今回からバシバシストーリーを進めていきます!
日常編が恋しくなるくらいに。
では、本編どうぞ!
花火も終わって、周りが多少静かになって、宴も終わりに近づいていく。
まだ酒を飲む者、既に酒を飲みすぎて酔いつぶれる者、ただ騒ぐ者。
多種多様の人々が、
俺も、妖夢も、その一人なのだが。
「楽しかったです、天君。なにより、幸せです」
「俺もだよ、妖夢。こんなに浮かれたのは、いつ以来だったかな」
俺も、妖夢も、浮かれきっている。
初めての告白の成功、初めてのキス。
これらが及ぼす影響は、俺達にとっては大きいだろう。
俺も、彼女がいるから頑張れる。
彼女を守りたいから、幻獣と戦おうとできる。
彼女のいる幻想郷を、守りたいから。
幸せを守る幸せを、感じた。
「そろそろ、帰ろうか」
「そうですね」
短く会話をして、空へ飛び立つ。
……俺と妖夢の手は、繋がって離れないままだ。
「あら、おかえりなさい。オシドリ夫婦さん?」
「おかえり、オシドリ夫婦さん」
「それやめろ。前に言われたことがあるんだよ」
帰宅したことを報告しに幽々子の部屋に行ったのだが、幽々子と翔の二人が何食わぬ顔で座っていた。
自分達が何をしていたのか、覚えていないのだろうか。
無理矢理にでも思い出させなければ。罪を悔やませねば。
そう思ったが、案外忘れている方が都合のいいのかもしれない。
忘れているなんてことは、高確率でないだろうが。
まぁ、反省しているのなら、公開しないことを前提にして許してあげなくも――
「あ、写真、保存して外の世界に送ってもらったから。印刷も済んだよ?」
「おいなに印刷まで進めてんだよ。ほら、返してみろ。破ってやる」
「あるわけないじゃん。外の世界だよ。十枚ちょっとくらいかな?」
――訂正しよう。絶対許さん。
後悔しなかったことを後悔させてやろうか。
「ど、どうしたのさ天? え、笑顔が引きつってるよ?」
「あっははは、そんなことはないさ……」
「逃げろ!」
叫んで部屋を出ようとする。
が、しかし。俺はその前に襟首を掴んで、翔の逃走を阻む。
「栞、どうしたらいいと思う、こいつ?」
「私は一番近くでイチャイチャを見たから、私はもうお腹いっぱいだよ?」
「よしわかった。二人共許さん」
栞は栞でこんなことを言うのだ。
でも、改めてすぐ近くで見られていたことを認識すると、少し恥ずかしくなる。
「妖夢ちゃ~ん。たしゅけて~」
「はいはい。天君、そのくらいにしましょう?」
「……まぁ、妖夢がそう言うなら。二人共、妖夢に感謝するんだぞ?」
翔を解放する。掴んでいるときでも崩れなかった笑みが、さらに深く刻まれる。
栞は、「ふっふっふ~」とか言ってる。
この笑いをする翔と栞には、いいことをされた
「わぁ~。妖夢ちゃんにデレデレだねぇ。大好きな彼女だもんね~」
「そうそう。彼女さんがいるもんね~。可愛い可愛い彼女さんが」
「妖夢の彼氏さんなんだものね~」
二人に混じって幽々子の声も妖夢に届き、一瞬硬直した。
ほぼ同時に、顔を真っ赤に紅潮させている。可愛いな~。
「はいはい。俺は皆に茶化されようと、妖夢が大好きなことに変わりはないからな」
「そ、天君! ちょっと、恥ずかしいです!」
言われる側としては恥ずかしいのだろうか。
でも、そんな妖夢もとても可愛らしくていい。
「あら、嫌ではないのね、妖夢?」
「あ、その……むしろ嬉しいです。私も、大好きですから……」
あ~……これ言われる側も恥ずかしいな。
妖夢に言われてわかった。
にしても、このもじもじしている妖夢の可愛らしさはもう。
我慢できなくなってしまいそうだ。
「まずいですよ幽々子さん。恋人になってさらにイチャイチャが加速してます」
「もう手のつけようがないわね~。ほっときましょう」
そう言って、幽々子が布団を敷き始めた。
幽々子以外が全員苦笑いをしながら、それぞれの部屋に帰っていった。
「さてと、修行に行こうかな……と思ったけど、今日はいいかな?」
修行に行こうとしたが、今日は気分が乗らなかった。
決して面倒なわけではないが、なんか動きたくない。
それを面倒って言うんだろうが。
ということで、布団を敷いてさっさと寝よう。
そう思った時、俺の部屋の障子が開いた。……ん?
