とある傭兵と脚本家   作:子藤貝

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更新遅!?
誰得な二次創作、第四話始まるよー!
ついにあの人も登場です!


第四話 始まりの交差

神裂火織の来訪から半年。アーサーは任務で

日本へとやってきていた。

日本出身だということで、火織も同行している。

あの日以来、火織は直向きに己を鍛え続けた。

暇を見つけてはアーサーに組手を頼み、

自己の研鑽に努めている。その努力の甲斐あってか、

近接戦闘においてはアーサーですら危うい

場面が何度かあった。

現在二人は、空港にて今後の打ち合わせを行なっている。

 

「火織。今回敵方は各地にバラバラになって潜伏しています」

 

「では、手分けして殲滅するのですね」

 

「居場所は既に私の部下が調査済みです。貴女はただ、

イギリス清教所属の魔術師として、その力を振るうだけでいい」

 

「了解しました」

 

それだけ言うと、火織は空港の外へと歩いていった。

 

「・・・まあ、彼女なら問題ない、か」

 

聖人の性質故か、単独行動を好む傾向にある火織を、

少々心配しつつも、その実力をよく知るアーサーは

思考から不安要素を切り捨て、目的地へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「呆気無いな、所詮は三流か」

 

「化け物め・・・!」

 

事前の情報から魔術師の潜伏場所を割り出し、

現在とある田舎の町に潜伏していた魔術結社の男を

町の廃ビルに追い詰めていた。

 

「これでも真っ当な人間のつもりなのですが」

 

「貴様のような人間がいてたまるか!」

 

そう言って、懐から黒い刀身の大振りのナイフを取り出し、

アーサーへと襲いかかる。

だが、聖人である火織と普段から組手をしている

アーサーにとっては、スローも同然。

 

「ぐっ!」

 

の、筈だったのだが。何故か、アーサーはコンマ数秒だけ

行動を躊躇してしまった。

 

「どうだ化け物! このナイフはただのナイフじゃあねぇ、

古代アステカで生贄用に使われた黒曜石のナイフだ!」

 

「・・・イツトリのナイフですか・・・」

 

「そうだ! イツトリは生贄の儀式用に使われた黒曜石のナイフを司る

夜の神々の一柱! そしてこのナイフはイツトリの加護を魔術的に再現し、

ナイフを向けた相手は例外なく"生贄"となる!」

 

アーサーが動けなかった理由。それは魔術師が言ったように、

アーサー自身が生贄とされたから。生贄は神への供物。

どれほどに抵抗しようとも、どれほどに拒もうと、

古代アステカにおいて抵抗は不可能。当時の人間の価値観では、

人は神には逆らえないのだから。

故に、アーサーは抵抗しようという行動である『(かわ)す』という

行動を制限され、アーサーはナイフを食らってしまった。

 

「こいつには傷を治りにくくする術式も組み込まれてる、このまま惨めに

死にやがれ!」

 

興奮気味に言う魔術師に、アーサーはそれでも不敵に笑う。

 

「ならば道連れにでもするまでです」

 

出血も気にせず、アーサは魔術師めがけて特攻する。

 

「馬鹿が、死にに来やがった!」

 

魔術師は躊躇いなくアーサーにナイフを突き立てる。

だが。

 

「惜しかったですね」

 

急所を外していた。魔術師は驚愕する。この男、

かつては軍にも所属していた近接戦闘のプロなのだが、

その中でもナイフの扱いは天才的と言われていた。

そんな彼が、普通特攻してきた相手の急所を外すなどありえない。

心臓を確かに狙った、だというのに肩口にナイフが突き刺さっている。

何があったのか、即座に思考を切り替えて観察する。

するとアーサーが口を開く。

 

「単純な話です。生贄は、今も昔も神への供物。

それ故名誉でもある。私の捨て身の特攻は、生贄として実に

忠実な行動ですよ。だからこそ、ある程度の行動の自由が得られる」

 

ナイフに当たるという事実が確定してしまったため、ナイフは

アーサーを生贄として妥当な行為だと認識してしまった。

故に、急所をずらした行動を生贄として不当な行為と認識できなかった。

既に特攻による自己犠牲という生贄としてこれ以上ない行動を

されてしまったがために。

 

