艦隊これくしょん外伝 壊れた懐中時計   作:焼き鳥タレ派

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第11話:もう一つの戦い?

“はじめまして大和さん!”

“すごーい、これが46cm砲!”

“ねぇ、砲身に触ってみてもいいかな?こんな凄いの見たことない!”

「はじめまして、皆さん。よろしくお願いしますね!

私で良ければどうぞ触れてみてください」

 

あの襲撃事件以来、広場で早くも皆の人気を集める大和。

とうとう大和は、正式にこの鎮守府の艦娘として登録され、俺達の仲間になった。

もしMI作戦が失敗に終わっても、戻ってくるならこの時だな、と思った。

もちろん失敗するつもりなど毛頭ないが。今すぐ全てを投げ打って銀の懐中時計を使い、

あの計画を発動することも考えたが、やはり俺はあの時間のMIで

赤城達を沈めた棲姫らとは決着を付けなければならないと思い直した。

“こんごう”、やったよ。見守っていてくれて、ありがとう。

俺達だけの力で棲姫を撃退することができたんだ。

そうこう考えていると、鳳翔が済まなそうな顔で近づいてきた。

 

「提督……」

「どうした、鳳翔君?」

「軍事機密だったとは言え、提督があのように立派な目的で

資材を運用されていたとは知らず、無茶な要求をして申し訳ありませんでした……

これ、“軽母婦人会”で集めたお金です。私達の為に浪費させてしまったお金に

充ててください」

 

鳳翔は頭を下げて厚い封筒を俺に差し出した。

気がつくと、龍驤、千歳、隼鷹も頭を下げている。

もっとも、隼鷹は“なんであたし謝ってんだ?”という顔だったが……

俺は黙って鳳翔の手を握らせる。

 

「!?しかし……」

「いいんだ、鳳翔君。理由はどうあれ、これまでの間、君たちに

肩身の狭い思いをさせてしまっていたのは事実だ。それでは気が済まないというなら、

俺のことより、大和とおしゃべりしたり、無理のない範囲でコミュニケーションを取ったり、

君たちさえ良ければ友人になってくれ。今まで彼女に寂しい思いをさせてきた、

罪滅ぼしの手伝いをして欲しい」

「提督……もちろんです!」

 

そして俺はチャカポコ娘こと龍驤達の前に出る。

 

「みんなも頭を上げてくれ。理由は今話したとおりだ」

「提督!すみませんでした!ご無礼をお許し下さい!」

 

生真面目な千歳はまだ頭を下げ、ハキハキとした声で謝罪する。

 

「だから謝る必要はないんだ。いわば君たちもあの作戦の協力者なんだから」

「……ありがとうございます!」

「なんかよくわからんけど、今日はあたしシラフだぜ!」

「ああ、お前は飲んでないだけで万々歳だ」

 

そして龍驤。バツの悪そうな顔で指を絡めている。

 

「あの、提督……」

「……“あの意味”はちゃんと聞いたんか?」

「鳳翔さんに聞いた。あんな恥ずかしい意味やったなんて。なんとなくで使ってたから……」

「おっしゃ、ならよし!……さあみんな!さっそく大和にちょっと

一声かけて来てやってくれ」

「ウフフ、あの様子だとしばらくは順番待ちでしょうけどね」

「まぁ、別に今度でも構わない。いずれすれ違った時なんかに、挨拶を交わすくらいでいい」

 

そんなこんなで和解した俺達に大淀が浮かない顔で近づいてきた。

 

「あの、提督。急を要する要件が……」

「どうしたんだ大淀君」

「それが、大本営から上官殿がいらしていて、提督と面会を求めています……

今、本館の応接室でお待ち頂いております」

 

やはり来たか。早くも噂を聞きつけて悪い虫が。どれ、ちょっくら追い返してくるか。

 

「……わかった。今すぐ行くよ。ありがとう」

 

俺は、本館に戻り、応接室のドアをノックした。

 

