お待たせしましたぁぁぁああ!
遅くなってしまい、すみませんでした!
他作品の投稿に加え、私も一日休んでしまいました。(´・ω・`)
では、本編どうぞ!
――終わった。時雨との戦いは、天の勝利で終わった。
惨状は収まり、やがて収束する。
けれど、天には反動があった。
私は、ダメだと言ったのに。
天は、そういうことをしてしまう人間だと、わかっていたのに。
……止められなかった。
「誰か、早く天を運んで! そうじゃないと死んじゃう!!」
私は、叫んだ。
虚しく消失して、欠片だけを残していく。
そう思われた。私もそう思った。
一瞬でスキマに攫われた天と一緒に、私もスキマに入り込む。
大量の目が、天を見る。それが私にも伝わって、私を見ているようだった。
スキマにいる時間は本当に一瞬で、すぐに見慣れた永遠亭のベッドの上に光景が変わって。
先程の大衆の視線が、私を見て、こう言っているようだった。
『何とかできなかったのか』、と。
―*―*―*―*―*―*―
冬へと入り、寒波が押し寄せる今日このごろ。
私は今日も、天のために薬を作成していた。
どうせアイツは、無理をする。
だったら、その無理をしても大丈夫なようにしてあげよう。
止めても無駄で、痛いのは天。それを未然に防ぐために、薬の開発。
――というのは口実で、ただ私が治療しなくていい分、楽になるから。
形だけ言っておけば、だいじょう――
「……はい?」
大丈夫だと、そう思っていたら、再びスキマから天が降ってきた。
スキマで運ぶということは、それなりの重症のはずだ。
ただ、そこまで重症ではない。
いや、怪我は負っていたが、ついこの間のあれよりひどくない。
極端に言ってしまえば、急ぐ必要のない怪我。誰かが……それこそ、妖夢が運んできてもおかしくない。
と、いうことは……内部の損傷が激しいということだ。
「鈴仙! 急いで手術よ!」
天を抱えて、緊急手術。手術室へと向かう。
内部の傷は、さすがに外の状態を見ただけでは、はっきりと原因はわからない。
……なんとなくの予想ならついているのだが。
霜を履みて堅氷至る、という言葉もあるくらいだ。
それなりの理由があることに、変わりはないのだから。
もし命に関わる可能性が少しでもあるのなら、それは急ぐ理由になる。
そしてその理由は、紫のスキマ使用で運ばれたという事実で補填される。
……急がない理由は、ない。
「あぁもう! せっかく貴方のために作った薬、
予想する限りでは、今作成している薬で防ぐことのできる類の怪我だ。
そうでなければ、内部での致命傷なんて起こらない。
さらに言うならば、この外部の傷を見ると、戦闘で負った傷である可能性がほぼ百パーセント。
尚更、予想は当たっていることだろう。
手術室に運び入れて、ベッドに天を寝かせる。
完全に意識は刈り取られていて、ほぼ睡眠状態だ。
霊力を感知しようにも、あと少しで空になりそうな状態。
「栞? 貴方の霊力、天に分けられない?」
「……だめ。私の霊力も、もう底をついてるよ」
――どうやら、私の予想は的の中心も中心、ダブルブルの場所を綺麗に射抜いていたようだ。
栞の莫大な霊力も、天の鍛え上げられた霊力も、合わせてすっからかん。
この状態が示すことは、やはりそうなのだろう。
とはいえ、今から急いで手術をしないと間に合わない。
ただ……天才外科医は、そこまで先が読めないような存在じゃあない。
こういう、天が早まったこともあろうかと、ちゃんとそれ用の薬は準備してある。
けれども、薬一つで上手くいくかどうかは試薬なのでわからない。どちらにせよ、手術は避けられない。
さて……手術を、始めましょうか。
「「あぁぁぁぁあ……」」
鈴仙と一緒に、呻き声を出す。疲れた。ただひたすらに疲れただけ。
集中力は切らせないわ、内部の傷だから慎重に慎重を重ねないといけないわ、休む時間がないわ……
本当に、休みなし。
手術は一応成功。内蔵ぐちゃぐちゃだったけれども、数日で元に戻るだろう。
薬も程々に強いもので、副作用とかも出ないギリギリの当たりの効果が限界だ。
相当に強い薬を使ってしまうと、どういう副作用が出てしまうかわからない。
……本当に運が悪ければ、最悪死んでしまう。
せっかく命を繋いだというのに、処方した薬で死に至るなんて、笑い話にもならない。
