東方魂恋録   作:狼々

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第81話 二つの『無限』

「……リベレーション」

 

 小さく声に出し、意を固める。

 瞬間。

 

 白と黒が螺旋状になって、天高くに柱を作った。

 栞の霊力に加え、オレの霊力もがリベレーションで纏われる。

 

 全開の霊力は溢れる。

 それは、栓を失ったように。

 

「おぉおぉおお!」

 

 全力で、駆ける。

 不知火と俺の間は瞬く間に詰められ、互いの刀はぶつかり合う。

 今度は折れる心配もない。

 霊力でできているのだから、もし折れたとしても修復可能。

 

「少しは、楽しめるようだな。特に、天とは」

「俺だけに期待するのはお門違いってもんだ。仲間あっての俺だからな」

「ふっ、そういうものはあまり好きではなかったのだが、考えを変えようか」

 

 忌避すべきは、仲間の全滅。

 即ち、幻想郷改変。

 

 俺達が、俺達自身で未来を繋ぎ合わせるための戦い。

 

「そう言われても、戦いはやめる気はない。本気で殺しにかかるぞ」

「むしろそちらの方がよい。俺も、この戦闘に全力を尽くすとしよう」

 

 不知火の一旦の退きに合わせ、さらに距離を詰める。

 休む間もなく刀は競合を繰り返し、金属音を響かせていく。

 

 時折に飛んでくるナイフや、御札。

 的確に狙わえたそれらは、足元から不知火そのものまである。

 

 が、当たる気配が全くしない。

 俺の攻撃を合わせてもまだ、足りないというのか。

 

「私のマスタースパークが直接攻撃だけだと思うのかしら! 彗星『ブレイジングスター』!」

 

 箒の乗り上げた魔理沙が、後ろに八角形の箱――ミニ八卦炉というらしい――を構え、マスタースパーク。

 突如として加速を始めるそれは、勢い良く不知火に突っ込んでいく。

 

 その寸前、魔理沙の不敵な笑みと、こちらへのアイコンタクト。

 何を考えているのか、考えるんじゃない。

 感じ取れ、直感で。全てじゃなくてもいい、大まかなことを感じ取れ……!

 

「くっ……」

 

 魔理沙のブレイジングスターを避けるため、不知火は退かざるを得ない。

 苦の表情を僅かに浮かべ、飛び退いた。

 

 そして俺は――()()()()()()()()

 避けられたブレイジングスターは、そのまま不知火の前を、砂埃を巻き上げながら高速で通過。

 すれ違いざまに、空いた左手で箒を、しっかりと。

 

 魔理沙を見るが、より不敵な笑みが浮かんでいる。

 どうやら、正解だったようだ。

 

「な……! 天は、どこにっ……!」

 

 さっき、砂埃と魔理沙、さらに箒で不知火の俺への視線を遮った。

 加え、高速通過だったため、目に留まることもなく俺は上空へ。

 

「ここだ、よっ!」

 

 ある程度の高度へ到達して、箒を手放す。

 押し寄せる重力に逆らわず、自由落下。

 夜桜を両手で握り締め、振りかぶる。

「そこか――なっ、くっ……!」

 

 俺の声に気付き、上空を見上げる不知火。

 しかし、咄嗟に自分の視界を手で塞いだ。何故か。

 

 ()()。真昼の日光が、そのままある意味の俺の後光となって目に入る。

 不知火も、例に漏れず人間だ。

 俺らと同じ人間のそれならば、急な明暗の切り替わりには対応しきれないはずだ。

 

「煉獄業火の、閃……!」

 

 黒刀に纏われるは、煌めく炎。

 自分の中の霊力も上乗せして、瞬間火力を最大に。

 かかった重力すらも夜桜に乗せ、振り抜く。

 

「は……あぁぁあ!」

「く、そっ、ぐっ……!」

 

 胴体を狙って、一閃。

 しかし、光を遮るために掲げられた腕に、受け止められる。

 さらに、不知火の後退も相まって、腕にも少しの傷跡のみ。

 

