ある日突然番外編に   作:満足な愚者

3 / 10
この話から本編に乗せたことがない話になります。実質この番外編の第一話と言っていいかも……。


その三 ジャンヌ編

それはある冬の午前中のことだった。

 

「うふふふ……」

 

カルデアの俺に宛がわれた部屋にてソイツは炬燵に入りながら楽し気に笑う。白いその手には綺麗に剥かれたミカンが一つ。

 

昔から果物が好きだったソイツは朝からパクパクと俺の部屋に置いてあったミカンを食べていた。

 

「どうしたんだ? 急に笑い始めて」

 

そんな彼女の対面に座り、入れたばかりの熱いお茶を啜りながら聞いてみる。

 

――あぁ、やっぱり冬には熱い緑茶が美味い。

 

フランス的にはここで紅茶を飲むのが正解なのだろうが、生憎炬燵に合う飲み物と言えば古今東西、熱い緑茶か、日本酒の熱燗だと相場が決まっているのだ。俺もそれに習い炬燵で飲むなら紅茶よりも、緑茶だ。ちなみにそれは目の前に座る彼女も同じらしく、彼女の前には湯気が上がっている湯呑があった。

 

「いや、何だか楽しいね」

 

彼女はそう言うと一房ミカンを口に運び更に笑った。何だかよく分からんが楽しそうで何よりだ。

 

「楽しいも何もただ自室でのんびりしているだけだろ」

 

先週末に少しだけ模様替えした我が部屋だが、基本的には相変わらずどこか殺風景な印象を受ける。そんな部屋の中で朝から俺と彼女がやっていること言えば、炬燵に入りながら熱いお茶を啜り、時たまミカンをつまみ、そして何のためにもならない雑談をしているだけだった。

 

ちなみに、ここにもう一人の彼女、黒い方のオルタがいない理由は、先日考案された種火集めメンバーくじ引きで選ばれたからだ。きっと、今頃はブツブツ言いながらも種火集めに奮闘しているころだろう。あぁ、そう言えば種火集めで思い出しが、今日のメンバーにはデオンもいるんだよな……。オルタとデオンが一緒って色々と大丈夫か……?

 

まぁ、昔から喧嘩するほど仲が良いと言うし、大丈夫だろ……多分。

 

「うん、それがいいんだよ」

 

そう話す彼女の笑みは柔らかく優しいものだった。普段と同じ笑みでも今の彼女の服装のせいでどこか違う印象を受ける。

 

今の彼女の服装は、何時もの服装とは違い白いセーターと茶色のズボンだ。流石に戦闘でもないのにあんな仰々しいと言うか華々しいと言うか、何と言うかまぁとりあえず、あの白い衣装を着ることはない。基本的にこういうレイシフトも何もない日というのは気軽にカジュアルな服を着ていることが多かったりする。

 

そんな彼女の服装のせいで、今の彼女からは聖女というにはどこか神秘さが欠けているような印象を感じられた。どちらかといえば、聖女よりも村娘という言葉が今の彼女には当てはまるだろう。

 

もしかしたら、彼女があのまま聖女にならなかったとすれば、こんな女性に成長したのかもしれない。

 

まぁ、村娘のような雰囲気といっても彼女の美貌は何を着ても目立つもので、村娘というよりか芸能人と言った方が正しいのかもしれないけど。

 

「そういうものか?」

 

「うん、そういうものだよ。お兄ちゃんが戦争に行った日からこんな風に二人きりでのんびりと出来る時間はなかったし」

 

「そっか、確かにそうだよな」

 

思い返せばそうだった。俺がドンレミの村を出た時から、俺と彼女が二人きりでのんびりと話す機会はなかった。俺が村を出て戦争に向かった後、その次にジャンヌと話すことが出来たのは、処刑される時だったし、その後再び顔を合わせた時は特異点やら、竜の魔女やらで世界滅亡の危機の真っ最中で、とても暢気に雑談している場合じゃなかった。

 

そう言われば、確かにこうして彼女とのんびりお茶でも啜りながら話すのは相当ぶりだ。

 

――何だか、昔に戻ったみたいだな

 

「うん、何だか昔に戻ったみたいだよ」

 

――何だ、考えていることは同じか。

 

思わず笑みが零れた。

 

「――?」

 

頭にハテナマークを浮かべている彼女に笑いかける。

 

「いや、俺もちょうど同じことを思っていたんだよ。何だか、昔に、そうあのドンレミの村にいた時と同じ感じだなってさ」

 

