東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

短くいきます、今回も。
タイトルの通り、栞の過去や謎の大放出。

では、本編どうぞ!


第76話 栞の過去

 ――静寂。

 音がない分、緊張感は雰囲気となって押し寄せる。

 

 存在しえるが、目には見えない。

 だが極度の、ありえないほどのそれが、今ここを覆っていた。

 

「さぁて、どこから話そうものか?」

「やめ、てぇ……!」

 

 栞の嗚咽混じりの泣き声。

 聞き苦しいが、どうしても気になることやひっかかるところがある。

 それを、知らなければいけないと。直感的に感じ取った結果だ。

 

「じゃあまず、()()の話からいこうか」

「……実験?」

「そうだ。俺達アイデアライズは、二人の子供に人体実験を施した」

 

 もう、俺には限界が見えそうだった。

 胸の奥ごと直接抉り取られる感覚だ。

 

 耳障りな粘着質の音を立てながら、異常なほどの嫌悪感。

 それらの同時の襲来に、敵いそうにもなかった。

 が、俺はただ、聞かなければという義務感にのみ、突き動かされる。

 

「その一人が栞だ。元々大分寂れた、小さな村の出身でな。焼き払うのも簡単、連れ去るのも容易だったよ」

「「「……っ!」」」

 

 声にならない衝撃が、この場の不知火と栞以外の全員に走った。

 

 故郷を、焼かれた。

 その辛さが、俺にはとても想像がつかなかった。

 

「俺の『理想を創り出す程度の能力』で神の力を()()()()、その二人に埋め込む、って作業だった」

 

 こいつの――不知火の能力は正に、理想を描く(アイデアライズ)、というわけか。

 能力からしても、今までの三人の中で一番強いのだろう。

 

 つまり、栞の能力は神の力の『模倣』、ということだろうか。

 実際に神の力を吸い取ったというのは嘘で、本当は『理想』の能力の造られた、所謂(いわゆる)人工能力だ、と。

 

「結果から言うと、二人共失敗だった。栞は肉体が耐えられずに魂に、もう一人は体に入れることすらできなかった」

「……『器』が足りなかった、と?」

「まぁ、端的に言えばそうなる」

 

 栞があれだけ『器』と言っていたのは、このためか。

 自らが体験したように、能力を持ち続けると魂になる。

 その能力を持った栞自身を持つことは、霊力も含めてさらに所有者に負荷をかける。

 

 そうなると、同じように魂になるならばまだいい。

 が、刀の持ち主が次もそうとは限らない。

 神にも等しい、さらには不安定な人工能力を、荒れ狂って暴発する可能性がある。

 被害を減らすためとはいえ、栞も辛かっただろう。

 

「栞は魂が抜けてその状態でのみ存在。体の方も中身がない今、ある意味では死体。つまりは――」

 

 いや、そんな、ことは……栞自身は、生きている内に入るって言って――

 

「――今の栞は、()()()()()、ということになるな」

「あ……あ、ああぁぁぁ! そ、天、わた、しは……!」

 

 震える声で、控えめな絶叫が聞こえた。

 一人の少女は、実験の被験体とされ、命を奪われた。

 たった数人のエゴのために、将来に希望を溢れるほどもった人生を、狂わせた。

 

 本来在るべきだった運命を捻じ曲げた。

 築いていくはずの人生を打ち壊した。

 前をしっかりと見据えるはずの目を潰した。

 

「……もう一人の、子は?」

「あぁ、別にいらないから捨てたさ。今どうしているのかも知らないし、知る気もない」

 

 俺の薄い望みすら一瞬で砕くように、無感動に告げられる。

 何の躊躇いもなかったと言わんばかりの、無機質な声で。

 

「まぁ、どっちも()()()ってやつだ」

「天……私は、今まで天を、騙して、いや、わたし――」

「いい、喋るな」

 

 俺も、もう限界だった。

 沸々とした怒りは、既に爆発寸前だった。

 表に出さないだけで、かなり怒っている。自分でもわかるくらいだ。

 

「こんなに怒ったのは、叢雲が妖夢を傷付けた時以来だよ」

「ご、ごめん、なさい……!」

「謝るな」

 

 淡々と俺の声から告げられる言葉。

 ほぼ無意識的に発せられるそれは、自分の今の燃える感情をそのままに写した。

 

「許さねぇよ、俺は」

「……! そう、だよね。今までずっと、天を騙してきて――」

 

「許さねぇよ、()()()

 

 俺の怒りは他でもない、不知火に向いていた。

 

「ふざけんなよ。自分の理想のために、よくも二人の人生壊せたなぁ!」

「いいだろう。むしろ、手間だけ取らせて失敗するような『器』を掴まされるこちらの身になってほしい」

「――あぁ、もういいよわかった。お前喋んな。耳障りだ」

 

 聞きたくもなかった。

 悪魔のように薄汚い声を、悪に染まりきった声を。

 人の形をした化け物がいることに、ひどい吐き気を催す。

 

「……天? だって、私は――」

「お前も、何で隠していたんだよ? 正直に話しても、俺はお前を嫌わない。それとも、そんなに信用ならないか?」

「あ、あぁ、天……! そらぁ! ありが、とう! ありがとぉお!」

 

 泣きながら、感謝を表す栞の声。

 それを脳に刷り込みながら、刀に手をかける。

 

「皆、戦闘準備だ」

「こっちはとっくにできてるわ」

「さっさと終わらせないと、何が起きるかわかったものじゃない」

 

 ある者は、日本刀を。

 ある者は、海色の剣を。

 ある者は、数枚の紙を。

 ある者は、八角柱の箱を。

 ある者は、輝くナイフを。

 ある者は、蝙蝠の翼を。

 ある者は、体の一部から炎を。

 

 それぞれが、戦闘態勢に移行した。

 皆を後ろにしながらも、わかる。

 

 皆が皆、怒りを感じている。

 恐怖など微塵もなく、許せないの感情を巻き上げている。

 が、人数のせいか、冷静さは保たれた。

 

 中でも、霊夢と咲夜と翔、特に翔は突出して冷静さを形にしている。

 まぁ何とも、頼りがいのあることだ。

 

 後ろの翔の顔を少しばかり振り向いて見るに、判断は任せてくれるそうだ。

 いつ、どのタイミングで、何人が攻撃をするのか。

 

「……残念だ。せっかく人が提案したものを」

「お前はもう、人を名乗るんじゃねぇよ」

 

 勿論、タイミングも人数も既に決まっている。

 皆も、恐らく口にしないだけで、わかってくれている。

 

「――総員、攻撃開始!」

 

「「「了解!」」」

 

 幻想郷の命運をかけた最終決戦の火蓋は、今この瞬間、切って落とされた。




ありがとうございました!

『器』がどうのこうのは、第14話。
栞の「生きている」って嘘は、第59話に伏線入れてます。

やったね、伏線回収できたね!
さっすが忘れたころにやってくる。

ではでは!

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