とある傭兵と脚本家   作:子藤貝

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ローラのキャラが上手く表現できていない
気がする・・・。
とりあえず、幼少期編はこれにて終了です。


第二話 挫折と再誕

「報告書の作成、終わりました」

 

「ご苦労なりけるわ、アーサー」

 

「勿体なきお言葉です、最大主教様」

 

「・・・有能なのは良きことなりけるのだけれど、

どうにも堅苦しいところが治らなりけるわねぇ・・・」

 

「・・・ローラ様が奔放すぎるのです」

 

「うんうん、公の場意外ではきちんと名前で

呼ぶことは覚えたりけるわね!」

 

「・・・正直、いまだに慣れません」

 

ローラのスカウトに応じ、必要悪の教会(ネセサリウス)

入ってから既に一年。飲み込みの早いアーサーは

ローラのもとで軽い雑務から始め、瞬く間に書類仕事まで

こなせるようになっていった。

 

「毎度思いたるのだけれど、貴方本当に七歳児なるの?」

 

「間違いございませんが?」

 

「・・・天才というものかしら?」

 

「毎日山のような仕事を一年間やり続ければ、

自然と仕事を覚えていくものだと思いますが・・・」

 

「それが普通と思いたるのなら、貴方は常識を一度学ぶ

必要がありけるわね」

 

ローラ自身、スカウトしたのはあくまで必要悪の教会で

教育し、次世代の戦力とするためだったのだが。

ここまで聡明な子供とは思っていなかったのだ。

 

(まあ、ベネットもデスクワークでは右に出るものが

いないほどだったし、血のなせる技なりけるのかしら?)

 

アーサーの父であるベネットは、清教派として若い頃に活躍しており、

書類仕事などのデスクワークで組織を支えた縁の下の存在だった。

もっとも、それは彼が魔術師としての才能がなかったからでもあるのだが。

ちなみにローラと長い関係だけあり、夫婦ともに魔術の存在は

知っているし、アーサーも五歳の頃に教えられた。

 

「ふむふむ、アシュフォードで秘密裏に怪しげな活動していた魔術団体を

発見、拘束した、なりけるか」

 

「どういった処置をいたしますか? 他国のスパイの可能性もありますが」

 

「そうでありければ上手く誘導して情報を吐かせるもよし、違うなら

単純に他の仲間がいないか吐かせればよしよ」

 

「了解。メンバーにはそのように伝えます」

 

そう言って席を立つ。ローラのもとで直接指導を受けた身だ。

拷問やら謀略やらの組織の汚いところは掃いて捨てるほど経験した。

最初は慣れずに吐いたりもしたが、その内慣れていってしまった。

つくづく子供とは思えない。仕事にも荒事にも慣れ、

アーサーは自信をつけていったのだが。ローラはそれを

危うく思っていた。以前アーサーに、

 

「そのうち痛い目をみることになりけるわ」

 

と言ったのだが、大丈夫です、などと欠片も危機感を

感じていないアーサーを心配していた。

彼女が心配する、などということは滅多にない。

なにせ部下達からですら冷酷非道を地で行く

女だと思われているし、ローラとてそれは自覚してはいる。

長い付き合いであるエリザードですら心の中を

さらけ出したことはない。組織の長というのは得てして

そういうものだからだ。

だが、アーサーだけは違った。彼は自分の持つ本質的な、

人間として最低とも思える考え方を理解したうえで

仕えるなどとのたまったのだ。

常に敵対者を意識し、己自身を偽り続け、汚れに汚れてきた

自分を、なお自分の仕えるべき者だと、嘘偽りなく言ってくれた。

それが、彼女には少し嬉しかった。

だからこそ、大いに信頼を置く彼には、こんなところで躓いて

潰れてほしくなかった。こんな薄汚れた世界では、心から

信頼で来る存在など滅多に得られない。

彼女はそれを理解しているし、だからこそ失いたくなかった。

だが、彼女のそのささやかなる心配は、想定外の事態を以って

現実となってしまう。

 

 

 

 

 

「・・・今、なんと?」

 

「アーサー、お主の父ベネットと、母アルマが亡くなりたるわ」

 

ローラの口から、淡々と紡がれた言葉を、アーサーは

理解できずにいた。

自分が目指し、いつか追い越してみせると意気込んでいた

父と、いつも優しく微笑み、見守ってくれた母が死んだ。

頭が理解することを拒否した。だが、ゆっくりと

ローラの言葉の意味が内に染みこんでいき、

無理やり自分へと理解させていくのが分かった。

気づけば、体がいつの間にか出口へと向かっていた。

 

「っ! 少しの間失礼致します」

 