もちろん、ドンレミの村には炬燵も緑茶もない。

 

でもきっと――。

 

「そうだね――戦争も何もなくてお兄ちゃんも私もあの村にずっといたらこんな雰囲気だったのか?」

 

――もしもの話だ。もしも、あの時、フランスとイングランドとが戦争せず、そして世界が平和だったのなら、俺とジャンヌはドンレミの村でこんな感じになっていたに違いない。

 

「多分な」

 

そう言って、俺は熱い緑茶を一口啜る。

 

「あぁ、そう言えばお茶で思い出したけど、今度マリーさんがフランス組でお茶会しようって言ってたよ。お兄ちゃんも是非だって!」

 

「そうか。ん? でも俺ってフランス組に入るのか?」

 

「え? だって、ドンレミの村出身でしょ? 英霊としてもフランスよりの英霊だし」

 

「いや、出身が何処かって言われれば多分、冬木だから日本に……いや、その辺りどうなるんだろ?」

 

聖女との何気ない話はまだまだ続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お兄ちゃん、今日お昼どうするか決まってる?」

 

のんびりと何気ない雑談を続けていた時だった。ふと、彼女はそう言った。

 

時計の針はもうすぐで十二時を指す。お昼時だ。

 

「いや、決まってないが、とりあえずいつも通り食堂で食べるつもりだけど」

 

「そう、じゃあ予定はないんだね」

 

「まぁ、そうなるな」

 

――じゃあ、さ。

 

そう彼女は呟くと、

 

「今日は私がお昼作るから一緒にこの部屋で食べようよ」

 

そう続けるのだった。

 

「料理?」

 

「うん、料理」

 

俺の問いかけに彼女は是と頷く。

 

「いや、それは構わないが、材料あったかな?」

 

食堂に行けば飯は食えるからわざわざ作るのも面倒だし、それにエミヤの飯は美味い。そんなんだから、普段あまり部屋では料理をしないため、冷蔵庫に材料が入っていない可能性は大いにある。つまみ用に少しならあると思うんだけど、料理をつくるとなると少し心もとないし。

 

「それなら大丈夫、昨日エミヤさんに材料分けて貰ってるから!」

 

彼女はそう言うと炬燵から立ち上がる。

 

「材料は持ってくるからキッチン借りるよ」

 

「それは構わないが、手間じゃないか?」

 

「いいのいいの私が作りたいだけなんだから! お兄ちゃんはお茶でも啜りながらのんびり待っててよ!」

 

そう言うと彼女は扉の向こうに消えた。あ、これは言うまでないかも知れないが、その扉というのは、彼女の部屋に直通で行ける扉の方な。相も変わらず俺の部屋には扉が三つある謎の現象が続いていた。もう最近はこの扉が三つある部屋にも慣れつつある。まさか、これ以上増えたりいしないよな、な?

 

彼女が食材を袋に入れて俺の部屋に帰ってくるのはそれから直ぐ後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして数十分後、炬燵の上には彼女の作った昼食が並んでいた。

 

「まさかフランスの料理じゃなくて和食が出てくるとは」

 

美味しそうに湯気の立つそれらは和食。しかも、コテコテの。

 

味噌汁にご飯、そして焼き魚につけもの、そしておひたし。

 

一体誰に教えて貰ったというのだろうか。

 

そんな疑問を浮かべていると、

 

「えっへん! 凄いでしょ! 実はエミヤさんからちょっとずつ教えて貰っていたんだ! 味もエミヤ印の保証済み! 自信あるよ! さぁ、食べて見て!」

 

そう彼女は誇らしげに胸を張る。普段と違い白いセーターというカジュアルな服装の今の彼女が胸を張ると、強調されるところが強調されて目のやり場に困る。

 

気恥ずかしくなったため、視線を料理に戻せば、確かにどれもこれもが美味しそうだった。

 

これなら自信があるのも窺える。

 

「そうか、じゃあ早速食べるか」

 

「うん」

 

「「いただきます」」

 

二人で合掌。

 

まずは味噌汁を一口。

 

――うん、美味い。あ、具はワカメと豆腐か。

 

「どう美味しい?」

 

「あぁ、とても美味しいよ」

 

手際もよかったし、きっと相当練習したんだろうな。

 

「そっか、よかったぁ!」

 

俺の言葉に彼女は安堵の笑みを浮かべる。どうやら言葉では自信たっぷりに話していたが、その実内心では心配をしていたらしい。

 

