とある傭兵と脚本家   作:子藤貝

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めっさ遅くなりました・・・本当にすみません!
遅れた理由は私的な用事が重なったのと・・・、
密室脱出系ゲームにはまってたからです。
高校時代にもよくやっていましたが、
再度火がついてしまい・・・。
後今回オリキャラが二人出ます。特に片方は
割と重要なキャラになってく予定です。


第九話 傭兵と少女

ヨーロッパ各地を回り、一段落ついたアーサーは

中東の紛争地帯へと足を向けた。

そこではかつて幼い頃に格闘術の指南を受けた

人物が傭兵として活動しており、

アーサーは彼を頼ってやってきた。

 

「アー坊、よくもまあムカつく面になりやがったな」

 

「貴方の教えが良かったんですよ」

 

「カッ! 違いねぇ。ま、元から素質はあると思ってたがよぉ・・・」

 

今彼の目の前で昼間から酒をしばいている男こそ、

彼の初めての師であり、中国にいるもう一人の

師とはまた違った戦い方を学ばせ、彼の非道ぶりに

拍車をかけた、ある意味で張本人。

名をガズラエル=ディーノ。イギリス軍の

元陸軍将校であり、最終階級は中佐。

第二次世界大戦中に目覚しい活躍をし、

敵味方問わず『気狂い狼』などと呼ばれた。

戦後は祖国のために軍に残り、

後継の育成に尽力。しかしある日、

 

「飽きた、俺は軍を辞める」

 

と言い残して辞表も出さずに軍を抜け、

いざ社会復帰したものの血腥い戦場の

空気から脱することができず、仕事先で

暴力沙汰を起こして前科がつき。

保釈金をアーサーの祖父が懇意にしていた

という理由でボーフォート家が出し、

アーサーの格闘技術の教師として雇い、

ベネットたちの死後はアーサーに

多少の助言を与えて去った。

そして流れに流れ、戦場で稼ぐ意外が思い浮かばず

傭兵家業を始めたという、なんとも波乱に満ちた

人生を送り、それを満喫している。

現在御歳88。しかしそれを感じさせぬ気迫と

眼光を宿す、正に隙のない人物だった。

 

「んで? 俺のとこ来たっつーことはよぉ・・・」

 

「ええ、路銀が尽きそうなので雇って欲しいんです」

 

「うし、採用」

 

「「「は!?」」」

 

ガズラエル率いる傭兵団のメンバーは、非常に驚いた。

なにせまだ成人どころか18にもなっていないような

少年を雇い入れるなど、とてつもなく厳しいことで有名な

ガズラエルがするはずないと思ったからだ。

ガズラエルはアーサーほどではないが、私情と公を

しっかりと区切り、たとえ恩のある相手でも

殺さなければいけないときは躊躇をしない。

実際、彼の教え子だという人物と戦場で対峙した際、

躊躇なく彼はマシンガンで教え子を蜂の巣にしてみせた。

傭兵家業は実力主義であり、舐められればそこで終わり。

彼の行いは人間としては不道徳だが、傭兵団の長としては

合理的であり正しい。

だからこそ彼らはガズラエルを信頼している。

そして、そんなガズラエルがアーサーを雇い入れると

即決した理由が、全く分からなかった。

 

「だ、団長・・・いくら元教え子たぁいえ・・・」

 

「あ゛あ゛? 俺が仕事で私情入れることなんざあったか?

おいこら言ってみやがれ」

 

「そ、そりゃあそうだがよぉ・・・」

 

「心配すんな、こいつは俺ら側の人間だぁよ。

もう何人も殺してんだろ? アー坊よぉ?」

 

「・・・その呼び方はそろそろやめてくれませんか?」

 

「カッ! 俺にとっちゃ何時まで経ってもお前はガキだ。

それより、鈍っちゃいねぇだろうなぁ・・・?」

 

そう言うと、ガズラエルはおよそ人が発するものとは思えないような

殺気をアーサーにぶつけた。

その恐ろしさたるや、漏れた殺気にあてられて新人の

男が失神し、彼と長らく付き合いのある人物ですら

冷や汗が止まらないほどだ。

だというのに、アーサーはそよ風でも浴びるような

素振りである。

 

「うしっ! 鈍っちゃいねぇようだな・・・ひょっとすれば俺より上か?」

 

「単純な一対一の正々堂々な戦闘なら、そうでしょうね」

 

「んな都合いい状況があるわけねえだろ」

 

