東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

前回のラストは、天君の復帰でした。
で、天君サイドの話は書いていませんでした。

なので、今回の初めは、天君が起きてから駆けつけるまでを書いてます。

後書きに書こうと思いましたが、長くなってしまうので、前書きに。
宣伝です。4月1日に、新しいオリジナル作品を投稿しました!
タイトルは、『クーデレの彼女が可愛すぎて辛い』です。
よければ、見てやってください。

では、本編どうぞ!


第6章 理想
第57話 紫電一閃


 この消毒液の鼻を刺激する臭い。

 目覚めてすぐこの臭いがするのは、何度目だろうか。

 既に数回諦めた命なのに、生きていることに喜びを感じてしまう。

 目を開き、起き上がる。

 

 そこで、俺は目を見開くことになった。

 右腕が、元に戻っている……?

 

「天! 起きたんだね! よかった……」

「お、おう栞。おはよう……?」

「いやもう昼なんだけど」

 

 まぁ、でしょうね。この光は昼だな。

 栞の調子も、起きる前と変わらないようで。

 で、俺としては栞がこんなに喜んで安心している理由が聞きたい。

 

「で、俺には何が起きたんだ?」

「天……あのね、落ち着いて聞いてほしい」

「お、おう、了解」

 

 いきなり声のトーンが下がった栞。

 恐らく、この前降りからしていい話ではない。

 前降りなしでも、この状況からいい話が出て来るわけがない。

 

「天は……三ヶ月。三ヶ月間、ずっと眠り続けたんだよ」

「は……!? いや、でも……」

「わかってる。信じられないのはわかってるよ。けど、事実なんだよ」

「…………」

 

 じゃあ、この昼は、三ヶ月後の昼、なのか……?

 でも、こんなに真面目な声をする栞の言葉を、嘘だと感じることができなかった。

 

 そう、なったら。

 

「じゃ、じゃあ妖夢は――」

「そう。三ヶ月毎日二回お見舞に来てた。その日の出来事を楽しそうに話して、泣いてた」

「あ、あぁ……俺は、なんで」

 

 なんで、早くに妖夢を残して逝こうとしていたのだろう。

 正直、あれしか方法がなかったとはいえ、心苦しい。

 

「あと、精神も不安定になってきてた。涙も今は枯れちゃったようだし。早く行った方がいいかもしれないね」

「了解。あとはここを抜け出すだけだな――あ?」

「どうしたの、天?」

 

 何か、胸騒ぎがする。

 悪い虫の知らせの気がする。

 根拠は全く無い。けれど、どうにも気の所為にできな――

 

「――おい、この()()()()()()()()()()、正確に誰だかわかるか?」

「え? あ……妖力なら。霊力はわからない」

 

 俺も、なんとなく検討がついている。

 認めたくないけれど、行かなきゃいけない。

 こうやって迷っている暇があったら、一刻も早く向かわなければならない。

 

「この妖力……()()()()()()()()()()()()()()()

「行くぞ。今すぐに」

 

 神憑を背に、すぐに病室を飛び出す。

 俺の予想だと、最悪の展開が訪れている。

 

 この霊力の感じは、絶対に幻獣ではない。

 そうなると、人が妖夢を圧倒していることになる。

 そうでなければ、弱まる妖力に説明がつかない。

 

 それだけの力を持っていて、妖夢を攻撃する人物。

 

 ――恐らく、()()()()()

 

 ここから出たいが、早めに出ないと見つかる可能性がある。

 こっそりと、悟られずに抜け出す。

 悪い気しかしないが、見られたら絶対に止められるから、仕方がない。

 

 大急ぎで準備をして、妖夢の場所へ――

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「……行ったわね」

 

 全く、挨拶の一つくらい、していきなさいよ。

 恩人に向かって、最低限の礼儀は払うべきでしょうに。

 

 ……それでも、行かなければならない状況だろうから、今回に限って見逃してあげよう。

 

 こっそりと、周りを気にしながら出ていったが、バレていないとでも思ったのかしら?

