東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

この挨拶が結構久しかったり。

今回は、皆の天君に対しての感情みたいなのの振り返りです。
特に話に進展はないことを、先にご了承ください。

では、本編どうぞ!


エピローグ
第84話 複雑な気持ち


 ……静寂。

 ついに、戦いは終わった。

 

 血に塗れた闘争の日々に、終止符を打たれた時。

 大空に、白色の鳥が、音を立てて羽ばたくのが見える。

 広大な雲一つない青の中、唯一の白が、九つ。

 

 雄大に、自由に、共鳴し合う鳴き声。

 それは、九つのそれらだけではなかった。

 

 後ろに、数え切れないほどの白。

 引き連れて蒼壁を仰ぐ鳥は、一瞬で空を覆い尽くす。

 音も格段に煩くなったが、すぐに止む。

 横行は、終わった。

 

 再び訪れる静寂に、半酩酊。

 強く揺らぐ視界を頼りに、天君のもとへと駆け寄る。

 足がふらふらで、何度ももつれそうになりながらも、何とか向かう。

 

「妖夢ちゃん、お疲れ様。天は霊力の殆どが空っぽになってるだけ。運ぶのは、もう少し後でも大丈夫だよ」

「そう、でしたか」

 

 彼と同じように、隣の小さな芝生に寝転がる。

 草の感触が、妙にくすぐったい。

 隣で聞こえる彼の静かな吐息も、耳がくすぐったい。

 

 未来を大きく左右する分岐点は、過ぎ去った。

 けれども、私の中で大きな分岐点は、むしろこれから訪れることとなる。

 

「……天君は、もう外の世界に帰っちゃうんでしょうか」

 

 相模君にも、言える話だ。

 元々、彼らがここにいる理由は、幻想郷を守るため。

 それが今、消失した。とても……複雑な気分だ。

 

 彼ら……特に天君とは、もっと一緒にいたい。

 その願いは、幻想郷の危機がさらに続くことに直結する。

 自分の願いと、現状と、理由の不一致。

 絶対に、最善策など見出せないとわかっている分、(たち)が悪い。

 

「さぁ、ね? 私も、寂しいよ。帰っちゃうってなったらさ」

「やっぱり、皆さんもそうなんでしょうか」

「当たり前でしょ?」

 

 空を気鬱気味に眺めていると、霊夢の声が聞こえた。

 それにつられて、皆がこちらによって、同じように寝転がり始める。

 輪になって、一緒に空を仰いで。何だか、気持ちがいい。

 

「……ほんっと、無茶ばっかりしてたわね。私が箒で叩きたかったかも」

 

 そればかりは、魔理沙に同意せざるをえない。

 いつも倒れて、私が運んだ思い出がちらほらと浮かび上がる。

 

 フェンリル戦のとき、時雨戦のときばかりは、もうダメかとも思った。

 彼の血を見る度に、自分への罪悪感との戦いでもあったのだ。

 

「入院して、毎回見舞に行くこっちの身にもなってほしいものよ」

 

 咲夜の、呆れ気味の声が空虚に飛んだ。

 二ヶ月眠り続けたときは、心が壊れてしまいそうだった。

 というよりも、既に壊れてしまっていた部分もあるのかもしてない。

 

 涙も流せなくなって、食事の味も薄く感じた。

 ベッドに横たわった天君に、無理に笑う自分が、今の自分でも痛ましいと思うほどだ。

 正直言って、生きている心地がしなかった。

 

「でも、あの子の努力は、見ていて嫌いになれなかったわね」

 

 レミリアも、一年間天君を見ている。

 修行をサボる天君など信じられない私には、紅魔館で毎日修行する彼の姿が、容易に想像できた。

 私の、一番惚れてしまった姿なのだから。

 

「私も、あんまり話せていなかったけど、優しい感じがしたよ」

 

 妹紅にも、そう感じるらしい。

 優しさに溢れた人間は、そうそういないと思っていた。

 ……ここにいる人間が、特殊なだけなのかもしれないのだが。

 

 彼の優しさは、本当に柔らかい上に、暖かい。

 いつまでも、その優しさに甘えて、包まれていたいと、つい感じてしまう。

 

 だからこそ、彼の消失は私の心にまで影響を与えたのだろうが。

 

「アイツはいつも、手を抜いたりしないんだよ。他人にも、自分にも」

 

 相模君の言葉は、しっかりと響く。

 今まで私達の知らない天君を見てきた相模の言葉は、相応にのしかかる。

 

 塞ぎ込んでいた彼のことも、相模君は知っているはずだ。

 親友と言い合えるような、美しい関係ならば。

 やはり相模君の幻想入りは、天君に大きな支えとなったことは確かなようだ。

 

「……やっぱり、天君と相模君が行っちゃうのは、嫌ですね」

「「「…………」」」

 

 皆も、思いは一つのようだ。

 元の日常へと回帰する、といえば簡単な話で片付けられる。

 けれども、もう日常は変わってしまった。

 

「まっ、俺も少しは寂しいけどね。期間は天に比べて短いし、彼女さんとかいないからね~?」

「ちょ、ちょっと相模君、からかわないでください!」

 

 皆の疲れきった、けども楽しそうな笑い声が聞こえる。

 この日常が、暫く経つとなくなってしまう。

 その現実が、今の私には到底受け入れ難いものだった。

 

「……さぁ、もう天を運びましょ。いつまでもこうやっているわけには――」

「み~なさ~ん!」

 

 突然の呼び声が、この一帯に広がる。

 直後、音を切り裂くほどの超スピードで、空から降ってくる。

 その正体は――鴉天狗。

 

「あややや~、皆さんお疲れ様でした。天さんも皆さんも、今本当にお疲れのようなので、後で取材に来ますね! ……一応、結果を聞いても?」

「えぇ。きちんと倒したわ。ちゃんと全員でね。人里の方にも伝えておいて」

「了解です。じゃあ、私はこれで。もう勝利の号外は印刷済みなのでね!」

 

 文の爽やかな笑顔が見えたと思うと、音を置き去りにした飛行。

 すぐに背中は小さくなり、やがて完全に見えなくなってしまった。

 彼女も、しっかり仕事は果たすようだ。

 

「気を取り直して、行きましょう。日が暮れちゃうわ」

 

 天君を抱えて、ゆっくりと地から足を離す。

 できるだけ起こさないように、ゆっくり、ゆっくりと。

 

 子供のような安らかな顔を見て、つい微笑んでしまう。

 両腕が塞がっていて、頬を突いたり、頭を撫でたりできないのが残念なのだが。

 

 今の内に天君を少しでも感じていようと小さく決心しながら、空を渡る。

 やはり、空は青いものだ。

 この空が、いつまでも青くあり続けますように。

 

 ……大好きな彼が遠くに行ってしまっても、忘れませんように。




ありがとうございました!

今回から、エピローグ開始です。
最終章も終わり、長くともあと三話ほどで最終回でしょう。

ではでは!

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