東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

退院日からスタートです!
22日の夜中から、久々にTwitterで盛り上がりまして、私はとても楽しかったです。
……もっと私に絡んでくれても、いいのよ?
男なのに気持ち悪っ。

では、本編どうぞ!


第65話 失墜の『英雄』

「はい、退院おめでと。これで退院が最後になるといいわね」

「本当にごもっともで」

 

 小鳥の囀りが聞こえてきそうな、優雅な朝だ。

 今日は俺の何度目かの退院日。入院して、退院してを繰り返しながらの。

 怪我をしては治り、怪我をしては治り……、

 最初は妖夢に斬られた時、次に檮杌戦後、その次にフェンリル戦後、そのまた次に叢雲戦後。

 で、今回のローブ男で五回目だ。

 

 ……さすがに、ねぇ。多すぎや……しませんかね?

 さぞ永琳も、俺の顔を見慣れたことだろう。

 そろそろしつこいと感じてくるあたりだろうか。

 

 無理もない。会う度に血を流して運ばれてくるんだから。

 仕事を増やす一方の俺をどう思うかは、大体わかる。

 そうとは言っても、それを口に出さずに治療してくれるあたり、優しい。

 ……試薬を使おうとしないところを除いては、だが。

 

 小鳥が囀りそうなこの朝だが、やはり冬なので少し寒い。

 冬にしては暖かい方だが、何を言おうとも冬だ。寒いことには変わりない。

 

「じゃあ、退院者は早く退院しなさい。私はとある薬の開発に忙しいんだからね」

「はいはい」

「あら、命の恩人にそんな口の利き方をするのね。あぁ、私、残念だわ」

「すみませんでしたいつも感謝しています永琳サン」

 

 まくし立てるように言って、ゆっくりと一人で空へ。

 白玉楼に行こうとして、人里の上空をゆらりと通った時。

 

「天さ~ん! 英雄様~! 少々よろしいでしょうか~?」

 

 極めて急ごうとしたわけでもなく、はっきりと下の人里から聞こえた男の声。

 声のした方へ降りていく。用があるわけでもなく、急いでいるわけでもない。

 俺を呼んだということは、何かしら非常事態があった可能性が高い。

 

 ということで、降り立った先の男の人に話を聞く。

 

「どうかしたのか?」

「すみません。今、人里一同で五歳の娘を探しておりまして。昨日の昼に遊びに行ったきり、帰ってこないのです」

「……一人で、遊びに出たのか?」

「いえ、共に遊んでいた子供は全員帰っております。その娘だけが、未だに帰っていないのですよ」

「どこに遊びに出たか、わかりますか?」

「それが……すぐそこなのです。人里の中なので、安全かと思い……」

 

 ひどく困った様子で言う男の人。声も沈み気味に聞こえる。

 今は朝なので、遊びに行ったのがついさっき、ということではないだろう。

 少なくとも、昨日の夜中よりも前に外出していると考えていいので、この話は本当だろう。

 

 嘘を吐いているとは思えないが、以前に妖夢がそれで襲われた。

 闇討ち失敗に気付き、俺を騙すことも考えられた。疑っておいた方が身のためだ。

 しかし、この困りようや話の内容から、本当だと思っていいだろう。

 仮に嘘だと考えて本当だった場合、危ないのは少女だ。

 

 しかし、その娘だけが帰っていない、ということは不可解だ。

 一緒に遊びに行って、その娘が一緒にいないことに気付かないで帰った、なんてことはないだろう。

 そうなると、いつの間にかその娘がいないことに気付き、帰って大人に報告した、ということだ。

 周囲の目を欺きつつ、一人の少女が消える。

 

 可能性は大きくわけて二つだろう。

 一つ、目を欺いたのはたまたまであり、少女がもっと遠くに一人で出かけている。

 一つ、――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、後者はあまり現実的ではないだろう。

 周囲の目がある中でそんなことをして、バレないはずはない。

 仮に遠くへ逃げたとして、探索中にいないことはすぐに気付かれる。

 

「探索はある程度終わっていまして、子供の行けそうな場所は全て……」

 

 全て回って、見つからなかった、というのか。

 そうなると、ここの人里の者じゃないことは明確だろう。

 誘拐だとしたら、この人里の者以外。

 

 しかし、それだと移動の方法に難がある。

 車、電車等の高速移動機関がない幻想郷で、見つからずに遠方への移動など、できない。

 逃げるにも向かうにも、現実的ではないのだ。

 

 ――人目につきにくく、かつ高速で移動できる手段を持っているのか。

 

「わかった。俺一人でどうこうするよりも、大勢の方がいい。霊夢や妖夢達を呼んでくる。すぐに戻る!」

 

 早口でそう言ってすぐに、再び飛翔する。

 昼に出かけたのならば、もうすぐで丸一日が経つ。

 もしこれが誘拐の類であれば、時間が経つにつれて危険度も比例して高まる。

 これは、一刻を争う事態だろう。

 

