退院日からスタートです!
22日の夜中から、久々にTwitterで盛り上がりまして、私はとても楽しかったです。
……もっと私に絡んでくれても、いいのよ?
男なのに気持ち悪っ。
では、本編どうぞ!
「はい、退院おめでと。これで退院が最後になるといいわね」
「本当にごもっともで」
小鳥の囀りが聞こえてきそうな、優雅な朝だ。
今日は俺の何度目かの退院日。入院して、退院してを繰り返しながらの。
怪我をしては治り、怪我をしては治り……、
最初は妖夢に斬られた時、次に檮杌戦後、その次にフェンリル戦後、そのまた次に叢雲戦後。
で、今回のローブ男で五回目だ。
……さすがに、ねぇ。多すぎや……しませんかね?
さぞ永琳も、俺の顔を見慣れたことだろう。
そろそろしつこいと感じてくるあたりだろうか。
無理もない。会う度に血を流して運ばれてくるんだから。
仕事を増やす一方の俺をどう思うかは、大体わかる。
そうとは言っても、それを口に出さずに治療してくれるあたり、優しい。
……試薬を使おうとしないところを除いては、だが。
小鳥が囀りそうなこの朝だが、やはり冬なので少し寒い。
冬にしては暖かい方だが、何を言おうとも冬だ。寒いことには変わりない。
「じゃあ、退院者は早く退院しなさい。私はとある薬の開発に忙しいんだからね」
「はいはい」
「あら、命の恩人にそんな口の利き方をするのね。あぁ、私、残念だわ」
「すみませんでしたいつも感謝しています永琳サン」
まくし立てるように言って、ゆっくりと一人で空へ。
白玉楼に行こうとして、人里の上空をゆらりと通った時。
「天さ~ん! 英雄様~! 少々よろしいでしょうか~?」
極めて急ごうとしたわけでもなく、はっきりと下の人里から聞こえた男の声。
声のした方へ降りていく。用があるわけでもなく、急いでいるわけでもない。
俺を呼んだということは、何かしら非常事態があった可能性が高い。
ということで、降り立った先の男の人に話を聞く。
「どうかしたのか?」
「すみません。今、人里一同で五歳の娘を探しておりまして。昨日の昼に遊びに行ったきり、帰ってこないのです」
「……一人で、遊びに出たのか?」
「いえ、共に遊んでいた子供は全員帰っております。その娘だけが、未だに帰っていないのですよ」
「どこに遊びに出たか、わかりますか?」
「それが……すぐそこなのです。人里の中なので、安全かと思い……」
ひどく困った様子で言う男の人。声も沈み気味に聞こえる。
今は朝なので、遊びに行ったのがついさっき、ということではないだろう。
少なくとも、昨日の夜中よりも前に外出していると考えていいので、この話は本当だろう。
嘘を吐いているとは思えないが、以前に妖夢がそれで襲われた。
闇討ち失敗に気付き、俺を騙すことも考えられた。疑っておいた方が身のためだ。
しかし、この困りようや話の内容から、本当だと思っていいだろう。
仮に嘘だと考えて本当だった場合、危ないのは少女だ。
しかし、その娘だけが帰っていない、ということは不可解だ。
一緒に遊びに行って、その娘が一緒にいないことに気付かないで帰った、なんてことはないだろう。
そうなると、いつの間にかその娘がいないことに気付き、帰って大人に報告した、ということだ。
周囲の目を欺きつつ、一人の少女が消える。
可能性は大きくわけて二つだろう。
一つ、目を欺いたのはたまたまであり、少女がもっと遠くに一人で出かけている。
一つ、――
しかし、後者はあまり現実的ではないだろう。
周囲の目がある中でそんなことをして、バレないはずはない。
仮に遠くへ逃げたとして、探索中にいないことはすぐに気付かれる。
「探索はある程度終わっていまして、子供の行けそうな場所は全て……」
全て回って、見つからなかった、というのか。
そうなると、ここの人里の者じゃないことは明確だろう。
誘拐だとしたら、この人里の者以外。
しかし、それだと移動の方法に難がある。
車、電車等の高速移動機関がない幻想郷で、見つからずに遠方への移動など、できない。
逃げるにも向かうにも、現実的ではないのだ。
――人目につきにくく、かつ高速で移動できる手段を持っているのか。
「わかった。俺一人でどうこうするよりも、大勢の方がいい。霊夢や妖夢達を呼んでくる。すぐに戻る!」
早口でそう言ってすぐに、再び飛翔する。
昼に出かけたのならば、もうすぐで丸一日が経つ。
もしこれが誘拐の類であれば、時間が経つにつれて危険度も比例して高まる。
これは、一刻を争う事態だろう。
寒かった風が、飛翔のスピードに合わせて吹きかけられる速度があがっていく。
それはそうだろう。しかし――さっきよりも風は冷たくなり、寒くなった気がするのは、気のせいなのだろうか。
―*―*―*―*―*―*―
さぁってと、人里は今頃大慌てだろう。
なんせ、一日経っても一人だけ少女が帰ってこないんだもの。
あ、おっといけない。これからも帰ってこない、の間違いだったか。
天が死んだと思って、完全に油断していた。不知火にも呆れられるし……。
きちんと、脈までとっておくべきだったか。焦るなんて、らしくなかったぁ。
まぁいいや。こうやって、代替策は既にとって、実行までしてある。
「ね~? 君は、アイツを呼び出すダシとして、有効に使ってあげるからね~?」
「ん~! ん~! ん~!」
もぞもぞと動き、縛られた口と体で抵抗している。
目に涙を浮かべるでもなく、まだ敵意を剥き出しにしている。
気が強いというか、勇気があるというか。
でもさぁ、勇気があっても、何も変わらないときの方が多いんだよね、天?
