東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

今回からバシバシストーリーを進めていきます!
日常編が恋しくなるくらいに。

では、本編どうぞ!


第51話 咆哮。雄叫び。

 花火も終わって、周りが多少静かになって、宴も終わりに近づいていく。

 まだ酒を飲む者、既に酒を飲みすぎて酔いつぶれる者、ただ騒ぐ者。

 多種多様の人々が、各々(おのおの)の楽しみに酔いしれていた。

 

 俺も、妖夢も、その一人なのだが。

 

「楽しかったです、天君。なにより、幸せです」

「俺もだよ、妖夢。こんなに浮かれたのは、いつ以来だったかな」

 

 俺も、妖夢も、浮かれきっている。

 初めての告白の成功、初めてのキス。

 これらが及ぼす影響は、俺達にとっては大きいだろう。

 

 俺も、彼女がいるから頑張れる。

 彼女を守りたいから、幻獣と戦おうとできる。

 彼女のいる幻想郷を、守りたいから。

 

 幸せを守る幸せを、感じた。

 

「そろそろ、帰ろうか」

「そうですね」

 

 短く会話をして、空へ飛び立つ。

 

 ……俺と妖夢の手は、繋がって離れないままだ。

 

 

 

「あら、おかえりなさい。オシドリ夫婦さん?」

「おかえり、オシドリ夫婦さん」

「それやめろ。前に言われたことがあるんだよ」

 

 帰宅したことを報告しに幽々子の部屋に行ったのだが、幽々子と翔の二人が何食わぬ顔で座っていた。

 自分達が何をしていたのか、覚えていないのだろうか。

 

 無理矢理にでも思い出させなければ。罪を悔やませねば。

 そう思ったが、案外忘れている方が都合のいいのかもしれない。

 忘れているなんてことは、高確率でないだろうが。

 

 まぁ、反省しているのなら、公開しないことを前提にして許してあげなくも――

 

「あ、写真、保存して外の世界に送ってもらったから。印刷も済んだよ?」

「おいなに印刷まで進めてんだよ。ほら、返してみろ。破ってやる」

「あるわけないじゃん。外の世界だよ。十枚ちょっとくらいかな?」

 

 ――訂正しよう。絶対許さん。

 後悔しなかったことを後悔させてやろうか。

 

「ど、どうしたのさ天? え、笑顔が引きつってるよ?」

「あっははは、そんなことはないさ……」

「逃げろ!」

 

 叫んで部屋を出ようとする。

 が、しかし。俺はその前に襟首を掴んで、翔の逃走を阻む。

 

「栞、どうしたらいいと思う、こいつ?」

「私は一番近くでイチャイチャを見たから、私はもうお腹いっぱいだよ?」

「よしわかった。二人共許さん」

 

 栞は栞でこんなことを言うのだ。

 でも、改めてすぐ近くで見られていたことを認識すると、少し恥ずかしくなる。

 

「妖夢ちゃ~ん。たしゅけて~」

「はいはい。天君、そのくらいにしましょう?」

「……まぁ、妖夢がそう言うなら。二人共、妖夢に感謝するんだぞ?」

 

 翔を解放する。掴んでいるときでも崩れなかった笑みが、さらに深く刻まれる。

 栞は、「ふっふっふ~」とか言ってる。

 この笑いをする翔と栞には、いいことをされた(ためし)がない。

 

「わぁ~。妖夢ちゃんにデレデレだねぇ。大好きな彼女だもんね~」

「そうそう。彼女さんがいるもんね~。可愛い可愛い彼女さんが」

「妖夢の彼氏さんなんだものね~」

 

 二人に混じって幽々子の声も妖夢に届き、一瞬硬直した。

 ほぼ同時に、顔を真っ赤に紅潮させている。可愛いな~。

 

「はいはい。俺は皆に茶化されようと、妖夢が大好きなことに変わりはないからな」

「そ、天君! ちょっと、恥ずかしいです!」

 

