ある日突然番外編に   作:満足な愚者

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こちらも削除しましたが、昔っぽい世界にの方に乗せていたやつです。こちらはおまけもないもないのですでに読んでいる方は読み飛ばして下さい。

一応次の話からはこの作品だけの話になります。


その二 デオン編

それは一段と気温が落ち込んだ冬のある夜の出来事だった。いつも通り食堂にて少し早めの夕食としてアーチャーエミヤの作った料理に舌鼓を打った後、カルデアに宛がわれた自室にてのんびりとしていた時だった。

 

――とんとん。

 

そんな控えめなノックが聞こえて来た。時計の針を確認すれば、夜の七時に後十分ほどでなろうかという時刻。

 

ノックされたドアは何故か部屋に三つあるドアの内の正規のドア、即ち廊下へと繋がっている物からだった。

 

――こんな時間に誰だ?

 

正規のドアという時点でまず、あのジャンヌ二人組の線は消える。アイツらはそんなまどろっこしいことはせずに自分の部屋から直接俺の部屋向かうことのできる扉を使うし、そもそもノックなんて物をしないことの方がほとんどだ。

 

――後考えられる線と言えば……。

 

まぁ、いいや悩んだところで何も解決しないし、とりあえず出て見ればいいか。

 

「あいよ、今出るからちょっと待っててな」

 

何も考えず鍵を開けて扉を開けば、

 

「やぁ、先ほどぶりだね」

 

ジャンヌとは少し違い金と銀を織り交ぜた様な柔らかな金色の長髪に、青色の普段着を来た人物が一人。

 

扉の向こうにはいつも通りの優しい笑みを浮かべたシュヴァリエ・デオンがいた。

 

「デオンじゃないか。今日はどうしたんだ?」

 

「どうしたって何か用が無ければキミのところには来てはいけないのかい?」

 

「いや、そんなことはないが……。まぁとりあえず入りなよ」

 

立ち話も何だと言うことで部屋へと案内する。その案内受けデオンはいつも通り俺のベッドへと腰をかける。いや、ジャンヌ達もそうだけどカーペットにある座布団ではなくてベッドに腰を掛けるのはなんでだろうな。

 

別に不快でも何でもないんだけど、不思議に思ってしょうがない。エミヤあたりだと座布団か椅子に陣取るのに……。あぁ、あれかやっぱり国境の違いか。それならイシュタルあたりだとどうなるんだろうか……。いや、俺の部屋にあいつが来ることはないと思うが……。

 

「相変わらずだね、キミの部屋は」

 

そんな変な納得を内心でしていた俺に対してデオンは言う。その顔持ちからは緊張の色は見えない。まるで自室にいるかのようにリラックスしているようだった。

 

「変わり映えもなにも、物があまりないからな。殺風景だろ?」

 

俺の部屋にある物といえば、備え付けの冷蔵庫に、ガスコンロ、そして本棚にベッド、あとはクローゼットにイスと机くらいなものだ。寒くなって来たので炬燵でも出そうか考えてはいるがいつも面倒くさくなって後へ後へとずるずる伸ばししている。

 

「別にそんな意味で言ったわけじゃないんだけどね。まぁ、いいや。でも、ボクは嫌いじゃないよ。キミの部屋は」

 

そう言ってシュヴァリエ・デオンは微笑む。男とも女とも美青年とも美少女ともとれる柔和な笑みだた。何時もと違い帽子をしていないデオンはますます性別が分からない、でもなぜかその笑顔にドキりとする俺がいた。

 

「まぁ、こんなむさくるしい部屋でよければいつでも来てくれよ。それで今日はどうしたんだ?」

 

デオンの手に持つ袋からある程度予想は出来るのだが、とりあえず聞いておく。

 

「ボクが来る理由なんていつも通りさ。今日はあの聖女と魔女がいないんでね、ゆっくりキミと語り合おうと思ったまでだよ」

 

そう言ってに持っていた袋から瓶を二つ取り出す。

 

「何時も通りワインとそしてキミ用に持ってきたラム酒さ。今日は一段と寒いし飲んで温まろうよ」

 

