東方魂恋録   作:狼々

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第83話 仲間

 煙が完全に飛んでしまう前に、目的を達成させた。

 後は、この後の運び方とタイミングが勝負。

 

 恐らく……いや、()()()二度目はないだろう。

 不知火に二度目が通じるとは思えない。

 意表を突くことを前提としたこの作戦、さらに相手が相手だ。

 たった一度の失敗すら、許されない。

 その緊張感は俺にのしかかっているはずなのに、殆ど感じなかった。

 

 一歩でも間違えば、俺達は敗残者と成り下がる。

 日常を繰り返すことさえ許されない、賊軍に。

 

 でも、やはり不思議と重圧(プレッシャー)は感じない。

 皆と、一緒だからなのだろうか。

 

「咲夜、霊夢、牽制を数発!」

「牽制どころか、当てちゃうわよ」

「博麗の巫女として、外すわけにもいかないわ!」

 

 咲夜がナイフを、霊夢が御札を投擲。

 常人には到底到達できえることのない速さで、不知火に向かっていく。

 

覇者の炎舞(エクスト)

 

 炎帝の刀身が赤く燃え上がり、陽炎にも似たものが揺らめく。

 銀色のそれが真っ赤に染まった瞬間、ナイフと御札が到達。

 そして、一閃。

 

 揺らめいた陽炎が収束し、消える。

 いや、消えたように薙がれた。同時に、濃霧は一瞬にして晴れる。

 赤い軌跡を空中に残しながら、ナイフと御札を飲み込んだ。

 

 熱々の鉄板に物を乗せたような音。

 焦げのような匂いが一瞬したと思うと、既にそこからナイフや御札は消えていた。

 理解する。ナイフと御札は、溶けて、燃えたのだと。

 

 金属さえも溶かすそれの温度は、一体どれほどなんだろう。

 それを考えることもなく、次の段階(フェイズ)へ移行する。

 

「魔理沙、そのままマスタースパーク!」

「了解! 恋符『マスタースパーク』!」

 

 ミニ八卦炉を手に取って、レーザーを。

 特別に力が入っているようで、気のせいか迫力と大きさがいつもより増している。

 

「妹紅! 合わせて一緒に飛び出して、妹紅一番の不意打ち!」

「わかった!」

 

 低空飛行で、マスタースパークと並列して不知火へ。

 轟音を放つそれに、低空飛行の風を切る鋭い音が吸収されながら、前へ。

 

弱者による呻き声(ソウル・ハウンド)

 

 今度は赤色は引き下がり、闇の深い黒へ。

 全てを飲み込んでしまいそうな色を持つそれ。

 刀というよりも、巨大な棍棒を振った音に近い、大きな低音。

 

 マスタースパークは悠々に弾かれ、そのまま一緒に妹紅も斬られる。

 一瞬で、致死量の血液が流れたとわかってしまった。

 

 仲間の鮮血に罪悪感を感じながらも、次の作戦を準備(リロード)

 妹紅が、不意打ちを決めてくれると信じて。

 

「……リザレクション」

 

 老いることも死ぬこともない程度の能力。

 それは、(まご)うことなき、不老不死の象徴。

 致死量の鮮血が飛んだにも関わらず、相変わらずの笑顔を携える妹紅。

 

「なにっ……!」

 

 妹紅の蹴りが、不知火の右手に。

 即ち、炎帝を持つ手に。

 

 勢い良く弾かれた手は、構えを大きく崩す。

 手から炎帝がこぼれ落ちることはなかったが、十分だ。

 

「今だ、翔!」

「はいは~い、わかってるわかってる。そら、よっと!」

 

 足音を消しながら回り込んだ翔が、セルリアン・ムーンで同じ右手の炎帝を弾く。

 抜刀と同時に勢いのついた一斬は、空高くに炎帝を導いた。

 

「妖夢、合図したら行くぞ!」

 

 そして、俺の番だ。

 手に持っている物を、投げる。

 

 ――()()()()()()()()

 霧が晴れない内に、覚えておき、向かった場所。

 それは、神憑の刀身が刺さっていた場所だった。

 

 それを回収して、不知火へ投擲。

 武器を弾かれ、ただでさえ対抗手段が奪われたばかりなのだ。

 当然、避けるしか手段は残されていない。すると、どうなるか。

 

「くっ……!」

 

 体重は偏り、直立は不可能。

 炎帝は手元になく、完全に体勢を崩した状態。

 先にも後にも、最大のチャンス。

 失敗が許されない最後の壁を、越えるときが、今。

 