「ふ、ふふふ……あっはははは!」
思わず高々と笑ってしまった。いやぁ、おかしくて、おかしくって……ふふ……。
あぁ、そうだ種明かし、ネタばらしといこうか。
――
―*―*―*―*―*―*―
白玉楼で妖夢と翔を呼び、博麗神社で霊夢を呼び、霊夢が各地の探索を呼びかけ。
昼を回ったあたりで、一つの目撃情報を得た。
――
「ほ、本当ですか!?」
「え、えぇ。ただ、空を飛んでいて、私にはどうすることも……」
今、この情報を得た俺ら――俺、妖夢、翔。
その場所は、とある崖の近くにある小屋だろうとのこと。
周りに他の建物や目立ったものはないので、そこだろう、と。
「……おい、翔、妖夢。たぶんそのローブの男は――俺を闇討ちした奴だ」
「ま、そうだろうね。空を飛ぶ奴で誘拐なんて、どっちみちろくな奴じゃないだろうし、十分にありえるよ」
そうなると、少女は、あの危険極まりないローブの男に――。
「……どうする、翔」
俺の問う『どうする』は、皆を呼ぶか否かだ。
一日経った今、少女の命に関わる。
そんな中で、皆を待っていられる時間はあるのだろうか。
「……先に俺達で様子を見る。紫さん」
翔の小さな呼び声に反応して、空間にスキマが。
「えぇ、話はわかっているわ。皆を呼んでくるわね」
「お願いします。その間、俺達は様子を見ます。危険だと思ったら、少女を優先して保護します。もし既に危険な状態だったらすぐに呼びますので、そのことだけ準備をお願いします」
「了解よ。できるだけ急ぐわね」
そう言って、スキマは消え去っていった。
紫の招集にかかる時間で、俺達は様子を見る。
三人でそう決めて、その場所へ飛ぶ。
崖の近くに着いて、聞いた小屋と同じであろう小屋も一軒。
恐らく、逃げていなければアイツはここにいる。
細心の注意を払いつつ、地面に降り立つ。
かなり足場が悪く、そこかしこに危険な崖がある。
崖の下は植物が生い茂っていて、森のようになっている。
高い草もあり、魔法の森がそのまま下にあるような感じだ。
そして、一つの崖付近に――いた。
ローブの男が、槍を背負うようにして、縛った女の子を片手に。
少女は恐怖に怯えるでもなく、必死に抵抗を続ける様子。
「いた! 翔、妖夢! そこだ!」
「俺達も見つけたよ。向こうは――気付いているのか?」
そう翔が呟いた瞬間、ローブの男が。
「ねぇ、いるんでしょ? さっきから霊力で周りの雰囲気が大きく変わってるよ? バレバレだっての!」
「……どうやら、気付かれている様子ですね。行きましょう、天君。このままだと、私達をあぶり出すために、無条件に少女が傷付きます」
もっともだろう。ここで出ないと、少女が危ない。
俺達はすぐに、あのローブの男の前に向かう。
翔の言うところだと、襲いかかっても少女が盾にされるから、攻撃の意志を見せずに行った方がよい。少女がこちらに渡ったら、逃がさないように無理せず戦闘体勢。紫達を待つ、とのことだ。
「……あ、やっと来たね。久しぶり……でもないかな?」
「そうだな。少し前、数日ぶりだな」
怒りの気持ちを抑えつつ、会話に応じる。
ここで暴走しても、少女が危なくなるだけだ。
俺達の最優先事項は、あの少女の安全の確保だ。
「そうだね~。あ、自己紹介しようか。俺の一方的になるけれどもね。俺の名前は時雨。まぁ、よろしくしなくてもいいけど、一応よろしく。君達のことはよく知っているよ」
「……そうですか。それで、どうしてこんなことを? それに貴方、私を一度騙しましたよね? 天君が目覚めた、などと」
「あぁ、そんなこともあったね。反省も後悔もしていないけれども。こっちだって叢雲がやられているんだ。お互い様、痛み分けってことにしない? それと……どうして、なんて野暮だね。わかっているだろうに」
