とある傭兵と脚本家   作:子藤貝

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バイトもようやく終わって
そろそろ定期的に投稿できそうです。
今回はインデックスがメインで。


第六話 対話

ローマでの事件から数ヶ月が経った。

必要悪の教会(ネセサリウス)内では、禁書目録(インデックス)

今後の処遇について、度々議論がなされている。

その論調は主に3つに分かれており、

『排斥派』、『管理派』、『現状維持派』といった派閥がある。

 

『排斥派』は言わずもがな、インデックスをすぐに

処分、即ち抹殺すべきだという意見。

派閥内でも管理派と同等の人数を誇り、

かなり過激な思想のものが多い。

実際、インデックスを本気で殺そうとした

輩もいたのだが、今は同僚である彼女を

殺していい理由などどこにもなく、

彼女の護衛を務め、親友でもある

神裂火織とステイル=マグヌスによって

暗殺を阻止され、必要悪の教会で実質トップである

アーサーに事がバレて粛清。

今頃は北海の暗い水底を漂っているだろう。

この事もあって、排斥派は派閥としては大きいが

発言力は皆無に近く、必要悪の教会に入る前の

彼女を知る者もいた事で彼女が信心深い信徒であることが

一気に広まり、派閥内部で分裂が起こって沈黙している。

 

『管理派』は排斥派と同等に大きな勢力を持ち、

なおかつ事を起こすような愚行を犯していないおかげで

発言力は十分に持つ、事実上最大派閥だ。

しかし、排斥派から流れてきた彼女の信心深さを

聞き、大半の者達が疑問を持ち始めている。

それに彼女を管理するとはいったものの、彼女の人権を侵すような

真似をすればそれこそイギリス清教から

切り捨てられる可能性が高い。

本来であれば、現場で仕事をすることが多い

必要悪の教会では、人権などゴミにも劣るものだが、

インデックスは元々は一般的な信徒であったことから

彼女を知る者が多く、彼女に何かあったと知れば

いくら過酷なことで有名な必要悪の教会に入ったからといっても

色々と対立を招きかねない。

これにより管理派も沈黙気味だ。

 

『現状維持派』だが、此処は最も数が少なく、

日和見気味なため意見は殆ど出さず消極的。

加えて現状維持とはいっても彼女に起こった事件の

重大さもあることで、それを自覚しているため発言力はあまりない。

ただ、彼女のことをよく知っている人物が多く所属している。

もっとも、それは火織やステイル、他数名程度なのだが。

 

「んー、このままだと、またいつぞやのように清教派が

分裂しかねなきことなるわね」

 

「あの時は父上がいましたからどうともなりましたが、

今回は若輩者の私だけでは対処しきれない可能性がありますよ」

 

最大主教の執務室にて、うんうんと唸りつつ解決策を考える

ローラとアーサー。だが、現状いい考えといえば

管理派の言う通り彼女に首輪なり何なりをつければいい。

が、それはあまり良い手とは言えない。

周りからの反発が大きいだろうし、彼女が拒めば

そこまで。強制すれば余計に大きな厄介事が起きかねない。

アーサーの父ベネットは、清教派で長らく貢献した

実績のある人物であり、それゆえローラからも信頼され、

清教派内でも大きな発言力があった。

だが、アーサーはローラの側近的立場とはいえ、

まだまだ若輩者。長年務めた魔術師とは折り合いが悪く、

甘く見られているフシがある。

清教派を上手く纏められるだけの発言力がないのだ。

しかしこの件。実はほぼ解決しているも同然なのだ。

 

「ま、すでに首輪はしてあるから問題なきことなるけど」

 

「彼女の魔力ごと封印してありますからね」

 

そう、彼女が必要悪の教会に入る以前に、すでにローラと

アーサーが彼女にある術式を施している。

それは彼女に命の危険が迫ったり、彼女の頭の中を

暴こうとすれば発動し、彼女の魔力を利用して

自動迎撃を行うといったものだ。

彼女らとて、わざわざ敵陣に自分たちの将来の切り札となる

彼女をそのまま連れて行ったわけではない。

もしあの時彼女に直接的な命の危険が起これば、

術式が発動して魔術師は木っ端微塵になっただろう。

 

「問題は、どうやってカミングアウトするかなるわね」

 

「つまるところそこですね、問題点は」

 

