ある日突然番外編に   作:満足な愚者

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ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ編

「私は、お兄さんと同じ部屋がいいです。なので、自室はいりません!」

 

それは色々とあったカルデアでのクリスマスが終わった翌日のことだった。

 

一人の少女がこんなことを言い始めた。

 

白い肌はまるで陶器のような透明感のある白で初雪を思い出させる色だった。髪は月光のように銀色に輝き、その長さは自身の身長と同じ程度に伸ばされていた。瞳は黄金色で、光の当たり具合によっては輝いて見えた。

 

白い肌に銀色の髪、そして金の瞳と言えば、どこかで見た様な容姿ではないだろうか? 

 

少なくともこれを見ている人ならどこかで引っかかったはずだ。

 

そう、それもそのはず、彼女はあのジャンヌダルク・オルタの幼くなった姿なのだから――。

 

この少女の名は、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ。

 

かのジャンヌダルクオルタが幼くなった存在で色々あったクリスマスが終わった後にこのカルデアに改めてやってきた少女だった。年の頃は小学校中学年くらいか若しくはそれよりもまだ若いくらいだろうか、まだ幼さを残していた。詳しい歳は聞いていないがあながち間違っていないと思う。

 

色々あったクリスマスってなんだよ? そう思う人もいるかもしれないが、色々あったクリスマスについてここで語るには原稿用紙と時間が圧倒的に足りない為、悪いがまた今度報告させてもらいたい。

 

まぁ、クリスマスのことはともかくとして、少女は凛とした口調で冒頭の言葉を口にしたのだった。

 

「ダメです! それは認められません!」

 

その言葉にいの一番に反応したのは俺の目の前に座っていたジャンヌだった。ちなみに席順は六人掛けのテーブルに三対三で向き合うように座っており、俺の向かいには右からジャンヌ、オルタ、ダヴィンチの三人。そして、こちら側には俺、件の中心である ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ、その更に奥には人類最後のマスターの立香が座っていた。

 

「何を言い出すかと思えば、このちっこいのは……。誰がそんなこと認めるものですか」

 

ジャンヌの横に座っていたオルタが顔をしかめながら言う。普段ならあまり意見が合わない二人だが、今回の件については同じ考えを持っているようだった。

 

「何でですか!? 私、聞きましたよ! カルデアは日々サーヴァントが増え続けていると! このままではいつか部屋が足りなくなってしまうかもしれません! だから、私はお兄さんと一緒の部屋で暮らすことによって部屋の数が足りなくなることを防ぐんです! えぇ! カルデアの為です! 決して私自身が一緒の部屋で暮らしたいなんて思ってはないんですからね!」

 

あまり芳しくないジャンヌとオルタの態度にもめげずジャンヌオルタリリィは言葉を続けた。その態度は堂々としており、まるで自分の意見が正論だと心から信じているのだろう。

 

しかし、その言葉も――

 

「却下です」

「却下に決まってるでしょ」

 

成長した自分自身からあっさりと却下の烙印を押されることになった。

 

「なんでですか! どこからどう見ても論理的でロジカルなこの意見が何でダメなんですか!」

 

「どこが論理的なのよ。それにカルデアのまだまだ空きがあるわ。見た目は幼いとはいえ、サーヴァントとして存在しているのなら、一人部屋で自立した生活を送りなさい。それにもしも一人部屋が嫌だと言うのなら、彼の部屋ではなくて白い方の部屋で一緒に暮らせばいいわ。えぇ、それが良いわ! 二人で住むには部屋が狭いと思うからあの部屋を引っ越して少し大きめの部屋で一緒に暮らすといいのよ。わざわざ異性である彼と一緒に住むよりも同性の方がいいでしょ? 倫理的にもね」

 

それがいいわね、とオルタは自分自身の意見に頷く。

 

「確かに一緒に暮らすのなら同性の方がいいという意見には同意を示しますが、しかし、それならば貴女と一緒に住めばいいではないですか? 彼女は貴方が幼くなったサーヴァントなんですから、きっと話も合うでしょうし」

 

オルタの言葉を受け、ジャンヌも言葉を返す。

 

「私としてはどちらも遠慮したいです。正しく成長した私と一緒に暮らすと色々と厳しそうですし……。成長した私の部屋は物が溢れてますし……それに色々と変なゲーm――」

 

とここまで、リリィが話した時だった。

 

「――少し黙りなさい。ガキんちょ。私の部屋についてこれ以上何か言ったら……燃やし尽くすわよ?」

 

普段よりも二トーンは低い声と共に鋭い眼光がオルタからリリィに飛んで行った。その視線はまるで獲物を狩る鷹のように相手を射抜くものであり、戦闘時でも中々にお目にかかる事は出来ないものだった。そして、これはオルタが本気でキレている時の合図でもある。特異点の時ですらあまりお目に掛かれなったものだ。

 

――そこまでして、隠したいもんでも部屋にあるのか?

