楽しませられるようにはなってよね?」

 エリカさんが悪戯な笑みを浮かべます。私は喜んで「はい!」と答えました。私はもう一生エリカさんには頭が上がらなさそうですね。

「美帆……」

 

 エリカさんは私の体を緩やかに抱いてきました。私も、エリカさんを抱き返します。

 

「エリカさん……」

 

 どうやら、エリカさんが私のことをあまり好きではないのではという考えは、すべては私の杞憂だったようです。

 だってエリカさんの体は、こんなにも暖かいんですから……。


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