この事をそのまま発表すれば、色々と反発はあるだろうが

ひとまずは分裂など起こさずに解決に向かうだろう。

が、その反発が問題だ。下手をすればローラの

最大主教としての立場が危うくなる。

現状、打つ手が無い。

 

 

 

 

 

(はてさて、困りましたね・・・)

 

ローラとの会話を終え、自分の部屋へと戻るアーサー。

必要悪の教会には女性用の寮はあったのだが、

なぜか男性用の寮はなかった。

そのため門から出て、歩いて十分ほどのところに

男性用の寮をつくった。

元々は解体されるはずだった古いホテルを改造したもので、

壁の所々に穴が開いていたり、雨漏りがする部屋もある。

ついでに人通りも少ないので、店など近くにはない。

買い物に行くにも不便な立地である。

だが、今までそれ以上の不便を強いられてきた男たちには好評で、

多少の不便には目を瞑るか、自分の給料をはたいて

改装工事をしていたりする。

そんな野郎どもの巣窟の前に、一人の女性が

ぽつんと立っていた。

よくよく見ると、それはアーサーのよく知る人物であり。

 

「・・・インデックス?」

 

「アーサーさん?」

 

彼と、彼の敬愛する人物を悩ませる渦中の人物がそこにいた。

 

「どうしました? ここは男子寮ですよ?」

 

「んと、ステイルに用があってきたんだよ」

 

「・・・用事がなんであれ、男性用の寮に女性が近づくのは、

あまり感心できないことです。用件は私が伝えましょうか?」

 

「できれば、直接話したいんだよ」

 

「そうですか、では彼を呼んできますので」

 

 

数分後・・・。

 

 

「インデックス、僕に用があるって?」

 

「ステイル、大事な話があるんだよ」

 

「そうかい。なら、火織も連れてきたほうがいいな」

 

「そうだね、火織には私から言っておくから、

大聖堂の方で待ってて」

 

「分かった、先に行ってるよ」

 

ステイルはそう言って大聖堂の方へと向かっていった。

アーサーはそのまま男性寮の中へ入ろうとしたが、

 

「待って。アーサーにも話があるんだよ?」

 

インデックスに呼び止められて止まる。

先ほどと違い、上司に対する敬語も使わず、

フレンドリーな話し方だ。

呼び止められたアーサーは周りに人がいないことを確認し、

 

「・・・何か御用で?」

 

若干不機嫌な顔で振り返る。

今日は仕事が少なかったおかげで久々に

ゆっくりとしようとしていたのだ、

ある意味プライベートを邪魔されたとも言える。

 

「んとね、私・・・」

 

その様子を見て若干怯えつつ、インデックスは

なにか淀んだ喋り方をした。

いつもの快活な明るさが感じられない。

なにか重要な案件か、あるいは。

 

「私に話しづらいことでも?」

 

「・・・うん」

 

アーサーは実は護衛である火織とステイルより、

インデックスとよく会う。それは彼女に

施された魔術の調整だったり、あるいは

彼女への口止めのためだったり。

表立って彼女と話すことはないが、

秘密裏に会うときはそれなりに友好な関係だし、

彼女もアーサーを呼び捨てしたりする。

それに対してアーサーはとやかくいうつもりはない。

彼もまだ成人してすらいない若造。

自分より年上を顎で使うことだってあったし、

ベテランの魔術師を仕事のことで叱責したりもした。

年功序列や地位云々で、堅苦しいことを言うのは

アーサーの性に合わないのだ。

だから、秘密裏にとは言えインデックスに

敬語を使わないでいいと言ったのだ。

 

「私ね・・・私が記憶を(・・・)消さなきゃ(・・・・・)いけない(・・・・)こと、

話そうと思うんだ・・・」

 

アーサーは眉をひそめ、疑問を口にした。

 

「一体誰に?」

 