「だからこそ貴方にはまだ(・・)勝てないんです」

 

「・・・ガキがまぁ、いっちょ前にほざきやがるな」

 

カッカッカ! と剛毅に笑うガズラエル。

こうして、アーサーは1年の間、彼の傭兵団に

助っ人として入団することとなった。

 

 

 

 

 

「まさか一人で俺らが制圧されるとはな・・・」

 

「生憎、貴様ら程度では吾輩は苦にもならんでな」

 

「フン・・・RPG-7(ロケットランチャー)をアジトめがけで

ぶっ放すなんてな・・・このド外道が」

 

「貴様らとてそれをする。吾輩はそれをし返しただけだ」

 

「・・・違いない、な」

 

テロリストのアジトは散々なものだった。

アーサーが事前に得た情報からアジトに

テロリストたちが戻ってきてることを知り、

そこに容赦なくRPG-7をぶち込んだのだ。

お陰で壁は大破、天井は青空。

人間だったものの破片が辺りに飛び散り

真っ赤な壁紙を演出している。

所々に呻き声が聞こえるが、アーサーは

気にも留めていない。

今のアーサーは、口元に黒い布を

巻きつけ、灰色のロングジャケットを着込んでいる。

手にはサブマシンガンを携えており、

軽傷で済んでいたテロリストたちを、先ほど

撃ち殺したものでもある。

今話をしているのはテロリストのまとめ役をしていた男。

立派な口ひげを生やしていたのだが、

今は血でベッタリと濡れており、額からは

赤い筋が一本頬を流れている。

男は徐に胸ポケットに手を突っ込み、

ひしゃげた紙箱を取り出した。

箱から一本のシガレットを取り出し、

口元に加える。

 

「なあ」

 

「・・・なんだ?」

 

「火、くれねぇか」

 

「生憎、煙草は吸わん」

 

「ケッ、ガキが・・・」

 

「・・・ライターはないが」

 

シュボッ。突如、ライターの音。

しかし、テロリストの男は火がほしいと

言ったように、ライターを持っていない。

アーサーもそうだ。

見ればアーサーの指先には火が

灯っていた。

 

「・・・おいおい、てめぇは魔法使いかよ」

 

「当たらずとも遠からずだ」

 

「ハ、なんだそりゃ」

 

男は最後の力を振り絞って火に煙草を近づけ、

煙草から特有の匂いを放つ煙が昇ると、

それを口に加え、ゆっくりと息を吸い、吐き出す。

燻らせる紫煙は天井《あおぞら》へとゆっくりと

向かい、

 

「・・・むかつく空だ」

 

男は青空などいつ以来に眺めたか、などと考え。

この青空は自分が死んでも同じようにあり続けるのだろうと

思うと無性に腹がたった。

そして・・・。

 

「・・・汝の魂が、神の御下へと誘われんことを」

 

男の灯火が、ゆっくりと消えた。

 

 

 

 

「もう1年経つのか・・・早いものだ」

 

テロリストたちを埋葬し、アジトにあった金品を

袋に詰め、同じくアジトにあった火薬を用いて

アジトを爆破した後、町へと戻ってきた

アーサーはポツリと、言葉を零した。

最初の1ヶ月は死に物狂いだった。

舐められないよう口調を正すように言われ、

父のように威厳のある口調にしようと今の

喋り方をしたらガズラエルから大笑いされ。

銃の本格的な扱い方を仲間内の使い方から独自で学び。

近接格闘の指導という名目の拷問。

卑怯もクソもないという戦場における鉄則。

あらゆる面で未熟だった部分を徹底的に叩き込まれた。

お陰で、半年で戦場に慣れることができた。

路銀もそろそろ溜まったし、次の目的地に向かう

準備もできている。

 

「・・・そろそろ離れるべきか」

 

此処の所、テロリストの活動が大きくなっており、

国は軍隊を派遣することを先日発表した。

傭兵団としては稼ぎ時なのだろうが、

アーサーはもう十分懐が温まっている。

このまま戦火に巻き込まれるのは避けたかった。

 

「ガズラエルに話をするか」

 

 

 

 

 

「あーそういかい。まぁ、十分仕事もやってたし鍛え直して

やったしなぁ・・・別に問題ねぇ」

 

「・・・では、世話になった」

 

「・・・アー坊」

 

「今は『ニッケル』で通してるんだ。アー坊はやめてくれ」

 