「あぁ、これなら毎日でも作って欲しいくらいだ」

 

「――え? 毎日!? それって、、、え? え?」

 

そんな俺の何気ない言葉に彼女はアワアワと顔を赤く染めて狼狽える。普段は真っ白な彼女の肌が一瞬で熟れたトマトのように紅く染まる。

 

「――これってあれだよね。私の味噌汁を毎日飲みたいってことだよね! エミヤさんが言ってたもんね! 日本人の告白には毎日、俺に味噌汁を作ってくれないか、という言葉があるって! じゃあ、やっぱりこれってそういうことでいいんだよね!? ね!?」

 

何があったのかよく分からんが暴走し早口で何かよく分からんことを言い始めたソイツに、

 

「何言っているのか分からないが、このレベルの味噌汁を作れるのなら、食堂で出しても毎日誰か喜んで飲んでくれると思うぞ。エミヤのレベルとそん色ないし、この味噌汁」

 

――特に日本人サーヴァント多いし、ここ。朝食で和食出せば人気になれるかもな。

 

そう付け加える。

 

「え?」

 

急に素面に戻った彼女。

 

「お兄ちゃんさっきの言葉って?」

 

「さっきの言葉って?」

 

「私の味噌汁が毎日作って欲しいとかいう」

 

「あぁ、あれか、食堂のメニューにあったら飲みたいなぁって話だよ。きっと、他のサーヴァントも気に入ってくれると思うぞ。きっと毎日食堂でだしても誰か飲んでくれると思うぞ」

 

聖女が作る和食朝食セット、なんか秋葉辺りで売れば売り切れ間違いなしのネーミングだな。

 

「お兄ちゃんは?」

 

「いや、まぁ食堂にあったら飲むけど、和食ばかりだと飽きるしな。それに味噌汁くらい自分で作れる」

 

そう言って、ご飯を一口。うん、美味い美味い。

 

「お、お――」

 

彼女は急に箸を置くと肩を震わせる。

 

「ん?」

 

「――お兄ちゃんのバカァあああああああ!!」

 

そして急にそう叫ぶのだった。

 

最後に、彼女の料理は全て美味だったとだけ記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、夜。食堂にてエミヤの作ったご飯に舌鼓を打った帰り。

 

「お兄ちゃん」

 

場所は俺の部屋の前。時刻は、午後八時をすでに回っていた。

 

「うん?」

 

自室の扉の前で彼女は立ちどまった。

 

「また、明日っていいね!」

 

彼女はふとそう言った。

 

――また、明日。

 

あのドンレミの村から旅立ってから俺たちには無縁の言葉。使うことが出来なかった言葉。久しく俺と彼女の間では使われることのなかった言葉。

 

「あぁ、そうだな」

 

「じゃあね! お兄ちゃん――また、明日」

 

そして彼女はそう言うと笑った。それは無邪気な少女のような年相応の笑顔だった。

 

「――あぁ。また、明日」

 

こうして、カルデアでのある冬の日は過ぎていった。

 

そういえば今、思い出したが、デオンももう一人の彼女も帰ってこなかったが、一体なにやってんだ? 

 

俺の疑問に答える奴はいなかった。

 

そして、俺の部屋に新しい扉が作られる日も近い……のかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

種火集めにて

 

「あら、ごめんなさい。敵を狙ったつもりが狙いが少し逸れてしまったわ」

 

「いや、気にしないでいいよ。首筋ギリギリを掠めただけだから……それに鈍間なアヴェンジャーの攻撃に当たるわけないから大丈夫だよ――おっと、こっちこそごめんよ、剣がすっぽ抜けてしまったよ」

 

「いいえ、気にないでいいわよ。左頬を掠めそうになっただけだから。それに、泥棒猫の攻撃なんて恐れるに足りずよ。どうせ私に傷一つ与えられないわ!」

 

「「…………っち」」

 

『吼え立てよ、我が憤怒(ラグロントメントデュヘイン)』

 

『百合の花咲く豪華絢爛(フルール・ド・リス)』

 

「もう、誰か助けてええええええええええええええええ!!!!!」

 

「せ、先輩、気を確かに!」

 

 




ここのカルデアのマスターは苦労してそう。そして、やっぱりジャンヌさんはヒロインって分かるんだね。

一話のあとがきと被るんですが、ここの主人公がもしカルデアに召喚されるとしたらクラスは一体……

いや、意外とまじでどのクラスにも当てはまらないような……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。