とある傭兵と脚本家   作:子藤貝

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第二話投稿。今回は原作のあの人の登場です。
禁書でイギリスといえば、
わたしはやはりこの人です。


第一話 運命の訪れ

誕生から6年の月日が経った。アーサーは

両親の期待に応えるべく、日々自己の研鑽を

怠ることはなかった。

まだ小学生程度の年齢ながら、

勉学に関しても身体能力に関しても

同年代とは一線を画すほどの成長ぶりであった。

特に身体能力に関しては、ボーフォート家の

コネを利用して軍隊経験者を師事し、組手をよく

していた。始めた頃は手加減などしてくれない

実戦主義者の師に、痣だらけになるほどボコボコに

されたりもしたが、1年経った今では、相変わらず

ボコボコにされてはいるものの、何度か攻撃が当たるほどの

成長を遂げた。この経験が、後の彼を支える大きな

礎となることとなった。

 

 

 

 

ある日の晩、父ベネットに呼び出されたアーサーは、

母親であるアルマとともに、ベネットの書斎にいた。

 

「アーサー、お前は実に利発な子だ。同年代の子供達と

比較してみても、お前ほどではない。恐らく将来は

我らが先祖に比肩しうる傑物となろう」

 

「父上。お言葉は大変嬉しのですが、私は先祖たちのような

偉大な次人物と比較されるほどの人物とは・・・」

 

「謙遜するでない。吾輩の心の中を正直に言っただけのこと。

お前は吾輩の息子としてはとても誇らしい。だが

吾輩のような凡夫の子に生まれてしまったことを嘆いてもおるのだ」

 

「父上! 私は生まれて6年も経っておりませぬが、父上ほど

ご立派な御仁を見たことはございません! どうか卑下されないで下さい!」

 

「ああ、そうだな。すまん、どうにも感傷的になっていたようだ。

さて、話を戻すぞ。吾輩は明後日、イギリス清教の最大主教(アークビショップ)殿に

拝謁する」

 

「あら、随分と唐突ね」

 

「どうも、アーサーのことがイギリス清教のお偉方の耳に入ったらしくてな。

最大主教殿にも伝わったらしい」

 

「アーサーはかなり大人びているから、どうしても他の子達より目立ってしまうわ。

でもまさか、最大主教様の目に留まるなんて・・・」

 

「アーサー。お前も将来、吾輩の後を継いでボーフォート家を

引っ張って行かねばならん。そうなれば、お偉方との交流は

不可欠なものとなる。だから今回の対面を期に、お前に上流社会の

仕来りや振る舞いを叩きこんでやろう。覚悟しておけ」

 

「はい! 父上の恥とならぬよう、誠心誠意、努めてまいりたいと思います!」

 

「良い返事だ。では、明後日までに準備を整えておけ」

 

「はい」

 

そして当日。

 

「よく来たりけるわね。、私がイギリス清教のトップ、最大主教《アークビショップ》

を務めたりけるローラ=スチュアートなりけるわ」

 

「父上。この自称最大主教殿はどういった人物ですか?」

 

「馬鹿者! この御方はイギリスにおける三大派閥、清教派のトップ、

正真正銘の最大主教殿だ!」

 

「・・・そうは見えないのですが?」

 

「・・・まあ、威厳が足りぬお方ではあるが」

 

「ちょ、ベネット!? そこはフォローを入れるべきところなりけるのでは!?」

 

「ならばそのへんてこな口調をどうにかしてくだされ!」

 

「くっ、一度癖がついてしまっては治り難きものなりけるのよ・・・」

 

「どこの誰ですか。そんな話し方を教えたのは」

 

「清教派の者に先日紹介された男なりけるわよ・・・。日本語に詳しいなどと

言いたりけるから習いてみれば、日本語はおろか素の喋り方まで

おかしくなりたるわけ・・・」

 

目に見えてブルーになるローラ。結構気にはしていたようだ。

さすがにこれ以上は彼女の傷を抉るだけなので、

話題を変えることにする。

 