「提督です。お待たせして申し訳ありません」

「ああ、入ってくれたまえ」

 

ドアを開けると、でっぷりとした体格の海軍少将が二人掛けソファをたっぷり使って

寝そべるかのように鎮座していた。さすが胸につけてるものが俺のとは全然違うな、

と思いつつ俺は敬礼した。

 

「当鎮守府の提督であります。招致に応じました」

「やぁ、君じゃないか。最後に会ったのは何年ぶりだったか……まぁ、座りたまえ」

「は。ご無沙汰しております。では、前を失礼します!」

 

俺も向かい側のソファに腰掛ける。どうでもいいことなので忘れていた。

こいつは前任者が倒れた際、適当に俺をここの提督に指名した者の一人だ。

 

「それで、本日は一体どのようなご用件で?」

「大本営にも噂は届いているよ。過日の戦闘では獅子奮迅の活躍だったそうじゃないか」

「艦娘達の奮闘の結果です」

「まぁ、そう謙遜するんじゃあない。君の建艦技術には舌を巻いているよ」

「ただの運任せをしているだけです。あの建造システムの仕組みは今でも何が何やら。

できることと言えば、ある程度欲しい艦種の投入量の傾向に従って、

使用資材を指定するだけで……」

「その運を掴めないでいるのが他の凡庸な提督だ。聞いたよ、君が従来の41cmを上回る、

史上最強の艦の建造に成功したと」

 

来たか。以後の話の流れはもう誰にでもわかるだろう。

 

「聞くところによると、その艦は46cm砲を備えた強力無比の艦娘だそうじゃないか。

我が大本営は彼女の存在に非常に興味を持っている」

「と、おっしゃいますと?」

「彼女を譲ってはくれまいか。帝都の守護を担ってもらい、その46cm砲を分析し、

対深海棲艦兵器の開発にも役立てたい。

……これは大本営の方針、つまり天皇陛下のご意思でもある」

 

来たか。大本営のやり口はわかっている。大和を実験動物のように扱い、

深海棲艦との戦いにこき使い、不要になれば……ポイだ。

 

「なるほど。陛下のご意思とあらば致し方ありませんね。しかし困りました」

「どうしたというのかね。彼女を引き渡すだけで、君にはそれなりのポストが

待っているというのに」

 

俺は、いかにも“いや、困ったな~”という風に頭に片手を当てる。

 

「いえ、私は良いのです。この決定には少将殿も関わっておられるので?」

「うむ。この噂を大本営で最初に聞きつけたのは私で、御大将に具申したのも私だ」

「ますます困った。そうなると少将殿のお立場が……」

「立場?い、一体どういうことなのかね」

 

少将がでかい身体を乗り出してくる。お偉いさんほど立場とやらに固執する。

お偉いさん殺しのキーワード、立場。半ば軍の根無し草の俺にはよく分からんが。

 

「先日の深海棲艦襲撃の詳細についてはもうご存知なのですよね」

「ああ、諜報部から連絡を受けている」

「実は我々が防衛に当たっていたのは、この鎮守府ではないのです」

「では、なんだというのかね」

「ここから北に徒歩十数分にある市街地ですよ。もちろん、鎮守府の防衛が優先でしたが、

新型深海棲艦の苛烈な猛攻の前には、従来の艦娘では対処できなかったでしょう。

もし我々が敗れていたら、その市街地に新型深海棲艦が襲来し、市街地は崩壊、

無数の死傷者が出ていたはず」

「な、何が言いたいのかね!」

「今回は偶然たまたま大和がいたので撃退に成功しましたが、

従来艦だけではどうなっていたことか……

天皇陛下のご意思とあらば喜んで大和を送り出しましょう、しかし、その後、

再び新型深海棲艦が襲来し、この鎮守府が陥落することがあれば、

未曾有の大災害が起きるのは確実。そうなれば大和の異動を発案した

少将殿の責任問題に発展してしまう恐れが……」

 