そう、誰に話すのか。

実はインデックスに施されている術式は、

ローラと共同で作成したのだ。

たまたま読んでいたある雑誌の内容から

ローラがヒントを得て、

その道の専門家に意見を聞き、

術式を構築したのだ。

因みに、その雑誌の内容は、学園都市に

関するものだったりする。

彼女に施した術式は、彼女が記憶した

世界中の魔術書を管理するため、

彼女の脳を利用するもの。

これによって自動的に迎撃術式を

編み出し、危険の排除を行えるのだが、

膨大な量の情報を管理できる代わりに、

彼女の脳を大きく圧迫する。

その結果、目標である10万3000冊の

魔術書を記憶した後、彼女の記憶は

1年分しかもたなくなるようになった。

幾度と無く改良を施してもこの欠陥が治らなかった。

結局、道具として扱われるも同然である

『禁書目録』にそこまで同情する必要もないと

切り捨てて、不完全なまま彼女に術を施したのだが。

そして、彼女はもうすぐ目標を達成する。

そうなれば、1年後には脳の容量を圧迫されて

苦しむようになるだろう。

そうなれば、記憶を消さねば彼女は救われない。

既に記憶を消す魔術は構築済み。

後はそれを実行できる人物を探すだけだった。

 

だからこそ、彼女がそのことを話すといった

ことが解せない。彼女の口ぶりから、

術式のことは喋らないだろう。

彼女自身それを仕方ないことだと割り切っているし、

記憶を消すことに対する不安はあるものの、

受け入れるつもりだと以前言っていた。

そこから類推するならば、彼女は

記憶を消さないといけないことを話す、

つまり記憶を消してくれる協力者に当たりをつけた

と考えるほうが妥当だろう。

故に、その話す人物が誰なのかが気になった。

そして、彼女が告げたのはアーサーにとって

予想外な人物だった。

 

「・・・かおりと、すているなんだよ・・・」

 

「・・・どういうつもりですか?」

 

アーサーには解せなかった。インデックスは

心優しい少女だ。そんな彼女が、

親友となった二人に記憶を消させるなどという

重荷を背負わせるなどど考えつかなかった。

ぽつりぽつりと、蚊の泣くようなか細い声で

彼女は語りだす。

 

「私は、後1年で記憶がなくなっちゃう・・・。

そうなったら、すているもかおりも思い出せなくなる・・・。

私、友達なんて今まで殆どできなかったから、

友達になれた時、本当に嬉しかったの・・・」

 

「・・・・・・」

 

「でも、もうすぐ私は忘れちゃう・・・そうして

皆と離れていくかもしれない・・・それが怖いの・・・」

 

「怖い・・・?」

 

「友達ができても、私は忘れてしまうけど

皆は私を覚えてる・・・でもきっと私は

その友達だった人を拒絶する・・・私の頭の

中にある魔術書を狙った敵だと思って・・・。

そしてきっと、私は皆から忘れられていく・・・、

それが・・・それがとても怖い・・・!」

 

「ふむ・・・」

 

アーサーはただ、相槌を打つ程度にインデックスの話を

遮らないよう聞いていた。

どうやら、彼女は自分が記憶をなくした後、

親しい人物をきっと拒絶するだろうと思い、

それによって見捨てられ、やがて忘れられていくのが

怖くてたまらないらしい。

アーサーには、それがどういうものなのかは理解できなかった。

彼は親しい友人など殆どおらず、ただローラのためだけに

生きてきた。普通の人間と価値観の違うことを自覚しているので、

友人関係などまともにつくらなかったからでもあるが。

 

「なるほど、だから彼らに記憶の消去を頼むと・・・」

 

「うん・・・。これなら、私がどれだけ記憶を忘れようと、

私のことを嫌になろうと・・・私の近くにいてくれる・・・」

 

「貴女のエゴですね、それは」

 

「わかってる、自分勝手な願い・・・すているとかおりを

ずっと縛りつける・・・これは私が掛ける呪い・・・」

 

「わかっているなら何故・・・?」

 

「それでも・・・それでも私は・・・失いたくない・・・、

記憶をなくしても・・・友達だった繋がりだけは失いたくない・・・!」

 

気づけば、彼女の顔は苦悶の表情に彩られ、大粒の涙が

地面を濡らしていた。

声は震え、体を小刻みにふるわせている。

己のエゴから生まれた願いを、彼らに強要するのが忍びない。

だが、絆を失いたくはない。

板挟みの思いに、インデックスの心は悲鳴を上げている。

アーサーには、彼女の気持ちがわからない。

だが、彼女の姿を見ていると、幼少期に

悩み続けた自分が重なって見えた。

切り捨てることに躊躇もしない、人ともいえぬ欠陥品(じぶん)

失うことが怖い、愚かで悲しい道具(かのじょ)

だからだろうか、彼が珍しく、人に気遣いのために

言葉を与えたのは。

 

「・・・いいじゃないですか」

 

「え・・・?」

 

「人間、どれほど聖人君子になろうと努力しても、欲望から

逃れるには神に縋るしかないのですから」

 

「で、でも・・・」

 

「貴女のその思いは、貴女が心から望んだものでしょう?