「・・・可愛げがなくなっちまったなぁ」

 

「そんなものはゴミ箱に捨ててきたさ」

 

「んで、なんだ? 死んでもいいように念仏でも唱えてくれんのか?」

 

「吾輩はプロテスタントだ、仏教徒ではない。

ただ・・・一言だけ」

 

「あん?」

 

「達者で」

 

そう言うとアーサーは一礼し、部屋を出ていった。

机の上には、いつの間に置かれたのか一発の銃弾が。

その下には、数多くの0がついた小切手が置かれている。

ガズラエルはそれを拾うと、しばらく眺めた後、

無言で分厚い金庫の中へとしまった。

そして、溜息をひとつついた後。

 

「馬鹿野郎が・・・」

 

成長し、立派になった馬鹿弟子に向けて毒づくのだった。

 

 

 

 

 

「やはり紛争が激化したか・・・」

 

中東の国から離れてから一週間後。別の国のある小さな町にて、

アーサーは道端に座りながら新聞に目を通していた。

その一面には、先日までいた国の内紛が激化し、

ついに軍隊までも出動する大事へと発展したという記事が。

 

(まあ、彼らがそう簡単にくたばるとは思えませんが・・・)

 

移動中に適当に見通路った安物のトレンチコートに身を包み、

黒い革の手袋をつけ、大きなカウボーイハットを被っている。

因みに、カウボーイハットは傭兵団を抜ける際、特に親しかった人物に

餞別としてもらったものだ。ところどころ破けているし、

色も落ちてしまって濃い茶色だったはずであろう色は

薄茶色になってしまっている。

それでも、アーサーはこの帽子をいたく気に入った。

元々アーサーは服装やらなにやらに頓着するような

性格ではない。一応公式の場ではそれなりの服装はするが、

普段の服装は地味の一言に尽きる。

そんなアーサーが帽子一つに気に入るだの気に入らないだの

といった思いを抱くことなど、彼をよく知る人物であれば

驚愕していることだろう。

 

新聞を折りたたみ、到着したバスに乗り込む。

インドを経由してもう一人の師である中国へと

向かおうとしていたのだが、どうもどこからか

戦場で大層稼ぎを出した傭兵がいるという噂が立ち、

アーサーを執拗に付け狙う輩が2日ほど前から

現れ、行く先々に先回りされるのだ。

どうも、自分の持つ金が目的らしいが、

生憎手持ちには最低限の路銀と旅行用品ぐらいしかない。

それを知らないからこそ付け狙われるのだが、

相手に説明をしてもハイそうですかと信じるほど馬鹿ではないらしく。

この2日間で十数人もの相手をするはめになった。

街のチンピラに乞食、挙句は同業者までいたが、

皆アーサーの気迫を恐れて退散するか、病院送りか。

或いは冷たい土の下で寝ぼけているかだった。

 

(とはいえ、そう何回も襲われていたらキリがないですし・・・。

ルートを変えざるを得なくなったんですよねぇ・・・)

 

こういう輩は、普段は強いものに媚びへつらうが、

自分の利益になるようなことへの嗅覚は人一倍強い。

お陰で、何度も撒いているはずなのに行く方方で

出会うことになる。どうやら背後に多少なりとも大きな

組織があり、そこの人間が主導しているフシもある。

その証拠に、出会う輩は皆鷹を象ったマークの腕章を

腕につけているのだ。どうやら組織の記号的な意味合いを

持つらしく、この国のあちこちの町で影響力を

持っているらしい。

 

(さっさと国外に逃亡すればいいですね)

 

バスに揺られつつ、アーサーはそう考えていた。

しかし、そんな甘い見通しを、アーサーは後悔することとなる。

 

 

 

 

バスで移動してから3時間。回りには山岳地帯特有の岩肌が

目に付く。すでに他の乗客はいなくなっており、後は国境付近に

向かう自分以外誰もいない。

 

「悪いねあんちゃん、こんな何もない国に来てまで手間取らせちまって」

 

「なに、ご主人が気にすることでもないさ」

 

「ハッハ、そう言ってくれると助かるよ。後もうちょいで国境付近だ」

 

「そうか・・・」

 

そんな他愛もない会話をしつつ、バスは山岳地帯を進んでいく。

 

その時。

 

バシュッ!