「妖夢!」

「わかりました!」

 

 俺と妖夢が、駆け出す。

 一瞬で数十メートルを、二人で横並びで詰める。

 同時に刀を抜き、残り数メートル地点で左右に分かれ、挟み撃ち。

 鋭い切り返しで、俺と妖夢がお互いに向かって走り、間に不知火の形に。

 

紫電一閃(モーメント・エクレール)

「人鬼『未来永劫斬』」

 

 俺の雷が、一陣。

 妖夢の閃は、連続して。

 

 雷が不知火を貫いた後、別の技に移行。

 

「煉獄業火の閃」

 

 連続で、爆発はさせずに斬りつける。

 妖夢の場所、斬るタイミングが、手に取るようにわかる。

 正直、見なくても連携は変わらないほど上手くいくだろう。

 

 まるで、お互いがお互いの体を使っているように。

 思考が本当に共有されているように。

 

 斬りつけた回数だけ、赤い軌跡は彩りを失っていく。

 ローブも血を吸ってしまい、半分以上が赤色に染まってしまった。

 

「これで……終わりだぁぁあああっ!」

 

 赤々と滾る夜桜で、霊力爆破。

 声も一切発することのできないまま、大爆発。

 

 不知火が大きく吹き飛び、砂埃や霊力爆発による黒煙から飛ばされる。

 地面を跳ねながら、遠くへ、遠くへ。

 やがて跳ねも終わり、数ミリも動かなくなった。

 

 それを見届けてすぐ。

 自分の視界が、曲がる。

 耐えられずに、思わず膝をついた。

 

「が、あ……?」 

「お疲れ様、天。私も、もう霊力は殆どないよ。後は、妖夢ちゃんにお願いしよ?」

「……いや、まだわからない。生きていたとしたら……」

 

 足を引きずるように、一種の酔いの状態になって、不知火へ。

 ……まだ、生きている。

 

「……俺の敗因は、何だ」

「あ、ぁ? 決まってるだろ。第一に、俺らを怒らせたこと」

 

 栞の過去の引き金。

 そいつを目の当たりにして、本気になった。

 

「第二に……俺だけでなく、俺の仲間を警戒しなかったこと。以上だ」

 

 不知火は、いつも俺への注意は向けられていた。

 口を開けば、俺がどうだの、俺の話だけをしていた。

 

 仲間の可能性。

 自分だけでは覗くことのできない高みを、考慮していなかったこと。

 

「ふ、はは……殺すがいい。負けが確定して尚、足掻くような出来損ないでも往生際が悪いわけでもない」

「…………」

 

 正直、自分の手でとどめを刺すつもりだった。

 が、どうにもできそうにない。

 自分自身がもう限界だった。アンリミテッドの使用限界ギリギリだったのだろう。

 しかし、それ以上に。

 

「紫」

「……お疲れ様。運ぶわね」

「あぁ、ちょっと待ってくれ」

 

 紫を呼び出して、空間に亀裂。

 大量の目が垣間見える中、俺は再び不知火へと目を向けた。

 

「俺がお前を殺したら、お前と一緒ってことになる。だから、俺はお前を殺さない」

「……好きにしろ」

 

 思えば、俺はまだ人殺しはしていない。

 叢雲も、時雨も、手は直接下していなかった。

 今、殺傷をしてしまえば、自分の怒りの対象である不知火と、同類になってしまう。

 それだけは、嫌だった。

 

「……紫、後は頼んだ。俺はもう、立っているのがやっとだ」

「目立った傷はないけれど、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ」

 

 不知火を音もなく、静かに飲み込んだスキマと、紫は消えた。

 殺し合いの跡形もなくなったこの平野に、一枚。

 

 桜の花びらが、舞い落ちた。

 空には青空が広がって、雲は一片さえもなくなっている。

 

「終わった、か……」

 

 それを最後に、意識がふっ、と途切れる。

 蒼昊を、地面に仰向けになって見る。

 いつの日かに見た白い鳥が、群れとなって飛んでいた。

 

 視界が閉ざされかけて、よくわからない。確信はないのだが。

 ……それは、丁度八羽だっただろうか。

 

 いや、その八羽が先導して、数え切れないほどの沢山の鳥が、雄大に天を駆けていた。




ありがとうございました!

不知火戦、終了ぅぅううあああああ!
まだあと一、二話くらい続きますぜ!(`・ω・´)ゞ

エピローグの他に、番外編もありますので。
そちらの方も見ていただけると幸いです。

残りの話数、文字数は5000になるか2500になるかは不明。

ではでは!

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