「そ、その……天、君……」
そこには、寝巻姿の妖夢がいた。枕を持って。
寝巻姿でも可愛さがマッハ。それに、枕を前でぎゅっと抱き締めてるのがまたいい。
……枕?
……なんとなく、わかった気がする。
「……ど、どうした?」
「その、ですね……い、いい、一緒に、寝ましょう……?」
「よしわかった一緒に寝よう」
俺の動きは、迅速かつ効率的になっていた。
彼女と寝たことは何度かあったが、自分から頼みにくるのは初めて。
こんなにも愛くるしい姿の彼女は、国宝級だろう。
「お、お邪魔します……」
俺の布団の中に入って、枕で顔を隠している。
でも、耳まで赤くなっている。全く隠せていない。可愛い。
数分後、やっと枕をとったと思ったら、まだまだ顔が真っ赤になっている。
「……可愛いよ、妖夢」
そう言葉にしながら、彼女の頭を撫でる。
さらさらとした髪に触れて、俺の心臓も早く鼓動を刻む。
「ぁぅ……ありがとう、ございます」
『ぁぅ』って、可愛すぎる。
もうダメだ。我慢ができない。
彼女を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
やっぱり、ハグが一番安心できて、暖かくて、恋人であることが感じられる。
安心なしだと、一番はやはりキス。
「あ、暖かいです、天君」
彼女も俺に腕を回し、抱き締め合うことに。
それだけでも心拍数は急激に増加している。けれど、安心する。
自然と頬が緩み、笑顔が溢れてしまう。
「あ……そ、その……」
「ん? どうした?」
彼女の顔がまた一層と赤くなった。
これ以上赤くなるとは思わなかった。それでも可愛い。
「お、お腹に、当たって……」
お腹……?
あ、あ~……
「あ~……その、ごめんな。……好きな人と一緒にいると、生理現象でこうなっちゃうんだよ。嫌なら――」
「い、いえその、嫌じゃないんです。……私を好きでいてくれてるんだって、嬉しかったんです」
妖夢の抱き締める力が強くなり、より一層密着することに。
……本当に、嬉しいのか。
「俺も、嬉しい。大好きだよ、妖夢」
「あぁぁ……はい、私も、天君が大好きです」
二人で抱き合いながら。
最後に短くキスをして、同時に眠りについた。
―*―*―*―*―*―*―
幸せ。ただこの一言に尽きる。
彼といることが、こんなにも幸せなんだ。
でも……同時に、怖い。
幸せ。だけれど、怖い。
いや、
幸せすぎるのだ。幸せすぎて、恐怖を覚えてしまう。
幸せが、一周回って恐怖に変わってしまう。
見つめられた時、手を繋いだ時、抱き合った時、キスをした時。
この幸せがずっと続いてほしい。なくならないでほしい。
心の底から願っている。この幸せは、始まったばかりなのに。それだけ、幸せ。
本当に幸せで満たされていると、口からは
蕩けきって、
だらしないとわかっていても、顔が緩んでしまう。
幸せが一種の快楽と感じ始めると、もう止められない。
気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい。
その想いが頭の中をぐるぐると回って、もっと気持ち良くなろうとしてしまう。
体は火照りきって、吐息も熱く、激しくなって、頭がぼーっとして。
彼だけを求めている。心も、体も、私の全てが、彼だけを。
だから、反則なのだ。あんなの、耐えられるはずがないんだ。
大好きな彼に抱き締められながら、耳元で『大好きだよ』と囁かれるのは。
その瞬間、体に電流が走ったように、気持ち良さが走っていく。
また、だらしなく『あぁぁ』、と声が出てしまう。
わかっている。けれど、どうしても抑えられない。快楽に勝てない。
快楽に溺れきってしまった私を、さらに抱擁が深くに沈めて、キスが沈めて。
その二つは大きな重りとなって、外れることはない。
だからこそ、怖いんだ。二重の意味で。
一つは、この幸せが終わってほしくないと思うから。
一つは、一度快楽に溺れたら、次から次に極上の快楽を求めていくから。
―*―*―*―*―*―*―
宴から数日が経った。
あの天というやつが、あの剣士と恋人なったらしい。
……これは使える。
そう確信した。
この関係を利用すれば、無力化が楽になる。
いや、無力化じゃないかな?
