東方魂恋録   作:狼々

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第78話 悲鳴

 ――微睡みの先。

 そこは、辺り一面が、()()そのものと化していた。

 あれだけ舞っていた桜の花びらは跡形もなく消え、そこら中の木々全ては枯れていた。

 地面は乾ききっていて、無数の亀裂が走っている。

 

 はっとなって、倒れた状態から起き上がる。

 そして、気付いた。

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『……あ?』

 

 さっぱり、わけがわからない。

 

 いや、だって、さっきまで、いきていて。

 さけびごえだって、あげていた。

 

 じゃあ、これは何なのだろうか。

 低く積み上がった、この死体の山は。

 地面の出血の跡はそこだけに留まらず、そこかしこに散った痕跡がある。

 

 それは、とても仲間のものだとは信じきれなかった。

 流れていく冷や汗が止まらない。

 足にも、立っているのがやっとの力しか入らない。

 手に持った神憑が、音を立てて震えているのが、自分でもわかる。

 

 厚い黒雲に覆われた空が、不穏な空気を差し込ませた。

 

『お、おい、うそ……だろ……?』

 

 手に持った神憑を置いて、山を掻き分ける。

 自分の手が、仲間の血で濡れていくことの恐怖に苛まれつつも。

 そして、気付く。

 

『よ、妖夢と妹紅は、どこだ……?』

 

 赤巫女。魔法使い。メイド。吸血鬼。親友の姿。

 きっちりと『五人分』の死体が転がっていた。

 確実に心臓を貫かれ、丁寧に喉まで切り裂かれた、五人分の死体が。

 

 妖夢と妹紅のそれが、見当たらない。

 

『ね、ねぇ……そ、らぁ……!』

 

 ふと、か細い声が聞こえた。

 が、それはあまり聞き慣れない声。

 

『妹紅! おい、これは一体どういう――』

『聞いて。私はもう、動けないくらいにいたぶられた。申し訳ない、不老不死として情けないんだけどね。あ、はは……』

 

 仰向けの妹紅の乾いた笑いが、俺には凄絶に見えた。

 白のシャツはほぼ赤色に染まっていて、出血の様を如実に表していた。

 

『不知火は、妖夢を連れて人里の方に行った。手遅れになる前に、お願い……!』

『っ、わかった! すぐに戻る! リベレーション……!』

 

 意識と共に切れていたリベレーションを繋ぎ、全速力で人里へ。

 その間の自然も、ほぼ全てが失くなっていた。

 冬のように枯れているのではなく、そのものが最初からなかったように、荒れ果てているのだ。

 

 無事でいてほしい。

 その切実な願いに、影が差した。

 もう既に、手遅れなんじゃないか、と。

 

 ――そしてその影は、現実として俺の足をすくった。

 人里の上空に着いた時の正直な感想は。

 本当に、ここは人里なのだろうか、という思いだった。

 

 家々は薙ぎ倒され、粉々。

 賑わっていた店も一つ残らず惨状の一つとなっている。

 あれだけ騒がしかった人里の皆の声も、一切が聞こえない。

 

『……くそっ!』

 

 急いで降りて、人里を駆け回る。

 しかし、どれだけ探しても、破壊された建物の連続。

 同じような惨状を、繰り返し見ているようだった。

 

 それどころか、惨状は凄絶さを増すばかり。

 辺りに死体が見え始め、多数の血痕も目立つように。

 そんな光景に吐き気を催しながらも、都合が悪いと目を瞑るようにして駆ける。

 

 そして、ようやく光景に変化が訪れた。

 不知火が、一人の少女の髪を引っ張り上げている。

 それは……紛れもない、妖夢の。

 

『おい、不知火ぃぃぃいい!』

『やっとご到着、か。まぁ、ジャストタイミングだ』

 

 俺の咆哮には目もくれない、というように、不敵な笑みを浮かべる不知火。

 そのまま笑顔を保ちながら、妖夢の髪を引っ張り上げたまま、俺に向ける。

 

 ……ひどいものだった。

 全身には切り傷の跡ができていて、顔も服も、薄汚れてしまっている。

 意識はあるようだが、今にも飛びそうに苦の表情を浮かべている。

 

