東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

引きをよくするため、短めを幾つも上げます。
もしかしたら、毎日魂恋録が投稿される、かも……?

では、本編どうぞ!


第75話 邪気

 ――その時は、やってきた。

 

 絶望を纏いし気。

 想像を絶する黒い、黒い邪気が、真昼に。

 感じ取るだけでも、危険信号やら胸騒ぎやらが起きる。

 

「……妖夢、翔。行くぞ」

「えぇ。これで、終わらせますよ」

「了解。勝つよ」

 

 それだけの、短い会話。

 神憑を手に取り、アンリミテッドのための薬も持った。

 水はどうにもならない。我慢するしかないだろう。贅沢は言っていられない。

 

 そも、これは永琳の薬だ。

 飲むときのことを何も考えずに作るなど、正直考えられない。

 戦闘中であることが前提な以上、水を伴っての飲薬ができる方が珍しいというものだ。

 アンリミテッドを使わざるを得ないほど緊迫状況の中、そんな悠長なことはできるはずがない。

 

「皆、気を付けてね。白玉楼は任せなさい」

「わかった。行ってくる」

 

 迅速に準備を済ませ、足早に白玉楼を発って、飛行。

 最早俺達に、長いやり取りは必要なかった。

 短会話だけで、意思疎通が十分に可能だった。

 

 邪気の場所は――檮杌戦の場所。

 広い草原で、桜も舞う、あの場所。

 

 狙ったのか否かはわかりかねる。

 が、そんなことは関係ない。

 

 道は、ただ一つ。

 ――幻想郷の、防衛一つだ。

 

「あら、意外にお早い出勤だこと」

「全く、昼に来られると色々困るのにね、私」

 

 一時期聞き慣れた、瀟洒なメイドと日傘を差した主の吸血鬼の声。

 

「ホント、何で揃っちゃうんだかね」

「タイミングはバラバラのはずなんだがな~」

 

 さらに、赤い巫女と魔法使いの声。

 

「皆の意志が一つに固まっているからじゃない?」

 

 不老不死の少女の声。

 

 ここに、対幻獣メンバーが揃った。

 この八人が、幻想郷という一世界の運命を左右する、と言っても過言ではないだろう。

 

 未来を託された、八人の背中。

 ――やってやろうじゃねぇかよ。

 

 

 

 

 

 

 黒一色のその気配は、悍ましかった。

 そいつのローブ姿が見える。叢雲、時雨と同じローブで身を包んでいる。

 そしてやはり。俺は、こいつの脅威の強さを確信した。

 

 叢雲、時雨はある程度近づいたときにしか俺達の存在に気付かなかった。

 が、こいつはどうだろうか。

 

 ――俺達がこいつを見つけたときには、もう既にこちらを向いていた。

 

 気配の察知能力で、強敵かどうかは大体わかる。

 鋭敏な第六感にも似た何かを持つ者は、等しく強い。

 

 最高レベルの警戒を続けて、皆であいつの近くへ。

 気付かれているのなら、もう隠れる必要も意味も成さない。

 

「……ほう」

 

 静かな感嘆の声。声からして、男。

 背中には、俺と同じく刀を背負っているが、神憑ほど長くはない。

 

 そして、声が聞こえた瞬間に。

 蒼空は厚い黒雲に覆われた。まるで、自然もこいつを怖がるように。

 

 先程まで出ていた真昼の眩しい太陽も、顔を隠した。

 全員が、息を呑むのがわかる。

 

「正直、()()()()だ。束になっても無駄だ。どうだ? ここは一つ、()()()()()()()()()()?」

「「「なっ……!?」」」

 

 ただ、全員で驚くことしかできなかった。

 ここにきて束になっても勝てない? 終戦の提案? ありえない。

 

「お、おい、それはお前としてもどうなんだぜ……?」

「無駄なことはしたくないだけだ。迅速に、この幻想郷を理想郷に創り変えるべきだ」

「理想郷、ねぇ」

 

 俺は声を漏らすのみ。

 理想郷に創り変えるという彼らの目的を知って、俺は薄い反応しかできなかった。

 

 あまりにも、利己的な願い過ぎて。

 

「理想郷で、貴様らも含む()()()()()()()()()()()。勿論、その名の通り理想が現実になる。どうだ?」

「「「…………」」」

 

 一体何が、言いたいというのだろうか。

 前二人とタイプが違いすぎて、話についていけそうにない。

 

 敵対相手に、この提案。

 ありえない、の一言に尽きる。

 

「あぁ、そうだ……いるんだろう、栞? 天の中に。久しぶり、とでも言うべきか?」

「お、お前、何故それを……!」

 

 俺は、またしても驚きを隠せない。

 今まで、そんな情報は敵に漏らしていないはずだ。

 

「簡単なことだ。既に前情報が入っていた上、この霊力。間違いなく栞のものだ」

「な、なんで、私のことを知っている……?」

「もう、()()()というのか? お前にとって、忌まわしき相手のはずだがな? この顔を見ても、まだ言うか?」

 

 そう言いながら、ローブのフードをおろした。

 端麗な色白の顔立ちが露わになる。が、それよりも印象的なものがあった。

 

 一つは、細い、獲物を狙うような紅色の吊り瞳。

 一つは、左目から左頬にかけての、大きな切り傷の跡。

 

「お、お前……! どうして、ここにいる! 不知火ぃぃぃいいいい!」

「……どうした、栞?」

 

 突然の、栞の怒号。

 これほどの怒号は、今までに聞いたことが無かった。

 勿論、俺に聞き覚えのない声は、皆にも覚えがない。

 

 こいつ――不知火、という男を既に知っているのだろうか。

 予想するに、相当に悪い関係にあるのだろう。

 

「こいつ……前に、殺しを平気でする、っていう人ならざる化け物の話、したよね。それが、こいつ」

「全く、口が悪いのは変わらないか。化け物扱いとは」

 

 前……紅魔館のときか。

 レミリアに傷を負わせたときに、殺しを躊躇わない人になるな。

 人の道を外れるな、という会話。

 

 それが、不知火だというのか。

 

「あぁ……そうだ、面白い上に丁度いい機会だ。()()()()を、知っているか?」

「栞の、過去?」

 

 思えば、経歴も能力も諸々が不明な栞。

 当然、彼女の過去を知るはずもない。

 

 どうして魂の状態なのか。

 どうして神の能力が備わっているのか。

 それらについては一切、伝えられていない。

 

「その様子だと、知らないようだな。隠すとは、いけないんじゃないか、栞?」

「や、やめっ……ま、待て! 言うな! 天も、皆も、聞かないで!」

「はっはっは、これは傑作だな。予想以上に面白い反応だ!」

 

 ケタケタと笑う、不知火。

 それに恐怖するような、焦るような、栞の声。

 栞は聞くな、と。そう言った。

 

 俺にはそれができなかった。

 栞の過去を、気にしてしまう自分がいた。




ありがとうございました!

次回、栞の過去について大まかな説明です。

伏線。忘れた頃にやってくる。
ちなみに、紅魔館の化け物の下りは、27話で書いてます。

ではでは!

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