窓に点々と付いた水滴。外と中の温度の差はそれほど大きくないので、数は少ない。
数少ない一滴は、板面に垂直方向に軌跡を残しながら、ゆっくりと淵をなぞる。
その様子がとても穏やかに見えて、一層の溜め息を誘われる。
水滴の残した軌跡の奥で、さらに人影が見えた。
背中に二人を背負って、何人かがこちらに入ってくる。
天のことも考えて、戦闘後の搬送なのだろう。誰かまではわからないが。
「はあぁぁあぁあ……」
休む暇もないのだろうか。私も、少しばかりの休みがほしい。
しかし、医者である手前、そんなことは口には出せない。思うのはいいにしろ、口にするのはタブーだ。
だから、何があっても治療の要望を断ることはできないし、するつもりもない。
霜の降りるこの季節、今日もキリキリと医者の私、永琳は働くのでした。
―*―*―*―*―*―*―
「二人共、大丈夫!?」
私は空から降りて、翔と妖夢の安否を確認する。
致命傷ではないが、足をあのローブの奴が持っていた槍に貫かれた後がある。
未だに起き上がることのできていない二人だ。担いで行くべきだろう。
「私は妖夢を担いで行くわ。魔理沙は箒に翔を乗せて、あと何人かこっちに着いてきて。残りは報告に行ってちょうだい」
「「「了解」」」
皆が私の指示通りになって、隊列を組む。
隊列と言っても、ただ簡単にグループ分けしたようなだけなのだが。
伝えた通り、私は妖夢を担いで空へ飛ぶ。
灰色がかった厚い雲が太陽の光を完全に遮っていて、辺りは暗黒に包まれていた。
吹き付ける風も冬特有の寒さを孕んでいて、気分を沈ませる。
「あ……すいません、霊夢――」
「いいのよ……あと、天はこの程度じゃ死なないわよ」
「……っ」
図星だった。気にしていないフリをしているけれど、バレバレだ。
声に色や力などはなく、天がいるときとは正反対だ。ここまで落ち込まれては、否応なしにわかってしまう。
「アイツは、今までもこうなって生きてきたじゃない。あと黒幕は三人中一人だけ。このタイミングで、アイツが死ぬとは到底思えないわ」
「……そう、ですよね」
霊力の爆発的な使用が、彼の体を壊したのだろう。さっきの霊力は、リベレーションの何倍も濃かった。
そんな霊力が体中を循環し続けるなんて、体が保つ方が不思議で仕方がない。
それにしても、あの天は……強かった。強すぎた。
私でさえ、ローブの端すら視認できなかったのに、それ以上の速さで迫る槍を受け流していた。
何度も、何度も、的確に攻撃を神憑で逸していた。
一方のローブの奴は焦る中、天は焦りの『あ』の字も見せていなかった。
むしろ、あの状態になる前の天の方が、よっぽど焦っていたに違いない。
それほどまでに、自分で強さが実感できるまでに飛躍的なパワーアップは、彼自身を蝕んだ。
強すぎる力故の、引き換えとなる代償が、そこには存在していた。
「そうよ。大体、あんたが生きてるって一番信じなきゃ、生きるものも生きられないわよ」
「……本当に、そうですね。ありがとうございます」
そうやって背中からかかった声は、先程の声よりも彩りが加えられていた。
空全体を覆い隠していた黒雲も、いつの間にか晴れて完全になくなっていて、陽光が目に飛び込む。
凄惨だったこの付近も、その希望に照らされる。
希望は、前に進む。その希望が途絶えない限り、ずっとずっと、前に。
そこにある景色は、一体何色に染まっているのかはわからない。
光り輝く色なのか、漆黒のみを映し出すのか、それは見てみるまではわからない。
けれど、どの結果になろうとも前に進まなければいけない。
自分の持つ希望を信じて、進まなければ。
それが、どんなに難しいことだろうか、本当の意味では私達誰ひとりとして知らないのだろう。
だからこそ、この状況を打開しなければいけない。
頑張る人がいて、傷付く人間がいて、死にかける人がいて。
彼らに支えられているからこそ、私達の希望が存在するのだから。
希望も、支えられてから希望として初めて成り立つものだ。
だから、忘れてはならないのだろう。
――忘却の彼方へ追いやることは、許されないのだろう。
ありがとうございました!
今回は短いです。あれだけ待たせてしまったのに、申し訳ありません……
次からは、もっと近いうちに……(´;ω;`)
ではでは!