「さて、捕まえましたよ」

 

刺さったナイフを気にもせず、アーサーは魔術師の腕と喉をつかむ。

男は抵抗を試みるが、アーサーの常人離れした握力に腕が振りほどけない。

むしろ、力を強めたアーサーによって、悲鳴を上げる。

蹴りを入れようにも、アーサーが着込んでいる服は耐衝撃性に優れた

素材でできている。ダメージなど到底期待できなかった。

 

「貴様の失敗は、軍人として忠実すぎたところです。魔術師として

日の浅い貴様は魔術師的な思考ができず、与えられた魔術を

完璧に理解することを怠った」

 

苦悶の表情を浮かべつつ、アーサーを睨む男。

額には脂汗が滲み、何とか打開策を講じようとしている。

だが、その行動のすべてが無駄。

そのまま意識が薄れていった。

 

 

 

 

 

相手が気絶したのを確認し、知覚の鉄柱に縛り付ける。無論、

万が一男が起きてもいいように喉元から手は外さず。

拘束が完了し、手持ちの武器を全て没収し、脱出ができないことを確認すると、

アーサーは喉元の腕をゆっくりと外し、ポケットから瓶を取り出す。

中には、透明な液体が。

 

「どうせならば私の実験に付き合ってもらおうかな」

 

そう言うと、男の口を無理やり開き、瓶の液体を流し込む。

そのはずみで男が覚醒し、抵抗を試みる。

吐き出そうとしたので、しっかりと顎を押さえつけた。

やがて、ゴクリと液体を嚥下する音が聞こえた。

同時に、アーサーは拘束を解き、そのまま男から離れる。

 

「何を・・・飲ませた・・・」

 

ぜいぜいと言いながら質問する。

すぐに分かるとアーサーは言う。

数分後、男に変化が現れ始めた。

男の鼻から、赤黒い液体が一滴流れたのだ。

 

「フン、お前の実験とやらは、鼻血を出して失血死させるなんて言う

阿呆らしいものか?」

 

皮肉を言いつつ、余裕の笑みを浮かべる。

それ以上に、アーサーはいい笑顔だった。

 

「ああ、まあ似たようなものですよ」

 

「・・・どういう・・・ぐっ!?」

 

「ああ、ようやくですか」

 

男の目から、血涙が流れだした。それも滝のような勢いでだ。

 

「なんだこれはぁ!?」

 

「クックク、おい、毛穴からも流れていますよ」

 

「な、ゴボォ!?」

 

アーサーの言葉を聞き、何が起こっているのか聞こうとして、

口から突如大量の鉄臭い液体が流れた。

 

「お前に飲ませた液体はね、折れの部下が開発した拷問用の

毒だ。時間をかけてゆっくりと体中から出血させて殺す」

 

「げ、解毒薬ばない゛のが!? だずげでぐれ!」

 

喉の奥からせり上がってくる血液によって、声を出すのもやっと。

必死にアーサーへと助けを求めるが。

 

「開発したばかりのものでね、そんなものはない」

 

それが男の聞いた最後の言葉。グルンと眼の焦点が外れ、

血の海に沈んでいった。それを眺めて、

 

「もう少し改良が必要ですね、口や胃からの出血で喋りづらそうでしたし、

出血量も多すぎる。まあ、逆にしてやれば即効性のある猛毒として

使えそうですが」

 

そんな感想を漏らし、霧にでも混ぜて使おうか、などと考えつつ

事後処理を行い、悠然とその場を立ち去った。

彼自身に死の危機が迫っているとも知らずに。

 

 

 

 

一人の少年がいた。少年は普通の子供だった。

ある一つのことを除いては。

少年は不幸だった。どうしようもないぐらいに。

道を歩けば石につまずき、その勢いで顔をうち。

福引ではハズレばかり。しかも丁度商品が切れて、

ティッシュすらもらえない。

命の危険だっていくらでもあったし、

どこに行こうと不幸はついて回った。

遠足にいけば雨を通り越して嵐が起こり、

運動会では二人三脚で転んでクラスメイトが怪我をしたり。

彼がいると、その周囲にまで被害が及ぶ。

いつしか彼を取り巻く人間は、彼を疫病神と呼んだ。

学校では不幸を振りまく奴だと、いじめにあい。

大人達からは自分の不幸はアイツのせいだと陰口を言われ。

全ての不幸の原因として、彼にベクトルが向けられた。

 