どこまでも、お喋りな奴だ。いらないことばかり口走っていく。
言葉を返す隣の妖夢の声色も、怒りを孕んでいることは見て、聞いてとれる。
自分も時雨の言葉に苛つきを覚えながらも、抑制する。
自分達に必要なことは、時間稼ぎだ。
紫が呼んで、霊夢達が来るまでの時間稼ぎ。できればそれまでに戦闘が勃発するのは避けたいところだ。
一応いつでも神憑は抜ける心の準備だけしておく。
翔も、セルリアン・ムーンを構えられる顔つきを見せる。
「じゃあ~……この人質、どうしよぉっかな~……?」
「おい、俺達をここにおびき寄せるためだろ。
そう、こいつ――時雨は、わざと目撃情報を与えている可能性が高い。
人里でわざわざ隠密して誘拐を計画、実行した上で、詰めを甘くして目撃情報を与える?
そんなことが、果たしてあるのだろうか。
こいつは、妖夢を一旦騙して、おびき寄せる手法をとっている。
無頓着でもなく、無計画でもない。むしろ策士の方だ。
相手を手玉に取り、自分の圧倒的優位に立つことのできる状況を創り出す。
「そうだけどさ~? この娘を、生かしておくってのもね~……面白くないって言うか、さ? わかる?」
「面白くない……? おい、さすがに許せないぞ。わかりたくもない。命を面白がるなんて真似は――」
「あっ、そうなんだ~! そうしたら天は怒るんだね、へぇ~……ま、いっか。はい」
そう呆気なく言うと、放り投げるようにして、口を解放してこちらに少女を飛ばしてきた。
俺が受け止めようと、飛ばされた先に回ると。
「はい! これもあげるよッ……!」
そう言って――背中の槍を手にかけて、突き出した。
方向は――少女。少女の背中に。
俺は、見ていることしかできなかった。
――その槍が、少女の背中を穿つ様子を。
迸る鮮血が自分にかかり、自分の無力さを思い知る余裕もなかった。
ただ、目の前で起こる出来事が。
「あ、れあ……? わ、たし……」
地面に叩きつけられた少女は、泣きわめくこともなく、ただ血液を地面に滴らせていた。
今、俺はどんな顔をしているのだろうか。
「紫さん!」
スキマが、少女を運ぶ。飲み込む。
俺は、助けるためにここに来た。そのはずだ。
なのに、今、俺は何をした? ――何も、していない。
目の前で、ただ抵抗できない娘を、自分が守らなければならない人間を。
それを、ただ見ていただけ。本当に、
「アッハハハア! いいね、いいねえその顔ッ! 絶望に浸っている気分はどうだい!? 自分の目の前で守りたいものが崩れる瞬間を見るのはァ!」
しかし、自分に吹き付ける生暖かい風と、頬に飛んだ人肌の温もりを持っている赤々とした粘着液が、それを許さない。
照りつける寒々しい陽光と、葉が散ってしまった凄惨とした冬の木々が、それを許さない。
目に焼き付けられた、一度ピクッと動いたきり、動かなくなった少女が、それを許さない。
自分に告示される。何を目を逸らそうとしているんだ、と。
背を向けるな、現実を見ろ、と。
根底にある自分の醜いナニカが、そう囁く。
『――ほら、見ろよ。
「――ああぁああぁぁぁああ!!! リベレェェェション!」
――俺は、英雄なんかじゃなかった。
ありがとうございました!
次回から、本格的に時雨戦に入っていきます。
時雨、中々ゲスい。ゲスいぞ。
宣伝です。またですよ、ええ。新作。
短編ではありますが、先日、『八月の夢見村』というタイトルで投稿しました。
感動系恋愛……にできるかどうかはわかりません。
特に感動。ですが、何か感じるものは書きたいと思います。
よければ見てやってください。
ではでは!