 

生憎さまオルタの部屋にもジャンヌの部屋にもまだ一度も入ったことはないので二人の部屋に何があるのかは知らないが、リリィの言葉を聞くにオルタの部屋は中々に凄いことになっていそうだ。色々と気にならないと言っては嘘になるが、オルタのあの態度を見ていると藪を突いて出るのが、棒ではなく蛇だろうと思うので、ここはスルーしておくとする。君子危うきに近寄らずだ。

 

でも気になるのは気になるので、今度あいつが酔った時にでも聞いてみようと思う。どうせ介抱するのは俺なのだし、その駄賃としてこれくらいの事は聞いても罰は当たらんだろう。部屋に行くわけでも部屋を勝手に見る訳でもないんだし。まぁ、もしも人の住めないような魔境になっていそうだったら、ジャンヌと二人で強制的にでも片づけに行こうと思う。

 

「ひ、ひぃぃぃ」

 

オルタの脅しを受けたリリィは素早く椅子から立ち上がり俺の背中に隠れると顔だけをひょっこりとだして続ける。やっぱり怖いよなあの声とあの目で睨まられたら。俺だって怖い。

 

「お、脅しですか? 権力には屈しませんよ! と、とにかく、私はお兄さんと一緒の部屋で暮らします!」

 

プルプルと震えながらもリリィは言った。その目尻は涙が溜まっている。その様子を見ていると昔のことを思い出して少し笑いそうになった。そう言えばジャンヌは泣き虫だったよな。ドンレミの村ですぐに泣いていた少女のことを思い出す。

 

「まぁ、オルタの部屋がどうなっているのか今は置いておいて……。師匠と一緒に住むのは認められません。第一に師匠も迷惑でしょう」

 

ここに来て漸く渦中の中心であった俺に話が回ってきた。今までも会話に口を挟もうと思っていたんだが、いかんせんジャンヌ達三人でテンポよく話している物だから口を挟むタイミングが無かった。

 

「別に俺はリリィがか――」

 

別に俺自身はリリィと一緒の部屋で暮らすことに抵抗はない。何といってもジャンヌ幼い時の姿に似ているし、妹が増えたような感じだ。

 

だから、別に俺はリリィが構わないなら構わない。そう言うはずだった言葉は途中でかき消されてしまった。言葉の途中で俺の後ろに隠れていたリリィが大声を出したからだ。

 

「――大丈夫です! お兄さんが迷惑だなんて思う訳ありません! クリスマスの日にあれだけ私に優しくしてくれたんですから! お兄さんだってきっと私と暮らすことに賛成なはずです!」

 

「何を言いだすかと思えばそんなことを……彼が優しくしてくれたって? ふん、当たり前じゃない。彼は誰に対してもそんな態度よ。だから、自分だけが特別だってうぬぼれないことね」

 

リリィの言葉をオルタはまるで興味のないかのようにバッサリと切って捨てた。

 

「むぅ……。成長した私はきっと、クリスマス自分だけいなくてきっと拗ねているだけです」

 

「――何か言ったかしら?」

 

「――ひっ! ま、また脅しですか!? 恐喝ですか!? でも、私は負けませんよ! く、来るなら、き、き、来なさい!」

 

俺の背中に隠れ、プルプルと震えながらリリィは続ける。

 

そんなジャンヌ達三人の話し合いを立香とダウィンチは紅茶を飲みながら微笑ましそうに見ている。どうやらあの二人はとっくの昔に意見を言うのを諦めて成り行きにことを進めていくことに決めたらしい。俺も出来ればわれ関せずのスタンスを取りたいのだが、思いっきり自分に関係のある事なのでそれも出来ない。

 

はぁ、と内心でため息をつきながらも、俺の椅子の後ろにいるリリィに手を伸ばし、その頭を撫でてやる。

 

「お、お兄さん……」

 

「ほら、オルタもそんなに虐めてやるなよ。可愛そうじゃないか」

 

「べ、別に虐めている訳じゃ……それもこれも、その小生意気な小娘が悪いんだし」

 

小生意気な小娘って……一応お前が幼くなった姿なんだけどなぁ……。

 

まぁ、口調にも棘はないし、きっと自分自身の幼い時の姿や言動を見て恥ずかしがっているだけに違いない。まぁ、それは置いておいて、だ。

 

「それに俺はリリィが――」

 

またしても俺は言葉を最後まで言い切ることが出来なかった。リリィがいいなら構わない、と続くはずだった言葉は今度は目の前に座るジャンヌの声によってかき消された。

 

「とりあえず! 師匠との同棲は私とオルタが認めません。どうしても一人部屋に不安があるのなら、狭くなりますが、私かオルタと一緒の部屋に住むか、もしくはナーサリーとジャックの部屋に住むのかにしてください!」

 

俺の言葉をかき消してそう言い終えたジャンヌと目が合う。

 

――しばらく黙っておいて、お兄ちゃん!