今日も、帰り道に同級生からの執拗ないじめを受けていた。

反応しないようにと、少年は気をつける。

無視をし続ければ、この輩は飽きて離れてくれる。

いじめを受け続けてきた少年なりの知恵だった。

だが、今日はいつもと違った。

無視ばかりする自分の態度が気に入らないらしく、

蹴りを入れられる。髪の毛を捕まれ、

別の少年に羽交い絞めにされる。

カバンを無理やり脱がされ、逆さにされて

中身が飛び出す。思わず叫びそうになるが、

少年たちの機嫌を損ねないようぐっと我慢する。

しかし、次の行動でもう我慢ができなかった。

母が買ってくれた、お気に入りの筆箱。

それを地面に叩きつけ、少年の一人が踏みつけた。

数瞬、思考が停止し、理解したらもう止まれない。

大声で叫びながら、その少年へと襲いかかる。

だが多勢に無勢。横から殴られたと同時に、

倒れたところをリンチにされる。

頭を、腕を、足を。執拗に蹴り続ける。

少年は泣き続けた。悔しい、自分の大切な物を

傷つけられたのに、何一つ反撃できない。

肉体的にも精神的にも、もうボロボロだった。

必死に痛みを堪え、蹲る。

どれぐらいそうなっていたのだろうか。

ふと、執拗な蹴りがやみ、顔を恐る恐る上げる。

少年たちは、川の中に沈んでいた。

必死で顔を水面に出そうとしている。

まるで何かの重しを付けられているかのようだ。

 

「こんにちは、少年。体は痛みますか?」

 

不意の言葉に、思わず体がビクリとなる。

ゆっくりと顔を上げると、そこには自分よりも何歳か

年上と思われる少年がいた。

これが、彼と彼の初めての出会いだった。

 

 

 

 

「はは、失敗しましたね。まさか相手方の魔術がこうも

強力なものだったとは」

 

橋の下で、アーサーは自嘲気味に笑う。

先ほど受けた傷が治らず、魔術の解除を行おうとしたのだが、

アーサーは解呪や治療の魔術は不得手。それでも

一般的な魔術師よりも腕は立つが、今回受けた魔術は

一般的な魔術師程度では解けない呪いだった。

今はまだ大丈夫だが、帰国する前に失血死するだろう。

 

「ああ、ローラ様。私が死んだら誰が彼女を支えるというのだ・・・」

 

アーサーは自分の異常性をよく理解している。他人を切り捨てることに

躊躇がなく、たとえどれほど恩を受けた人物や親友であろうとも、

必要とあれば殺すことも厭わない。

幼い頃からそれは顕著だった。親に内緒で猫を飼っていた時、

危うく親にバレそうになって猫を殺してしまった。

普通の人間なら、バレないよう考えるのだろう。

だが、彼は自分のリスクを減らすために、猫を殺した。

殺したときは涙さえも流さずに。はっきり言って異常を通り越して、

人間の皮をかぶった機械のよう。アーサーは自分をそう評した。

自分は人間として失格者なのだろう。なら、大人しく人生を

歩み、その幕をゆっくりと下ろしていけばいいと思っていた。

 

だというのに、親の英才教育もあってか才能を発揮し。

人の上に立って導くことのできる人間へとなれてしまった。

アーサーは悩んだ。自分のような異常過ぎる人間が上に立てば、

仕事はきっちりこなすだろうが、犠牲を厭わぬ恐怖政治を

展開しかねない。そしてそれに疑問すら持たなくなるかもしれない。

これがアーサーにとっての最大の悩みだった。

ならば人の下に付けばいい。それも考えたのだが、

どうしても気に入らない人間の下につくなどしたくなかった。

ここらへんは、彼がまだ幼く、慢心していた故もあるだろう。

だが。幸運にもアーサーは、あの日ローラと出会うことが出来た。

 