 

「お師匠様~――って、どうしました?」

「……天が行ったわ」

「あ! 目覚めたんですね! じゃあ、私は薬の準備ですかね?」

「えぇ、お願いするわ」

 

 鈴仙が薬を準備しに、部屋を出て行く。

 もう十月になって、夏と比べて大分涼しくなった。

 そうだっていうのに、うちの『英雄』は大変そうね。

 

 それを治療する、こっちの身にもなってほしい。

 

 にしても、嫌な霊力を感じる。

 攻撃的で刺々しく、触れた者全てに痛みを(もたら)すような霊力。

 恐らく、これほどの霊力を持つのは、黒幕くらい。

 

「……気を付けなさいよ」

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 敵を見つけて、倒れた妖夢を見つけて。

 今にもとどめを刺されそうになったところを、霊力刃で弾く。

 追撃を入れようとしたが、さすがに当たらない。三ヶ月のブランクがあるしな。

 

「あ、あぁ、ぁぁあぁあああ……! そら、くん!」

 

 横たわっている妖夢から、俺の名前を呼ばれた。

 全身から血液が出て、服に赤い点を残している。

 細さ、小ささ、そしてこの状況からして、あの赤髪の女がやったな。

 

「お疲れ様。よく頑張ったな、妖夢。――ただいま、妖夢」

 

 至極優しく微笑みかけると、妖夢は極上と言わんばかりの笑顔で泣いた。

 この涙は、嬉し涙であると信じたい。

 

 けれど……その前に流した涙は、そうにもいかないだろう。

 

 神憑を納刀し、女を睨みつける。

 

「お前、()()妖夢に何してんだよ」

 

 答えは気にしない、最大限の威圧の意味で言う。

 

「へぇ、アンタが天かい。アタシは――」

口を閉じろ。お前の声は聞きたくもない

 

 俺は――過去最大級に()()()()()

 こいつは、絶対に許すことができない。

 誰が何をしようとも、絶対に()()()()()()()()()()()()

 

「威勢がいいこと……で!」

 

 女が細剣(レイピア)を前に出しながら、視認できない速度で突進してくる。

 俺は――()()()()

 

 俺の腹に深々と細剣(レイピア)が突き刺さり、後ろの妖夢には俺の鮮血が迸っただろう。

 

「そ、天君!」

 

 妖夢の悲鳴にも似た声。

 しかし――この状況は、()()()()()()()

 

 俺は、まだ突き刺さったままの細剣(レイピア)を握る女の、右腕を掴んだ。

 

「これでもう……逃げられないなぁ?」

「――なっ!」

 

 思い切り右腕で神憑を抜刀。そして、斜めに一斬。

 その軌跡を辿るようにして、遅れて女の血液が吹き出し、俺は返り血を真正面から浴びることになる。

 

「がああっ!」

 

 女はすぐに俺の腕を振り払い、俺の腹の細剣(レイピア)を抜いて後退する。

 が、無防備で真正面からの攻撃を受けたんだ。ダメージが少ないわけではないだろう。

 さらに、見たところは妖夢の残したであろう傷も沢山ある。

 

 これなら、――のが楽そうだ。

 絶対に、俺はこの女を――なければならない。

 

 その為なら、多少の致命傷は負っても、どうってことはない。

 さすがに死ぬのはダメだが。妖夢を残して、一人だけ勝手に戦死なんて、許されない。

 

 俺は不敵に……笑う。

 狂気に身を委ね、本能の赴くままに、相手を――。

 

「アンタ……!」

「俺は、お前を許す気はない。生きて返さない。だから、絶対に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺すッ!!

 

 笑みを収めて、殺気を全身に……特に刀に乗せる。

 俺は、妖夢のためなら鬼にでも、悪魔にでも、殺人者にも喜んでなってやろう。

 妖夢を傷付けた奴に、慈悲などは、勿体無いにも程がある。

 妖夢に敵対し、攻撃した時点で、そいつにはそんな資格もない。

 

 殺さなければ、ならないんだ。こいつは、絶対に、俺が。

 

「ちょ、ちょっと天! それ――!」

「あぁぁぁああ!」

 

 限界のスピードで女に近づき、神憑を振る。

 しかし、相手もこれを素早く避ける。さすがに上手くはいかない。

 そうなったら、永遠にこれが続くだけ。

 なら……

 

 俺は一旦距離を取って、()()()()()()()

 

「あらら? もう攻撃終わり? じゃあ……!」

 

 女が攻撃の姿勢になって、飛び込んでくる。

 速すぎて、目で追えないくらいだ。()()()()

