とある傭兵と脚本家   作:子藤貝

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今回は短め。
それと少年期編前編終了、
みたいな感じですね。
あと前回のあとがきでタイトル通りに
なるとかほざきましたが、
すみません次回以降になりそうです・・・。


第七話 それぞれの岐路

あれから・・・。

アーサーは疑念が晴れないでいた。

彼女に抱いた感情。それを理解できれば、

自分はもう少しだけ人間らしくなれる。

そういった希望が見えているせいで、

彼は普段通りの彼でいられなかった。

仕事の能率が落ち(ほんの少しだが)、

ローラに叱責されることも多々在った。

それでも、彼は後々のローラのため、

人間らしさを手に入れたい一心で、

思考の海に身を投じ続けた。

いくら彼女に忠誠を誓い、人間らしくない思考で

切り捨てることを厭わないということが

彼女にとってプラスになるとはいえ、

時には人間的思考がなければ彼女の

足手まといになりかねないし、

最悪自分を理由に何かの口実でも

つくられかねない。

彼にはそれが我慢出来ないのだ。

しかし、彼のその必死の行動が、

彼自身をどん底に突き落とす結果を生んだ。

 

 

 

 

 

「アーサー、あなたに暇を出しけるわ」

 

「・・・仰る意味がわからないのですが」

 

アーサーはローラに呼び出され、

最大主教の執務室へと来ていた。

そして告げられた言葉に、アーサーの思考は

一瞬麻痺し、次いで思考が再度戻ったところで

彼女に理由を尋ねた。

ローラは溜息を一つつき、話を続ける。

 

「最近、目に見えて仕事の能率が落ちたるわね」

 

「・・・・・・」

 

「私はね、側に置く人間に無能は必要なきことと

思いたるのよ」

 

「申し訳ありません・・・。ある懸念事項の考察をしてまして」

 

「そう・・・。で、それは仕事とどちらが大事なるの?」

 

「それは・・・」

 

「どうでもいいことに、思考を傾けたるなっ!」

 

「っ、申し訳・・・ありません・・・」

 

「謝るぐらいなら初めからしなけれなよきこと・・・。

アーサー、貴方は即断即決こそが最も大きな武器。

それができない今、貴方は私に必要なきことよ」

 

「ですが・・・!」

 

「もうよきことよ。はっきり行って邪魔以外の何物でもない

貴方を、側に置く理由がありけるかしら?」

 

「・・・・・・ない、です」

 

「なれば早く身支度でも整えてどこへなりとも

行きけることね・・・」

 

アーサーは項垂れたまま、力なく返事をした後。

生気のない顔を一瞬ローラに晒しながら部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

(・・・ごめんなさい、アーサー)

 

彼女にとって、これの決定は本意であると同時に

後悔の残る決断だった。

最近のアーサーの必死に考える姿を見て、

彼の人間らしさが見え隠れしたのだ。

同類であるローラは、それがよく分かった。

かつて、彼女もアーサーと同じように

人間らしさを求めた人間らしからぬモノだった。

しかし友人を得るきっかけを得て、今なお信頼出来る人物、

アーサーの父であるベネットらと出会い。

長い年月を経て、ようやく彼女は人間らしさを得た。

彼女は経験があるからこそ、彼にそれを得て欲しい一心で

彼を放逐することを決断した。

世界中を見て回り、彼にも心から信頼出来る

人物と巡り合うことが出来れば。

彼は今以上に成長し、自分の役に経ってくれるだろう。

 

(でも・・・本当は側にいて欲しい・・・)

 

