東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

妖夢ちゃんだけだと、あんまりワンパターンでいかんかと。
最後あたりですし、栞ちゃんのターン!

では、本編どうぞ!


第86話 別の愛

「……おい栞。俺、病人だよな?」

「そ、そのはずなんだけどなぁ……」

「どうして、こんなに疲れてるんだ? 自分でもわからん」

 

 あの後、ひどい目に遭った。

 くすぐられ、動けないことをいいことにアレやコレや……。

 とにかく、動いていないのに筋肉痛がひどくなった。

 

 哀愁が込もったような表情で、窓の外を見る。

 もう既に夜を迎える幻想郷は、その自然の寵愛を完成形としている。

 自然あっての幻想郷。端的に言えば、そうだった。

 

 外の世界に比べ、比べ物にならないくらいに多い幻想郷の自然。

 空気は澄み、空は延々と清らかで、流動する雲も淀みなく漂っている。

 

 夜になると、その明るさは身を潜める代わりに、妖艶な美しさを孕む。今のように。

 鈴虫の規則的な音は、類を見ない安らぎの供給源となる。

 相対的ではあるのだが、魅力は衰えることを知らないようだ。

 

「……なぁ、栞」

「ん? どしたのさ、天?」

「好きだよ」

「そういうことは、彼女持ちから言われることはないと思っていたんだけどねぇ?」

 

 勿論、恋愛的な意味ではない。

 栞も、それをわかっていてのこの半分おちゃらけたような声色だ。

 

「例え栞が死んでいようと生きていようと関係ない。栞が好きなんだよ」

「おっ、そう言ってくれると私も嬉しいねぇ……じゃあさ、少しだけ我儘、聞いてくれない?」

 

 肯定の返事をしようとする間もなく、俺は意識を手放す。

 

 

 やはり、いつ来ても慣れないものだ。

 一面が白に囲まれた中、水色のワンピースが映える幼き女の子。

 あまり彼女を『見た』ことはないが、彼女の笑顔は中々に好きだ。

 本当に、心の底から笑えているような気がして。

 

「よぉし! 天、ここに座って?」

 

 栞の隣を指さされ、何も言わずに座り込む。

 それが終わると、飛び込むようにして俺の上にさらに座り込む栞。

 大体、こうなるであろうことも予想ができた。

 不思議なものだ。いつも一緒だと、大まかな思考までなら読み取れる。

 

「はいはい。よしよ~し、いい子だね~」

「お、お~……! 中々癖になりそうだね。妖夢ちゃんがハマるのも納得というか……」

 

 頭を、ゆっくりと撫でる。

 彼女へ、妖夢とは別の愛を向けるように。

 

 もし、この姿が実験の時から変わっていないのだとしたら。

 親の愛を少ししか受けず、ここまでを過ごしてきたことになる。

 なら。なら、俺が少しでも代わりになれれば。そう、思った。

 

「やっぱり、天は優しいんだね」

「今更か? 俺ほどこの世で一番聖人に近い人間はだな――」

「はいはい、そうですね~」

 

 こんなにくだらないやり取りでさえ、栞となら楽しみを憶える。

 心安らぐ時間が。手から砂が、こぼれ落ちる。

 

「……ありがとうね、天」

「おう。きちんとありがとう・ごめんなさいは言えるようになるんだぞ?」

「ねぇ、一応天よりもずっと長生きしているんだけど」

 

 そうだった。

 こんなにも幼女体型だと、それさえも忘れてしまえる。

 あ、あれ? それって合法ロr――

 

「今、失礼なこと考えてるでしょ」

「い、いやそんなことは――」

「言っとくけど、この状態でも思考は筒抜けだからね?」

「いやホント合法ロリとか思っちゃってすいませんでしたぁぁぁ!」

「えっ、そんなこと思ってたの? 栞ちゃん可哀想! ぐすん」

 

 図りやがったよ、このロリ。

 嘘泣きまでしているのだが。今回ばかりは、それも可愛いものだ。

 

「……天。こんな私を、今までありがとうね」

「ホント今更だな。礼を言われることじゃないさ」

 