 

透き通った碧眼はそう物語っていた。その目は戦闘時のそれ並みに真剣であり、思わずたじろいでしまいそうになった。

 

――オルタといいジャンヌといいなんでこんなにマジになってるんだ? たかが部屋割くらいで。

 

内心ではそう思うが、それを口に出したら最後、事態の収拾がつかなくなること位は馬鹿な俺でも分かるのでここは黙っておいた方がよさそうだ。要らないことを言ってジャンヌとオルタから噛みつかれるのは御免だ。

 

「そうね、あのちびっ子達と一緒の部屋でいいんじゃないの? 何でもクリスマスの時に仲良くなったんでしょ?」

 

ジャンヌの意見にオルタも頷く。カルデアのサーヴァント達は基本的に一人につき一部屋を与えられているのだが、例外というものも存在する。その内の一つがナーサリーライムとジャックザリッパーだ。二人ともサーヴァントには珍しく幼い少女と言うこととお互いに仲がいいことを考慮して二人で一部屋となっていた。ちなみに二人とも俺に懐いてくれていて、たまに一緒に遊んだり勉強を教えたりしている。まぁ、その時の話もおいおい時間がある時に話そうと思う。

 

「た、確かにナーサリーともジャックとも仲が悪いわけじゃないですけど……」

 

「じゃあそれで決まりね! 全く無駄な時間を取らせて……」

 

「で、でも! それじゃあお兄さんと離れ離れに……! うぅ! 成長した私の馬鹿!」

 

「なっ!? 言うにことに欠いて馬鹿ですって!? この私が!? はんっ、私が馬鹿だと言うのならそこの聖女様は大馬鹿者でしょうね」

 

「何ですって、オルタ? 何で私が大馬鹿になるんですか? これでも生前はシャルル七世に聡明だと褒められたこともあったんですよ!」

 

「それは貴方じゃなくて、彼の教育が良かっただけよ! それにいくら彼の教育が良かったとしても貴女、まだ計算が苦手じゃない。計算が苦手な時点でどこも聡明じゃないわ。精神的に向上心のないものは馬鹿だ、彼の好きな作家はこう書いているわ。だから、貴女は大馬鹿なのよ」

 

「う……それを言うなら貴女だって一緒じゃないですか!」

 

痛い所を突かれたのか言葉が詰まったジャンヌに対してオルタは尚も続ける。

 

「はんっ、私は日々成長しているのよ。貴方と違って彼に時々教えて貰っているから、既に私のレベルは高校卒業レベルはあるわ」

 

「なっ!? それは本当ですか? お兄ちゃん!?」

 

よほど衝撃を受けたのか立香やダヴィンチが目の前にいるにも関わらずジャンヌは俺の呼び方を変えた。これは後で本人が後悔するパターンなような気がするがそれをここで言っても話は進まないためジャンヌの質問に大人しく応えることにする。

 

「まぁ、本当だな」

 

それはある日の夜の事だった。俺の部屋を訪れたオルタから乞われたのが数学を教えてほしいと言うことだった。俺自身も特に断ること気軽な気持ちで引き受けた。初めは中学レベルの数学くらいまで教えればいいだろうと軽く考えていたが、オルタのやる気は凄まじくすぐに中学レベルから高校レベルに上がりもう少しで俺の教えられることは全て教え終える。初めは掛け算すら怪しかったと言うのに、今ではベクトル、数列、微分積分すら出来るようになった。このままのペースでいけば俺が抜かれるのも時間の問題だろう。問題を聞かれた時に答えられないのは流石に兄貴分として嫌なので俺もここらで誰かに数学を乞いておこうと思う。

 

「な、何時ですか! 何時の間に」

 

よっぽどの衝撃だったのか机を一つバンと叩きジャンヌは身をこちらに乗り出す。

 

「い、いや、夜の話だけど……」

 

その勢いに少しばかりたじろぎながら応える。

 

「よ、夜ってあの部屋決めのルールでは……」

 