本音は、彼に共にいて欲しい。

自分を最もよく理解し、忠誠を違えぬ彼に。

だが、今のままであればいずれ彼は

人間の姿をした化物に成り下がってしまうかもしれない。

そうなった時。自分は無事でいられるだろうか。

彼に、その冷たい思考によって切り捨てられてしまうのでは。

そう考えただけで彼女にはとても耐えられなかった。

彼女は彼のためと言いながら、本当は彼が怖いという

利己的な、保身によって彼を捨てたとも言える。

しかし、心のどこかでは彼を諦めきれない自分がいる。

彼がもし、人の心を解したとして。

彼が心乱できる友人を得たとして。

彼は果たして自分をどう思うだろう。

彼は自分に精一杯尽くしてくれた。

ならば、彼も幸せを手に入れてもいいはずだ。

そう必死に考えても、彼がいずれその友人とともに

自分から遠のいてしまうことを考えてしまう。

それだけならばまだいい。もしも彼が

自分を恨んだとしたら。彼が敵に見せる

あの絶対零度の瞳を自分に向けたとしたら。

それが怖くて、怖くて。

そんな醜い思考ばかりがめぐる自分が

情けなく、嫌悪を抱く。

 

(アーサー・・・貴方は、私を許してくれる・・・?)

 

彼からの許しを必死に乞う、今の彼女の姿は

イギリス清教の狡猾な最大主教ではなく、

一人の罪深き哀れなる女性だった。

 

 

 

 

 

放心状態のまま、支度を整えたアーサーは、

外が雨であることも気にせず鞄だけを携えて

男性寮の扉を開けて出ていこうとしたところで、

扉の前に誰かがいることに気づいた。

その姿には見覚えがあり、白い修道服を身に纏った

小柄な女性、インデックスだと分かった。

傘を差しながら、寮の扉を眺めている。

どうやら、自分に会いに来ていたらしい。

現在、二人は玄関先の階段に並んで座っている。

 

「アーサー。聞いたよ、出ていくんだって?」

 

「・・・ええ」

 

「どうして・・・どうしてなの?」

 

「ローラ様に、首だと告げられましてね・・・」

 

「そんな・・・! アーサーは頑張ってたのになんで・・・?」

 

「仕事の効率が落ちまして・・・無能はいらないと

言われてしまいました・・・ハハハ・・・所詮私では、

あの御方を支えることなど出来なかったんです・・・」

 

「そんなこと無い! アーサーは頑張ってたんだよ・・・!」

 

「そう言ってもらえると・・・少しだけ気分が軽くなります・・・」

 

そう言いつつも、アーサーの絶望を塗りたくったような

悲壮な表情は、一切変わることはない。

インデックスは、無言で数秒彼を見つめた後。

 

「アーサー」

 

「・・・? なんでしょう?」

 

「前に言ったよね、私のことを決して忘れないって」

 

「ええ・・・確かに言いましたが・・・」

 

「でも、私はアーサーのこともいずれ忘れちゃう。

怖くはないとはいえないけど、もう覚悟はしてる。

でも・・・」

 

そう言って一呼吸おいた後。

 

「私、このままじゃ後悔しちゃうかもしれないから。

今、言うね」

 

インデックスはアーサーの方を向き、

アーサーの目を見ながら、こう言った。

 

「私と・・・お友達になって下さい!」

 

一瞬、何を言われたのかと呆けたような顔になるアーサー。

数秒後に戻ってきた思考を総動員して、

先程告げられた言葉の意味を考える。

 

(・・・彼女は、なんと言った?)

 

自分と友人になってほしい? 馬鹿な、ありえない。

機械のような冷徹で心もないような人形である

自分などど、何故彼女が友人になりたがる。

空耳か何かに違いない。彼はそう判断したが。

 

「・・・お友達に、なってくれないの・・・?」

 

はっきりと。"お友達"と彼女は言った。

どういうことだ。自分のような人間と何故。

何故何故何故何故何故?