 寒かった風が、飛翔のスピードに合わせて吹きかけられる速度があがっていく。

 それはそうだろう。しかし――さっきよりも風は冷たくなり、寒くなった気がするのは、気のせいなのだろうか。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 さぁってと、人里は今頃大慌てだろう。

 なんせ、一日経っても一人だけ少女が帰ってこないんだもの。

 あ、おっといけない。これからも帰ってこない、の間違いだったか。

 

 天が死んだと思って、完全に油断していた。不知火にも呆れられるし……。

 きちんと、脈までとっておくべきだったか。焦るなんて、らしくなかったぁ。

 まぁいいや。こうやって、代替策は既にとって、実行までしてある。

 

「ね~? 君は、アイツを呼び出すダシとして、有効に使ってあげるからね~?」

「ん~! ん~! ん~!」

 

 もぞもぞと動き、縛られた口と体で抵抗している。

 目に涙を浮かべるでもなく、まだ敵意を剥き出しにしている。

 気が強いというか、勇気があるというか。

 

 でもさぁ、勇気があっても、何も変わらないときの方が多いんだよね、天?

 

「ふ、ふふふ……あっはははは!」

 

 思わず高々と笑ってしまった。いやぁ、おかしくて、おかしくって……ふふ……。

 あぁ、そうだ種明かし、ネタばらしといこうか。

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、っと。あ~ぁ、面白い、面白い!

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 白玉楼で妖夢と翔を呼び、博麗神社で霊夢を呼び、霊夢が各地の探索を呼びかけ。

 昼を回ったあたりで、一つの目撃情報を得た。

 

 ――()()()()()()少女を(さら)っていくのを見かけた、と。

 

「ほ、本当ですか!?」

「え、えぇ。ただ、空を飛んでいて、私にはどうすることも……」

 

 今、この情報を得た俺ら――俺、妖夢、翔。

 その場所は、とある崖の近くにある小屋だろうとのこと。

 周りに他の建物や目立ったものはないので、そこだろう、と。

 

「……おい、翔、妖夢。たぶんそのローブの男は――俺を闇討ちした奴だ」

「ま、そうだろうね。空を飛ぶ奴で誘拐なんて、どっちみちろくな奴じゃないだろうし、十分にありえるよ」

 

 そうなると、少女は、あの危険極まりないローブの男に――。

 

「……どうする、翔」

 

 俺の問う『どうする』は、皆を呼ぶか否かだ。

 一日経った今、少女の命に関わる。

 そんな中で、皆を待っていられる時間はあるのだろうか。

 

「……先に俺達で様子を見る。紫さん」

 

 翔の小さな呼び声に反応して、空間にスキマが。

 

「えぇ、話はわかっているわ。皆を呼んでくるわね」

「お願いします。その間、俺達は様子を見ます。危険だと思ったら、少女を優先して保護します。もし既に危険な状態だったらすぐに呼びますので、そのことだけ準備をお願いします」

「了解よ。できるだけ急ぐわね」

 

 そう言って、スキマは消え去っていった。

 紫の招集にかかる時間で、俺達は様子を見る。

 三人でそう決めて、その場所へ飛ぶ。

 

 崖の近くに着いて、聞いた小屋と同じであろう小屋も一軒。

 恐らく、逃げていなければアイツはここにいる。

 

 細心の注意を払いつつ、地面に降り立つ。

 かなり足場が悪く、そこかしこに危険な崖がある。

 崖の下は植物が生い茂っていて、森のようになっている。

 高い草もあり、魔法の森がそのまま下にあるような感じだ。

 

 そして、一つの崖付近に――いた。

 ローブの男が、槍を背負うようにして、縛った女の子を片手に。

 少女は恐怖に怯えるでもなく、必死に抵抗を続ける様子。

 

「いた! 翔、妖夢! そこだ!」

「俺達も見つけたよ。向こうは――気付いているのか?」

 

 そう翔が呟いた瞬間、ローブの男が。

 

「ねぇ、いるんでしょ? さっきから霊力で周りの雰囲気が大きく変わってるよ? バレバレだっての!」

「……どうやら、気付かれている様子ですね。行きましょう、天君。このままだと、私達をあぶり出すために、無条件に少女が傷付きます」

 

 もっともだろう。ここで出ないと、少女が危ない。

 

 俺達はすぐに、あのローブの男の前に向かう。

 翔の言うところだと、襲いかかっても少女が盾にされるから、攻撃の意志を見せずに行った方がよい。少女がこちらに渡ったら、逃がさないように無理せず戦闘体勢。紫達を待つ、とのことだ。

 

「……あ、やっと来たね。久しぶり……でもないかな?」

「そうだな。少し前、数日ぶりだな」

 

 怒りの気持ちを抑えつつ、会話に応じる。

 ここで暴走しても、少女が危なくなるだけだ。

 俺達の最優先事項は、あの少女の安全の確保だ。

 

