――微睡みの先。
そこは、辺り一面が、
あれだけ舞っていた桜の花びらは跡形もなく消え、そこら中の木々全ては枯れていた。
地面は乾ききっていて、無数の亀裂が走っている。
はっとなって、倒れた状態から起き上がる。
そして、気付いた。
――
『……あ?』
さっぱり、わけがわからない。
いや、だって、さっきまで、いきていて。
さけびごえだって、あげていた。
じゃあ、これは何なのだろうか。
低く積み上がった、この死体の山は。
地面の出血の跡はそこだけに留まらず、そこかしこに散った痕跡がある。
それは、とても仲間のものだとは信じきれなかった。
流れていく冷や汗が止まらない。
足にも、立っているのがやっとの力しか入らない。
手に持った神憑が、音を立てて震えているのが、自分でもわかる。
厚い黒雲に覆われた空が、不穏な空気を差し込ませた。
『お、おい、うそ……だろ……?』
手に持った神憑を置いて、山を掻き分ける。
自分の手が、仲間の血で濡れていくことの恐怖に苛まれつつも。
そして、気付く。
『よ、妖夢と妹紅は、どこだ……?』
赤巫女。魔法使い。メイド。吸血鬼。親友の姿。
きっちりと『五人分』の死体が転がっていた。
確実に心臓を貫かれ、丁寧に喉まで切り裂かれた、五人分の死体が。
妖夢と妹紅のそれが、見当たらない。
『ね、ねぇ……そ、らぁ……!』
ふと、か細い声が聞こえた。
が、それはあまり聞き慣れない声。
『妹紅! おい、これは一体どういう――』
『聞いて。私はもう、動けないくらいにいたぶられた。申し訳ない、不老不死として情けないんだけどね。あ、はは……』
仰向けの妹紅の乾いた笑いが、俺には凄絶に見えた。
白のシャツはほぼ赤色に染まっていて、出血の様を如実に表していた。
『不知火は、妖夢を連れて人里の方に行った。手遅れになる前に、お願い……!』
『っ、わかった! すぐに戻る! リベレーション……!』
意識と共に切れていたリベレーションを繋ぎ、全速力で人里へ。
その間の自然も、ほぼ全てが失くなっていた。
冬のように枯れているのではなく、そのものが最初からなかったように、荒れ果てているのだ。
無事でいてほしい。
その切実な願いに、影が差した。
もう既に、手遅れなんじゃないか、と。
――そしてその影は、現実として俺の足をすくった。
人里の上空に着いた時の正直な感想は。
本当に、ここは人里なのだろうか、という思いだった。
家々は薙ぎ倒され、粉々。
賑わっていた店も一つ残らず惨状の一つとなっている。
あれだけ騒がしかった人里の皆の声も、一切が聞こえない。
『……くそっ!』
急いで降りて、人里を駆け回る。
しかし、どれだけ探しても、破壊された建物の連続。
同じような惨状を、繰り返し見ているようだった。
それどころか、惨状は凄絶さを増すばかり。
辺りに死体が見え始め、多数の血痕も目立つように。
そんな光景に吐き気を催しながらも、都合が悪いと目を瞑るようにして駆ける。
そして、ようやく光景に変化が訪れた。
不知火が、一人の少女の髪を引っ張り上げている。
それは……紛れもない、妖夢の。
『おい、不知火ぃぃぃいい!』
『やっとご到着、か。まぁ、ジャストタイミングだ』
俺の咆哮には目もくれない、というように、不敵な笑みを浮かべる不知火。
そのまま笑顔を保ちながら、妖夢の髪を引っ張り上げたまま、俺に向ける。
……ひどいものだった。
全身には切り傷の跡ができていて、顔も服も、薄汚れてしまっている。
意識はあるようだが、今にも飛びそうに苦の表情を浮かべている。
残念なことに、俺の激昂は、終わることはないらしい。
だって、不知火がもう片方の腕で炎帝を引き抜き、妖夢の首元に当てているのだから。
『あ、あぁ、そら、くん……ごめんなさい』
『あぁぁ! 謝んなよ!』
怒りに身を任せ、突進の構えを取った。
今すぐに動かないと、妖夢の命が危ない。
一瞬の判断が、俺の体を突き動かす。
その体制から、地面を蹴ろうとしたその時。
不知火の炎帝が、ゆっくりと引かれ始めた。
いや、本当はかなり速い速度なのだろう。
現に、俺の見る風景のスクロールも、遅くなっている。
絶望を目に焼き付けるように、ゆっくりと語られる恐怖。
それは、一番大切な人の死、だというのだろうか。
俺はもう、判断を付けてしまった。
もう、
どう考えても、近づいて炎帝を弾くより、妖夢の首筋を切り裂く方が速い。
そんな悍ましい、絶望の兆ししか、見えなかった。
妖夢も悟ったのだろうか、力が入らないのだろうか。
抵抗の気配も見せず、微笑を浮かべている。
彼女の口は、動き出す。
それは、こういうように。
ありがと――
最後まで、最期まで言う間もなく。
炎帝は、彼女の喉を深く切り裂いて、信じられないような血液の量を――
「――天君! 天君!」
「あ、ああ……?」
聞き慣れた妖夢の叫び声が、聞こえた。
さっきのは、何だったのだろうか。
不知火に飛び出して、そして、微睡んで。
そのまま、倒れただけ……?
「夢、なのか……?」
ぽつり、と呟いて。
「どうだい? 大悪夢からお目覚めの気分は?」
「お前の、仕業なのか」
「それ以外に、逆に何があるというのだ?」
馬鹿馬鹿しい。
そんな一単語で片付けられるほど、俺はできていなかった。
俺の激昂は、さらに勢いを増した。
「その……大丈夫、ですか?」
妖夢の、心配そうな声。
俺には、それすらも耳に入っていなかった。
俺の中で渦巻く、このドス黒い感情は。
不知火に対する――明確な
「殺す! 殺してやる! 不知火ぃいぃいいいい!」
「ま、待って、そらく――」
妖夢の聞こえない言葉を振り切りながら、加速。
暴走する怒気に後押しされながら、神憑を振り抜く。
不知火に当たる、あと数センチメートルのところで。
「……現実を、知れ」
その言葉の直後。
暴風と、耳をつんざく金属音。
あまりの圧力で、周りの葉は風で激しく揺れた。
そして、手からかなりの重みがなくなった。
気付く。先の金属音。何かが、おかしかったことに。
軽かったのだ。もっと、鈍い音が伝わるはず。
戸惑いの後、俺の後ろでガスッ、と地面を『刺す』ような音が聞こえた。
いや、まさか、そんなはずは。
この短時間で、何回この言葉を心で言うことになったのだろうか。
重さの軽量化、軽い金属音、地面を刺す音。
そう、まるで――
確認するように、手元へと目線を向ける。
輝かしい銀の刀身は根本から強引に折られていて、姿を消していた。
「……ぇ?」
反射的に、後ろの音がした辺りを見た。
そこには、手元に見えるはずの銀の刀身。
では、さっきの軽い金属音はやはり。
――
ありがとうございました! どうも、狼々です!
神憑ぃぃぃいい!(´;ω;`)
ここでなんと、初期メンバーの死亡。
予想はできなかったかと思われますね(*´ω`*)
さぁ、どんどん盛り上げていきますよぉ!
ではでは!