東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

今回が、最終話一話前になるかもしれません。
上手くいけば、ですが。

では、本編どうぞ!


第87話 青

 幸せとは、一概にこうだと決めきれない。

 各々の幸せの定義の広さは千差万別であり、程度によっても差はあるものだ。

 だからこそ、幸せだと言えるときは美しいのだろう。

 

「よっし、今日明日はとことん遊ぶか! 行くぞ妖夢!」

「わっかりました~!」

「ん~、いってらっしゃ~い。ご飯はこっちで作るから任せといて~」

 

 翔と幽々子に白玉楼を任せ、冥界を飛び立つ。

 地平線を境界に青空と無限にも思える自然が分かたれるその風景に、一種の感動も憶える。

 もう、何度も、何日も見たはずなのに。

 

「さ、妖夢はどこに行きたい?」

「そう、ですね……甘味処、行きませんか?」

「あれ? 『あまみしょ』じゃなかったか?」

「……恥ずかしいです。掘り返さないで」

 

 照れた妖夢は中々に美味だ。

 俺の心がくすぐったいのう。はっはっは。

 

 

 

 と、いうことでやってきましたあまみしょ。

 晴天の下、立体型の雲が映える空の下。

 噴煙の如く、固まった姿を持つそれは、一層際立って見える。

 

 淡色の表情を携えるそれが、どうしようもなく綺麗だった。

 ただなんでもない景色が、俺にとっては最高の一言に尽きる一枚だった。

 

 たかが一枚。たかが風景。

 寂寥のようで、底知れない魅力に惹かれる俺には、そうは思えなかった。

 自由に泳ぎ回る雲に、澄み切った青が重なったこれには、相応の価値がありそうだ。

 

 刹那の感情を後ろ髪を引かれる思いで振り切り、中へ。

 見慣れたとはいかないが、とんでもない既視感に駆られてしまう。

 

「いらっしゃ~い。また来てくれて、お姉さん嬉しいわよ~?」

 

 それも恐らくのこと、この人の印象が強すぎるせいだろう。

 乾いた苦笑いを浮かべながら、俺と妖夢は繰り返す。

 あの時頼んだあんみつの名前を、そのまま。

 

 それを聞いた店員さんは、同じく笑って繰り返す。

 注文された、二つ目の休日を。

 

 届いたあんみつを、木製スプーンで口に運び入れる。

 今手にある日常を、嚥下する。

 口内に拡散する甘味を、しっかりと。

 

 一口ひとくちを、噛みしめるように。

 今日という時間を、遡行してしまいそうになるほど。

 俺の心が、走り出すくらいに。

 

 

 

 食べ終わっても、味覚の鋭さは消える気配がない。

 店員さんも、何かを察したような笑みを浮かべていた。

 もう、噂は立っているというのだろうか。

 

「さ、次はどこに行く? まだ昼だぞ?」 

「そう、ですね~……人里を、歩き回りませんか?」

「それで、いいのか?」

「えぇ。そもそも、天君と一緒ならどこでも幸せですから」

 

 そうやって柔らかな笑みを浮かべる妖夢。

 綻んでいる彼女の顔が、可愛くて仕方がない。

 昼の太陽、妖夢の笑顔。どちらが輝いているのかわからない。

 

 無意識に呼応するように、自然と俺も笑みが溢れる。

 互いに手を繋ぎ合い、歩き始める。

 風景を楽しみながら、寄り添う。

 

 確かにある、温もりを感じながら。

 

「あっ、そうですね……ついてきてください、天君」

「ん、どこに行くんだ?」

「えへへ~、秘密です! 着いてからのお楽しみですよ~?」

 

 悪戯に笑い、唇に人差し指を当てる妖夢。

 小悪魔めいた行動も、彼氏が言うのもなんだが、魅力的だ。

 

 遠くへ、遠くへと滑って、妖夢の示す目的地へと。

 滑り、滑りって空を縫っていく。

 やがて、一点の座標へと到着した時、それは終わりを告げる。

 

 妖夢がある方向だけを、優しげに見つめている。

 反射的にそちらを見た。

 

 ――絶景が、広がっていた。

 幻想郷を一望できる、特別な場所。

 煌めく太陽を、無限の空を、妖怪の山を、博麗神社を、沢山の人里を、魔法の森を。

 

 空高くに舞い上がれば、幻想郷はどこでだって一望できる。

 いつだって、目下の景色に心を、身を震わせるだろう。

 

 が、こことは訳が違った。

 魔性めいた『ナニカ』を持っているんじゃないかと、疑う。

 そして、自分の目を瞬かせる。

 

 孤独の地平線は、どこまでも続く。

 箱庭は、無限の可能性を秘めていた。

 

「どうですか? ここ、結構見晴らしがいいでしょう?」

 

 妖夢のこの言葉。

 優しげに、誇らしげでもあるように、彼女は言う。

 

 雲は緩やかに歩行を続ける。

 風は木の繁栄した小都市を、揺らし、互いを擦る。

 直接耳に潜り込むそれは、高音の笛と酷似しているようだ。

 

 未来永劫、変わることはないのかもしれない。

 それが、多少なりとも支えられたのだろうか、俺は。

 

 流される「時」は、輝く。

 尊さと美しさ、それに悲しみさえも含んで、確実に、ゆっくりと。

 輝きは、必ずしも希望に向かうものではない。

 

 わかっているはずだ。俺も、妖夢も。

 だからこそ、俺と妖夢の間で極小の会話のみが繰り返されているのだろう。

 実際、互いにわかっているはずだ。

 そんな『飾り』は、この時、この場において不必要な、無用の産物であることに。

 

 俺は、こう思った。

 

「なぁ、この景色……妖夢には、何色に見える?」

「天君は、何色に見えますか?」

 

 広大な緑、悠々とした蒼、卓然の白。

 様々な色は入り乱れ、各々の主張に飲み込まれる。

 僅かながらに生きた、それの持つ色は。

 

「俺は……白に見える」

 

 なにものにも成れる、白。

 すぐに消えてしまう、塗りつぶされてしまう弱い色だ。

 情が全くない、軽薄すぎる、糸のような存在だ。

 

 だからこそ、俺には貴く見えた。

 

「で、妖夢はどうなんだ?」

「二つ、見えました。一つは、天君と同じ白。もう一つは――()()に、見えました」

 

 妖夢の目は、他でもない憂い、悲しみを憶える。

 

 ……俺は、正解を選んでいるのか、不正解を取り間違えたのか、わからなくなる。

 でも、もう答えは出した。悔いが残ることのないように、それにひた走るだけだ。

 

 ――もうすぐ、昼が、終わる。

 

「……さぁ、もう帰りましょうか。ご飯も作らないといけません。後は、白玉楼でゆっくりしていましょう?」

「あぁ。そう……だな」

 

 俺は、妖夢の背中を少し送り、先の景色を見る。

 

 ……少しだけ。青が、広がっていた。




ありがとうございました!

結構独自解釈されそうな文を入れてみたり。
こういう文は、私の特徴だった気がする。
曖昧な文で誤魔化してるって言えば、それまでなんだけどね(´・ω・`)

ではでは!

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