そこには本質的に善悪はない。それでも、彼らを縛るものであり

彼らはそれを知らない。そして貴女は忘れてしまう。

ですが・・・」

 

言葉を紡いでいく。

 

「貴女が忘れても・・・私はけして忘れない」

 

「・・・・・・」

 

「貴女がどれほど自己中心的な人物で、友人を想えぬ人間で」

 

次第に、彼の言葉に熱が入る。

なぜ。そう思うもアーサーは止まらない。

 

「どれほど最低な人間だったか、私は忘れてやりません」

 

表面だけなぞれば、それはとても厭味ったらしく、

彼女の尊厳をなじるような、そんな言葉。

 

「・・・・・・うぁ・・・」

 

だが、彼女からすれば。

それはとても意地悪で、とても最低で。

 

「うあああああああああああああ!!!」

 

とても、優しい言葉だった。

 

 

 

 

 

「・・・落ち着いきましたか?」

 

「うん! いっぱい泣いたら、なんかすっきりしちゃったんだよ!」

 

「そうですか」

 

にこりと微笑む。その表情に、インデックスは驚く。

アーサーはよく笑顔を見せるが、それは糊で貼りつけたかのような、

作り笑いばかりだ。だが、今の彼は心から微笑んでいる。

そんな風に見えたのだ。感情的になりにくいアーサーを

普段からよく見るインデックスからすれば、とても

信じられないものだった。

 

「なんですか、その在り得ないものでも見た顔は」

 

「な、なんでもないんだよ!」

 

慌てて顔をそらす。幸い、アーサーには気付かれなかった。

 

「それよりも、いつまでも彼らを待たせていいのですか?」

 

「あ・・・」

 

待たせている火織とステイルのことを、インデックスはようやく思い出す。

 

「完全に忘れていましたね・・・」

 

「私もう行くね! ありがとう、アーサー!」

 

慌てて立ち上がり、アーサーにお礼を言いつつ去ろうとするが、

 

「あうっ!」

 

「・・・気をつけてくださいね」

 

勢い余ってすっ転んでしまった。鼻をぶつけたらしく、

顔を覆ってゴロゴロと呻きながら転がっている。

数秒で復活したインデックスは、恥ずかしそうにしながら

チラチラとこちらを向きつつ去っていった。

アーサーは座り込んだまま、先ほどインデックスにかけた言葉について考える。

 

(なぜ私は、あんな熱の入った言葉を吐いた・・・?)

 

十と余年生きてきた人生でも、あれほど熱の込もった言葉を発したのは、

ローラに忠誠を誓った時以来だろう。

アーサーにとって、ローラは全ても同然である。

言うなれば自分の一部にも等しい存在。

ならばインデックスは? それを考えた時、彼の思考にある一つの

言葉が浮かんだ。しかし、それは彼にとって非現実的で、

そうだという確証も全くない。故に思考から切り離し、

先ほど彼女からかけられた言葉を思い出す。

 

(ありがとう・・・ですか・・・)

 

感謝の言葉など、別段珍しくもない。だが何故か彼女のそれは、

妙に心の奥底に響いた。なぜだと考えても、答えは出ない。

彼は自嘲気味に笑みを浮かべつつ、思考を止めて寮の中へと消えていった。

彼は知らない。彼の思い浮かべたその言葉こそ、

彼が熱を帯びた言葉を発した理由なのだと。

彼は分からなかったのだ。今まではっきりとそう言える、

友人(・・)などいなかったのだから・・・。




子藤貝「モチベはあるのに手が動かない」

アーサー「なんという駄目作者」

火織「2,3日で更新している人もいるというのに」

ローラ「うちの駄目作者と比べては駄目なるわ、火織」

インデックス「そーそー、だからもっと私の出番を増やすんだよ!」

子「いやその理屈はおかしい」

ア「今回の話は、私の今後に少し関わるであろうイベントです」

ロ「そろそろ、この作品のタイトル通りの流れになりたるから、
  疑問を持ってらした方もすっきりできたるかもね」

子「だが展望はない、これが私なのです」

ロ、ア「「この超ダメ作者め」」

子「罵倒がひどくなった!?」

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