とある傭兵と脚本家   作:子藤貝

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はい。今回から青年編入ります。
色々と過程をすっ飛ばしてキング・クリムゾン!
的な感じになっとります。
あ、今回からあの人も登場しますよ。


第三話 邂逅

更に七年の月日が経った。

ベネットとアルマは生きている間に気づけなかった。

確かにアーサーはローラに忠誠を誓った。

仰ぐべき主を見つけたと。だが、彼は自分という

人間がどれだけ歪んでいるのか無意識の内に気づいていた。

だからこそ、最も近い考え方を持つローラに仕えたのだ。

そして、挫折と遺言によって、彼は本格的に吹っ切れた。

それも、悪い意味で。

 

両親の死の原因はメイドの不始末による

火事だった。原因となったメイドのリディアは、

アーサーが生まれる前から両親と関係の深い人物だった。

だが、アーサーはそれを容赦なく切り捨てた。

リディアに恨みがあったわけではない。両親の死は

遺言のお陰で吹っ切れていた。アーサーは、自分に

親しい人物を容赦なく切り捨てられるか証明してみせろと

ローラに言われ、眉一つ動かさずにリディアを

ボーフォート家のメイドから追放し、代わりに

両親の死の原因をつくったと脅迫して、清教派の

暗部に放り込んだ。最初は死にたいとブツブツつぶやいていたが、

1年経つと、アーサーの忠実な影として働くようになった。

アーサーは相変わらずローラの忠実な人形で在り続けた。

身長は既に180cmを超えており、戦闘技術や

魔術に妥協を許さず磨きをかけてきたお陰で

必要悪の教会(ネセサリウス)でも屈指の実力者と

相成った。悪辣なまでの頭脳を備えるローラが策謀し、

魔術師ながら近距離戦もこなすアーサーが

それを忠実に実行する。悪夢のような連携が

いつの間にか出来上がっていた。

 

「で、魔術結社の方はどうなりたるのかしら?」

 

「既に、信頼できる部下(リディア)が潜入しております。

数日もすれば内部崩壊は確実かと」

 

「そうなりけるのね。それにしても、アーサー。

よくあれだけのことをして、恨まれずに

忠実な部下に仕立て上げられたまいけるわね」

 

「要は飴と鞭ですよ。所詮、人間は優しくされれば

素直になってしまう。そこに恩という感情を挟み込んで

やれば、忠実な駒が出来上がります」

 

「こわいこわい。命令したのが私とはいえども、

それを容赦なく実行できる貴方は随分と

邪悪になりたまえるわね」

 

「クク、貴女が言えた義理でもないでしょう、ローラ様。

以前、小耳に挟みましたが、あなたを支持していない連中が

不審なまでに立て続けに首を吊ったと聞きましたが?」

 

「何のことなりたもうかしら? それより、自殺などという

教義に反する神をも恐れぬ行為、地獄行きは確定なりけるわねぇ」

 

「ククク、そうでしょうねぇ。まあ、生きていたところで

同じようなものでしたでしょうけど」

 

そういったように仕向ける辺り、この二人がどれほど

意地の悪い考えをしているかが想像に難くない。

 

「そういえば、今日は天草十字凄教から少女が訪れなるわ」

 

「・・・ローラ様が極東などという僻地からやってくる

少女のことを気にかけているということは、何か

特殊な力でも持っているので?」

 

「ええ。彼女は"聖人"なりけるわ」

 

「ほう、聖人ですか」

 

聖人という単語を聞き、アーサーは少し興味を持ったように言う。

世界に20人程しかいない、『神に似せられて生まれた存在』。

偶像の理論により神の力の一端を宿し、その強大さ故に

組織につくことは珍しく、基本的に単独行動を好む。

そんな聖人の一人である人物が、イギリス清教にやってくる。

興味を抱かぬはずなど無いだろう。

 

「面白そうですね」

 

「なれば、彼女の実力の程、見てきて欲しく思いたるの」

 

「了解しました」

 

「ふふ、貴方のその即決ぶりが、私は好ましく思えたるわ」

 

「光栄です、我が主人よ」

 

そう言って恭しくお辞儀をした後、彼は部屋から退出した。

 

 

 

 

「貴方は何者ですか?」

 

「私はアーサー。ローラ様・・・最大主教様の側近として働いている者です」

 

少女を迎えに行くと、そこは死屍累々の状態だった。

どうも、事前の情報の伝達がうまくできていなかったようで、

アポイントメントも取らずに訪れた少女を門前払いしようとし、

少女が日本語しか喋れないので話が通じず、揉め事になってしまい、

挙句応援に来た者達ごと少女に叩き伏せられたのだ。

因みに、アーサーは任務で色々と外国に行くので日本語ぐらいは

容易く話せる。

 

