インフェクションIF   作:フリードg

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遅くなってすいません・・・・ m(__)m


9話

 

 

 

 

 あれ(・・)をなんと呼べば良いだろうか。

 

 一先ず名称を付ける事で、解説や詳細が分かりやすくなるだろう、と龍は考えていた。 今後の事にも必ずこの情報は必要だから。

 

 

 まだ十分な情報を得られていない現状と生存者の多くは子供であると言う事実。

 この小学校に一先ず籠城し、外部からの助けを待つのが一番だと判断した。幸いな事に学校は堅牢な建物だ。出入口さえ抑えれば、侵入される事は無い。

 

 

 最初に話を戻そう。あれ(・・)は所謂ゾンビと呼べば良いのだろか。

 

 人間だった頃は何度も話して 勉強を教えて、……そして教えられて。自分自身にそんな事が出来るなんて思っても無かった。自分の世界を広げてくれた人たち、未来があったはずの子供達。そんな彼らをゾンビなどとは呼びたくはないのが本音だったが 一先ず感情は抑えようと思う。

 

「……あいつらの特徴は 大体掴んだな」

 

 龍は机に置かれたノートに素早く書き込みを続ける。情報を残し、伝えていく事で生存率を上げる為だ。

 

 

① 正常な人間と比べて判断力は著しく低い。

 

② 音に反応し、視界に入れば襲ってくる為 視力や聴力はある。(基本一般的であり突出はしていない)

 

③ 筋力はその年齢に応じて多少違いはあるが 平均値である。 

 

④ 身体の中は蛆(不明)が発生している。(解剖しなければ詳細は判らない。専門家がいないと言う事と、現在、あれらが生きているのか、死んでいるのかの判別がつかず 法にも触れる可能性がある為 現状は行わない方向で)

 

⑤ 人間の肉を食べる。それ以外の食糧や動物には興味がない。

 

⑥ 歩く速度は早歩き程度。

 

⑦ 現れた時間と増えていく数から察するに、(範囲はこの周辺地域に絞られるが) 人口の2割は 感染? したものと推察される。

 

 

――――

 

 

「……こんなものか」

 

 一息つき、ペンを置いた。

 まだまだ調べるには時間が足りない。そして 時間は有限ではない。

 この異常事態。この後に何が起きても不思議ではないから悠長には構えてはいられないと言うのが本音だ。……極論すれば、更に力を増した本当の化け物が現れた所で不思議じゃないのだから。

 

「映画とかだったら、そう言う展開になるんだろうな。……生憎、ノンフィクションだ。つまらないだろうが、遠慮しておく」

「うんうん。それでー、映画だったら 格好いい主人公に惚れちゃったヒロインがつきものだよねっ? りゅーせんせーっ」

 

 やや前傾姿勢で座っていて、まるまった背中に軽い衝撃があった。

 声からでもよく判る。香里だと言う事が。

 

「そっちの方は大丈夫だったか?」

「ぶー。ガン無視してくれちゃったねヒロインが来たのにっ!」

 

 ぷくっ と頬を膨らませていた様だが直ぐに気を取り直して説明をした。

 

「うん。大丈夫だったよ。下級生のコたちはやっぱり まだまだ不安があって泣いちゃうコとか多かったけど 泣いちゃうコより年上のコが支えて、支えているコを更に年上のコが支えて……って繰り返して貰って、何とか平常を保ててる、って感じかなぁ」

「……そうか。よくやったな。この手の状況でのパニックが一番怖い。二次災害でも起きれば、一気に大参事になるからな」

 

 閉鎖された空間。

 それも外には死が待っている。

 そんな場所で何時までもいれば精神の1つや2つ崩れたって不思議じゃない。普通の小学校なのだから当然だ。それらを守るべき大人の絶対数も少ないから。

 

「だいじょーぶ! みーんな、龍せんせーの事信頼してるもんっ! だから、みんな希望だって持ってる! 一応、頑張ったつもりだったんだけど……、大体せんせーがやってくれたからねー……」

 

 さすまたを担ぎながら苦笑いをする香里。

 

 今でこそ悠長に話しているが ほんの数時間前まではこの学校内も修羅場。惨劇の場。阿鼻叫喚の四字熟語が一番当てはまる様な空間だった。 逃げ惑う者達も多く、外から逃げのびてきた者達が中へ入ろうとし、更に呼び寄せる結果となって悪循環が続いていた……が、 それに歯止めをかけたのが勿論龍だった。

 