責任問題。お偉いさん殺しのキーワードその2。そしてすまない、金剛、みんな。

大和だけじゃなくて、みんなのチームワークあっての勝利だったのに。

 

「いかんいかん!それは困る!君、どうすれば安全に大和を異動できる!?」

「う~ん、残念ですが、私の貧弱な思考力ではなんとも……

それに、報告にもあったと思いますが、今回の新型深海棲艦。明らかに明確な意志を持って、

この鎮守府を目指していました。つまり、今後も先日のような戦闘が起きるのは、

ほぼ確実と言っていいでしょう。それを大和なしで乗り切るのは

極めて困難と言わざるを得ません。そして防衛に失敗すれば、

先程お話したような責任問題が生じてしまうかと……」

「ううむ……」

 

少将は頭に汗を浮かべ、二重あごに手を当てて考え込んでいる。

 

「……き、君、この件については少し待ってくれ。

それまでは新型深海棲艦と戦闘になった際、その詳細を大本営に送ってくれたまえ。

しかし、手ぶらで帰るわけにもいかんな……

その新型深海棲艦だが、何か呼び名を考えて欲しい」

「実際に戦った艦娘の報告によれば、奴は恐ろしくも美しい、

多くの護衛に守られる姫のような姿をしていたとか。

そこで私は“深海棲姫”という名を提案致します」

「深海棲姫か……うむ、大本営に提案しておこう。私はこれで失礼する」

「はっ!また会える日を心待ちにしております」

 

二度と来んなバカ。俺は立ち上がって形だけの敬礼をする。

少将がドアを開けると応接室の前に押し寄せていた艦娘達が後ろに下がる。

 

「な、なんだね君達は!ほら、道を開けたまえ、通れないだろう!」

 

俺も応接室から出る。少将が本館の出入り口を閉め、

窓から奴が十分に建物から離れたことを確認すると、俺は艦娘達に告げた。

 

「まぁ、これで大和は本当の意味で自由の身になったってこった」

 

皆が歓声を上げる。

 

“提督やるー!”

“たまには提督らしいことやるのね、意外”

「いつもやってるだろうが!誰だ言ったの!」

“大和を守ってくれたのね……”

“出会ってすぐお別れなんて絶対いやだったもん!”

「俺も同じだ。だからちょちょいとあいつの痛いところを……」

 

「提督」

 

その声に振り向くと彼女がいた。大和だ。彼女は俺の手を取り、続けた。

 

「守ってくれて、ありがとうございます……」

「なに、伊達に三十数年生きてない。ちょっと上の連中、舌先三寸で丸め込むくらい……」

「私、ずっとここにいていいんですね」

「当たり前だろう。大和はもうここの一員。ここにいる全員がその証だ」

「……ありがとう、ありがとう!」

 

大和は涙を浮かべて抱きついてきた。俺もそっと彼女を抱き返す。

ヒュー!と囃す声が上がるが今は無視だ。これまで彼女が抱えてきた

孤独という荷物を落とすように、優しく背中をなで下ろす。

……そして、そんな二人を不穏な目つきで影から見つめる者がいた。

 

 

 

 

 

「なんか……すみませんでした。みんなの前でみっともないことしちゃって」

 

大和は照れくさそうに言った。ここは執務室。あの後いよいよ野次馬がうるさくなったので、

このいつもの根城に場所を移したというわけだ。

 

「いいって、大和はずっと耐えてきたんだから。

それに、これからはたくさんの友達に囲まれて暮らしていける。

俺に構ってる暇なんてないほど楽しくなるぞ」

「そんな……私、提督と疎遠になるのは嫌です!」

「ああ、いや、来ちゃだめだって言ってるわけじゃない。

君さえよければいつでも来てくれ。どうせ暇だしな」

「よかった。でも、そんなこと言ったら毎日来ちゃいますよ?」

「焼き飯食いに?」

「もう、提督ったら!」

「そういや食堂にはもう行ったか?あそこの海軍カレーは絶品だぞ」

「はい。それはもうおいしかったです!そうだ、今度は私が皆さんに

手料理をご馳走したいです。私、食べるだけじゃなくて料理の腕も自信があるんですよ?」

「そうなのか?じゃあ、次の忘年会は期待してるよ」

 