 

 俺の心臓の位置に来る棘。どこまでも鋭く、細い剣が襲う。

 だが……その途中、まだ俺の心臓とは20mほどのところで。

 

 ()()()()()()()()()

 

 この神憑の最大の特徴は、その驚異的な長さだ。

 最初の頃は、ろくに抜刀もできなかった。けれど、今はそうじゃない。

 修行を積んで、辛く高い壁を乗り越えて、ここに立っている。

 

 想いによって効果が飛躍的に上がる、『努力』の能力。

 それが織りなす、たった数度の戦闘経験。

 いかにこれをものにするかが、これからの未来を創り、左右する。

 

 俺は自身の限界を、もう一度超える必要がある。

 できないと決めつけていた固定観念を、真っ向から打ち破る必要がある。

 

 ――それが、今だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――紫電一閃(モーメント・エクレール)!」

 

 栞の雷が、俺の刀に帯びている。

 勿論、これは()()()()()()だ。

 しかし、しかし。

 

 

 

 刀は目にも留まらぬ速度で抜刀される。

 それと同時に、俺も加速して女に向かう。

 雷を帯びたまま抜刀された神憑は、文字通り、刹那の間で閃いた。

 

 神憑の驚異的な長さは、抜刀さえも難がある。

 それを、居合。到底できないことだ。

 ――いや、だった。その限界を、たった今超えた。

 

 抜刀速度が速すぎて、雷の色が紫色にも見える。

 それは正に、『紫電一閃』。

 

 雷が女の右腕を捉えて、切り飛ばす。

 細剣(レイピア)も一緒に握られたまま宙へ飛び、やがて落ちてくる。

 

 最初は何が起きたかわからない様子の女だったが、状況を認知した瞬間。

 

「ぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁ!!」

 

 右腕から容赦なく溢れる鮮血は、独特の粘液質を全く感じさせない。

 部位欠損。その痛みは、計り知れないだろう。

 

「あ、ぁぁ、あ、お、前……!」

「口を開くなと言っただろう。何度言わせればいい」

 

 俺の怒りは、こんなもので収まるものじゃなかった。

 自分よりも大切なものを傷付けられたんだ。

 相応の報いを受ける義務が相手に、与える義務が俺にある。

 

 そもそも、幻想郷侵略はこいつを含む黒幕が行っているんだ。

 妖夢だけじゃない、他の皆の分も俺が裁く。

 

 有罪、死刑。俺の脳内裁判が、すぐに結果を出した。弁護など、介入する余地もない。

 すぐに刑を執り行うとしよう。

 

「ぁ、ぁ、くそ……!」

 

 未だに激流を作る血液を抑えようとしながらも、迫る俺から逃げる。

 一歩ずつ、ゆっくりと迫る。

 こいつは、ただ死刑にするだけでは勿体無い。

 死に対する恐怖を存分に植え付けて、殺すとしよう。それがいい。それだけのことをしているのだから。

 

「待って、天!」

 

 突然、何もない空間から声が響いた。

 予想はついたが、案の定スキマ妖怪。スキマを空間に創り、中から紫が出て来る。

 出てきた先は、俺と女の間。つまり、割って入っている。

 

「あぁ、紫。久し振りだな。今はちょっと後にしてくれ。こいつを殺した後になら、いくらでも――」

「そのことよ! ここでは殺さないで、情報を吐かせるわ。それでもいい?」

 

 ……俺は正直、不服だった。

 けれど、すぐに考えが変わった。

 

 もっと苦しんでもらうには、拷問するのがいいだろう。

 こいつのことだ。こんなことで死に恐怖を抱くわけがない。

 そんなこともさっきまでわからなかった自分に、つい呆れてしまう。

 

「あぁ、すまない。そうしてくれ。あと、できるだけそいつ、俺は見たくないから、早めに片付けてくれ」

「……! わ、わかったわ。先に妖夢を永遠亭に連れて行って頂戴」

 

 そう言って、紫の上半身と赤髪女の体が、スキマの奥に消えていった。

 今の行動優先順位は、妖夢を永遠亭に運ぶこと。

 

「妖夢! 大丈夫か!?」

「あ……は、はい。大丈夫です。私は何とも」

 

