短くいきます、今回も。
タイトルの通り、栞の過去や謎の大放出。
では、本編どうぞ!
――静寂。
音がない分、緊張感は雰囲気となって押し寄せる。
存在しえるが、目には見えない。
だが極度の、ありえないほどのそれが、今ここを覆っていた。
「さぁて、どこから話そうものか?」
「やめ、てぇ……!」
栞の嗚咽混じりの泣き声。
聞き苦しいが、どうしても気になることやひっかかるところがある。
それを、知らなければいけないと。直感的に感じ取った結果だ。
「じゃあまず、
「……実験?」
「そうだ。俺達アイデアライズは、二人の子供に人体実験を施した」
もう、俺には限界が見えそうだった。
胸の奥ごと直接抉り取られる感覚だ。
耳障りな粘着質の音を立てながら、異常なほどの嫌悪感。
それらの同時の襲来に、敵いそうにもなかった。
が、俺はただ、聞かなければという義務感にのみ、突き動かされる。
「その一人が栞だ。元々大分寂れた、小さな村の出身でな。焼き払うのも簡単、連れ去るのも容易だったよ」
「「「……っ!」」」
声にならない衝撃が、この場の不知火と栞以外の全員に走った。
故郷を、焼かれた。
その辛さが、俺にはとても想像がつかなかった。
「俺の『理想を創り出す程度の能力』で神の力を
こいつの――不知火の能力は正に、
能力からしても、今までの三人の中で一番強いのだろう。
つまり、栞の能力は神の力の『模倣』、ということだろうか。
実際に神の力を吸い取ったというのは嘘で、本当は『理想』の能力の造られた、
「結果から言うと、二人共失敗だった。栞は肉体が耐えられずに魂に、もう一人は体に入れることすらできなかった」
「……『器』が足りなかった、と?」
「まぁ、端的に言えばそうなる」
栞があれだけ『器』と言っていたのは、このためか。
自らが体験したように、能力を持ち続けると魂になる。
その能力を持った栞自身を持つことは、霊力も含めてさらに所有者に負荷をかける。
そうなると、同じように魂になるならばまだいい。
が、刀の持ち主が次もそうとは限らない。
神にも等しい、さらには不安定な人工能力を、荒れ狂って暴発する可能性がある。
被害を減らすためとはいえ、栞も辛かっただろう。
「栞は魂が抜けてその状態でのみ存在。体の方も中身がない今、ある意味では死体。つまりは――」
いや、そんな、ことは……栞自身は、生きている内に入るって言って――
「――今の栞は、
「あ……あ、ああぁぁぁ! そ、天、わた、しは……!」
震える声で、控えめな絶叫が聞こえた。
一人の少女は、実験の被験体とされ、命を奪われた。
たった数人のエゴのために、将来に希望を溢れるほどもった人生を、狂わせた。
本来在るべきだった運命を捻じ曲げた。
築いていくはずの人生を打ち壊した。
前をしっかりと見据えるはずの目を潰した。
「……もう一人の、子は?」
「あぁ、別にいらないから捨てたさ。今どうしているのかも知らないし、知る気もない」
俺の薄い望みすら一瞬で砕くように、無感動に告げられる。
何の躊躇いもなかったと言わんばかりの、無機質な声で。
「まぁ、どっちも
「天……私は、今まで天を、騙して、いや、わたし――」
「いい、喋るな」
俺も、もう限界だった。
沸々とした怒りは、既に爆発寸前だった。
表に出さないだけで、かなり怒っている。自分でもわかるくらいだ。
「こんなに怒ったのは、叢雲が妖夢を傷付けた時以来だよ」
「ご、ごめん、なさい……!」
「謝るな」
淡々と俺の声から告げられる言葉。
ほぼ無意識的に発せられるそれは、自分の今の燃える感情をそのままに写した。
「許さねぇよ、俺は」
「……! そう、だよね。今までずっと、天を騙してきて――」
「許さねぇよ、
俺の怒りは他でもない、不知火に向いていた。
「ふざけんなよ。自分の理想のために、よくも二人の人生壊せたなぁ!」
「いいだろう。むしろ、手間だけ取らせて失敗するような『器』を掴まされるこちらの身になってほしい」
「――あぁ、もういいよわかった。お前喋んな。耳障りだ」
聞きたくもなかった。
悪魔のように薄汚い声を、悪に染まりきった声を。
人の形をした化け物がいることに、ひどい吐き気を催す。
「……天? だって、私は――」
「お前も、何で隠していたんだよ? 正直に話しても、俺はお前を嫌わない。それとも、そんなに信用ならないか?」
「あ、あぁ、天……! そらぁ! ありが、とう! ありがとぉお!」
泣きながら、感謝を表す栞の声。
それを脳に刷り込みながら、刀に手をかける。
「皆、戦闘準備だ」
「こっちはとっくにできてるわ」
「さっさと終わらせないと、何が起きるかわかったものじゃない」
ある者は、日本刀を。
ある者は、海色の剣を。
ある者は、数枚の紙を。
ある者は、八角柱の箱を。
ある者は、輝くナイフを。
ある者は、蝙蝠の翼を。
ある者は、体の一部から炎を。
それぞれが、戦闘態勢に移行した。
皆を後ろにしながらも、わかる。
皆が皆、怒りを感じている。
恐怖など微塵もなく、許せないの感情を巻き上げている。
が、人数のせいか、冷静さは保たれた。
中でも、霊夢と咲夜と翔、特に翔は突出して冷静さを形にしている。
まぁ何とも、頼りがいのあることだ。
後ろの翔の顔を少しばかり振り向いて見るに、判断は任せてくれるそうだ。
いつ、どのタイミングで、何人が攻撃をするのか。
「……残念だ。せっかく人が提案したものを」
「お前はもう、人を名乗るんじゃねぇよ」
勿論、タイミングも人数も既に決まっている。
皆も、恐らく口にしないだけで、わかってくれている。
「――総員、攻撃開始!」
「「「了解!」」」
幻想郷の命運をかけた最終決戦の火蓋は、今この瞬間、切って落とされた。
ありがとうございました!
『器』がどうのこうのは、第14話。
栞の「生きている」って嘘は、第59話に伏線入れてます。
やったね、伏線回収できたね!
さっすが忘れたころにやってくる。
ではでは!