――完全に、殺す。
「で、今日だろ、叢雲?」
「そうだね。今日だ。正確に言うと、あと……三十秒くらいだね」
……そうか。
そうかそうかそうかそうか。
もう、三十秒も過ぎる。
「今、七月十日 午前十時三十六分をもって、幻想郷侵略を再開する!」
俺の合図と共に、幻獣が放たれた。
――を除いて。
―*―*―*―*―*―*―
ついさっき。俺と妖夢、相模が博麗神社に呼ばれた。
もう二度目なのでわかるが……幻獣出現。
レミリア曰く、「かなり数が多い」らしい。
百を優に超える数であるとは考えている。
到着した博麗神社は、この前と全く同じメンバーに、翔が加わっている。
「皆! 察するとおり、幻獣よ。それも、数が途轍もなく多い。メンバーは前と同じよ!」
数が多い話を持ち出されても、周りは静かなままだ。
焦らず、動揺もせず。このメンバーの強さが見て取れる。
「ただ、翔。貴方は幻獣戦闘グループと同行して、指揮をとってもらう。いい?」
「了解。俺の能力が適任なんでしょ? 戦闘がまだ未熟な分、そっちで頑張るよ」
相変わらず、飄々とした声色。
けれど、唯一顔が全く違った。
あの笑いがない。真剣な顔つきと眼差し。
いつもは見られない顔。だが。
翔がこの顔つきということは、それほど余裕がないということ。
……頑張ろう。妖夢のために、幻想郷のために。
「……! 来た! 思ったより早い! 場所は――
――
霊夢がそう叫んですぐ、飛び立った。
翔を含む、幻獣戦闘グループと防衛グループの数人が人里へ。
人里に着いたが、もう、遅かった。
既に被害が出ている。建物のいくつかは壊されている。
血も流れている。もう、負傷者もいるのだろう。
もしかしたら、死者も――。
敵は――オークと、餓鬼だろうか?
ゲームに出てくるようなザコ敵の一種だ。
けれど――規模が違う。
百を超えるとは思った。それが――これ?
二百はいっている。人里
「皆! 今すぐ殲滅に移る! さっき言った通り、幻獣戦闘グループは戦闘、防衛グループは人里の皆の避難を! 負傷者から優先して永遠亭に運んで頂戴! 開始!」
霊夢の合図で、幻獣に飛び込んでいく者、人里に散らばっていく者に分かれた。
翔には、移動中に幻獣戦闘グループのメンバーの戦闘方法は教えておいた。
正解だった。まさか、会議中に来るとは思わなかった。
翔の指示が鋭く飛ぶ。
「広範囲の弾幕は、建物に当たらないくらいに広く! 接近戦は後ろに気をつけて!」
「「「了解!」」」
「あぁぁああ!」
俺もさっきから斬り続けているが、きりがない。
数が減っている気がしないのだ。
今でもどこかから新しくオークと餓鬼が足されているんじゃないかとも思うくらい。
斬り倒しても、斬り倒しても、次から次に湧いて出てくるようだ。
心の中でどうしようかと、突破口を見つけようとした時。
「ワォォォォォオオオオオオン!」
咆哮が。雄叫びが。
それこそ、幻想郷中に響き渡った。
明らかに、幻想郷の住人のものじゃない。
それが、俺達に絶望を植え付ける。
「い、今の――! げ、幻獣が、
霊力とはまた異質の……そう、檮杌と同じような。
ドロドロとしていて、深い黒。ドス黒さが、鋭い。
感じるだけでも強いとわかる。それに、この距離。
響いた咆哮は、かなりの距離があるだろう。その気を感じて、これ。
だったら、近くに行ったら、どうなるのだろうか……。
「天、妖夢! 君達は接近戦が得意だから、この場は不利だ! 今の奴に向かってくれ! 時間を稼ぐだけでいい! 後から追いつくから、倒そうとは思うな!」
「わ、わかった!」
「わかりました! 行きますよ、天君」
あの全身が震えるような、恐怖の塊へ。
場所は――妖怪の山。
二人で飛びながら、黒の霊力に似た何かに近づいている。
やはり、その力は近づくにつれて、大きく、ドロドロと、ドス黒さを増している。
――着いた。そして、目を疑う。いや、自分を疑う。
なんで、こんなに『黒』が強いんだ、と。
その幻獣は、荒々しく立っていた。
牙は太く、鋭く。爪はぎらりと鋭く光っている。
目も充血しているんじゃないかと思うほど睨みを効かせている。
そして、何よりも特徴的なのは、足と首に付いた輪。
首には、刺々しい針のようなものがいくつもついた、首輪が。
四本の足には、腕輪のようなものに鎖がついている。まるで、拘束されていた獣。
逆立つ獣の毛が、また荒々しさを主張している。
その獣が俺達を視認すると、目が一層光った。
「ワォォォォォオオオオオオン!」
またもや、咆哮。
この、幻獣は――!
「――
北欧神話の、『地を揺らす者』である、狼の怪物が、そこに。
ありがとうございました!
さて、人里にダイレクトアタックです。
ライフポイントが激減。
もう一体の幻獣は、フェンリルでした!
さて、妖夢ちゃんと天君には、あと二、三回くらいは絶望してもらおうかと。
さすがに主人公・ヒロイン交代はないですが。
ではでは!