 言われる側としては恥ずかしいのだろうか。

 でも、そんな妖夢もとても可愛らしくていい。

 

「あら、嫌ではないのね、妖夢?」

「あ、その……むしろ嬉しいです。私も、大好きですから……」

 

 あ~……これ言われる側も恥ずかしいな。

 妖夢に言われてわかった。

 

 にしても、このもじもじしている妖夢の可愛らしさはもう。

 我慢できなくなってしまいそうだ。

 

「まずいですよ幽々子さん。恋人になってさらにイチャイチャが加速してます」

「もう手のつけようがないわね~。ほっときましょう」

 

 そう言って、幽々子が布団を敷き始めた。

 幽々子以外が全員苦笑いをしながら、それぞれの部屋に帰っていった。

 

 

「さてと、修行に行こうかな……と思ったけど、今日はいいかな?」

 

 修行に行こうとしたが、今日は気分が乗らなかった。

 決して面倒なわけではないが、なんか動きたくない。

 それを面倒って言うんだろうが。

 

 ということで、布団を敷いてさっさと寝よう。

 そう思った時、俺の部屋の障子が開いた。……ん?

 

「そ、その……天、君……」

 

 そこには、寝巻姿の妖夢がいた。枕を持って。

 寝巻姿でも可愛さがマッハ。それに、枕を前でぎゅっと抱き締めてるのがまたいい。

 

 ……枕?

 

 ……なんとなく、わかった気がする。

 

「……ど、どうした?」

「その、ですね……い、いい、一緒に、寝ましょう……?」

「よしわかった一緒に寝よう」

 

 俺の動きは、迅速かつ効率的になっていた。

 彼女と寝たことは何度かあったが、自分から頼みにくるのは初めて。

 こんなにも愛くるしい姿の彼女は、国宝級だろう。

 

「お、お邪魔します……」

 

 俺の布団の中に入って、枕で顔を隠している。

 でも、耳まで赤くなっている。全く隠せていない。可愛い。

 

 数分後、やっと枕をとったと思ったら、まだまだ顔が真っ赤になっている。

 

「……可愛いよ、妖夢」

 

 そう言葉にしながら、彼女の頭を撫でる。

 さらさらとした髪に触れて、俺の心臓も早く鼓動を刻む。

 

「ぁぅ……ありがとう、ございます」

 

 『ぁぅ』って、可愛すぎる。

 もうダメだ。我慢ができない。

 

 彼女を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。

 やっぱり、ハグが一番安心できて、暖かくて、恋人であることが感じられる。

 安心なしだと、一番はやはりキス。

 

「あ、暖かいです、天君」

 

 彼女も俺に腕を回し、抱き締め合うことに。

 それだけでも心拍数は急激に増加している。けれど、安心する。

 自然と頬が緩み、笑顔が溢れてしまう。

 

「あ……そ、その……」

「ん? どうした?」

 

 彼女の顔がまた一層と赤くなった。

 これ以上赤くなるとは思わなかった。それでも可愛い。

 

「お、お腹に、当たって……」

 

 お腹……?

 

 あ、あ~……

 

「あ~……その、ごめんな。……好きな人と一緒にいると、生理現象でこうなっちゃうんだよ。嫌なら――」

「い、いえその、嫌じゃないんです。……私を好きでいてくれてるんだって、嬉しかったんです」

 

 妖夢の抱き締める力が強くなり、より一層密着することに。

 ……本当に、嬉しいのか。

 

「俺も、嬉しい。大好きだよ、妖夢」

「あぁぁ……はい、私も、天君が大好きです」

 

 二人で抱き合いながら。

 最後に短くキスをして、同時に眠りについた。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 幸せ。ただこの一言に尽きる。

 彼といることが、こんなにも幸せなんだ。

 

 でも……同時に、怖い。

 幸せ。だけれど、怖い。

 いや、()()()()()、だろうか?