思考が追いつかない。理解ができない。

彼女の行動、言動、すべてが自分の理解を超えている。

とりあえず、思考を一旦切って答えることにする。

 

「なぜ・・・私なんかと・・・?」

 

「なんかじゃないんだよ! 私の悩みも聞いてくれて、

私のことを忘れないって言ってくれて・・・。

私にとって、アーサーはとっても大切な人なんだよ・・・。

だから、なんかなんて、言わないで」

 

「・・・・・・」

 

彼女は、思った以上に自分を買ってくれているらしい。

悪い気はしないが、彼女と自分が釣り合うのかと言われれば、

そこはNOだと即答できる。

彼女はたしかにエゴを含んだ願いを持つ。だが、

ネが人間として善人だとはっきり言える。

誰だって、醜い感情の一つや二つ持っている。

彼女はむしろ少なすぎるぐらいだろう。

だが、自分はそういったものすらない。

いや、厳密に言えばローラを支えたいという

個人的なものはあるが、基本的に感情的な

考えというものを持てない。

だから簡単に他人を切り捨てられるし、

人間とはいえない思考だと卑下しているのだ。

だが、彼女はそんな自分と対等な関係たる

友人になりたいと、そう言ったのだ。

アーサーは、ローラ以外に初めてそんな風に

言ってもらえたことが、なぜか嬉しくて。

 

「・・・アーサー? 泣いてるの・・・?」

 

「え・・・?」

 

気づけば、両の目から止めどなくあふれる液体。

ローラに叱責されたあの日以来流さなかった、

涙を流していた。

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「ええ、もう大丈夫です」

 

そう言うアーサーの顔はとても晴れやかで。

 

「インデックス」

 

「なぁに?」

 

「私で良ければ、友人になってくれませんか?」

 

「・・・うん! 私たちはお友達!」

 

そう言って、お互いに握手を交わした。

 

(・・・友人というものはよくわからないですが・・・、

何故か悪い気はしませんね・・・)

 

胸の内に去来したこの幸福感は、まだ理解できないが。

これを失いたくないと思ってしまう。

そこでふと気づく。

あれほど悩み続けていた疑念が、

いつの間にか全く気にならなかった。

それがなぜかはわからないし、結局

疑念が氷解したわけでもないのだが。

 

(・・・まあ、もういいでしょう)

 

あれほど固執していたのに、あっさりと思考から切り離す。

鞄を持ち、彼はゆっくりと立ち上がる。

 

「アーサー、本当に行っちゃうの?」

 

「ええ。せっかくですし、世界中を見て回るのもいいかと思いますし」

 

「・・・約束だよ? 私のこと、絶対に忘れないでね?」

 

「ええ、けして忘れませんとも」

 

「また、会えるかな?」

 

「・・・きっと、会えますよ。その時もし貴女が

私を忘れていたとしても、私は貴女をけして拒絶しない。

なぜなら私たちは、友達ですから」

 

「・・・うん!」

 

「インデックス」

 

「なに?」

 

「私がいなくなっても、ステイル達に迷惑をかけないようになさい」

 

「うん、分かった。約束は守るよ!」

 

「良い返事です」

 

「友達だもん!」

 

「ええ、そうですね。では、私ももう行きますね」

 

「・・・またね、アーサー」

 

「ええ、また会いましょう。インデックス」

 

アーサーが遠くに見えなくなるまで、インデックスは手を振り続けた。

いつの間にか雨は上がり、空は真っ赤に染まっていた。




ローラ「覚悟はできたるのかしら?」

子藤貝「な、何をです?」

ロ「アーサーを私から遠ざけたることよ」

アーサー「ローラ様、落ち着いて下さい」

子「話の展開上仕方ないんですよ!」

ステイル「でも結局タイトルの意味がわからないままだよね?」

火織「そういえばそうですね」

インデックス「もうやめて! 作者のライフポイントはゼロなんだよ!」

ア「でも次回からしばらく出番無いですよ?」

イ「すている! ボコボコにしちゃうんだよっ!」

子「こいつ裏切りおったー!?や、やめてこないであばばばばb」

火「えーと、これにて少年期編の前編が終了です。
これからもよろしくお願いします」

子「纏めてないでたすてけえええええええ!」

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