 先生方と協力し、靴箱や机等を積み上げ、通路を簡易的ではあるが狭くし 一度に侵入できる数を制限した所で、一体一体を確実に止めていっていた。ものの一瞬で四肢を潰し動けなくした所で外へと放り投げる。……そして 当然ながらもう助けるのは無理だと判断している為、その命をも奪う事もあった。今を生きている者たちを第一に考えて行動し続けた。

 

 結果、被害は最小限に抑え安全地帯を確保する事が出来た。

 

 死体の山は、視覚的には最悪の一言だが詰みあがる事で障害物になり、視界を遮る事にもなる。そして 新たに逃げ込んでくる者達がいないとも限らないので、今も見張りをたてて監視はしている最中だ。(勿論安全地帯で)

 

「全員の力だ。皆が出来る事を最大限にしたおかげで今があるんだぞ。はき違えるなよ」

「はい! せんせー!」

 

 香里は直ぐに笑顔になった。何度も聞かされた事であり 自分も役に立っている、と言う事を龍自身の口から聞きたい為 作為的に…… と言うのはまた別の話。

 

「ん。家庭科室の方はどうだ? 非常食の備蓄状況とかは」

「あ、はい。一応防災対策の1つでもあるし、ここは避難場所にもなってるから かなりの量がありましたっ! なので、最低でも4~5日は水と食料には困りません!」

「了解。……そろそろ香里も疲れただろ? 休んでて良いぞ」

「……と、言う事はここ(・・)で ごろんっ! となって良いって事ですかっっ!?」

「はいはい。それくらいは許しても良い、って思うくらいの活躍は十分過ぎる程してくれてるからな。……特別サービスだぞ」

 

 龍は、長椅子に座るとぽんぽん、と膝の部分を叩いた。

 

 何度か休め! と言ってるのに やる! と聞かない香里。

 どうしてもー と言うなら 龍も一緒に! と我儘を言いだす始末だ。 当然、目に見えてヤバくなっていたら力づくでも…… と思っていたが 香里は文武両道。その小さな体に(本人には言わない)どこにそれだけの力があるのか? と思う程の仕事量を熟していた。

 

 

 大丈夫だと言う事は十分すぎる程判ったが、やはり休息は必要だ、と言う事で安全を確保する事が出来た今、多少の我儘は聞いてやろうと判断した。

 

 

「えへへへ~」

 

 香里はちょこん、と横に座ると 頭を龍の膝の上に乗せた。

 そんな香里の横顔を龍は撫でながら言った。

 

「……無理はするなよ。連絡は取れたのか?」

「…………」

 

 笑顔だった香里の顔が……直ぐに陰た。

 

「……連絡は無いです」

「そうか。………」

 

 携帯を使って 親との連絡はどうにか取る事が出来た。

 大好きな紗月との連絡を取る事も出来た。……一応、香里にとっては最悪な兄『クズ兄』とも 取れてしまっていた。

 

 そして、最後にもう1人…… 大好きな方の兄と連絡が取れたのであれば これ以上ないくらい安心出来たと言うのに。

 

「大丈夫だ」

「……はい」

「お前の兄なんだろう? ―――なら優秀だ。それに此処でも十分避難出来ている。きっと、大丈夫だ」

「…………は、い」

「不安なら、オレがついててやる。……絶対、大丈夫だ」

「…………ぅ」

 

 香里の目から一筋の涙がこぼれ落ちる。

 

「せんせーの『大丈夫だ』は凄く、安心できます。……ありがとーございました」

「あぁ。これでも なんちゃって教師だからな。それなりにはやらないと、だ」

「あ、ははは…… 十分すぎる程、せんせーですよー……。とても素敵でかっこういい、せんせー、です。 ………すいません。ちょっとだけ……、ちょっとだけ、休み、ます」

「おう。……おやすみ」

 

 香里は、そのまま目を閉じ僅か数秒で寝息を立てていた。

 この極限下の中で これだけの仕事量。当然身体の限界はとうに超えている。……ただ、それを理解してなかっただけだろう。疲労を思い出したから 直ぐに寝てしまった。

 

 

 

 

「………ッ。さて、……と」

 

 

 龍は香里を撫でつつ、空いた方の手。右手をぎゅっと握り拳を作り、そして広げた。

 血はもう止まっているが……、噛まれてしまった事実には何ら変わりはない。

 

 そして これが何よりも皆を不安にさせた一因。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――情報⑧

 

 

  噛まれた人間は―――死ぬ。

 

 

 


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