インフェクションIF   作:フリードg

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遅くなりすいません。


8話

 

 

 

 校舎内へと皆を誘導する。

 

 負傷者は多数いて パニックを起こしているが龍の声で何とか逃げる事が出来だしていた。

 

「皆! 頑張って! こっちだよ!」

  

 香里自身は最初こそは 龍に先に行けと言われていたのだが、龍と共に残った。

 まだ、沢山いるから。泣いている低学年の子だっている。自分自身は最上級生である6年生だ。少しでも皆を助ける為に。そして 何より隣で戦い続けている龍の助けになる為にと 先に逃げる事を頑なに拒んだのだ。

 

 龍は香里の事を何よりも優先に、と考えていたのだが、コンマレベルの時間の差が明暗を生む事を理解していた。押し問答を続けていけば 状況が悪くなるとも思っていた。だから 比較的目の届く範囲にいる事を条件にして了承した。

 

「ち……っ 人の多い所に集まる習性でもあるのか? こいつらは……!」

 

 学校門は龍の手で閉じられたのだが、その程度のでは防壁にはなりえない。容易に乗り越え続けているのだ。最初こそある程度の足止めは出来ていたのだが、1人の化け物が倒れると、更にその上に、上に、と化け物の山が出来あがり それを便って 門を簡単に超えてくる様になった。勿論普通に壁を乗り越えてくる者たちもいるから、増えていく一方だ。

 

 それでもどうにか全ての生存者たちを校内へと誘導する事が出来た。もう外にいるのは人ではないものだけだ。

 

「香里! もう殆ど生存者は校内に入った! もうお前も行け!」

「あっ、はい! 龍せんせー! だから、先生も早く!」

「判っている」

 

 素早く香里の元へと行こうとしたその時だ。

 “どがぁぁぁっ!” と言う轟音が周囲に響いた。それがいったい何なのか、理解するのと同時に それ(・・)は香里に迫っていっていた。

 

「え……?」

「っ!! 香里ッッ!!」

 

 それ(・・)とは…… 学校の壁をぶち破って入ってきた大型バスだった。

 運転席にいるのは 人ではなかった。無数のあの化け物が集まっており その場所を埋め尽くしている。……恐らくはそのせいでアクセルを踏み込んでしまっているのだろう。そのせいで暴走してしまっている。暴走する鉄の箱はまさに凶悪な凶器だ。

 無数の人間を、そして化け物を轢いてきているのが、遠目からでも判る程、血がこびり付いているのだから。

 

 その凶器が次に向かう先は……香里がいる場所だった。

 

 龍は 呆気にとられる事もなく瞬時に香里の元へと駆け出し、飛びついた。

 

 後ほんの数秒。コンマ数秒遅ければ、香里諸共轢かれてしまっていた事だろう。間一髪で躱す事が出来た。香里を庇う様に抱え込んでいたのだが、それでも身体の所々に擦り傷が出来てしまった。幸いな事に大事には至っていない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っっっ」

「………ふぅ。偉いぞ。良く泣かずに我慢した」

 

 あの瞬間、まさに死ぬ直前だったと言って良いだろう。走馬燈だって頭の中を過ぎっていても不思議じゃない。それ程までに間一髪だったから。小学生離れしている力量と頭、判断力を兼ね備えていた香里であっても、ショックのあまり身体を震わせていたのだから。

 

「りゅ、りゅう、せん……、りゅうせんせ……」

「大丈夫、大丈夫だ」

 

 ガタガタと震える身体をしっかり抱きしめると、龍は香里を腕に抱いたまま立ち上がろうとしたその時だ。

 

 

 

 突然の大型バスの侵入。

 そして、その暴走車が香里を轢こうとしていた事実。

 間一髪で助ける事が出来たこの瞬間。

 

 

 

 これだけの条件が揃ってしまえば、周囲の警戒をしていた意識が逸れてしまったとしても仕方ない事だ。幾ら数々の経験と訓練を積み重ねてきた龍であったとしても 今度は必ず守ると誓った香里が死ぬかもしれない状況で、助ける事が出来た。その あまりの安堵感が気を緩めてしまう結果になってしまった。

 

 だからこそ、暴走車から飛び出していた数体の化け物の接近に気付くのが遅れてしまった。

 

 

『アアアアア!!!』

 

 

 目の前に迫ってくる化け物。動けない香里。悪条件が揃い過ぎているのだが、撃退する事 事態は訳はない。

 

「うるせえよ!」

 

 左腕で香里を抱えている。空いている右の拳を握り絞めると迫る化け物の頭部に向けて思いっきり振り抜いた。口許付近に龍の拳が直撃し、化物の頭自体を胴体から千切り離す程の威力。吹き飛んで、そのまま接近してきた他の化け物も巻き込み、目の前に道が出来た。

 

「……ちっ」

 

 見事に危機を突破したかの様に見えたのだが……、拳に違和感があった。

 ぶち折った化け物の歯が数本拳に突き刺さっていたのだ。この瞬時の攻防で 冷静に部位を狙っての攻撃は出来なかった。反射的に拳を振るっただけだったから。……口許と言う一番危険な場所に。

 

 

「(これは 噛まれた……と言う事になるのかもしれないな)」

 

 

 噛まれてしまったらどうなってしまうのか、まだ判らない。新種の危険生物であるのなら兎も角、明らかにこの襲ってきているのは元々は人間だった筈だ。何らかの影響でこの様な変わり果てた姿になっている筈だった。その原因は今判る筈も無いが、定番だと言えるのが 接触感染。つまり、噛まれてしまえば……。

 

 

「(今はそれどころじゃない、か。………それに、もしもの時がきたなら、自分のケリは自分自身でつける)」

 

 

