「リベレーション!」
いつもの、栞の霊力が体から溢れる感覚。
オーラのように纏われたそれは、俺の体を薄い白で包んでいる。
全身から漲ってくるこの力は、きっとリベレーションだけの影響じゃないのだろう。
恐らく一番は、俺のこの感情。
怒りが一周回って、冷静を貫いた。
この九人の中で、一番瞬間速度が速い者。
つまりは、妖夢。妖夢が、一番速く不知火の懐へと潜り込んだ。
「即刻死ぬといい。人符 『現世斬』」
「……ふむ」
文字通り、目にも留まらぬ一撃。
刀を振り抜く鋭く、小さい音が遅れるほどの。
音速をも超えた、俺が見る限りに最高の一撃。
不知火の右腕は、背中の刀に最短距離で向かってゆく。
そして、刀が少しだけ抜かれた。それは僅か数センチメートルほどだろう。
刹那、甲高すぎる金属音。
それは――亜音速の刀を、受け止められた音だった。
「な、にっ……!?」
「だから言っているだろう。無駄だ、と」
しかも、不知火は
たった数センチメートル。その長さだけを鞘から出して、受け止めた。
音を超える速度で向かってくる刃に、臆することすらなく。
――刃の迫る先を、正確に予測した、ということ、なのか……!?
「あぁ、そうだこうしよう。三十秒だけ目を瞑ろう。勿論避けない。当ててみるがいい」
信じられない、の一言に尽きた。
この選抜された九人の一斉攻撃を、三十秒とはいえ目を瞑って耐える、と言うのだ。
「っ、後悔するがいいわ! 神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
「すぐにその軽口、閉じさせてあげるわよ。幻符『殺人ドール』」
「私の
「さっさと終わるに越したことはないわね! 霊符『夢想封印・集』!」
「今度こそ……! 天星剣『
「化け物の貴方は正直者か、大嘘吐き、どっち? 滅罪『正直者の死』」
俺と翔は元より弾幕を得意としていないため、皆の邪魔にならないよう、通常弾幕。
多くの弾幕が、一瞬の内に不知火を囲うように張られ、向かっていく。
妖夢も、掲げていた刀を振り下ろし、張った弾幕にスタートの合図。
槍、ナイフ、威力重視レーザー、御札、さらには細かい弾幕の重なりに一本のレーザー。
それなのに、何故だ。
――何故、不知火は
邪悪に歪んだ、意地の悪い笑み。
それが垣間見えた後、口が開かれる。
「そうだ、二つ言い忘れていたな。一つは、この刀の名は『炎帝』であること。一つは、当ててみるがいい、とは言ったものの――」
そこで言葉を切り、刀を完全に引き抜いた。
大量の弾幕に構え、目を瞑る。
「――当てられるなら、の話だが」
目を瞑っているはずなのに。
大量の弾幕を今にも浴びようとしているのに。笑みは、消えなかった。
再び、今度は不知火の刀が亜音速で閃く。どこか、炎を纏ったように。
発動したスペルカードの順番通りに、自分に降りかかる弾幕を正確に弾き、四散させていく。
一切止まることのない動きは、全ての弾幕を迎え撃っている。
確かに、目を瞑ったままで。
確かに、一歩も動かないままで。
さすがに誰もが無理だろうと思われた、魔理沙のマスタースパークの無力化。
それさえも、拮抗する間もなく、半ばから弾いて曲げた。
あの決して曲がることのないと思われた、直線レーザーを。
不知火に狙いを定めた弾幕も、一つ残らず弾くかそのまま消すかされた。
弾幕を切る、などという
驚きが、隠せない。全員に言えることだった。
そして最後の、妹紅のスペルカード。
正直者か大嘘吐きか。その答えは――大嘘吐きだった。
さらに、意表を突かれる。
他の弾幕は例外なく無力化しているのにも関わらず、妹紅のレーザーだけを無効化する気配がない。
そしてそのまま、不知火の体をレーザーは貫く――
無論、不知火にレーザーは接触していたのだ。
が、そこにダメージが存在するかどうかは、全くの別問題だった。
結局、全ての弾幕は霧散した。
残ったのは、宣言通り一歩も動かなかった不知火だけ。
「……やはり、か。『正直者』としてレーザーを避けると、逆に当たるのだろう。だから『正直者の死』、というわけだ。なるほど」
唖然とする以外、何もできそうになかった。
まだ余裕そうな顔に、唖然とする以外は。
「少しだが、危なかったな。やはり用心に越したことはないか」
今ので、少しというのだろうか。
たった、これだけ、少し、ほんの僅か。そんな言葉で、片付けられてしまうというのだろうか。
「俺としては、天の実力を見てみたいところだ。翔の方は、常に能力を注意すれば何ら問題はない」
「へぇ、本当にそう思う?」
「あぁ、思うとも。キャリアがまるで違う。それに、そういう翔も反撃の意志はもう既になくなっているだろう」
「今は、ね。否定はしないよ」
いや、十中八九できないのだろう。
状況分析に長けた翔が、一瞬さえも好機を逃すとは思えない。
今はまだ、その時ではないのだ。
「俺と、やってみるかよ?」
「期待はしていないがな。期待した分、落胆も大きいだろう」
「言うじゃないか。すぐにその軽口を叩けないようにしてやる……よっ!」
走り出す。
羽のように軽い自分の体すらも、置き去りにできそうなくらい、速く。
そのスピードに乗じて、神憑に手をかけた。
雷の能力で、自分の手の平に電流が走る感覚。
痺れる感覚をも、忘れそうになるほど速く、駆け抜ける。
「
「……はぁっ」
そう、溜め息が聞こえた。
一弾指、炎帝を握っていない左手が、遠方の俺に翳される。
そして、小さく聞こえたのだ。
「……
その直後、俺の視界がありえないほどに歪んだ。
あるいは、度が強すぎる眼鏡をかけた瞬間の、あのくもりだろうか。
どのみち、俺の正常な視覚能力は、失くなったのだ。
勢いのまま、走ることもできずに派手に地面を跳ねて転ぶ。
「あ、あぁ……?」
訳の分からないまま、俺は意識の遮断を余儀なくされた。
仲間の叫びに、背を向けて。
ありがとうございました! どうも、狼々です!
当初よりも描写が上手くいったと思います。
意外や意外。自分でもある程度満足(*´ω`*)
ディスペアー・ドロップ……うわあぁあ! 恥ずかしいよぉおお!
何!? 中二病じゃんかよぉぉおお!(´;ω;`)
ネーミングのセンスに関しては本当に申し訳ない(´・ω・`)
ではでは!