 

 幸せすぎるのだ。幸せすぎて、恐怖を覚えてしまう。

 幸せが、一周回って恐怖に変わってしまう。

 

 見つめられた時、手を繋いだ時、抱き合った時、キスをした時。

 この幸せがずっと続いてほしい。なくならないでほしい。

 心の底から願っている。この幸せは、始まったばかりなのに。それだけ、幸せ。

 

 本当に幸せで満たされていると、口からは嬌声(きょうせい)が漏れ出してしまう。

 蕩けきって、恍惚(こうこつ)とした表情になってしまう。表情を保つことさえままならない。

 だらしないとわかっていても、顔が緩んでしまう。

 

 幸せが一種の快楽と感じ始めると、もう止められない。

 気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい。

 その想いが頭の中をぐるぐると回って、もっと気持ち良くなろうとしてしまう。

 

 体は火照りきって、吐息も熱く、激しくなって、頭がぼーっとして。

 彼だけを求めている。心も、体も、私の全てが、彼だけを。

 

 だから、反則なのだ。あんなの、耐えられるはずがないんだ。

 大好きな彼に抱き締められながら、耳元で『大好きだよ』と囁かれるのは。

 

 その瞬間、体に電流が走ったように、気持ち良さが走っていく。

 また、だらしなく『あぁぁ』、と声が出てしまう。

 わかっている。けれど、どうしても抑えられない。快楽に勝てない。

 

 快楽に溺れきってしまった私を、さらに抱擁が深くに沈めて、キスが沈めて。

 その二つは大きな重りとなって、外れることはない。

 だからこそ、怖いんだ。二重の意味で。

 

 一つは、この幸せが終わってほしくないと思うから。

 一つは、一度快楽に溺れたら、次から次に極上の快楽を求めていくから。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 宴から数日が経った。

 あの天というやつが、あの剣士と恋人なったらしい。

 

 ……これは使える。

 

 そう確信した。

 この関係を利用すれば、無力化が楽になる。

 

 いや、無力化じゃないかな?

 

 

 

 ――完全に、殺す。

 

「で、今日だろ、叢雲?」

「そうだね。今日だ。正確に言うと、あと……三十秒くらいだね」

 

 ……そうか。

 そうかそうかそうかそうか。

 

 もう、三十秒も過ぎる。

 

「今、七月十日 午前十時三十六分をもって、幻想郷侵略を再開する!」

 

 俺の合図と共に、幻獣が放たれた。

 ――を除いて。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 ついさっき。俺と妖夢、相模が博麗神社に呼ばれた。

 もう二度目なのでわかるが……幻獣出現。

 

 レミリア曰く、「かなり数が多い」らしい。

 百を優に超える数であるとは考えている。

 

 到着した博麗神社は、この前と全く同じメンバーに、翔が加わっている。

 

「皆! 察するとおり、幻獣よ。それも、数が途轍もなく多い。メンバーは前と同じよ!」

 

 数が多い話を持ち出されても、周りは静かなままだ。

 焦らず、動揺もせず。このメンバーの強さが見て取れる。

 

「ただ、翔。貴方は幻獣戦闘グループと同行して、指揮をとってもらう。いい?」

「了解。俺の能力が適任なんでしょ? 戦闘がまだ未熟な分、そっちで頑張るよ」

 

 相変わらず、飄々とした声色。

 けれど、唯一顔が全く違った。

 

 あの笑いがない。真剣な顔つきと眼差し。

 いつもは見られない顔。だが。

 翔がこの顔つきということは、それほど余裕がないということ。

 

 ……頑張ろう。妖夢のために、幻想郷のために。

 

「……! 来た! 思ったより早い! 場所は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――()()!? まずい! 幻獣戦闘グループは、すぐに向かって! 防衛グループも、人里の住民の避難を手伝って!」

 

 霊夢がそう叫んですぐ、飛び立った。

 翔を含む、幻獣戦闘グループと防衛グループの数人が人里へ。

 

 

 人里に着いたが、もう、遅かった。

 

 既に被害が出ている。建物のいくつかは壊されている。

 血も流れている。もう、負傷者もいるのだろう。

 もしかしたら、死者も――。

 

 敵は――オークと、餓鬼だろうか?

