煙が完全に飛んでしまう前に、目的を達成させた。
後は、この後の運び方とタイミングが勝負。
恐らく……いや、
不知火に二度目が通じるとは思えない。
意表を突くことを前提としたこの作戦、さらに相手が相手だ。
たった一度の失敗すら、許されない。
その緊張感は俺にのしかかっているはずなのに、殆ど感じなかった。
一歩でも間違えば、俺達は敗残者と成り下がる。
日常を繰り返すことさえ許されない、賊軍に。
でも、やはり不思議と
皆と、一緒だからなのだろうか。
「咲夜、霊夢、牽制を数発!」
「牽制どころか、当てちゃうわよ」
「博麗の巫女として、外すわけにもいかないわ!」
咲夜がナイフを、霊夢が御札を投擲。
常人には到底到達できえることのない速さで、不知火に向かっていく。
「
炎帝の刀身が赤く燃え上がり、陽炎にも似たものが揺らめく。
銀色のそれが真っ赤に染まった瞬間、ナイフと御札が到達。
そして、一閃。
揺らめいた陽炎が収束し、消える。
いや、消えたように薙がれた。同時に、濃霧は一瞬にして晴れる。
赤い軌跡を空中に残しながら、ナイフと御札を飲み込んだ。
熱々の鉄板に物を乗せたような音。
焦げのような匂いが一瞬したと思うと、既にそこからナイフや御札は消えていた。
理解する。ナイフと御札は、溶けて、燃えたのだと。
金属さえも溶かすそれの温度は、一体どれほどなんだろう。
それを考えることもなく、次の
「魔理沙、そのままマスタースパーク!」
「了解! 恋符『マスタースパーク』!」
ミニ八卦炉を手に取って、レーザーを。
特別に力が入っているようで、気のせいか迫力と大きさがいつもより増している。
「妹紅! 合わせて一緒に飛び出して、妹紅一番の不意打ち!」
「わかった!」
低空飛行で、マスタースパークと並列して不知火へ。
轟音を放つそれに、低空飛行の風を切る鋭い音が吸収されながら、前へ。
「
今度は赤色は引き下がり、闇の深い黒へ。
全てを飲み込んでしまいそうな色を持つそれ。
刀というよりも、巨大な棍棒を振った音に近い、大きな低音。
マスタースパークは悠々に弾かれ、そのまま一緒に妹紅も斬られる。
一瞬で、致死量の血液が流れたとわかってしまった。
仲間の鮮血に罪悪感を感じながらも、次の作戦を
妹紅が、不意打ちを決めてくれると信じて。
「……リザレクション」
老いることも死ぬこともない程度の能力。
それは、
致死量の鮮血が飛んだにも関わらず、相変わらずの笑顔を携える妹紅。
「なにっ……!」
妹紅の蹴りが、不知火の右手に。
即ち、炎帝を持つ手に。
勢い良く弾かれた手は、構えを大きく崩す。
手から炎帝がこぼれ落ちることはなかったが、十分だ。
「今だ、翔!」
「はいは~い、わかってるわかってる。そら、よっと!」
足音を消しながら回り込んだ翔が、セルリアン・ムーンで同じ右手の炎帝を弾く。
抜刀と同時に勢いのついた一斬は、空高くに炎帝を導いた。
「妖夢、合図したら行くぞ!」
そして、俺の番だ。
手に持っている物を、投げる。
――
霧が晴れない内に、覚えておき、向かった場所。
それは、神憑の刀身が刺さっていた場所だった。
それを回収して、不知火へ投擲。
武器を弾かれ、ただでさえ対抗手段が奪われたばかりなのだ。
当然、避けるしか手段は残されていない。すると、どうなるか。
「くっ……!」
体重は偏り、直立は不可能。
炎帝は手元になく、完全に体勢を崩した状態。
先にも後にも、最大のチャンス。
失敗が許されない最後の壁を、越えるときが、今。
「妖夢!」
「わかりました!」
俺と妖夢が、駆け出す。
一瞬で数十メートルを、二人で横並びで詰める。
同時に刀を抜き、残り数メートル地点で左右に分かれ、挟み撃ち。
鋭い切り返しで、俺と妖夢がお互いに向かって走り、間に不知火の形に。
「