 優しく、きゅっと抱き締める。

 全身を包み込むように、抱擁する。

 撫でていた手も、向こう側へ回して、引き寄せる。

 

 微弱な温度が、そこにはあった。

 死んでいるのかもしれない。けれども、完全に否定できそうにはない。

 こうやって、体温も存在しているのだから。

 

「私も、天が好きだよ。だから正直、天が帰るのは寂しい」

「そうだなぁ。俺も、栞や妖夢達と別れるとなると、寂しいよ」

 

 片手で抱き寄せながら、片手で頭を撫でる。

 居心地がよさそうにこちらに体を預ける栞。

 だが、その声には少しばかり憂いが込もっていることに変わりはなかった。

 

「今日だけでいいから、さ? このまま、一緒に寝よう?」

「ん、了解。思えば、栞と一緒に寝るのは初めてだな」

「そ~だね。もしかして、妖夢ちゃんがいなくて寂しいの?」

「いや、栞がいるから大丈夫だ」

「ぁっ……」

 

 もう一度、抱き寄せる。

 両腕で包み込んで、優しく。

 目の前の少女は長生きしているとはいえ、少女だ。

 心の隙間を、埋めたい。

 

「……私って、幸せ者だったんだね。……おやすみ、天」

「あぁ。おやすみ、栞」

 

 言われた通りそのままの状態で、目を閉じる。

 今日の戦いの様子がフラッシュバックする中、すぐに安らかな寝息が聞こえてくる。

 それもそうだ。リベレーションとアンリミテッドで栞も霊力をほぼ使って、疲れているのだから。

 

 実際の肉体がこの体勢ではないので、変に体が痛くなることもない。

 この状態を半ば楽しみながら、半ば安心させられる側にもなった。

 安心感の訪れは、やがて睡眠欲の手招きへと変わっていった。

 

 

 

 

 気持ちのいい陽光が差し込む朝、目が覚めると天井があった。

 眠って起きたときには、こうして魂は戻されるのだろうか。

 栞が戻してくれたのかどうかは、わかりかねる。

 

 けれども、俺は昨夜の暖かみを、確かに覚えていた。

 

「あ、起きましたか、天君。おはようございます」

「ん、妖夢か……おはよ」

 

 くあっ、と二人で欠伸が重なる。

 それはもう、始まりのタイミングも、終わりのタイミングも。

 思わず笑ってしまう。

 

「あはは、俺達って、やっぱり似た者同士なのかもな」

「ふふ、そうですね。私は、天君とならどこまでも、似た者同士でいたいものです」

 

 彼女の笑顔には、敵いそうにもない。

 いつも、何かと彼女の笑顔が見られればそれでいい、なんて思ってしまう。

 どんな悪いことでも、勿論、嬉しいことでも。

 

「えっと、それで、なんですがね? これから二日の過ごし方なんですが……」

 

 この笑顔も、あと二日限り。

 もう見られることはなくなり、思い出すことしかできない。

 せめて、目に焼き付けるべきだろうか。

 

「今日、私が天君と行きたい場所や、したいことをさせてください。明日は、天君が私と行きたい場所や、したいことをしませんか?」

「喜んで。俺は妖夢といれば正直どこだっていいから、実質二日とも俺の欲望で埋まるがな!」

「ふっふっふ、私もなんですよ! ……奇遇、ですね」

「奇遇じゃないといいんだがな?」

「もう……わかってるでしょうに、天君はそういうところが――」

 

 ……俺は、楽しむべきだろう。

 今まで頑張ってきたんだ。

 今日と明日の二日間くらい、楽しんでもいいだろう。




ありがとうございました!

次話から、妖夢ちゃんのターンに戻ります。

意外に私は、栞ちゃんみたいなキャラ、好きだったりします。
お調子者というか、ちょっとふざけたノリのいい感じの。

前回、感想100いったって話してたじゃないですか。
あの話を投稿して、五・六件感想を頂けまして。
いやぁ、嬉しいのう、嬉しい限りですのう(*´ω`*)
ありがとうございます。

ではでは!

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