 

「っ!? ご主人、伏せろ!」

 

「は?」

 

警告をしたがもう遅い。放たれた一撃は正確に標的を定めており。

 

「クッ!」

 

「お、おい!」

 

咄嗟に運転手の男性の首根っこを掴んでバスの後方へ。

そのままバスから勢いよく飛び降りた。

その一瞬後。

 

ドグォオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

バスに何かが直撃し、バスは爆発して火だるまに。

唖然とするバスの運転手を尻目に、アーサーは

先ほど不審な音がした方を睨む。

そこにいたのは。

 

「・・・しつこい奴らだ」

 

数十人ものガラの悪い連中。その腕には一人残らず

鷹を象ったマークの腕章が。

その一人が持っていたのは、

 

「SMAW(ロケットランチャー)か、過激な奴らめ・・・!」

 

ロケットランチャーだった。

筒からは煙が上り、発射された形跡がありありと見受けられる。

そう、先ほどの不審な音。それはロケットランチャーが射出される

音だったのだ。

しばらく睨み合いをしていると、集団のリーダー格と思しき人物が前に出て、

アーサーへと言葉を投げかける。

 

「貴様が"ニッケル"か?」

 

「そうだ」

 

「俺達の事は知っているな?」

 

「ああ。マフィアまがいの組織だと聞き及んでいる」

 

すると他の男の一人がしゃべり始める。

 

「俺達もよぉ、最初はアンタに少しお話してお金を恵んでもらいたかった

だけなんだわ。それだっつーのにてめぇは俺らの身内をボコった挙句

笑いモンにしてくれたらしいなぁ!?」

 

「フン、あれは奴が自分でドジを踏んだだけだ」

 

実際、アーサーの言う通りである。2日前に現れた

チンピラを撃退した際、余りに一方的だったせいで

見ていた町の人々に大いに煽られたのだ。

そのチンピラは、普段徒党を組んで町を我が物顔で

歩くという典型的な小物だったが、組織の下っ端連中を

まとめる下級幹部だったのだ。

 

「おかげで組織のメンツが潰されちまったァ! どう落とし前つけてくれんだ

このクソッタレがァ!」

 

「・・・なるほど、考えてみればおかしな話だ。いくら大金を持っているとはいえ

一介の傭兵程度にここまでしつこく付き纏う理由など無いからな」

 

「お前は他の俺達の身内まで返り討ちにしてきた・・・。

大人しく殴られていれば軽微ですんだというのになぁ・・・。

だが! もうお前を生かしておく訳にはいかない!」

 

そう言うとリーダー格の男が手を挙げる。

それを合図に、チンピラたちは思い思いの武器を取り出す。

大半は鉄パイプやバイクのチェーン、棍棒など。

だが数人ほど銃火器を装備している者もいるようだ。

 

「この人数に(チャカ)まである・・・。じわじわと甚振(いたぶ)りつつ、

嬲り殺しにしてやる・・・!」

 

「数だけが頼りか、臆病者共め。いやそれでは臆病者に失礼だな」

 

「ほざきやがれ! てめぇら、やっちまえ!」

 

「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」」

 

 

 

 

(大多数はともかくとして、銃火器持ちは厄介ですね・・・早めに潰しますか)

 

そう考えつつ、まずは近づいてきた棍棒持ちの男の人中にストレートを打つ。

アーサーが身に着けている革の手袋は安物ながら装飾のあるタイプだ。

そう、丁度拳の山になる部分に、金属の装飾品(・・・・・・)がある。

そんな拳で人中を殴られればどうなるか。

 

「ゴアッ!?」

 

衝撃が人中の直線上の先にある脊髄へと伝わり、一瞬で機能を強制停止させる。

結果、男は苦もなく意識を手放すこととなった。

 

「てめえこの野郎!」

 

背後から襲ってきた男には、顔さえ向けずに肘鉄を顔面に見舞う。

鼻に激突すると同時に、骨が折れる特有の感触が伝わる。

 

「ウゲッ!」

 

鼻血を流しながら必死に鼻を押さえる男。そして不運なことに、

 

「グエッ」

 

他の男が振り回していたバイクのチェーンが再び顔面に直撃。

そのまま痛みでブラックアウトする。

 

「クソッ! てめえ邪魔なんだよ!」

 

「てめぇこそ退きやがれってんだ!」

 

集団戦の有利は何よりも数の利であるが、今はそれが

仇となってしまっている。標的が一人しかいないので

皆が皆殺到し、お互いの足を引っ張り合っているのだ。

一部では同士討ちが起こっている。

 

(さて、銃火器持ちはどこに・・・ん?)

