エピローグが、プロローグよりも長くなりそうです。
予定では、同じく二話で終わらせるはずだったんだけども。
では、本編どうぞ!
意識が、覚醒する。
浅い眠りから覚めるように、夢も見なかった。
混濁することのない意識。
しかし、体は思うように動かせない。
「……あら、起きたわね。残念だわ」
「い、いやいや残念って。俺、頑張ったんだぞ、永琳?」
こんなに特徴的な服を着る医者は、見間違えることもない。
相変わらずの消毒液の匂いのなか、ベッドの上で横たわったまま答えた。
窓から打ち出される光は、まだまだ明るく、オレンジがかってもいない。
さほど長くは眠っていなかったようだ。
「天君」 「「「天」」」
皆の俺の名前を呼ぶ声。
笑顔を向けて、静けさと共に感じたものは、至上の安心感だった。
互いに笑顔を向け、戦いの終わりに息を吐く。
それが、俺には心地が良すぎた。
「さぁて、妹紅も実質傷はなし。皆も負傷なし。強いて言えば……天。貴方に一つクイズよ」
安らかな笑顔が、向けられる。
一見優しそうな笑顔に見えたが、俺には背後に『何か』があると察知した。
思わず、苦笑いを浮かべる他ない。
「……約十秒。これが、何を意味するかわかる?」
「はぁ? 十秒、ねぇ……いや全然全く一ミリたりとも」
正直に答えた瞬間、胸倉を掴まれて引き起こされる。
強い衝撃は一瞬で、無理矢理に起こされた体。
目の前にまで、永琳の……闇の深い笑みが浮かんでいた。
「貴方がアンリミテッドを使えた残りの猶予時間のことよ? あと十秒してたら死んでたわよ? ねぇ?」
「あ、あ~、それはその、そこまでとは思っていなかったと言いますか……よかったな?」
「張り倒すわよ!? どれだけ施しを受ければいいのよ!」
今回は、本当にガチギレみたいだ。
あと、十秒。その十秒が、俺の命を左右したと考えると、まぁ怖いわな。
「そんなに実感湧かないけどな」
「あ~もういいわ。十秒と経たずに運命辿らせてやるわよ。言っとくけど、私かな~り強い方よ?」
「はいはい、永琳も程々にするのよ?」
「いやもっとちゃんと止めろよ霊夢。俺死んじゃうぞ」
『程々に』というのは、逆説的には程々であればやってもいいみたいな意味が。
霊力を感じる限り、強いことは何となく想像はできたし、それも容易だった。
こうやって乾き気味な笑いを浮かべているのはいいものの、思うように体が動かない。
手を動かすぐらいはできるのだが、自力で起き上がることは不可能だろう。
感覚としては、筋肉痛の上位互換のようなものだ。
そういうと聞こえはいいが、かなりの激痛が伴うのは確かだ。
今回は程度が低いので、激痛というほどでもないのだが、やはり痛いものは痛いのだ。
今日くらいは、ゆっくりとしていたい。
修行も、今日くらいは――
「あ……もう、俺は修行する意味、ないんだな」
「「「…………」」」
皆の笑顔が、消える。
寂しそうな顔をして、俯く者も。
永琳も凛としたいつもと変わらなそうな表情だが、落ち着かない様子を見せている。
「お、おい、どうしたんだよ皆。そんなに暗くなんなって、な?」
「でも、天君は帰るんですよね? 元の世界に」
俺は、その答えに渋る。
完璧な否定ができない。口にすることができない。
口に出すと、それだけで見えない、背後に隠れた何かが瓦解してしまいそうな気がして。
そんなものは妄想だ。まやかしだ。疲れているんだ。
片付けられる言葉……いや、
けれども、
どれだけそれが正当であろうとも、口に出した瞬間に
入った裂け目を継ぎ接ぎすることはできない。
仮にできたとしても、大きな跡を残していくのは明白だった。
「は~い。重い雰囲気のところ悪いのだけれど、紫さんよ~?」
再びスキマから出て、陽気に微笑む紫。
ある意味、今のタイミングでのこの振る舞いには助けられた。
少しだがほぐれつつあるこの空間に、安堵の息を漏らす。
「天、貴方は退院にいつまでかかりそう?」
「ん~……今日はまず無理だとして、明日も無理かも――」
「私が明日になったら出させるわ。いけるわよね?」
「えっ」
ひどい! 永琳さんひどい!