 さすが、と敵ながらに思ってしまう。

 腕を犠牲にしなければ、そのまま夜桜は止まらず、胴体を捉えていたはずだった。

 ダメージを最小限にするために、自分の他の場所を犠牲にする。

 

 本物の熟練戦闘員のような、その考え。

 死なないためとはいえ、それを咄嗟の事態に実行することは、到底かなわない。

 

「行ったぞ、翔!」

「おーけー、親友! 青龍の波紋!」

 

 俺の煉獄業火の閃とは違い、青く煌めくセルリアン・ムーン。

 翔自身の霊力も上乗せされて、鮮烈な青煌を放っている。

 

「……弱者に振り下ろされる堕天使の鉄槌(ルシファーズ・ストライク)

 

 不知火の炎帝にも、光。

 ただし、先程までとは違い、明細な赤色ではなくなった。

 炎のような色では、なくなった。

 

 血塗られた薔薇のような、赤黒い色。

 或いは、血そのもののような、冥い赤色。

 

「――な~んちゃって! 妖夢ちゃん、ごー!」

「貴方も行くんですよ、相模君!」

「え~? ま、いいけどさぁ、出番ないと思うよ?」

 

 突然に消えたセルリアン・ムーンの淡い青。

 その横から、最高速で踏み切る妖夢。

 

 二本の刀をしっかりと手にとって、構える。

 

「……人鬼『未来永劫斬』」

 

 やはり、その洗練された剣技は、美しかった。

 短距離の幻想郷最速が放つ一閃は、完全に人智を超えていた。

 

 目を奪われるほどの美しさは、最早剣技の域を超えていた。

 一種の芸術が、そこにあったのだ。

 

 動きを、体の運びを、刀の抜き方を、目に焼き付ける。

 いずれは、これと同等にならなければならないのだ。

 そうしなければ、隣に立つなど笑止。

 

「……甘い。何もかも、甘い。それを、貴方に教えてあげますよ!」

 

 そうして、穿たれる刃。

 数々の鮮血の跡を残しながら、まだも斬撃は続く。

 不知火も弾いてはいるが、間に合っていない。

 

 ようやく、一撃。

 確かな一撃が、入った。

 

「ぐ……っと、そろそろ始めないとまずいか」

 

 そう、言って。

 

「おい、特に天。よく見ておけ。俺の()()()実力を」

「……なん、だって?」

 

 まだ、本気ではないと。

 この先の領域があると、そういうのだろうか。

 

「くっくく……お前の絶望に満ちる顔が、本当によく見えるよ……!」

 

 嘲笑うかのように、ケタケタと。

 その笑いには底が見えない余裕があった。

 

「まぁ、栞はいないし、俺の中にある門が解放されるだけなんだがな」

 

 恐怖にも似た何かが走った、その直後。

 

 

 

 

 

 

「――()()()()()()()

 

 ……信じたくは、なかった。

 

「まだ、まだだ……!」

 

 俺の、いや、本当に、どうして――

 

「――()()()()()()()

「「「なっ……!」」」

 

 俺はもう、声すらも出なかった。

 黒一色の炎のような霊力が、渦巻いている。

 そして、咄嗟に悟った。

 

 これは、早くに決着をつけなければ、負けてしまうと。

 

 その考えに至った瞬間、俺はしまってある『あれ』へと手を伸ばす。

 口に放り込み、水なしでそれを飲み込んで、叫ぶ。

 

「――アンリミテッド!」

 

 今ここに、二つの『無限(アンリミテッド)』が、衝突する。




ありがとうございました!

実のところ、不知火は本来リベレーションとアンリミテッドを使わなかったのです。
その、書いてて、これいいんじゃね? っていう安直な考えが。

こういうことがあるから、後々自分の首を締めるのにねぇ(´・ω・`)
しかし、盛り上げていきたいね!(*´ω`*)

ではでは!

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