 

見れば銃火器を持っていたはずの何人かが逃げ出しているのが見える。

よく見れば、銃口からは煙が吹いており、アーサーが倒した覚えのない

チンピラが血を流してぐったりとしている。恐らく混乱の最中に

銃が暴発して味方を撃ってしまい、恐怖で錯乱して逃げ出したのだろう。

 

(これは思わぬ幸運ですね、流石に銃火器を真正面から相手するなど

面倒でしか無いですし)

 

魔術を用いて銃弾に対する加護やら何やらを付与すれば簡単に済むが、

発動まで時間が掛かるし手間もかかる。

なるべくなら相手をしないほうが楽なのだ。

思わぬ幸運を神に感謝しつつ、アーサーは手近にいるチンピラの

水月を蹴りあげ、意識を彼方へと吹き飛ばす。

その意識がなくなった男を死角として利用し、

二人の男が近づく。手にはそれぞれナイフと拳銃が。

 

「そんな甘い握り方ではダメだな」

 

アーサーはそう言うと、銃口を向ける男の腕を蹴り、

その衝撃で男は銃を取り零す。

すかさずその隙を狙ってナイフを持った方が襲いかかるが、

 

「吾輩が銃を持っていない保証などしていないだろうが」

 

懐から即座にコルトパイソンを抜き出し、男のナイフめがけて

銃口を向けてレバーを引き絞る。無茶な耐性での発砲だったため、

脅しや牽制程度に使ったのだが、銃声とともに男の手からはナイフが弾き飛ばされ、

銃弾は男の頬をかすめて背後に迫っていた別の男の脳天を撃ちぬいた。

 

「え・・・あ・・・?」

 

「数が多いというのも考えものだな、狙ってもないのにあたってしまうとは」

 

「ひ、ひいいいいいい!?」

 

ナイフを持っていた男は仲間が死んだという事実を理解し、

更に彼を死に追いやった銃をアーサーが持っていることも理解して

恐怖し、ズボンを濡らしながら情けない声をあげて逃げていった。

銃を拾おうとしていた男も、釣られて恐怖に染まり、逃げ出す。

それが止めだった。堰を切ったかのように男たちは武器を捨てて

逃亡し始める。

 

「お、おいてめぇら何逃げてやがる!?」

 

リーダー格の男が逃げようとする男の一人の首根っこを掴んで止めようと

するが、

 

「あ、あんな奴の相手なんかしてられねぇ! あいつ平然と人を殺してんだぞ!?」

 

そう言って振り払い、そのまま逃げていってしまった。

気づけば、倒れている輩や死体以外にはもう、アーサーと運転手、

そしてリーダー格の男しかいなかった。

 

「ち、畜生!」

 

男はポケットから小型の拳銃を取り出すが、

アーサーは即座に男に近づいて銃を蹴り飛ばす。

 

「あ、あ・・・」

 

「さて、ここまでしてくれたのだ。たっぷりと礼をしてやろう」

 

その後、しばらく山岳地帯には男の悲痛な叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

「・・・遅い! 何をやっとるかあのガキどもは!」

 

「急いては事を仕損じる、落ち着けバラック」

 

「だがな! うっ・・・!」

 

「落ち着けと言っているだろう」

 

「分かった、分かったから銃を下ろしてくれ!」

 

「それでいい」

 

とある豪邸の一室。応接室と思われるそこそこの広さの

部屋では、数人の老人や壮年の男が話し合いをしている。

彼らこそ、この国で今最も巨大な勢力をもつマフィアの

幹部をしている連中だ。

そして、アーサーを始末するようにけしかけたのも

この幹部たちなのだ。

 

「とりあえず、これで我々の面目は保たれる」

 

「下級のとは言え、幹部に恥かかされてしまった以上締めるとこは締めぬとな」

 

「まあ、傭兵の奴には悪いが運が悪かったということですな」

 

「儂らに目をつけられた時点で不運にもほどがあろうが」

 

「「「ははははは!」」」

 

「それにしても遅いな・・・たかが傭兵一人始末するのに

何を手間取っておるか」

 

「態々銃火器を数丁貸し与えたというのに」

 

「まったく、役立たずどもですなぁ・・・」

 

「ああ、違いない」

 

「「「!?」」」

 

突如、彼らが聞きなれない人物の声。

見ればいつの間に座ったのか、部屋の隅にあった

豪奢な装飾が施された椅子に、一人の少年が

腰掛けていた。

 

