インフェクションIF   作:フリードg

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※まだ 起こらない。


3話

 

 

□□ 天宮家 □□

 

 

 それはいつもと変わらない平凡な一日が始まる天宮家の朝の事。

 

 

 

 その天宮家の一員の彼を紹介をする。

 

 名は、《天宮 晴輝》 天宮 香里の兄である。

 

 

 

 春輝は 今朝の光景に少しばかり戸惑ってしまっていた。

 

 太陽がすっぽりと顔を出して周囲を照らし、少々肌寒いがそれでも徐々に暖かくなってきた季節。そんな太陽にも負けない? と思える程輝かせている笑顔があった。

 

「えへへ~」

 

 ニコニコと笑顔で身支度を整えるのは、大切な大切な妹の香里。

 兄である自分が言えば、妹バカと呼ばれるかもしれないが、聡明であり容姿も整っており、何を隠そう世界一の妹だ。

 全てにおいて完璧で自慢の妹なのだが――ここの所最近おかしい。

 

 とにかく笑顔が増えた。

 

 元々が笑顔だけれど、上手く説明出来ないが、兎に角違った。

 言ってみれば……笑顔の質が変わった? とも思える。

 

 妹の心の機微程度読めなくて、何が兄か。と言う事で今日こそは色々と訊いてみようと決意。

 

「なぁ、香里」

「ふんふんふ~~ん♪」

「おーい、香里?」

「あはっっ ふはっ♪ るんるんるん~♪」

 

 駄目だ、取り繕う暇もない。ご機嫌なのは良い事だが、何だか不快感が何処となく出てきた。妹に対してそんな事を想うなどと、これまでには考えられなかったのに、何故だろうか?

 

 そんな何も耳に入ってない香里だったが。この場にいるもう1人の声は耳に届く様だった。

 

「香里ちゃん ほんっとご機嫌さんだね~? 最近良い事あったの?」

 

 それは幼馴染でずっと一緒に過ごしてきた家族も同然の女の子 《五月雨 紗月》。

 今日も忙しい天宮家の両親が不在の為 朝ご飯を一緒に作って食べる為に来ていたのだ。

 

 そして、もう直ぐ高校1年生。身体も気が付かない内に女の子に仕上がってきている。

 

 そんな年頃の可愛らしい娘さんが男と一緒に長い時間を過ごすなどと、いかがなモノか……、と考えなくもないが、春輝はそんな事は考えておりません。―――――多分。

 

「あっ、えっとね~。ふふふっ 秘密~♪」

「えー、教えてよー」

「う~んとねー。……紗月ちゃんと同じ気持ちになれただけかなっ? とだけ教えておくねー」

「ええっ! や、やっぱり そうなのっ? 香里ちゃん! わ、わぁ 気になるっ! とっても気になるよー」

 

 何やら女子同士で大いに盛り上がりを見せている様だ。何処となくおいて行かれた男は寂しい気持ちになってしまうのも仕方ない。

 

「おいおい。オレを無視しておいていくなよ。紗月は香里の事知ってたのか? どういう訳なんだ?」

 

 意を決して? もう一度だけ飛び込んでみる事にする。

 台風に飛ばされる蟻んこの様に、弾かれて終わるだけかもしれないけど、それでも 最愛の妹や幼馴染に置いて行かれる事ほど、寂しいものはないのだから。

 

「お兄ちゃんにはまだ早いんじゃないかなぁ? こーんな身近にいるのに、ちゃんと出来ないんだからさー」

「か、香里ちゃんっ!」

「はぁ?」

 

 ますますを持って訳が判らなくなってしまう春輝。香里はそんな春輝を見てにこっ と笑みを見せる。

 

「だいじょーぶ! とっても楽しいだけだよっ! ほら、紗月ちゃんだって毎日たのしそーでしょ? それと同じだから」

「うーん……、よく判らんが 何だか気になるなぁ……」

「あははっ 大丈夫だよ。ハルくん。きっと直ぐに判るから。すぐに、ね……?」

 

 紗月と香里が意味深にウインクをした所で、家のチャイムが鳴り響いた。

 

 インターホン越しに確認すると、どうやら春輝の友達の小島が来た様だ。

 

『うぉーい、はるきー! 部活の話だ、話。菊池先輩から』

「んっ? あれ? 今日は部活あったっけ……、ってあああ!!! こ、今度の大会のミーティングっっ!!」

 

 

 春輝は、生徒手帳をパラパラと捲り、確認したと同時に大絶叫。

 