「はん、これだから模範回答しかできない聖女様は……。あの決まりでは八時以降に私の部屋から彼の部屋に向かう扉が使用できないだけ。普通に正規の扉から訪れれば何の違反でもないわ」

 

「な、な、な、な……なんで言ってくれないんですか! お兄ちゃん!」

 

「ちょっと馬鹿やめろ! 揺さぶるな!」

 

何をそんなに興奮しているのかは分からないが俺の胸元を掴んで激しくシェイクするのは止めてほしい。ポンポンとタップの意味も込めて腕を叩くと漸くその動きは止まった。

 

「うぅ……。オルタにばかり負けていられません。お兄ちゃん、今度は私にも教えてください!」

 

「あぁ、分かった。ジャンヌには美味いもの作って貰ってお世話になってるからそのお返し代わりに何時でもいいぞ」

 

俺としては何気ないその言葉に――

 

「ちょっとそれはどういう事かしら?」

 

――今度はオルタが食いついた。

 

「何? 貴方まさかこの白い奴の手料理を食べているの?」

 

「……あぁ、たまに昼食とか作ってくれたりするんだよ。後は一緒に作ったりとか……」

 

「な、何ですって!? ちょっと白いのそれはどういうことですか?」

 

「どうも何もお兄ちゃんが言っているままですけど……。レイシフトで貴女はいないことも多いですが」

 

「くっ! 抜かったわ! 私がいない時を狙って……胃袋から掴みにいくなんて、流石オリジナル、汚い! 汚いわ!」

 

「汚いなんて酷い言い方は止めて下さい。それに私はカルデアにきて鍛えた料理の腕をお兄ちゃんに披露しているだけです! 他意はありません!」

 

「料理の腕を……?」

 

「えぇ、厨房のエミヤさんやタマモキャットさん、そしてお兄ちゃんに料理を教わった私の腕前は今やカルデアの食堂で出しても問題ないレベルです!」

 

バン、と効果音が聞こえてきそうなくらい堂々とした態度のジャンヌ。先ほどの悔しそうな表情はどこに行ったと言うのだろうか。

 

「くっ! ねぇ、貴方! 今度私にも料理教えてくれないかしら?」

 

オルタは忌々しいものでも見たかのような苦虫を噛み潰したような表情をジャンヌに向けた後こちらを向いた。

 

「あ、あぁ、勿論、俺で良ければ」

 

思わずそう頷いたが、思えば俺の料理の腕前自体はあまりジャンヌと変わりはないと言うことに気付いた。

 

「あ、でも俺よりもエミヤとかに聞いた方が……」

 

間違いなく料理の腕前で言えばエミヤの方が上だ。なのでこう続けた言葉は、

 

「いやよ。何で私が貴方以外の人間から何かを教えて貰わないといけないのよ?」

 

オルタによって躊躇いもなく一蹴されてしまった。

 

「あ、あの……」

 

「どうした? リリィ?」

 

「私にも勉強と料理を教えてほしいんですが……」

 

俺の背中に未だに隠れていたリリィがちょんちょんと服を引っ張りながら言ってきた。

 

「あぁ、別に構わないよ」

 

宝具を持っていない俺は普段からレイシフトに参加することは少ない。カルデアにいるサーヴァントで一番レイシフトしていないと言っても過言ではない。そうなると特にやることはなく暇な時が多くあるのだ。時間は余りに余っているので別に構わないと伝えると、

 

「ありがとうございます、お兄さん!」

 

リリィは花が咲いた様な笑顔になった。

 

この笑顔が見れたのならちょっとくらいの苦労は訳ないな……。

なんて人知れず思った時に気付いた。

 

――あれ? これ話がだいぶ脱線していないか?

 

確かこれはリリィの部屋割を決める話し合いだった筈なのにいつの間にこうなったんだ。ふと、ダヴィンチと立香の方に目をやれば微笑みを返された。どうやら、さきほどまでの会話を聞いて楽しんでいたようだ。

 

「じゃあ、これで私とお兄さんが一緒の部屋と言うことでいいですね!」

 

「何がいいですね、よ。良くないわ! このガキんちょの頭には脳みそ入っているのかしら?」

 

「ダメに決まっています!」

 

「何でですか! 勉強と料理をお兄さんから教わるのなら、一緒の部屋で暮らすのが効率的で論理的に正しいと思います!」

 

――あれ、これどこかで見た流れだな……。

 

結局話合いは難航したが、リリィが一人部屋で暮らすと言うことで終止符が打たれた。それと同時に俺の部屋は四方をドアに囲まれてしまった。

 

――どうしてこうなった……。

 

そのため息にも似た呟きは誰の耳にも入ることはなかった。


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