「そうだね~。あ、自己紹介しようか。俺の一方的になるけれどもね。俺の名前は時雨。まぁ、よろしくしなくてもいいけど、一応よろしく。君達のことはよく知っているよ」

「……そうですか。それで、どうしてこんなことを? それに貴方、私を一度騙しましたよね? 天君が目覚めた、などと」

「あぁ、そんなこともあったね。反省も後悔もしていないけれども。こっちだって叢雲がやられているんだ。お互い様、痛み分けってことにしない? それと……どうして、なんて野暮だね。わかっているだろうに」

 

 どこまでも、お喋りな奴だ。いらないことばかり口走っていく。

 言葉を返す隣の妖夢の声色も、怒りを孕んでいることは見て、聞いてとれる。

 自分も時雨の言葉に苛つきを覚えながらも、抑制する。

 

 自分達に必要なことは、時間稼ぎだ。

 紫が呼んで、霊夢達が来るまでの時間稼ぎ。できればそれまでに戦闘が勃発するのは避けたいところだ。

 一応いつでも神憑は抜ける心の準備だけしておく。

 翔も、セルリアン・ムーンを構えられる顔つきを見せる。

 

「じゃあ~……この人質、どうしよぉっかな~……?」

「おい、俺達をここにおびき寄せるためだろ。()()()目撃情報与えておいて、それはないだろう」

 

 そう、こいつ――時雨は、わざと目撃情報を与えている可能性が高い。

 人里でわざわざ隠密して誘拐を計画、実行した上で、詰めを甘くして目撃情報を与える?

 そんなことが、果たしてあるのだろうか。

 

 こいつは、妖夢を一旦騙して、おびき寄せる手法をとっている。

 無頓着でもなく、無計画でもない。むしろ策士の方だ。

 相手を手玉に取り、自分の圧倒的優位に立つことのできる状況を創り出す。

 

「そうだけどさ~? この娘を、生かしておくってのもね~……面白くないって言うか、さ? わかる?」

「面白くない……? おい、さすがに許せないぞ。わかりたくもない。命を面白がるなんて真似は――」

「あっ、そうなんだ~! そうしたら天は怒るんだね、へぇ~……ま、いっか。はい」

 

 そう呆気なく言うと、放り投げるようにして、口を解放してこちらに少女を飛ばしてきた。

 俺が受け止めようと、飛ばされた先に回ると。

 

「はい! これもあげるよッ……!」

 

 そう言って――背中の槍を手にかけて、突き出した。

 方向は――少女。少女の背中に。

 

 

 

 

 俺は、見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 ――その槍が、少女の背中を穿つ様子を。

 迸る鮮血が自分にかかり、自分の無力さを思い知る余裕もなかった。

 ただ、目の前で起こる出来事が。映画(スクリーン)の出来事だと思った。

 

「あ、れあ……? わ、たし……」

 

 

 地面に叩きつけられた少女は、泣きわめくこともなく、ただ血液を地面に滴らせていた。

 今、俺はどんな顔をしているのだろうか。

 

 

 

「紫さん!」

 

 

 

 スキマが、少女を運ぶ。飲み込む。

 

 

 

 俺は、助けるためにここに来た。そのはずだ。

 なのに、今、俺は何をした? ――何も、していない。

 目の前で、ただ抵抗できない娘を、自分が守らなければならない人間を。

 それを、ただ見ていただけ。本当に、映画(スクリーン)のように。

 

 

 映画(スクリーン)であれば、どれだけよかっただろうか。

 

 

「アッハハハア! いいね、いいねえその顔ッ! 絶望に浸っている気分はどうだい!? 自分の目の前で守りたいものが崩れる瞬間を見るのはァ!」

 

 しかし、自分に吹き付ける生暖かい風と、頬に飛んだ人肌の温もりを持っている赤々とした粘着液が、それを許さない。

 照りつける寒々しい陽光と、葉が散ってしまった凄惨とした冬の木々が、それを許さない。

 目に焼き付けられた、一度ピクッと動いたきり、動かなくなった少女が、それを許さない。

 

 自分に告示される。何を目を逸らそうとしているんだ、と。

 背を向けるな、現実を見ろ、と。

 根底にある自分の醜いナニカが、そう囁く。

 

 

 

 

 

 

 『――ほら、見ろよ。()()()()()()()()()()()()()()』、と。

 

 

 

 

「――ああぁああぁぁぁああ!!! リベレェェェション!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――俺は、英雄なんかじゃなかった。




ありがとうございました!

次回から、本格的に時雨戦に入っていきます。
時雨、中々ゲスい。ゲスいぞ。

宣伝です。またですよ、ええ。新作。
短編ではありますが、先日、『八月の夢見村』というタイトルで投稿しました。

感動系恋愛……にできるかどうかはわかりません。
特に感動。ですが、何か感じるものは書きたいと思います。
よければ見てやってください。

ではでは!

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