「アーサー殿ですか、良い名前ですね」

 

「ああ、私が尊敬した父が考えてくれた名ですから。貴女の名は?」

 

「神裂火織です。今日からイギリス清教でお世話になる身です」

 

「そうですか。それで・・・私達の本拠地である聖ジョージ大聖堂の

守衛を尽く薙ぎ倒してくれた落とし前をどうとるおつもりで?」

 

「うっ・・・すみません、日本語が通じず、色々と勘違いされてしまった

みたいなので、手っ取り早く気絶してもらったのですが・・・」

 

「・・・まあ、いいでしょう。こちらが情報の伝達を疎かにしていたせいですし、

なにより、貴女のような少女相手に大人数でかかって返り討ちになる

うちの阿呆の方が悪いですから」

 

「・・・その言い方では、私が弱いと・・・?」

 

「はい」

 

はっきりと、アーサーはそう告げた。

聖人であり、天草のトップでもあった火織は、

その迷いのない返答に少々苛立つ。

 

「私は、これでも聖人の身です。まだ十にも満たないですが、

甘く見られたくはないですね」

 

そう挑発的に言ってみるも、

 

「事実を正直に言ったまでです」

 

と簡潔に返す。火織としては、その返答の簡潔さは面白くない。

故に、彼女はアーサーに挑戦状を叩きつけた。

 

「・・・では、アーサー殿ならば私に勝てるとでも?」

 

乗ってくるはずがない。所詮は聖人である自分に

勝てるわけなど無い、火織はそう思っていた。

あくまで、彼の言葉はイギリス清教のメンツのために

言った戯言なのだと。だが。

 

「中々好戦的ですが、死にたくないのであればその性格は

改めなさい。まず間違い無く前線で死にます。ああ、挑戦なら

喜んでお受けしますよ」

 

想定外の返答。余計な言葉も聞こえたが、火織には

それは大した問題ではない。

今、なんと言った? 聖人である自分に、

喜んで勝負を受けると? 馬鹿な。

 

「その言葉、後悔することになりますよ」

 

「どうでもいいですね。いい機会です、火織さん」

 

案内をするため、火織の少し前を歩いていたアーサーは、

ゆっくりと振り返り、不敵に笑いつつ応える。

 

「上というものを知りなさい」

 

 

 

 

 

広い場所に移り、魔術師同士の試合が始まった。

だが、これを試合と呼べるのだろうか。

一方がもう一方を嬲っているような状態なのだ、

これはどちらかといえばリンチに近い。

そして、嬲る側と、嬲られる側。

それは火織の想定していたものとは違った。

 

「おや、もう終わりですか」

 

そう言いつつ余裕を見せるのが嬲る側(アーサー)で、

 

「くっ! この程度・・・!」

 

地面に這いつくばって必死になるのが嬲られる側(火織)だ。

最初は火織が圧倒的に攻めていた。そしてそのまま押しきれると思っていた。

だが、十分もしない内に状況は五分に。そしていつの間にか

追い詰められているのは火織の方だった。

 

「貴女は聖人としての力に振り回されすぎですね、まるでなっていません。

多少格闘術ができてはいても、聖人の肉体を十全に生かせていない。

これではただ力任せなのと同じですよ」

 

そう言いつつ、地面から起き上がったところを容赦なく顎に

蹴りを入れるアーサー。とっさにガードするが、

ガードの上から衝撃が来て吹き飛ばされる。

 

「っこのぉ!」

 

すぐさま体制を立て直し、渾身の蹴りを放つ。聖人の蹴りだ。

少女とはいえ、膂力は大人以上。普通ならガードしたところで

粉砕されるだけだ。そのはずなのに。

 

「ふむ、今のは中々。必死になれば、ある程度は出来るようですね」

 

事も無げに、涼しげに喋るアーサー。蹴りを受けた腕は

相あるのが当前といった具合に無傷。骨折はおろか打撲すらないようだ。

 

「くっ!? 一体何なんですか貴方は! 聖人である私の蹴りを受けて

平然としているなんて、本当にただの魔術師なんですか!?」

 

「ええ。私は偉大なるお方の人形であるという以外は、

一般的な人間と変わりない肉体構造ですよ。因みに

先ほどの蹴りは化勁で流しました」

 

(化勁・・・大陸の拳法を使うのか・・・!)