魅力的な笑みを浮かべながらそうデオンは言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば気になっていたんだけど」

 

「ん? どうかしたのかい?」

 

俺はラム酒をデオンは赤ワインを、それぞれコップ四杯ほど飲んだ時だった。ふと、思っていたことを聞いてみることにした。

 

「デオンは何時もジャンヌ達がいない時に来るがどうやってアイツラの予定を把握しているんだ?」

 

デオンがこうして俺の部屋に呑みに来ることはこれが初めてではない。今まで幾度とこうして俺の部屋を訪れている。そして、そのタイミングは毎回ジャンヌ達が二人ともレイシフトでいない時だった。

 

「キミも知っているだろう、ボクの経歴は」

 

「フランスのスパイだったってことくらいはな」

 

「そう、つまり情報を集めることは得意中の得意だってことさ。ちなみにキミも知っていると思うけど、今日あの二人は種火集めにマスターと一緒に出掛けている。終わるのはどれだけ早くても夜の九時を超えるだろう。だから、それまではキミを独り占めできるってわけだよ」

 

「さすが、元スパイってわけだ」

 

「まぁ、そういうことだよ。それにしても少し酔ってきたかな」

 

頬を少しだけ赤く染めながらデオンは言うと服のボタンを上から二つほど開けた。

 

「何だか暑くなって来たよ」

 

そうして手で胸元を仰ぐようにパタパタと右手を動かす。純白の胸肌がチラリと見えて、思わず目を背けた。

 

「うふふふふふふ。キミは初心だね。そんなに見たいならじっくり見ればいいのに……。キミにならボクは全てを見せてもいいよ」

 

「そう、男の子をからかうもんじゃないぞ。それよりも、暑いのなら暖房の温度を下げようか?」

 

「いや、そこまではないよ。キミの方は暑くないのかい?」

 

そうデオンに言われて気付いた。意識すると体が内側から火照ってきていることに……。

 

――そう言われれば何だか暑くなって来たな。

 

「そう言われれば俺も何だか暑くなって来たよ。とりあえず暖房の温度下げるな」

 

壁に掛かっているエアコンのリモコンを取ろうと立ち上がった時だった。急に体がふらつき倒れそうになる。

 

「――おっと、大丈夫かい?」

 

「すまん、助かった。ありがとう」

 

バランスを崩した俺はデオンに抱きかかえるようにして助けられた。デオンの柔らかい体の感覚がやけに印象的だ。

 

「少しぺースが早すぎたのかもしれないね。とりあえず、ボクの横に座りなよ」

 

――あれ、そんなふらつくまで飲んだかな。おかしいな普段ならまだまだいけるはずなのに。

 

そんな疑問を半ば朦朧とする脳内で思いながらデオンの誘導のままベッドに腰を掛ける。

 

「すまない、デオン。本当に助かる」

 

「キミとボクとの仲じゃないか、気にしないでくれよ」

 

デオンも酔っているのだろうか先ほどよりもさらに顔を朱に染めて微笑む。

 

「ありがとうな、お前みたいな友人を持てて俺は嬉しいよ」

 

俺の言葉にデオンは、小さくつぶやくように口を開いた。

 

「……やっぱりキミはそういう奴なんだね」

 

その言葉は半ば意識が朦朧としている俺には届かなかった。

 

「何か言ったか?」

 

「ううん、何でもないよ。それよりも……随分酔っているようだけど大丈夫かい?」

 

デオンは俺の問いかけに首を一度振ると顔をグッと乗り出す様に近づける。その距離は目と鼻の先と言っても距離だった。

 

「あ、あぁ、大丈夫だ。普段はこれくらい平気で飲めるから多分すぐによくなると思う」

 

整った顔が眼前一杯に広がったために思わずしどろもどろになった俺の内心何て露にも知らないデオンは息の触れ合う近さを保ったまま、

 

「本当に? キミは何時も無茶をするからね」

 

「あ、あぁ! 本当に本当に大丈夫だ」

 

――何かがおかしい。

 

先ほどから何時もと酔っている感覚が違う。何というか浮いているような、何も考えられなくなるようなそんな感覚だ。

 

「そうか、キミがそういうのなら大丈夫だろう」

 

デオンが笑う。そこらの芸能人や女優よりも遥かに整った顔を持つデオン。

 

大きくはだけた胸元に朱に染まった頬――視線が逸らせなくなる。

 

――あれ、デオンってこんな良い匂いしたんだっけ?