自分のような内面を持ち、なおかつ自分と違い、己を律することができる同類。

彼女であれば、自分を使いこなすことができるだろう。

そして、彼女であれば自分の全てを擲ってでもついていくことができる。

それを確信した。自分を心の底から理解できるのは彼女だけだろう。

そしてまた、彼女を理解できるのも自分だけだろう。

ならば、この身を賭して彼女の駒であり続けようとした。

彼にとって、ローラは理解者にして全てなのである。

そんな彼女を残して、先立つのはどうしても嫌だった。

彼女は敵が多い。彼女を心の底から信頼してくれる人物など、

アーサーを含め片手で数えるほどしかいない。

そんな状況で、アーサーが死ねばローラは支えを完全に失う。

そうなれば、今の最大主教の座から引きずり降ろされて、

難癖をつけられて処刑されるだろう。理由などいくらでも

作れる。彼女はアーサーと同じタイプの人間であり、

普通の人間の道徳観からはかけ離れているのだから。

 

「死にたく・・・ないですね・・・」

 

そんな時。

 

「やーい! この疫病神!」

 

「お前がいるから皆不幸になるんだ!」

 

「ひっぐ・・・えぐ・・・」

 

土手の方から、騒がしい声がしてきた。

見れば、少年たち数人が円を描いて何かを囲みつつ、

その中心に蹴りを入れている。

中から泣き声がしてくることから、いじめの類だと理解する。

鬱陶しい。ただそれだけの感想を抱く。

死ぬ瀬戸際だというのに、どうしてこんな締まりのない

状況なのか。それを考えるとイライラしてくる。

大事な人物を心配して悩んでいるというのに、

人を傷つけることに何の疑問も抱かない脳天気な少年たちに、

酷く苛立ちを覚える。

少し血が足りずふらつく足元に気をつけ、ゆっくりと立ち上がると

彼はこのやかましさの元を断つべく、少年たちへと

音もなく近づく。

 

「ああ? なんだよてめぇ」

 

いじめのリーダー格と思われる少年が、睨みを効かせつつ凄んでくる。

しかし、裏で何人もの達人と組手をしたり、凶悪な魔術師と

戦ってきたアーサーにとっては、こんなものはそよ風を通り越して

凪程度でしか無い。

 

「口のきき方がなっていませんね。年上は敬うものです」

 

「うっせえ! 誰だか知らねぇけど俺らの邪魔すんな!」

 

「いじめなどという生産性の欠片もないことをして恥すら無いのですか?」

 

「へっ、いじめられて当然だぜ。こいつは疫病神だからな!」

 

「そーだそーだ!」

 

その言葉を聞き、アーサーは嘆息する。この少年たちは何もわかっていない。

どれだけ正当化しようとも、やっていることは暴力。

そしてここは法治国家に名高い日本。少年法があるとはいえ、

警察のお世話になれば将来に大きく影響するだろう。

小学生相手にそんなことを考えろというのは酷だが、

暴力が悪いことだと理解できていないことがマズイ。

下手をすれば、人を平気で殺しかねない。自分のように。

 

(・・・それは、とても嫌ですね・・・)

 

自分のような人間など、いないほうが世の中のためだ。

だからこそこれ以上、彼らを見過ごす訳にはいかない。

どうせもう死ぬのなら、せめて最期ぐらい自分の良心に

従ってみるのもいいかもしれない。そう思い、アーサーは

リーダー格の少年へ近づき、

首根っこを捕まえて片手で持ち上げた。

 

「え?」

 

細身のアーサーに持ち上げられ、何が起こっているのか

分からないといった顔の少年。

アーサーはそのまま足元に、拷問用に開発した

見えない重しをつける魔術を発動。

川へと思いきりぶん投げた。

着水と同時に、水飛沫が飛ぶ。唖然とする少年たちに

向かい合い、今度は彼らを持ち上げては投げる。

気づけば、いじめていた少年たちは全員川へと放り投げられ、

絶妙な重さのせいで川から上がれずに顔を上下している。

溺れそうになったら、術を解除してやろうと思いつつ、

目の前で蹲っている少年に声をかけた。

 

「こんにちは、少年。体は痛みますか?」

 

少年は、突然のことに驚きつつも、少年は大丈夫ですと答える。

にこりと微笑み、少年の傷だらけの顔に手を置き、

 

「傷だらけですよ。バイキンが入ってもマズイですし、

ええと・・・あった。バンソウコウを貼っておきましょうか」

 