「どこへ行こうといいたりけるのかしら?」

 

「どいてください!」

 

「できぬ相談なりけるわね」

 

焦りを隠さず、ローラに対して怒鳴るアーサー。

普段冷静沈着な彼を、他の誰かが見れば驚いたことだろう。

もっとも、ここには彼とローラ意外いないが。

 

「アーサー。今、貴方は大事な仕事中なるわよ」

 

「それがどうしたというのですか・・・父が、母が

死んだというのに・・・」

 

「アーサー」

 

ビクリと、体を震わせる。恐怖など、幾度と無く味わって慣れたと

思っていたのに、ローラの冷めた一言で、全身が凍りついた。

それを見て、ローラはゆっくりと続きを紡ぐ。

 

「貴方は言った筈なるわね? 私にすべてを捧げても惜しくないと。

あれは嘘なりけるのかしら?」

 

「い、いえ。そんなことは」

 

「なればなぜ、私が仕事をしている最中にでて行こうとしたりけるのかしら?」

 

「それは・・・」

 

アーサーには、それ以上言葉を発することができなかった。

今彼がいるのは彼が仕えるローラの仕事場。上司である彼女が

まだ仕事を続けているのに、彼が無断で仕事を放り出すことは

許されることではない。だが、頭で理解できても、感情は

納得がいかない。そんなジレンマが、彼の口を黙らせた。

 

「何も反論できないという事なれば、頭で理解できているということ。

ならば感情に身を任せるなど、貴方が以前言っていたとおり愚かしいこと

なりけるのでは?」

 

「・・・・・・」

 

アーサーが必要悪の教会に入ったばかりの頃、清教派の過激な連中が

感情に任せて騎士派に突っかかったことがあった。

その理由が、自分の息子を見殺しにされたから。

アーサーはその時、冷静な判断も下せない馬鹿者だと言ったのだが、

今なら彼の感情も理解できた。アーサーはまだ七歳の子供。

感情というものを理解するには、あまりに人生経験が少なすぎた。

天才だ何だと両親に持て囃され、天狗になってしまったのだ。

それをアーサーは気づくことができなかった。

故に、彼は今ローラと両親との板挟みになってしまった。

 

「アーサー、貴方はたしかに有能なるわ。けどね、貴方は組織というものを

理解していないわ。己という個を潰し、全体の意を汲んで行動する。

それが組織というものよ」

 

「そんな・・・」

 

「いい加減に目を覚ましなさい!」

 

「っ!」

 

ローラの叱責に、思わず身を震わせるアーサー。

彼が今まで経験した中で、最も恐ろしいと思えた。

 

「いい!? どれだけの理不尽があろうとも、どれだけの犠牲があろうとも!

私たちは切り捨てる覚悟を持たねばならないの! 一々感情に流されるぐらいなら、

貴方は無能以下の役立たずなりけるわ!」

 

「む・・・のう・・・」

 

散々天才だ何だと言われ続けてきた、アーサーのプライドは粉々になった。

他でもない、自分が仕えるべき相手だと感じた相手に。

 

「出ていきなさい。役立たずは、私には必要なきなりけるわ」

 

冷徹に、彼女は最後通牒を彼に突きつけた。

 

 

 

 

 

「・・・言い過ぎたりけるかしら?」

 

アーサーがとぼとぼと、その小さな背中に影を落としつつ

部屋を出ていった後、ローラは自己嫌悪に陥っていた。

確かに、自分の言ったことは正しいのだろう。

だが、相手は七歳になったばかりの子供。

そんなアーサーに、個を捨てて全を守れなどという

非情を理解しろという方が酷というもの。

分かってはいた。彼は確かに理解者だ。

だが所詮子供なのだ。そんな子供に、過度な期待を

背負わせてしまった自分が嫌になる。

子供にとって絶対である親と、自分とを

天秤にかけさせたのだ。嫌われてもおかしくない。

ふと、天上を見上げていれば、視界がぼやけているのが分かった。

 

(・・・いつ以来なりけるかしら、こんな風に・・・)

 

目を瞑り、そっと顔に手を当てる。手の平で覆ったはずの

顔からは、一滴の感情が零れた。

 

 

 

 

数日が経った。アーサーは未だ、ローラの仕事部屋に

やってこない。

 

(やはり、潰れてしまったのかしら・・・)

 

残念には思うが、もう未練など感じてはいない。

一々感傷を引きずっていては、誰かにそれをつけこまれる。

ローラは、目の前の仕事に取り掛かろうと書類に目を通し

始めた。そんな時に。

コンコン。

 

「!」

 

ノックの音。もしやと思い、思わず身構える。

現れたのは、ローラの予想通りアーサーだった。

 