 龍は拳を振るって歯を落とす。滲んだ血を服に擦りつけて止血をし。

 

「香里。少し揺れるぞ。しっかり捕まってろ」

「あっ……っっ、りゅ、りゅう、せんせ……」

「喋るな。舌を噛む」

 

 龍は香里を抱えてそのまま駆け出した。暴走者は学校の校舎に当たってどうにか止まる事が出来た様だ。……最悪な事に学校に風穴を開けて。

 

「今は嘆いても仕方ない。……何処か、広めの部屋を確保しないとな」

「あ……あ……」

 

 香里はまだ上手く言葉を発する事が出来なかった。だが、それでもはっきりと見てしまったんだ。龍の拳を。……数本の歯が拳の皮を破り、刺さっているのを。自分を守る為に。

 

 そして その事実が 後に香里の首を絞める結果になってしまうのは もう少し後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすまた、竹刀、木刀…… 包丁類、はリーチが無いし危険か」

 

 校内へと逃げ込む事が出来た中で、龍は大人達の前にいた。

 数が多いとは言えないが十分はある。

 それなりに使える武器が教卓の前に並べられている。

 

 そして、眼前にいる教師たちは皆が疲れ切っていた。

 

 何とか化け物達を追い出し、バリケードを作り 簡易ではあるが安全地帯を確保する事が出来た。それでも、その結果何人も殺されてしまったのだ。そんな非日常的な光景を見せられて、普通落ち着けている方がおかしいだろう。

 

「こんな事態になって混乱するのも判る。……いったい誰が想像できるって言うんだってな。こんなSFホラー映画の世界にいきなり放り込まれるなんてな」

 

 自身が所属する部署の上司が異常だったおかげで、龍は今何をすべきか、優先すべき事はなにか と直ぐに状況を把握し行動、指揮も取る事が出来た。

 

 だが、状況は悪くなる一方だ。徐々に多くなる化け物の数。今は抑える事が出来ているが、今後どうなるか判らない。突破される危険性だって十分にある。如何に強固に固めたとしても、先ほど外であった様な暴走車みたいなものが突っ込んでこないと言う保証なんてどこにも無いのだから。

 

「それでも。……子供達を、生徒達を助ける事が出来るのは先生達、オレ達だけだ」

 

 龍ははっきりとそう言った。

 今ここにいる大人の数と子供の数。圧倒的に大人が少ない。全員を守り抜く事は 誰が考えたって無理だと言うだろう。

 

 警察も消防も今は繋がらなかった。

 今の事態が街中にあふれてしまっているのであれば、それは仕方ないと言える。

 

 

「今戦えるのは、オレ達だけだ」

 

 

 だが、それでも強く訴え続ける事しか出来ない。

 

 いきなり戦えと言われても、『はい。判りました』と言って武器を手に戦うなんてそれこそ無理な話だ。教職員が避難訓練はしたとしても、戦闘訓練をしている訳がない。一部の体育教師は、剣道や柔道といった武道を嗜んでいる様だったが、実戦とスポーツの違うは嫌と言う程判っている。

 

 でも、言わなければならない。鼓舞をして緊張感を保ち続けて貰わなければいけない。

 

 

「もう……誰一人死なせたくない。頼みます。力を貸してください」

 

 

 そして 龍の言葉に、真っ先に反応したのは この場の先生ではなく。

 

「私だって戦えるよ!! せんせー!」

 

 香里だった。

 その手にはさすまたが握られている。

 

「ユーチューブにもうアップされてたよ! 私以外の6年生の皆も戦い方も大体判ったから! 子供だからとか、関係ないよ。1人の人間として 全力で戦うから。私は逃げないから!」

 

 その言葉が切っ掛けだった。連動する様に先生たちも其々武器を手にしていたのだ。

 

 

 

「天宮が此処まで頑張ったって言うのに、大人のオレ達が何もしない訳にはいかない……よな」

「ふふ。……日ごろ頼りなーいって言われちゃってるし、ちょっとは格好いい所見せたいかな。私は」

「誰かを守る為に戦うなんて事 滅多にない。でも、何だか誇らしく思う。こんな僕でも守れる。……教師になって良かったって心から想える」

 

 

 

 皆の目に光が宿ったのを見た。

 

 だが龍は 迷っていた。正直に言えば、他の誰よりも香里危険を冒してほしくないと思っていたのだ。でも、ここで拒否をしてしまえば、点いた僅かな火が消えてしまうかもしれない。

 

 私情を、自分自身の心を殺す事が今の龍には難しかった。……嘗て守れなかった(・・・・・・)事実が彼の心を深く抉ってしまっているから。

 

 だが、そんな中で。

 

 

 

「ふふっ、でも危なくなったら龍せんせーが助けてくれるから、私達は大丈夫だもんねー。だから、他の先生たちも頑張ってねー」

 

 

 

 陽気な香里の声が響く。 

 その言葉で更に場が賑やかになる。……龍の心にも直接響いてきた。

 他の教師たちは、悔しそうにしていたが、それが逆に更に鼓舞する結果となった。つまりは結果オーライと言うヤツだ。

 

 香里は、ニコニコ笑いながら、奮起している教師たちの間を縫って 龍の元へと行った。 

 龍も、もう覚悟を決めた様だ。香里の様に笑顔を見せていたから。

 

「……約束、したもんな」

「そーだよ! 約束……したもん。絶対に、絶対……だよ? せんせー……」

 

 香里は、そっと龍の手を握った。その手には包帯が巻かれている。

 

 

「ああ。約束だ」

 

 

 ズキリ、と鈍い痛みが拳に感じる。それでも しっかりと握り返した。

 

 心の中で 『必ず守る』と 香里に何度も何度も誓いながら。

 

 

 




噛まれた……??

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