そう言いつつ、顔のあちこちにある痛々しい傷跡に絆創膏を貼る。

傷が痛むのか、少々体が揺れたりしているが、何とか大丈夫なようだ。

全て貼り終えた後、少年に何故いじめに合っていたのかと聞く。

始めは黙ってしまっていたが。彼から無理に聞き出さず、

自発的に言うのをじっと待つ。しばらくして、彼がか細い声で、

 

「俺が・・・俺が不幸だから・・・疫病神だから・・・」

 

と言った。どうも、彼は生まれながらに不幸の星の下に生まれているらしく、

それらを理由に先ほどの少年たちなどがいじめをしているらしい。

しかも、彼らの親はそれを黙認どころか推進しているといった根の深さ。

実際、道端で誰かもわからないような大人に陰口をされたらしい。

ひと通りの話を聞いた後。

 

「そうですか。では、君は彼らをどうしたいですか?」

 

「え?」

 

そう言って少年に、彼をいじめていた少年たちが溺れている

場所を指さして問う。彼には、彼らに対する正当な報復の理由がある。

彼が望むなら、少年に迷惑がかからないよう自然に溺れさせよう。

アーサーはそう考えていた。だが。

 

「・・・助けて、あげてください」

 

「・・・・・・いいのですか?」

 

「俺は、あいつらみたいになりたくない・・・」

 

報復は報復を生む。それを彼はよく理解していた。

彼らと同じ事をすれば、結局彼らの同類だ。

そんなものに、少年はなりたくなかった。

 

「そうですか」

 

そう一言つぶやき、魔術を解除する。

少年たちはもう力尽きる寸前で、アーサーは

彼らの腕を引き、川から引き上げた。

その後、二度とあんなことをしないよう言いつけ、

死ぬことの恐ろしさを身を持って味わった少年たちは、

彼を助けるよう言ってくれた少年に泣きながら謝った。

 

 

 

 

 

場所は変わって再び橋の下。元いじめ少年たちはずぶ濡れだったため、

家に帰るよう言い、彼らは各々の家へと帰っていった。

アーサーは、それを見送った後に去ろうとし、

 

「あの・・・」

 

残っていた少年に呼び止められた。

 

「なんですか?」

 

「助けてくれて、ありがとう」

 

「ああ、あの程度ならお安いご用ですよ」

 

そう言って微笑んで、

ゆっくりとその場に倒れた。

肩口からは、ドクドクと血が流れ出る。

 

「ち、血が・・・!」

 

「・・・ここまでですかね・・・」

 

ガーゼなどで応急手当をし、血が滲み出ないようにしていたのだが、

先ほどの無茶で大分血が流れ出始めてしまったようだ。

ひたいに汗を流しつつ、少年を見る。

しかし、そこには少年の姿はなく。

どこへ行ったのかと辺りを見回すと、

 

「もしもし、救急車ですか!?」

 

近くにあった電話ボックスに入り、救急車を呼んでいる。

アーサーとしては、表の人間に自分を知られる訳にはいかない。

しかし、失血が酷いせいで動くこともままならない。

下手に動けば、更に血が流れ出る。

いっそのこと、魔術で自分を燃やして証拠隠滅をしようかと

考えていたところに、少年が戻ってきた。

 

「救急車を呼んだから、・・・もう、だいじょうぶだよ゛・・・」

 

少年は泣いていた。自分を助けてくれた人が死にかけているのに、

また自分は何もできない。無力感に苛まれる。

せめて、何とか血が流れ出ないよう傷口を抑えようとした時。

奇跡が起きた。

 

「な・・・!?」

 

「え・・・?」

 

出血が、唐突に止まった。あれだけ止めようと必死になっても

止まらなかった血が、ピタリと流れなくなった。

アーサーも何が起きたのか分からず、唖然とした顔だ。

だが、これはアーサーにとって好機。

出血さえ止まれば、魔術で再生するなど可能だ。

気怠い体に鞭打って、力を振り絞って立ち上がる。

 

「だ、駄目だって! 死んじゃうよ!」

 

「いえ、医者の宛があるから大丈夫です。それより少年、

貴方、私に何をしたんです?」

 

「え・・・何って・・・傷を抑えようとして触ったら・・・」

 

「・・・もしや・・・」

 

アーサーは、此処でひとつの仮説を立てた。

魔術の世界において、呪いの解呪を生業とする人物もいるが、

中には呪いがかかりづらかったり、特別な血を引き、

強大な解呪の力を持つ人物もいたりする。

ひょっとしたら、彼はそういった家系に連なる人物なのでは?