「・・・もうこの話題はやめましょうか。そういえば、最近は

何事か有りましたか?」

 

「大したことは起きてはおらなりけりよ。そちらはどうなりけるかしら?」

 

「吾輩は、先日旧い友人と再会しましたよ。相変わらず元気でした」

 

「そう、それは良きことでありけるわ」

 

「まだまだ現役は引退できんなどとほざいておりましたよ」

 

「そう、こちらも血気盛んな者達が多くて困りたりけるわ」

 

「はは、皆仕事熱心だということでしょう」

 

アーサーは、訝しげに目の前の女性、ローラ=スチュアートを見る。

宝石が如き輝きを放つ、身の丈を超える綺麗な金髪を後ろでまとめ、

口調ではヘンテコな人物に思えるが、清教派という強大な権力を纏め上げる

カリスマ性がひしひしと感じられる。なにより、その容姿は

18と言われても違和感など抱かぬほどの若々しい美貌。

実年齢はいくつなのかは知らないが、噂では女王陛下と

親しい仲だと聞いている。正直、幼いながら卓越した慧眼を持つ

アーサーの目を以ってしても、底が知れない女性だった。

 

「ん? 誰か私の癇に障るようなことを思いたりけるような気が」

 

「そう思われたくなければ、もう少し威厳のある振る舞いをして下され」

 

「・・・父上は、最大主教様と仲がよろしいのですね」

 

「まあ、古くからの馴染みではあるな。吾輩が若い頃は

よく一緒に無茶をやっていたものだ」

 

「貴方、一応公の場なのですからもう少し砕けた言い方を

改めたほうがいいのでは?」

 

一応最低限の敬語は話してはいるが、目上の人間に対する

言葉遣いではない。しかしベネットは、

 

「ふん、どうせここにはこいつと吾輩達しかおらぬ。

それにアーサーには、早めにこの女狐の本性を

知っておいてもらわぬと、後々利用されかねん」

 

「きー!それでは私が悪辣なりける悪女のように聞こえたりけるのよ!」

 

「どこに違いがあるというのですか!」

 

などとまるで子供のように互いに啀み合う二人。しかしアーサーの、

 

「いえ、私は一向に構いませんが?」

 

などという予想外の言葉にこの場の全員が石化した。

 

「・・・アーサー? 今なんと言った?」

 

いち早く復活したベネットが、恐る恐る聞いてみる。

 

「ですから、私は最大主教様に利用されることに、

特に疑問を感じてはおりません、と申しているのですが?」

 

再び絶句するベネット。彼も、そしてアルマもかつては

清教派の人間として活動していた。だからこそローラの

本性は誰よりもよく知っている。だからこそ、アーサーの

言葉は正気でも失ったのかと思いたくなるようなものに感じられたのだ。

 

「・・・アーサー、理由を聞かせてくれ。返答によっては

お前を再教育せねばならんかもしれん」

 

いつも以上に厳格な雰囲気を醸し出し、アーサーに問う。

彼は本気だった。

 

「父上。貴方はこの不出来の息子に大いに期待してくださっております。

それは大変嬉しいのですが、私は自分は上に立てるような人間ではないと

薄々感じていたのです。そして、最大主教様に拝謁した瞬間、私の

疑念は完全に解消いたしました。私はこの方にお仕えすることが

使命なのだと」

 

「その言に、嘘偽りなど無いか?」

 

「愚問にございます。私はこの身の全てを(なげう)ったとしても、

後悔はありませんでしょう」

 

「・・・よもや最大主教殿に惚れたか?」

 

「ある意味で一目惚れです。ですが、私はまだ六歳の身。色恋沙汰には

関心がございませぬ。ですから、私は最大主教殿の本質に

惚れ込んだのです」

 

「私の本質なりけるか?」

 

思わぬ言葉に、ローラはアーサーへと聞き返した。

その目は疑いの念で一杯といった風だ。

 

「はい。例えどれだけの事をしようと、常に利益を優先し、

奸計を巡らせ優位を保つ。そういった腹づもりが見て取れました」

 

(っ! アーサー・・・!)