仮にも『英雄』として命を賭したんですが。この仕打ちや如何に。
さて、抗議の声を上げる時だ。
「いや俺は――」
「……いけるわよね?」
「はい」
なぁにこれ。威圧がすごいね。笑顔のままなのがまた。
俺にここにいられるが、そんなに嫌なのだろうか。
凹むぞおい。いや凹まないけど。
「じゃあ次。貴方、元の世界に帰ろうとしているの?」
結局、質問はゼロへと、イチへと回帰する。
白紙に戻りかけた疑問点が、再び墨入れされた。
周囲は白く、その黒点は嫌に悪目立ちしてしまうことも知らないで。
答えは、いつかは出さなければいけない。
俺は、どうするのがいいのか。
どうしたいのか。
「……戻るよ。元の、世界に」
「「「……!」」」
やはり、こうなってしまう。
俺は、あの世界に置いてきたものが多すぎたのだ。
ここに住み続けると、本当にここに馴染んでしまう。
それが嬉しくもあり、最大の問題点でもあった。
俺は本来、ここにいるべき人間ではないのだから。
「勿論、幻想郷については他言しない」
「えぇ、わかってるわ。聞かなかったら、今頃貴方の記憶の境界を弄って、ここの記憶を消して外の世界に放り出すところだったわ」
ここの記憶を消す。
現在の俺が消えることと同義のそれに、震えを感じずにはいられなかった。
それ以上に、皆との交流がなかったことになることが、恐怖の塊だった。
「じゃあまた次。いつ辺りに戻るかの目処は?」
いつまででもいい。そう言いたかった。
でも、言えない。言えない。
言ってしまえば、先延ばしがいくらでも効くのだから。
結局、何も変わらない。
戻ることの意味を、何もかもが。
いつかは戻る。では、それはいつになるというのだろうか?
この環境に、甘えてはいけない。
もう十分に助けられた。
俺が本来生きるべき世界は、外の世界だ。
逃げてばかりでは、いけない。
今までに比べれば、むしろ外の世界の仕打ちなど、ぬるいほどだろう。
在るべき姿は、俺が幻想郷からいなくなり、外の世界で生きる姿だ。
「……退院して、準備が終わった翌日
「……貴方は、それでいいの?」
「いい、んだよ。それで」
俺の返事に、紫は不満げだ。
煮え切らない返事に、呆れてしまったのだろうか。
「あ~、私は丁度二日間、冬眠しま~す。だから、明後日じゃなくて、明々後日にしてくださいね~」
一方的にそう告げて、ウインクを残してスキマの奥へと消えていった。
……春なのに、冬眠なのか。
幽々子から以前、本当に冬眠することは聞かされていた。
けども、すっかり春景色の広がる今、それがちょっとした気遣いなのだと、気付いた。
「……ありがとう」
無意識に、言葉が溢れた。
俺が幻想郷を旅立つまで、あと二日。いや三日。
その内一日は、今日の入院で過ごされる。
実質、俺に残された猶予はあと二日。
あと二日をどう過ごそうかと考えていると、皆の様子の変化に気が付いた。
妖夢以外の皆で話し合いをしているようで、ぼそぼそと小さな声が漏れ出している。
やがて会議は終わったのか、こちらを笑顔で向く妖夢以外の皆。
「よし、あんたは二日、妖夢と過ごしなさい。私達は今日目一杯天で遊ぶから」
「え……で、でも皆さんが――」
「いいのよ。だから目一杯、今日遊ぶのよ」
「そ~そ~。俺に関しては、また外の世界で会うことになるだろうし?」
そういう、ことか。
俺と妖夢のために、時間を作ってくれるというのか。
正直、ありがたかった。
自分の彼女とは、もうすぐ別れることになるのだから。
俺は恐らく、これを除いて恋愛などできないだろう。
例え誰かから告白されたとしても、妖夢のことを思い出してしまう。
そうして、俺には妖夢しかいないのだと、再認識してしまう。
結局のところ、俺にとって、これが最初で最後の恋愛なんだ。
いい意味でも、悪い意味でも。
「さぁて、皆……天に何してやろうかね?」
「えっ」
「ここはさ、結構大きいのした方がいいんじゃない? 動けないんだし」
「えっえっ……びょ、病人ということを忘れないでね……?」
そんな言葉が聞かれるはずもなく、俺はいいように遊ばれましたとさ。
……まぁ、悪くはない、か。
ありがとうございました!
あと少し、ほんの少しの日常をお許しください。
そんなにいつも通りの日常、というわけではないのですが。
話は変わりますが、とうとう感想が100件を到達しました。
いつか来るのかも、とは思いましたが、まさか本当に来るとは。
始めたばかりのときからは、想像もつきませんでした。
皆さん、ありがとうございます!(*´ω`*)
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