 残念なことに、俺の激昂は、終わることはないらしい。

 だって、不知火がもう片方の腕で炎帝を引き抜き、妖夢の首元に当てているのだから。

 

『あ、あぁ、そら、くん……ごめんなさい』

『あぁぁ! 謝んなよ!』

 

 怒りに身を任せ、突進の構えを取った。

 今すぐに動かないと、妖夢の命が危ない。

 一瞬の判断が、俺の体を突き動かす。

 

 その体制から、地面を蹴ろうとしたその時。

 不知火の炎帝が、ゆっくりと引かれ始めた。

 

 いや、本当はかなり速い速度なのだろう。

 現に、俺の見る風景のスクロールも、遅くなっている。

 絶望を目に焼き付けるように、ゆっくりと語られる恐怖。

 それは、一番大切な人の死、だというのだろうか。

 

 俺はもう、判断を付けてしまった。

 もう、()()()()()()と。

 どう考えても、近づいて炎帝を弾くより、妖夢の首筋を切り裂く方が速い。

 そんな悍ましい、絶望の兆ししか、見えなかった。

 

 妖夢も悟ったのだろうか、力が入らないのだろうか。

 抵抗の気配も見せず、微笑を浮かべている。

 

 彼女の口は、動き出す。

 それは、こういうように。

 

 ありがと――

 

 最後まで、最期まで言う間もなく。

 炎帝は、彼女の喉を深く切り裂いて、信じられないような血液の量を――

 

 

 

 

 

「――天君! 天君!」

「あ、ああ……?」

 

 聞き慣れた妖夢の叫び声が、聞こえた。

 さっきのは、何だったのだろうか。

 不知火に飛び出して、そして、微睡んで。

 そのまま、倒れただけ……?

 

「夢、なのか……?」

 

 ぽつり、と呟いて。

 

「どうだい? 大悪夢からお目覚めの気分は?」

「お前の、仕業なのか」

「それ以外に、逆に何があるというのだ?」

 

 馬鹿馬鹿しい。

 そんな一単語で片付けられるほど、俺はできていなかった。

 俺の激昂は、さらに勢いを増した。

 

「その……大丈夫、ですか?」

 

 妖夢の、心配そうな声。

 俺には、それすらも耳に入っていなかった。

 

 俺の中で渦巻く、このドス黒い感情は。

 不知火に対する――明確な()()だった。

 

「殺す! 殺してやる! 不知火ぃいぃいいいい!」

「ま、待って、そらく――」

 

 妖夢の聞こえない言葉を振り切りながら、加速。

 暴走する怒気に後押しされながら、神憑を振り抜く。

 不知火に当たる、あと数センチメートルのところで。

 

「……現実を、知れ」

 

 その言葉の直後。

 暴風と、耳をつんざく金属音。

 あまりの圧力で、周りの葉は風で激しく揺れた。

 

 そして、手からかなりの重みがなくなった。

 気付く。先の金属音。何かが、おかしかったことに。

 軽かったのだ。もっと、鈍い音が伝わるはず。

 

 戸惑いの後、俺の後ろでガスッ、と地面を『刺す』ような音が聞こえた。

 いや、まさか、そんなはずは。

 この短時間で、何回この言葉を心で言うことになったのだろうか。

 

 重さの軽量化、軽い金属音、地面を刺す音。

 そう、まるで――()()()()()()ような、その証拠だけが次々に溢れる。

 

 確認するように、手元へと目線を向ける。

 輝かしい銀の刀身は根本から強引に折られていて、姿を消していた。

 

「……ぇ?」

 

 反射的に、後ろの音がした辺りを見た。

 そこには、手元に見えるはずの銀の刀身。

 

 では、さっきの軽い金属音はやはり。

 

 ――()()()神憑の、悲鳴だというのだろうか。




ありがとうございました! どうも、狼々です!

神憑ぃぃぃいい!(´;ω;`)
ここでなんと、初期メンバーの死亡。
予想はできなかったかと思われますね(*´ω`*)

さぁ、どんどん盛り上げていきますよぉ!

ではでは!

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