「だ、誰だ!?」

 

「おやこれはおかしなことを言う。いま話題に上がっていた

標的が態々来てやったというに」

 

「き、貴様が・・・! だがあの人数をどうやって・・・。

それにどうやって我々の居場所を!」

 

「質問が多い」

 

「ぐえっ!」

 

慌てふためく様子の幹部の一人にアーサーは苛つきを覚え、

幹部の喉元に手を伸ばし、締めあげた。

声にならない呻きを上げ、必死に振りほどこうとするものの、

圧倒的な腕力に老人では逆らえず、そのまま持ち上げられてしまう。

 

「お前たちの放ったチンピラどもは半分はブチのめした。

もう半数は怯えて逃げていったよ。此処が分かったのは

お前たちの命令を受けた奴が吐いた」

 

「ぐっ、ごがっ!」

 

アーサーの締め上げる力が強くなり、老人である幹部の男は

酸素の供給ができなくなり、そのまま意識を失う。

 

「まあいろいろと言いたいことはあるが・・・」

 

「きっ、貴様! こんな事をしてただで済むと」

 

「それはこちらのセリフだ。よくもまあ何度となく我輩を

つけ狙って来おって。正直気分が悪いのだよ」

 

そう言うと、目の前の男たちに向けて銃を抜く。

銃口を向けられた幹部たちは皆一様に恐怖で青ざめた。

 

「・・・提案があるのだが」

 

ただ一人を除いて。

 

 

 

 

 

「俺に免じて他の奴らを生かしてやってほしい」

 

「・・・自分の命を対価に差し出す気か」

 

「頼む! 厚かましい願いだとは思うが・・・!」

 

そう言って頭を下げる。見れば男の肩は震えていた。

目前に迫る死に恐怖し、それでも勇気を振り絞って言ったのだろう。

あるいは、彼自身の不甲斐なさに怒りを覚えているのかもしれない。

どちらにせよ、相当に責任感のある男だと、アーサーは感じた。

そして、

 

「分かった」

 

「ほ、本当か!?」

 

「ただし」

 

アーサーは男の要求を飲むことにした。

しかし。

 

「屑は始末せんとな」

 

ズドン! ズドン! ズドン!

 

ドサッ ドサッ

 

「え?」

 

アーサーに交渉を提案した男は、唖然としていた。

なにせ交渉までして生き延びさせようとした幹部たちが、

アーサーによって殺されたのだから。

 

「き、貴様・・・!」

 

「勘違いするな、吾輩は正当防衛をしたまで」

 

よくよく見れば、幹部たちは先ほどまで持っていなかったはずの

拳銃を握り締めながら絶命していた。

 

「お前が交渉している隙に吾輩を殺そうとしていたのだ、お前ごとな」

 

「そん、な・・・」

 

崩れ落ちる男。無理もない。助けようと思った者達に、

交渉相手ごと殺されそうになったのだから。

 

「最早交渉の余地はない。貴様にも死んでもらおう」

 

「・・・言い訳はしない、さっさとやってくれ」

 

「ただし」

 

「? なんだ、見逃してでもくれるのか?」

 

「いや。だがチャンスぐらいはやろう。吾輩と決闘しろ」

 

「決闘だと・・・?」

 

「そうだ。俺に命を投げ出す覚悟を見せたお前をこのまま

殺すのは俺も心苦しい。だから決闘で勝てれば見逃してやる」

 

「ほ、本当かっ!?」

 

「二言はない。ただし、決闘のルールに基づき、決着は

死のみによって決するものと心得ろ」

 

「ああ、分かった」

 

 

 

 

 

「構えろ」

 

「絶対に生き残ってみせる・・・!」

 

アーサーは決闘を行うに際し、男に方法を選ばせた。

男は銃による決闘を選び、アーサーはそれを了承した。

 

「これからコインを投げる。これが落ちた時が合図だ。

守れなかった場合、契約書がお前を殺す」

 

「分かってる。俺の名前、サルダル=アヴドゥルの名に誓おう」

 

「吾輩も、アーサー=D=ボーフォートの名に誓おう」

 

決闘を行う前に、互いに不正をしないようアーサーは

魔術的な契約書を履行した。

万一不正を起こせば、即座に呪いで不正をした者が死ぬ。

 

「では、いk「ちょっと待ってくれ」む?」

 

「俺がもし死んだ場合、俺の娘の面倒を見てくれないか?