「・・・今更なんの用なりけるかしら?」

 

冷たく突き放す。本当なら、慰めの言葉でも送ってやりたい。

だが、彼女の立場がそれを許さない。

弱みを見せれば、生き残れないのがこの世界だ。

 

「先日の無礼の謝罪に来ました」

 

そう言うアーサーの顔には、数日前と違い迷いがなかった。

 

「そう」

 

「仕事中であるにもかかわらず、私的な感情で仕事を放棄しようと

してしまい、申し訳ございませんでした」

 

そう言って、ペコリとお辞儀する。

 

「まあ、貴方もまだ子供であることを私も忘れていたから、

うっかりご両親の死を話してしまいたりけるけど。

それでも失態を有耶無耶にはできなきことよ」

 

「覚悟はできております。両親もおらず、最早思い残すことも

ありません。ただ一つの懸念である、最大主教様のことも、

他の優秀なものがおりますから」

 

「・・・本気で言いたりけるの?」

 

もし本気で言っているのなら、ローラは失望したと言わざるをえない。

例え、実力的にアーサーよりも優秀な者はいたとしても、

ローラを全力で支えることができるのは、アーサーだけなのだ。

そしてアーサーは、

 

「まさか。確かに最大主教様を支えることはできても、

私以上にローラ様(・・・・)を支えられるものはおりませぬから。

それだけが心残りで」

 

毅然と、そう言った。ローラは目を見開いた。

たった数日、その間にアーサーは目覚しく成長していた。

無論、身体的な意味ではなく、心が強くなっていたのだ。

 

「・・・アーサー、貴方・・・」

 

「父に、そして母に感謝せねばなりません。遺言を受け取り、最初に

出てきた言葉が、父からの叱責でしたので」

 

遺言には、調子に乗りすぎてローラに怒られるであろうことが

書かれており、それをたしなめる言葉が延々と続いていた。

子供は子供らしく、大人の真似事などせずに、己自身で

勝負してみせよ、それでこそボーフォートの嫡男であると。

母からは、体には気をつけるようにと、そして一度ローラに

命を擲つと誓ったのならば、それをつき通しなさいと。

何もかも見抜いていた両親の慧眼に、アーサーは驚愕し、

感服し、そして最後には大声で泣き喚いた。

未熟な自分を最後まで心配させてしまったことを悔いた。

両親に何の恩を返すことも出来なかったことを悔いた。

悔しくて悔しくて、顔中がグチャグチャになる程泣いた。

そして決意した。決して悔いなく、己を突き通してみせると。

おのが仕える主に立てた誓いを守り通してみせると。

 

「私は失念しておりました。私は人形であり人間ではない、

感情的に動くことなど許されない、ただの駒だということを。

私はただあなたの為に動く切り捨てられる手足でいい」

 

「そう、それでよいのでありけるわね?」

 

「愚問にございます。この身は常に貴女の、ローラ=スチュアートの

都合のいい手札にして駒でございます」

 

その言葉を聞き、ローラはついに決意した。

子供だからということで、先延ばしにしていたことを。

今ここで処罰として与えることを。

 

「良い返事なりけるわ。なれば、私のためにその身を

闇へと貶めなさい。アーサー、貴方はこれより

私の右腕にして影、切り捨てられる都合のいい駒にして

ただ一人の理解者。そうであり続けなさい」

 

それは、暗に汚い裏仕事や謀略を、積極的にやっていけということ。

どれほど汚泥にまみれようと、ただひたすらに自分のために、

ただそれだけのために動く人形となれということ。

殺せと言われれば殺し、死ねと言われれば死ぬ。

まさしく、人としての尊厳を捨てた命令。

だが、アーサーはそれに邪悪にも思える笑みを浮かべ、

 

「御意」

 

ただ、簡潔に答えた。

ローラ=スチュアートの右腕にして怪物が、ついに誕生した。




アーサー「視聴者の諸君、私だ」

ローラ「お主だったのか」

アーサー「暇を」

ローラ「持て余した」

ア・ロ「「キャラたちの遊び」」

子藤貝「なぁにこれぇ」

ア「まあ、ここはあとがきだからな」

ロ「キャラ崩壊など瑣末なことなりけるわ」

子「あれか、よくキャラが定まらなくなる私へのあてつけか」

ア・ロ「「その通りだ(なりけるわ)!」」

子「ひどい!」

ア「ま、作者いじりはこれぐらいにして」

ロ「今回から、こんな風にあとがきを座談会形式にしたりけるわ」

子「とりあえず、こんな感じですので」

ア「どうせ大した話はしないので、飛ばしてもらっても構わん」

ロ「でわでわーなるわー♪」

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