 

多種多様な中国武術において、当たれば一撃必殺というような技は数多い。

故に、これらを受け流すような技が必要になってくる。

化勁はその一つで、腕や体を力の流れに従うように動かし、

回転の力によって攻撃のエネルギーを受け流すといったものだ。

有名なところで言えば、太極拳などだろう。

もっとも、聖人の蹴りを受け流せる化勁など、常識的には

ありえないような練度だが。

 

(相手は魔術師だというのに、接近戦で私が遅れを取るなんて・・・!)

 

基本、魔術師というのは魔術を行使して戦う。故に

肉体的に戦う必要がない。だが、アーサーはローラの

与える過酷な任務をこなすため、常日頃から鍛錬をし、

長期の休暇には中国の奥地に赴いて、自分が師と仰ぐ

拳法の達人相手に生きるか死ぬかのギリギリの死合いをしている。

加えて、任務そのものが濃い経験となるので、

短期間で数年分の経験値が得られる。

これならば、いくら相手が聖人であっても、身のこなしも未熟な

少女(火織)相手に、負けるわけなど無かった。

 

「そろそろ終わらせますか」

 

そう言うと、火織から少しだけ距離を取るアーサー。

一見すると隙だらけの行動に、火織は馬鹿正直に突っ込む。

 

「これで終わりです!」

 

「ええ、貴女がね」

 

直後。彼女の体にとてつもない衝撃が加わり、次いで体が

くの字に折れ曲がる。肺から酸素が失われ、息ができない。

 

「どうです? 自身の、貴女の自信の源たる聖人の力を受けた感想は?」

 

何とかわずかずつ呼吸を落ち着かせ、肺に酸素を送り込む。

脳に酸素を補給されたおかげで、アーサーの言葉に対する

思考能力が回復していく。アーサーの言葉が、最初は

理解できなかったが、次第にある一つの可能性に行き着く。

 

「まさか・・・カウンター・・・?」

 

ゼイゼイと、息を切らせつつ何とか声にする。

それに対し、アーサーは嫌らしい笑みを浮かべ、

 

「はい、正解です。花丸を上げましょうか」

 

と答える。火織はその笑顔に、

 

(くそっ! どこまでも馬鹿にして!)

 

といった感想を抱いた。

彼は、わざと隙を作って決着を付けるために火織が

全力で向かってくる状況を生み出した。

後は、彼女に対して急所あたりを撃ち抜けるよう

構えて待つだけ。結果、火織は彼女自身の聖人としての

全力を、その体にもろに受けた。

相手の行動を把握し、自分に都合のいい状況を生み出すという

極めて難度の高いカウンターだった。

 

その後も七天七刀を使って挑むも、ワイヤーを全て掴み取られた挙句、

ワイヤーが繋がっていた七天七刀もろとも天井に(・・・)叩きつけられたり、

まさしく一方的な勝負だった。

 

「つ・・・強すぎる・・・」

 

「貴女が弱すぎるのですよ。私が任務で戦ったい相手は、

嫌な戦い方を強制できるような状況を作ったり、真正面からでは

打ち合いすらまともに出来ないような者もいましたし。

はっきり言って、貴女は私が今まで戦った相手の中で下から三番目程度ですね」

 

「そんな・・・っ」

 

自分が相手にもならなかったことは理解している。だが、

これほどまでに自分が弱いのだと、井の中の蛙は初めて知った。

 

「まあ、筋はいいですし、これから鍛えれば或いは化けるでしょうかね」

 

(凄い・・・。私も、あれだけの強さを手に入れて、誰かを守れるように・・・!)

 

天草十字凄教の皆が、自分という『幸運』によって『不幸』にならぬよう、

ここに来たはずだった。しかし火織は、『幸運』にもはるか高くの目標を得て、

それを超えるために努力することとなった。




アーサー「チートすぎるでしょう」

火織「ボコボコにされました」

子藤貝「正直、すまんかった」

ローラ「私前半にちょびっとしか出てなきなるわよ!」

子「あ、うん。その内出番減ってくかもね」

ロ「ちょ、ちょっと待ちたまいるのよ!
私はこの作品のヒロイン、私が出ないで
どうするといいたりけるのかしら!?」

子「え?ヒロイン?貴女じゃないっすよ?」

ロ「え?」

ア「いつからローラ様がヒロインだと錯覚していたのですか?」

ロ「なん・・・だと・・・?」

火「最大主教様は犠牲となったのです。
他キャラの出番という犠牲にね」

子「収集つかなくなりそうなので今回はここまでで。でわでわー」

ロ「ちょっと! まだ話は終わってなry」

ア「ローラ様ェ・・・」

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