この館に住んでるんだ」

 

「応じる理由がない」

 

「頼む。俺の嫁さんは紛争で既に死んじまってる。

俺がいなくなれば娘は天涯孤独の身の上になっちまう」

 

「・・・保証はせんぞ」

 

「助かる」

 

コインを投げる。汗が、頬を伝う。

眼が、耳が、肌が。

コインの行く末を、ただ見守る。

コインが天井付近で上昇をやめ、落下を始める。

ゆっくりと、この時が永遠のような錯覚に

陥り、喉がカラカラと乾く。

やがて、コインは二人の視線の前を通り過ぎ。

床へと吸い込まれていく。

そして。

 

ドォン! ドォン!

 

館に銃声が響き渡った。

 

 

 

 

「誇りに思おう、サルダル=アヴドゥル。お前と戦えたことを」

 

静かに眠ったサルダル=アヴドゥルを館の裏庭に埋葬し、

アーサーは彼に向けて聖書の一節を朗読し、彼の死後に

祝福があることを祈った。

本来であれば、彼はイスラム教徒のため祈るべきではないのだが、

アーサーはこの勇敢な男のために祈ってやりたかったのだ。

そして、祈りを終えたその直後。

 

「そこにいるのだろう、出てこい」

 

底冷えのするような声色で、アーサーは殺気を向けてくる

相手に対して言う。

そして現れたのは。

 

「よくも・・・父さんを・・・!」

 

「・・・サルダルの娘か」

 

「お前がっ! 父さんの名前を呼ぶなあああああああ!!」

 

アーサーに向かって突進してくる少女。手には鈍く光る何かが握られている。

そのままアーサーへと突っ込み、刺したと確信する。

しかし。

 

「なんで・・・なんでなのよ・・・!?」

 

刺し殺したはずの男は、刃物を握り腹に届く直前で止めていた。

 

「甘いな。この程度で吾輩を殺せると思うなよ」

 

そう言うと、アーサーは少女の腕を掴み地面に押さえつける。

 

「放せっ!」

 

「そんな命令を聞く気はない」

 

アーサーは少女を見る。その目は憎しみで濁っていた。

このままいけば、自分を殺すために何だってするだろう。

そして、その過程で死ぬのが目に見えている。

アーサーはサルダルに娘のことを頼まれた。

ならば約束を違える訳にはいかない。

だから。

 

「お前、名前は?」

 

「お前なんかに教える名前なんかないっ!」

 

「言え」

 

少女の腕に力を込める。少女は悲鳴を噛み殺し、

 

「・・・ミーナよ・・・!」

 

憎々しげな声で、自らの名前を言う。

 

「ミーナ。お前は吾輩を殺したいか?」

 

「殺したいわ、八つ裂きにして鳥の餌として

ばら撒いてやりたいぐらいにね・・・!」

 

「なら、吾輩についてこい。お前を鍛えてやる」

 

そう言うと、アーサーはミーナの腕を放し、開放する。

 

「・・・どういうつもり?」

 

「丁度助手が欲しかったのでな。お前は度胸も才能もありそうだ。

吾輩が直々に鍛えて、お前を使えるようにしてやる」

 

「誰がアンタなんかに!」

 

「吾輩の指導を受ければ、強くなれる上に我輩を殺す機会が圧倒的に増える」

 

「・・・・・・・・・」

 

「今のお前では吾輩は殺せん。ならば一時の恥を偲んでみるのもいいのではないか?」

 

「・・・いいわ、その条件、飲んであげる」

 

「ククク。そうか、なら吾輩の名前ぐらい覚えておけ、

吾輩の名はアーサー。アーサー=D=ボーフォートだ」

 

「ミーナ=アヴドゥルよ。いずれアンタを殺してやるわ・・・!」

 

こうして、歪な協力関係は生まれることとなる。

彼は、彼女は。この時より利用し、利用される関係を。

殺し、殺される関係を始めていくこととなる。




アーサー「傭兵になりました」

ミーナ「ミーナよ。この外道に教えを請うことになったわ」

子藤貝「間が開きすぎて適当気味になっちゃいました」

ア・ミ「「死ねばいいのいに」」

子「ひっでぇ!? ガズラエルさん何とか言ってくださいよ!」

ガズラエル「黙れ。俺の出番増やせクソッタレが」

子「味方などいなかった・・・」

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