 昨日の部活。いつもは終了後にミーティングを行う。

 だが、顧問の先生の急な事情と部員にも学校行事等が重なった為休日の日に1時間程行おうと、決めていた。

 

 それをすっかりと忘れてしまっていた春輝。

 

 それもこれも、最近妙な笑顔を見せる様になった妹の香里が悪い! と何処となくいやしい表情を見せてしまいそうになるが。

 

「おにいちゃーん。忘れるなんてひどいよ? 菊池先輩って人の事すっごいそんけーしてるって言ってたのにー」

 

 またまた、あの笑顔でそう言う妹。

 その一言一句、全てが正しいからもう返す言葉も持ち合わせていない。

 

「わ、悪い! 紗月。香里と一緒に飯食べててくれ! オレは良いから!」

「ハル君。はい、パンだよ? 少しでもお腹に入れておいた方が良いよ」

「あははははっ! ベタだよねー。食パン食べながらダッシュするなんて、とってもー」

「や、やかましい! さ、紗月 さんきゅーー! んじゃ、いってくる!!」

 

 渡されたパンを口の中に放り込んで、噛んでロック。

 まさに遅刻寸前で朝食を掻き込んで走り出す、ベタなシーンだが 実際に体験はしたくない。走りにくいし、何より腹痛が起こりそうだから。完全に遅刻だから精神的にも肉体的にも。

 

 

『ははっ 春輝はしょうがねぇなー。オレが来なかったら 翌日大目玉だったぞ?』

『わ、悪い! さんきゅうな? ほんと!』

 

 

 そして 2人の声が完全に聞こえなくなってきた所で、紗月は笑顔だけど少しだけ真剣な顔になった。

 

「香里ちゃんに好きな人が出来たんだねー? ね? ね? どんな人?」

 

 春輝にとって最愛の妹なのだから、紗月にとっても長く同じ時間を過ごしてきたため、同様だ。だからこそ、好奇心もあるが それ以上に心配をしたりもする。

 自分自身が好きな人はまるで、全く問題ない。それは香里自身もよく知っている。

 だけど、香里の好きな人は この場では香里しか知らない。全く知らないから 心配になってしまうのだ。

 

「えっへへ~、とーっても格好いいひとだよ? ちょっぴり 歳は離れちゃってるけど、お兄ちゃんよりもずっと!」

 

 何だかとても、とても複雑な事を言ってくれる香里。 でも、その笑顔にはどうも悪戯心が浮き出てきているから、どこまで本気なのか判らない。

 

「あははっ、じょーだんじょーだん。でも ほんと素敵な人っていうのはじょーだんじゃないよ? こんな気持ち、初めてだから ちょっと戸惑ってるとこもあって……」

 

 香里はそっと胸に手を当てていた。

 それを見て、紗月は真剣に 本当に真剣に恋をしているのだと言う事がよく判った。

 例え、まだ小学生だとしても、もう直ぐ中学生。もう思春期だって迎えている。それに自分自身は小学校の頃から好きで 今もずっと好きだから 気持ちはよく判った。

 

「紗月ちゃんが決めた相手だからね。とっても素敵なひとなんだ、って事はよく判ったよ。……それにきっと、難しいかもしれない、って事も」

「ぅ……」

 

 紗月は香里の表情からそれも読み取った。

 歳が離れている、と言う事は間違いなく同級生ではない。小学生ではなく中学生? 或いはそれ以上? と詳しくは判らないし、あまり追及するつもりも今は無い。

 

「でも、頑張ってね? 私も頑張る。頑張った事は……きっと無駄になんかならないから」

「……そー、だね。うん。そーだと良いな?」

「だいじょーぶ! 香里ちゃんもとっても可愛いんだもんっ! 私が男の子だったら放っておかないからっ♪」

「えへへ♪ そーかなー? あ、私も男の子だったら紗月ちゃんの事 ぜーーーったいに放っておかないよー。ちゅー くらい毎日の様にしちゃうからねー♪」

 

 きゃっきゃっ と話を膨らませつつ、朝食を美味しくいただく2人。

 

 成就するかどうかは判らない。相手がいて、自分がいて 初めて成立する問題だから。

 

 何より紗月は、香里が言っていた『紗月ちゃんと同じ気持ちになれた』と言う言葉から判る通り、まだ一方通行――片思いだと言う事がよく判った。

 

 それでも、この笑顔は本当に愛らしい。

 

 その笑顔が曇る事の無いように 紗月は祈るのだった。

 


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