 

まるで花、そうこれは白百合の花のような匂いが鼻孔をくすぐる。

 

脳みそが溶け出しそうな感覚に陥る。

 

「どうかしたのかい? 辛そうだよ」

 

デオンはいつも通りの優しく魅力的な笑みを浮かべながら俺をそっと抱きしめた。

 

柔らかくて温かい感覚が全身を包む。白百合の香りが鼻孔を犯す。

 

――何も考えることが出来ない。

 

「うふふふふ。今にもとろけそうな顔をしているよ。うん、それでいいんだ。そのまま快楽に身を落とせば……」

 

「な……な、何を、いって……」

 

「ボクが男か女かどうか、それはキミがこのままベッドに押し倒せば分かる事さ」

 

――そいつの言葉は魔法のように、そして呪いのように俺を蝕む。

 

なにもわからない。なにもかんがえられない。

 

「キミの周りにはあの聖処女と面倒くさい魔女しかいないから、相当溜まっているんじゃないかい?――ボクにその欲望を吐き出してみないかい? キミの全てをボクは――シュヴァリエ・デオンは受け入れよう」

 

――おれは、いったいどうすればいいんだ?

 

――――バタン!

 

そんな時だった。大きな音を立てて扉が開かれた。

 

その音と共に覚醒する意識。

 

「このオルタ様に掛かれば種火集め何てすぐに終わるのよ! さぁ、私を褒めたたえなさい!」

 

――あれ、俺いままで何していたんだっけ?

 

一気に覚醒した意識で音の方角を見れば、黒い衣装に身を包んだジャンヌオルタが扉を開け放った姿で立っていた。勿論言うまでも無く正規の扉ではない方だ。

 

「あれ、何で俺ベッドに座っているんだ?」

 

横を向けば体温が伝わる位置に友人、デオンがいた。

 

――あぁ、そう言えば、デオンと飲もうと話をして飲んでたんだっけ?

 

それにしては途中からの記憶がない。感じる限りそこまで酔ってはいないんだけどなぁ……。

 

そして気付いた。

 

今の俺の状況を……。

 

ベッドにて俺とデオンはお互いの体が触れ合う距離に座っている。そんな状況をオルタが見ればどうなるか。

 

「――ッチ。まさか、ここまでいって邪魔が入るなんて。竜の魔女の戦闘能力を舐めてたか」

 

そんな友人の声が聞こえないほど俺は焦っていた。

 

――まずいこれは非常にまずい。

 

ギギギと顔を再びオルタに向ければ、

 

「これは一体どういうことかしら?」

 

満面の笑みのオルタがいた。ただし言うまでも無く目は笑っていない。

 

「――すまないがボクは急用を思い出した。また明日会おう!」

 

「逃がすと思ってるの!? シュヴァリエ・デオン! 今日こそ、塵一つ残さず灰にしてやるわ!」

 

バッと勢いよく扉に走るデオンにオルタは、

 

「おい馬鹿や――」

 

止める暇はなかった。

 

「――これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……『吼え立てよ、我が憤怒』!」

 

復讐に染まった憎悪の炎が対象を焼き尽くさんとする。

 

「――って、これ俺も対象に入ってないか!?」

 

「当たり前でしょ! 何時も何時もあの泥棒猫にそそのかされるアンタが悪いんだわ! 反省しなさい!」

 

「いや、別に俺とデオンはただの友人関係だって!」

 

「うるさい! うるさい! うるさい!うるさい!!」

 

「うわわわわわ! 燃えてるって本当に燃えてるって!」

 

こうしてある冬のある日俺の部屋は業火の炎に焦がされることになった。きっと、マスターが来るのが後数秒遅かったら半焼ではなく全焼していたに違いない。

 

ちなみにデオンの奴はちゃっかり逃げ切っており、被害の一つも受けていないのはもはや言うまでもない。


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