 ゲームに出てくるようなザコ敵の一種だ。

 

 けれど――規模が違う。

 百を超えるとは思った。それが――これ?

 

 二百はいっている。人里()()()そこで、溢れかえっている。

 

「皆! 今すぐ殲滅に移る! さっき言った通り、幻獣戦闘グループは戦闘、防衛グループは人里の皆の避難を! 負傷者から優先して永遠亭に運んで頂戴! 開始!」

 

 霊夢の合図で、幻獣に飛び込んでいく者、人里に散らばっていく者に分かれた。

 翔には、移動中に幻獣戦闘グループのメンバーの戦闘方法は教えておいた。

 正解だった。まさか、会議中に来るとは思わなかった。

 

 翔の指示が鋭く飛ぶ。

 

「広範囲の弾幕は、建物に当たらないくらいに広く! 接近戦は後ろに気をつけて!」

「「「了解!」」」

 

「あぁぁああ!」

 

 俺もさっきから斬り続けているが、きりがない。

 数が減っている気がしないのだ。

 今でもどこかから新しくオークと餓鬼が足されているんじゃないかとも思うくらい。

 

 斬り倒しても、斬り倒しても、次から次に湧いて出てくるようだ。

 

 心の中でどうしようかと、突破口を見つけようとした時。

 

 

「ワォォォォォオオオオオオン!」

 

咆哮が。雄叫びが。

 それこそ、幻想郷中に響き渡った。

 

 明らかに、幻想郷の住人のものじゃない。

 それが、俺達に絶望を植え付ける。

 

 

「い、今の――! げ、幻獣が、()()()()!?」

 

 霊力とはまた異質の……そう、檮杌と同じような。

 ドロドロとしていて、深い黒。ドス黒さが、鋭い。

 感じるだけでも強いとわかる。それに、この距離。

 

 響いた咆哮は、かなりの距離があるだろう。その気を感じて、これ。

 だったら、近くに行ったら、どうなるのだろうか……。

 

「天、妖夢! 君達は接近戦が得意だから、この場は不利だ! 今の奴に向かってくれ! 時間を稼ぐだけでいい! 後から追いつくから、倒そうとは思うな!」

「わ、わかった!」

「わかりました! 行きますよ、天君」

 

 あの全身が震えるような、恐怖の塊へ。

 場所は――妖怪の山。

 

 

 

 

 二人で飛びながら、黒の霊力に似た何かに近づいている。

 やはり、その力は近づくにつれて、大きく、ドロドロと、ドス黒さを増している。

 

 ――着いた。そして、目を疑う。いや、自分を疑う。

 

 なんで、こんなに『黒』が強いんだ、と。

 

 その幻獣は、荒々しく立っていた。

 牙は太く、鋭く。爪はぎらりと鋭く光っている。

 目も充血しているんじゃないかと思うほど睨みを効かせている。

 

 そして、何よりも特徴的なのは、足と首に付いた輪。

 首には、刺々しい針のようなものがいくつもついた、首輪が。

 四本の足には、腕輪のようなものに鎖がついている。まるで、拘束されていた獣。

 

 逆立つ獣の毛が、また荒々しさを主張している。

 その獣が俺達を視認すると、目が一層光った。

 

「ワォォォォォオオオオオオン!」

 

 またもや、咆哮。

 この、幻獣は――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――()()()()()!」

 

 北欧神話の、『地を揺らす者』である、狼の怪物が、そこに。




ありがとうございました!

さて、人里にダイレクトアタックです。
ライフポイントが激減。

もう一体の幻獣は、フェンリルでした!

さて、妖夢ちゃんと天君には、あと二、三回くらいは絶望してもらおうかと。
さすがに主人公・ヒロイン交代はないですが。

ではでは!

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