 妖夢はそう言って笑っているが、誰が見ても強がっているとしか思えない。

 服には無数の赤い点、少し血色の悪い顔。痛々しい。

 けれど、妖夢から行こうとはしないだろうし……

 

 

 ……やってみるか。

 

「よし、妖夢。そのままじっとしてろよ――よっと」

「は、はい――え!? ちょ、ちょっと天君!?」

 

 俺の右腕は妖夢の肩当たりに回し、左腕は膝裏当たりに回す。

 そのまま上に上げて、持ち上げる。

 

 そう――()()()()()()、というやつだ。

 案外、やってみると恥ずかしい。やられる側も恥ずかしいのかもしれないが。

 できるかどうかが不安だったが、妖夢が軽すぎて杞憂(きゆう)だったようだ。

 

 その状態を維持して、ゆっくりと永遠亭に向かう。

 

「あんまり暴れんなよ、危ないからな。しっかり掴まれ」

「は、はい……」

 

 妖夢の両腕が、俺の首元に回され、抱きつかれる。

 あ、これ恥ずかしいな。俺も、妖夢も。

 現に、二人で一緒に顔を赤くしている。

 

「そ、その、天君……」

「ん? どうした?」

「……おかえりなさい、天君」

 

 彼女の優しい笑顔が、迎えてくれた。

 三ヶ月も帰らない彼氏を、待ち続けてくれた。

 そのことが嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。

 

「あぁ、ただいま、妖夢」

 

 この言葉を返すことができることに、喜びを感じていた。

 

「にしても、すごかったね、天。めちゃくちゃ怒ってたじゃん」

「んあ? あぁ、そりゃあな。妖夢がこうなったんだ。人生で一番怒ってた自信がある」

「自信があるんですか……」

 

 多少妖夢に呆れてしまう。きっと栞も呆れたか、心で笑っているのだろう。

 だが、本当のことなのだ。これ以上にないくらい怒った。

 つい、殺すとか思ってしまったぐらいだ。

 

「で、でも、その……え、っと……」

 

 急に、俺の腕の中で妖夢がもじもじしだした。

 顔も一層紅潮して、目線が俺の目とは明後日の方向に向いている。

 

「さっき……お、『()()妖夢』って言ってたじゃないですか……」

「あ……」

 

 そういえばそうだ。考えが向かなかった。

 無意識に、独占欲が働きかけたのだろうか。

 

 嫌、だったのだろう。

 『俺の』って言ってしまうと、『所有物』のような扱いになってしまうから。

 俺は勿論そんなつもりで言ったわけではないし、そもそも無意識だ。

 でも、彼女が嫌な気分になったのなら、それは俺に非がある。

 

「ご、ごめんな、妖夢。嫌だったろ?」

 

 俺がそう言うと、彼女が少しむっとした後。

 自分が起き上がるようにして、俺に短くキスをした。

 

「……あ、え?」

「そんなこと……嫌なわけ、ない」

 

 そっぽを向きながら、彼女がそう言った。

 表情を悟られないようにだろうが、生憎表情が完璧に見えてしまっている。

 見えていないとしても、頬も耳も真っ赤になっている。

 

 そして俺は、仕返しのように小声を漏らす。

 

「……全く、こういうところが可愛すぎなんだよ」

「な、なっ! か、可愛い……!」

 

 今度は俺に、目線を凄いスピードで合わせる。

 かと思いきや、一層恥ずかしくなったからなのか、俺により密着した。

 具体的には、俺に顔を押し当てている。

 

 そして、その状態の彼女から俺に刺される、トドメの一言。

 

「ほんっとうに、そういうところがズルいんですよ……」

 

 俺としては、妖夢のこの言葉ほどズルいものはないと思うんだよなぁ……




ありがとうございました!

天君が、とうとう殺しの考えを持ってしまいました。

モーメント・エクレール。恥ずかしい。
書いてて痛い人みたいに思われないか、少し心配になりました。

ちょっと叢雲戦が呆気なかった方もいるでしょう。
すみませんでした。

次のアイデアライズ戦……もう本文で書いてるのですが、
次は時雨戦です。不知火が最後って書きましたから。
物語は、その時雨戦からさらに加速させようと思います。

よっしゃぁぁ! 妖夢ちゃんとのイチャイチャが書けるぜ!
デレまくった妖夢ちゃん再来です。

ではでは!

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