アーサーはそう思い、魔術を使って少年の両腕に重しをつける。

 

「うわっ!?」

 

突如重くなる腕に、少年は戸惑う。だが、重そうにしているのは

左腕のみ。右腕に負荷を感じていないようだ。

どうも、これから鑑みるに少年は右腕だけ魔術を無効化できるようだ。

その無効化出来る範囲がどれぐらいかは分からないが、

魔術師たちにとって天敵とも言えるだろう。

もっとも、アーサーは少年をそういった裏の世界にかかわらせたくないと

考えていた。アーサーはたしかに非情だが、一般人を巻き込むほど

見境のない狂人ではないし、なにより自分をいじめていた少年を

許す優しさと寛大さは、アーサーにはとても持てないもの。

だからこそ、アーサーには少年が輝いて見えた。

できれば、自分のような化物に関わらず、平穏に過ごして欲しい。

だが、それは彼の体質上無理だろう。

不幸体質に加え、魔術無効化の能力。彼の性格から鑑みて、厄介事に

首を突っ込みやすいだろう。だから、アーサーは命の恩人たる、

そして己が憧れたものをもつ少年のために、

アドバイスを与えることにした。

 

「・・・少年、君は特別な力がある」

 

「・・・そうなんですか?」

 

「ええ・・・。あなたは特殊な力を打ち消す力を持っている。ただし、

右腕だけですが・・・」

 

「特殊な、力?」

 

「うーん、それを話してあげる事はできませんね。とにかく、君は

異能の力を打ち消す右手があるということです。これから先、

君はその右腕と不幸体質で、困難に直面していくでしょう」

 

「・・・・・・」

 

「ですが、屈してはいけません。貴方は、あなたの正しいと思ったことに

基づいて行動なさい。そうすれば、後悔も少なくて済みます。

前を見て、しっかりと歩んでいきなさい」

 

「・・・はい!」

 

「良い返事です。もし、挫けそうになったら」

 

そう言葉を切り、橋の足の前に立つ。そして右拳を握り、

呼吸を整える。静寂が辺りを支配する。

そして。

 

「はぁっ!」

 

渾身の右拳を放つ。それは橋の袂に直撃すると同時に、

ドゴオオオオオオオオオオオン!

凄まじい音を発し、巨大なクレーターを生み出した。

唖然とする少年に向けて、笑顔でアーサーは言う。

 

「がむしゃらに、殴り飛ばしなさい。そうすれば、

いつかは解決するはずです」

 

「・・・っ、はいっ!」

 

その返事に満足げに頷くと、アーサーは背を向けて去ろうとする。

少年はそれを再度呼び止め、

 

「あ、あの! お名前はなんですか!?」

 

そういえば自己紹介もしていなかったな、と思いつつ、

ゆっくりと振り返って自己紹介をする。

 

「アーサーです。貴方は?」

 

「と、当麻。上条当麻です!」

 

「うん、いい名前です」

 

「アーサーさんだって、かっこいいじゃないですか!」

 

「・・・うん、ありがとう」

 

亡き父を、そして母を思い出し、感謝を述べる。

これが、アーサーと上条当麻の初めての出会いだった。

魔術と少年は、この時を境に交差し始めた。




ローラ「ついに出番なしなりけるの!?」

子藤貝「仕方ないね」

火織「最大主教様なら仕方ないですね」

アーサー「と、いうわけでショタ条君でした」

子「あんま性格が今と変わってないけどね」

ア「需要皆無ですね、これだと」

火「書き手が無能だから仕方ないです」

ロ「次回は私を活躍させたまいなるのよ作者!」

子「え、口調めんどいからパスで」

ロ「理由がそこなりけるの!?」

火「絶望的ですね、出番」

ロ「いえ! 必ず出番を掴み取りたまうわよ!」

ア「では、またお会いしましょう」

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