 

ベネットは内心焦った。ローラは確かにそういった類の人物ではあるが、

それもこれも、全ては清教派のことを思ってこそ。

だからこそ、アーサーの言葉はかなり危ういものだ。

下手をすれば、ローラの味方側から始末されかねない。

 

「ふーん・・・。私の本質がそれだと、どこからそう感じ取りたりけるかしら?」

 

微笑みつつ、アーサーへと質問を投げかける。

しかし、その微笑みは氷点下の冷たさがあった。

 

「単純です。先程からの父上とのやり取りを見ていれば、

私でも分かります。父上との何気ない会話のようではありましたが、

その実清教派の厄介事を避けようとするものだと、

私は感じ取っておりました」

 

しかし、冷ややかな笑みを向けられてなお、毅然とした態度で接するアーサー。

その様を、ローラは面白いと感じていた。

 

「まず大したことは起きていない、と最大主教様は仰っておりましたが、

それは裏を返せば中小程度の面倒事が起こっているということ。

最大主教様ほどのお方が、ただの子供である私に興味を示した程度で、

わざわざ呼び出す事自体がそもそもおかしいのです。その本当の目的は、

昔からの知り合いである父上を通して、信頼出来る人物を探し、

かつ何らかのことが起こっていると暗に父上に伝えることだったのではと。

そして何よりの証拠は、お二人が旧知の仲だということ。

父上なら、最大主教殿の事情くらい把握していましょう」

 

ベネットは驚愕により沈黙した。たった六歳の息子が、

何食わぬ話をしていたように見せかけた先ほどの会話の内容を

看破していたのだ。無理もないことだろう。

そんな時に。

 

「ぷっ、あはははははははは!」

 

「・・・なにかおかしいところでもありましたか?」

 

ローラは笑っていた。それに対し、アーサーは少しだけ

不快感をあらわにして声に出す。

 

「ふふふ、いや、大方はアーサー、そなたの想像通りなりけるわよ。

でもね、公の場であるここで私に対して腹黒いなどと

言いけるばか者は初めて見たりよ」

 

「・・・すみません。公的な場で失礼な真似を」

 

「いえ、その聡明さに敬意を評したりて、先ほどの発言は

許したるわ。ああ、それと態々私達が秘密裏に話をしていたことを

べらべら喋ったのは迂闊なりけるわ」

 

「っ! 申し訳ありません! 調子に乗りすぎました!」

 

「それも許したるわ。わたし達の会話を盗み聞きしていた

者達も、貴方のような得体のしれない人物がいるとわかれば

牽制になりけるわよ」

 

「そうですか」

 

「でも、許しはしてもペナルティはありけるわよ?」

 

そう言って微笑むローラ。アーサーはその微笑みの下に黒いオーラが

見えた気がした。

 

「アーサー、貴方は中々に優秀でありけるみたいだし、

何より私に惚れ込んだという言葉、嘘偽りは無さそうでありけるから

信用するに値しけるわ」

 

「・・・最大主教殿、まさか・・・」

 

「ええ、彼を必要悪の教会《ネセサリウス》へスカウト

いたしけるわ」

 

「ですが・・・!息子はまだ六歳ですぞ!」

 

「前例などいくらでも有りけるわ。さて、アーサー。

そなたはどうするつもりなりけるか?」

 

「・・・謹んでお受けいたします。もとより、私は最大主教様のためなら

この命を擲つ覚悟がございます」

 

(・・・どこかで教育を間違ったか・・・)

 

騎士のごとく高潔に育って欲しいと願ったが、この思考は

まるで傭兵のようだ。ベネットは内心そう思い、ため息をつく。

かくして、彼の人生を大きく決定づける組織へと入った彼は、

波乱万丈の人生を歩むこととなる。




次回かその次あたりから、
あとがきは座談会っぽくしてみようかと
思っております。

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