………

 

そんな二人の他愛ない会話を、ドアにへばり付きながら盗み聞きするものがいた。

金剛を始めとした4姉妹である。

 

(シィィット!さっきといい、大和ったら提督とベタベタしすぎデース!

もう大和はベストフレンドじゃなく、恋のライバルにシフトチェンジ、ネ!)

(あの、お姉様。なぜ私達までこのようなことを……?)

 

姉にいやいやながら盗み聞きの共犯にされている霧島が嘆きを漏らす。

 

(霧島の言うとおりです。やっぱりこんなことは良くないと……)

 

榛名が霧島に同意する。

 

(シャラップ!いま提督達は個室で二人きり。もしムードが高まって、

さっき以上のことがあったら……ああ想像しただけでハウ・スケァリィ!

その時は全員で乗り込んで止めマース!)

(!……金剛お姉様、だいたい、大和さんってあの作戦が始まるまで、

ずっと孤島で提督と二人きりだったんですよねぇ)

 

ちょっといたずら心が芽生えた比叡が金剛に話しかける。

 

(……何が言いたいんデスか?)

(もしかしたら、もう“さっき以上”のこと、しちゃってるのかもしれませんよ!

誰もいない島で、二人きりで!うぷぷぷ!)

 

金剛の頭の中でモワモワと妄想が膨らみだす。

 

~~~~~

 

孤島の海岸。ザザーン、と波の打ちつける音と、かもめの鳴き声しか聞こえない。

誰もいないこの島で、見つめ合う二人。

 

「提督……」

「大和……」

「私、提督に会える日はこの上ない幸せな時間を過ごせるんです」

「俺もだよ、大和。いつも君に会う日を一日千秋の思いで待っている」

「ありがとう、提督。でも一人の時はやっぱり寂しいんです。

そんな寂しさを紛らわすために、どうか、私に印をつけてはいただけませんか。

そこに触れれば貴方を感じられるように……」

「もちろんだよ。さぁ、おいで……」

 

そして二人は唇を寄せ合い……

 

~~~~~

 

「rghjっmygvb!!」

 

深海棲艦の断末魔のような声を上げる金剛。

 

(ちょっ!)

“誰かいるのか?”

 

3人は慌てて泡を吹く金剛を引きずって廊下の角に身を隠した。同時に執務室のドアが開く。

 

「誰もいない、か……なんか深海棲艦が死ぬような声が聞こえたんだが」

「まさか、ここは陸地ですし」

「まぁ、そうだよな。だったら警報が鳴ってるはずだし。でも大和も聞こえたよな?」

「ええ、なんだったんでしょう。なんだか苦痛を帯びた悲鳴のような……」

 

バタンと扉が閉じられる。霧島、比叡はほっと息をつき、

榛名は懸命に顔が真っ青になった金剛の蘇生を試みている。

 

「比叡お姉様!なんてことをおっしゃるんですか!?

お姉様が死にそうになってるじゃないですか!」

「あーごめんなさい霧島。まさかここまでショックを受けるとは思わなくて……ぷぷっ」

「反省してるんですか!?」

「2人共そんなことよりお姉様の看病を!過呼吸を起こしています!

金剛お姉様、ゆっくり、息を吸って、落ち着いてゆっくり!」

「ハァー……ハァー……てーとく、ワタシの、マイラバー……」

 

自業自得とは言え、死にそうになりながらも提督への愛を紡ぐ金剛。

三途の川で提督の幻影でも見たのか、その顔は何故か笑顔だった。

 

 


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