「――信刀 夜桜」
……一陣の、風。
ささやかだが、確実にそこにある風。
同じく、確かに存在する神憑の刀身。
神憑――いや、夜桜は。俺の強い信念の具現化、なのだろう。
霊力が二種類あっただけで作れるとは、到底思えない。
そう感じていた俺がいた。
消えたオレ、託したオレ。
託された俺、それを背負う俺。
本当の意味で一心同体となった、オレと俺。
……負ける気は、不思議としなかった。
「ほう……まだ、立つのか」
「当たり前だろ。お前が倒れるまで、俺は膝をつくわけにはいかない」
仮にも、『英雄』だ。
自分の力不足、一片の迷い、僅かの恐怖。
それら全てを跳ね除け、『盾』となる必要がある。
もう、杏のような人間を出したくない。
目の前で、守れるものを護れないようなことには、なりたくない。
自分の責任から逃げたいだけ、と言ってしまえばそれまでだ。
が、俺にはここにいる理由がある。
もう、迷走するわけにもいかないんだ。
「さて、どうするよ不知火。ここで退くなら退いておけ。逃がさないがな」
「またご冗談を。俺が、負ける? そんなはずがないだろう」
深い闇を携えた笑みを浮かべながら、遠方のこちらに手をかざす。
また、あの時のような技がくる。
しかし、俺はさぁ――
「
「……効くと、思ったかよ?」
「……ほう、『殻』を破ったか」
――もう、突破口を見出した。
深い黒雲に呑まれた蒼天は、顔を出した。
昼本来の明るさを徐々に取り戻す大地に、光は降り立つ。
俺には、それがこの戦いの、勝利の兆候にしか思えなかった。
「お前……
「……参考までに、問おう。何故その結論に至った?」
簡単な話だった。
思えば、『理想』の能力であると仮定して、不自然なところが多すぎる。
「まずそもそも、こうやって二度に渡って幻獣を送り出す意味がない」
問答無用で『理想』の能力で、人々を支配。
それだけで、ある意味の理想郷は創ることができる。
それが、人々を操る、という意味でも、自分の思い描く理想が全て現実になる、という意味でも。
「もし何らかの障害で直接理想郷が創れないのならば、戦いの中で有利になる『理想』を描けばいい話だ」
まず、『理想』の能力を持ちながら、この状況が存在すること自体ありえない。
極端に言えば、幻獣を俺達が止められないくらいに暴れさせればいい。
そうなれば、抵抗する者はいなくなり、一からだが理想郷完成へのビジョンを確立させられる。
では、何故そんなに簡単に望みの結果は出せるのに、そうしないのか?
考えてみると、可能性は一つしかない。
しないのではなく、
「さしずめ……そうだな。お前の能力は、『絶望を魅せる程度の能力』ってところか?」
「……ふっははは! そこまで見抜くとはな! いやいや、なかなかどうして笑いが止まらない!」
どうやら、俺の推測は全て正しいらしい。
それは、半分いいこと、
「もっと言えば、少しでも負に向いた感情を、『絶望』の能力で増幅させるのだがな。『殻』を、破ったのだろう?」
「まぁな。お前んのとこの時雨にも、似たようなことを経験させられたからな」
瘴気を押し返す感情で、瘴気を上書き。
それと若干方向性は違うが、要は負の感情を持たなければ、増幅する源の感情が失くなる。
絶対に勝つと。守り通すと決めた今、俺にその能力は通じない。
「真の意味で過去から学ぶ人間は、滅多に見ないぞ……くくくっ……!」
こいつは、この状況で、戦闘中に笑うだけの強さがある。
それが、明確化された。
能力だけの、実力は空っぽな拍子抜けではないということ。
それは、皆の弾幕を防いだときにわかっていたが、精神としてもかなり強者であることもわかる。
本格的に気の抜けない戦いを目の前に、小さく深呼吸。
一人で戦うな。自分だけでなく、仲間を信じろ。
オレが俺に託したものを、消えてまで託した理由を、考えろ。
「皆、すまないな。俺はもう大丈夫だ。即興で、いけるか?」
「あんたねぇ……いけるいけない、できるできないじゃなくて、
霊夢は、本当に頼もしい。
博麗の巫女としての自覚は、類を見ない大きなアドバンテージだ。
「そうそう。どのみちやる他ないんだぜ? だったら、全力でやるのみでしょ?」
魔理沙の無鉄砲さは、時に非常にありがたいものだ。
緊迫した、大きな責任の伴う戦いを有利に動かすきっかけとなりえる。
「私は誰でも合わせられるわよ? 貴方とだって、一年暮らしたじゃない」
咲夜の強みは、何も能力だけに留まらない。
接近戦、ナイフによる中距離戦、弾幕による遠距離戦。
その全てを網羅する戦闘能力と、その場での適応力は、他の追随を許さない。
「……よし、三人と俺を中心に、もう一度攻撃するぞ! 危なくなったら無理をせず下がれ!」
隣の妖夢も、楼観剣・白楼剣を同時に構え、不知火に。
二刀流を、本気を、もう始める構えだ。
今なら、彼女の隣に立てているのだろうか。
いつしかの一年の別れの手紙を思い出した。
「――戦闘再開! 各員、全力を尽くすぞ!」
「「「当然!」」」
もう、迷いはない。
断ち切り、そして、紡ぐ。
この先の、未来を。
ありがとうございました!
いやはや、もう80話なんですねぇ。
早かったようで長かったようで早かった。
小説を書き始めてからというもの、時間が過ぎるのが速く感じます。
次回、本気の不知火とのぶつかり合いです。
ではでは!