「人鬼『未来永劫斬』」
俺の雷が、一陣。
妖夢の閃は、連続して。
雷が不知火を貫いた後、別の技に移行。
「煉獄業火の閃」
連続で、爆発はさせずに斬りつける。
妖夢の場所、斬るタイミングが、手に取るようにわかる。
正直、見なくても連携は変わらないほど上手くいくだろう。
まるで、お互いがお互いの体を使っているように。
思考が本当に共有されているように。
斬りつけた回数だけ、赤い軌跡は彩りを失っていく。
ローブも血を吸ってしまい、半分以上が赤色に染まってしまった。
「これで……終わりだぁぁあああっ!」
赤々と滾る夜桜で、霊力爆破。
声も一切発することのできないまま、大爆発。
不知火が大きく吹き飛び、砂埃や霊力爆発による黒煙から飛ばされる。
地面を跳ねながら、遠くへ、遠くへ。
やがて跳ねも終わり、数ミリも動かなくなった。
それを見届けてすぐ。
自分の視界が、曲がる。
耐えられずに、思わず膝をついた。
「が、あ……?」
「お疲れ様、天。私も、もう霊力は殆どないよ。後は、妖夢ちゃんにお願いしよ?」
「……いや、まだわからない。生きていたとしたら……」
足を引きずるように、一種の酔いの状態になって、不知火へ。
……まだ、生きている。
「……俺の敗因は、何だ」
「あ、ぁ? 決まってるだろ。第一に、俺らを怒らせたこと」
栞の過去の引き金。
そいつを目の当たりにして、本気になった。
「第二に……俺だけでなく、俺の仲間を警戒しなかったこと。以上だ」
不知火は、いつも俺への注意は向けられていた。
口を開けば、俺がどうだの、俺の話だけをしていた。
仲間の可能性。
自分だけでは覗くことのできない高みを、考慮していなかったこと。
「ふ、はは……殺すがいい。負けが確定して尚、足掻くような出来損ないでも往生際が悪いわけでもない」
「…………」
正直、自分の手でとどめを刺すつもりだった。
が、どうにもできそうにない。
自分自身がもう限界だった。アンリミテッドの使用限界ギリギリだったのだろう。
しかし、それ以上に。
「紫」
「……お疲れ様。運ぶわね」
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
紫を呼び出して、空間に亀裂。
大量の目が垣間見える中、俺は再び不知火へと目を向けた。
「俺がお前を殺したら、お前と一緒ってことになる。だから、俺はお前を殺さない」
「……好きにしろ」
思えば、俺はまだ人殺しはしていない。
叢雲も、時雨も、手は直接下していなかった。
今、殺傷をしてしまえば、自分の怒りの対象である不知火と、同類になってしまう。
それだけは、嫌だった。
「……紫、後は頼んだ。俺はもう、立っているのがやっとだ」
「目立った傷はないけれど、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
不知火を音もなく、静かに飲み込んだスキマと、紫は消えた。
殺し合いの跡形もなくなったこの平野に、一枚。
桜の花びらが、舞い落ちた。
空には青空が広がって、雲は一片さえもなくなっている。
「終わった、か……」
それを最後に、意識がふっ、と途切れる。
蒼昊を、地面に仰向けになって見る。
いつの日かに見た白い鳥が、群れとなって飛んでいた。
視界が閉ざされかけて、よくわからない。確信はないのだが。
……それは、丁度八羽だっただろうか。
いや、その八羽が先導して、数え切れないほどの沢山の鳥が、雄大に天を駆けていた。
ありがとうございました!
不知火戦、終了ぅぅううあああああ!
まだあと一、二話くらい続きますぜ!(`・ω・´)ゞ
エピローグの他に、番外編もありますので。
そちらの方も見ていただけると幸いです。
残りの話数、文字数は5000になるか2500になるかは不明。
ではでは!