タイトルが脱字みたいになってますが、これであってます。
具体的には、あと二話~三話日常が続くことに。
その後は、トントンと進ませたいです。
アイデアライズ出現・戦闘も案外早いかもしれません。
では、本編どうぞ!
いつもより就寝が遅くなり、起きるのが少しばかり辛い。目を開くのさえ辛い。
しかし、起きないと朝食が作れないので、後ろ髪を引かれる思いで目を開く。
「いっ……!」
目の前に、好きな女の子の寝顔。
不意の一撃。ボクシングなら、それはもう綺麗にKOを取られていただろう。
一撃も入れられていないのに、それだけの破壊力を持つそれ。
「お、起こさないように……」
誘惑のようなものに負けることなく、静かに布団から出る。
起こすのも悪い気がしたので、妖夢は布団をかけて寝せておく。
少し冷たい廊下を通って、台所へと歩を進める。
しばらく朝食を作っていて、妖夢が追いつく。
まだ寝ぼけてしまっていて、言動や表情がとても可愛らしかった。
……ホント、俺は妖夢が好きなんだな。
料理を運んでいる途中、栞にからかわれて、料理をひっくり返しかけたのは秘密。
妖夢にはギリギリバレていない。
さて、昨日の分も兼ねて、何をしてやろうか。
食事が終わって、修行に行こうとした時。
翔と幽々子が、何やらこそこそとしている。何かはわからない。
けれど、秘密裏に会話をしている。バレバレだが。
「おい、二人共どうしたんだ?」
「あ~……ま、最初は天でいいか」
その瞬間、翔が口元を歪めて笑う。
あ、これは何か企んでいる顔だな。良いことは起こらないと考えた方がいい。
翔が俺の肩ごと引き寄せて、妖夢から見えない位置に。
「ど、どうしたんだよ」
「これ、昨日撮っちゃったんだよね~、幽々子さんにも報告して間近で見てもらったよ~」
そうして見せられたのは……デジタルカメラ?
外の世界から紫に持ってきてもらっt――
「おい! ちょっとそれ貸せ!」
「おっとっと、はい幽々子さん、取られないでね~」
そう言って、翔が幽々子にカメラをパス。
で、何でこんなにも必死になっているかというと……
妖夢との添い寝の写真がいくつも保存されていたから。
明らかに盗撮だが、ここには法律も何もない。
となると、この写真をバラ撒かれて困るのは俺と妖夢。
「はいは~い。天、乱暴はや~よ?」
「いいか俺は乱暴する気はないんだそれをさっさと無抵抗に明け渡してくれればいいんだ」
「いやね~、そんなことするわけないじゃない? 面白いじゃないの?」
いや、俺にとっては面白いとかの問題じゃない。
これ、傍から見たら事後に見えなくもないじゃねぇかよ。
『ゆうべはおたのしみでしたね』とか言われてしまう。
「天く~ん。どうしたんですか、そんなに慌てて?」
「妖夢、いいから幽々子を捕まえよう。翔も一緒に捕まえて
「あれあれ? そんなことしていいの? 俺の脳内にはさっきの写真が色濃く残ってるけど?」
こ、こいつ、うざい!
人の弱みを握って、そのまま捻り潰しそうな勢い。
それはもう、紫髪の長身高校バスケプレイヤーと同等。
「さっきの写真って何ですか? 見せてください!」
幽々子が翔にカメラを渡した。
「おい、世の中には知らない方がいいこともあるんだやめておけ」
俺がそう言うと、翔の顔が一瞬真剣なものに変わった。
何かを見定めるような眼差しで。
そして。翔の腕が、妖夢に伸びた。
「え、相模く――」
「お、おい、なに、して――」
妖夢に届いた腕が、翔の方に引き寄せられた。
――妖夢が、肩を抱かれた。
それを見た瞬間、激しい虚無感と悲愴感、嫉妬心に拒絶。さらには、独占欲。
一気に俺の中にそれらが流れ込んでくる。
今まで俺は、恋をしたことがなかった。妖夢とが、初恋。
で、幻想郷には、男性は滅多にいなかった。
好きな女の子を……妖夢を取られることが、今まで一切なかったのだ。
……好きな女の子を取られるのが、こんなにも心が苦しくなるとは思わなかった。
「あ……あ~……」
翔が溢して、妖夢から腕を放す。
俺は安心した。妖夢が取られないで。
元々俺のそばに居てくれるとも限らないが、行ってしまうのは、嫌だ。
翔の表情がさっきの悪戯に塗りつぶされたような顔になり、妖夢にカメラを渡さずに見せる。
妖夢がそれを見るように、覗き込む。
そして、赤面。羞恥で赤に一瞬で染まっていく。
「え、えぇぇえええ!? ちょ、ちょっとそれ! 返してください!」
「元々、このカメラは俺のだし、返す必要はないよね?」
妖夢が頑張ってカメラを取ろうとする。
けれど、翔が腕を上に上げ、妖夢の背では届かない位置にまでカメラを。
妖夢が翔にくっつくような姿勢となり、さっき程ではないが、嫉妬や独占欲が。
「紫さ~ん。はい!」
「は~い、出てきましたぁ。外の世界に戻しとくわ~」
翔が適当に放り投げたカメラが、スキマから突然出た紫に回収される。
ということは、紫も共犯者か。スキマを使われたら、どうしようもない。
「あっ! 紫様! ……はぁ~、撒かないでくださいよ……?」
「わかったわかった。じゃ、修行に行こうか。俺は後から向かうよ」
妖夢が外に出ようと廊下に。
俺も、半秒遅れて妖夢についていく。
妖夢が俺に笑顔を向けてくれる。
俺は、その笑顔がいつまでも、俺のそばで向けてくれる笑顔であることを心から望んだ。
―*―*―*―*―*―*―
あの時の天……。
「幽々子さん、さっきの天の表情、見ました?」
「えぇ。どうやら、のめり込んでるのは、妖夢だけじゃないらしいわね」
あの顔。妖夢が取られた時の、あの顔。
絶望の淵に立たされたような表情だった。
驚き、絶望、不安、悲しみ、喪失。それらが入り混じり、苛まれていた表情。
何よりも大切なものを取られた顔。
もしかしたら。いや、多分――自分よりも大切なもの。
それを他人に取られる。そんな顔をしても無理はない。
「もう早く付き合っちゃえばいいのにね~」
「ホントですよね~。来たばかりの俺もそう思いますよ。妖夢ちゃんは宴に告白するらしいですよ?」
「あらあら。やっと告白なのね。楽しみだわ」
あんなに露骨にアピールしてるのにね。何でだろ?
私は、もう少しどころじゃなく早く結ばれると思ってたんだけれど。
私としては、妖夢が天と結ばれるのは大いに結構。むしろ嬉しいわ。
二人のイチャイチャは、目の保養にもなるもの。
あの純愛で溺愛っぷりは、見ていて恥ずかしいくらい良いものだしね。
「隠れて二人の告白見ましょうか!」
「勿論そのつもりよ。カメラも用意してね? 文も呼びましょう?」
「そうですね。ほんっと、楽しみですね~」
私と翔が、同時に愉しそうに笑った。
やっぱり、私と翔は似ているのかしら?
―*―*―*―*―*―*―
修行を始める直前、栞にこう言われた。
(ねえねえ、今どんな気持ち? 好きな女の子が目の前で肩を抱かれて、今どんな気持ち?)
(……言い残すことは、それだけかよ?)
(いやほんとにすいませんでした反省してますはい)
栞は俺に、中々の煽りを効かせていた。
俺だって結構ショックだったんだぞ?
(やめてくれ。俺もあんなに悲しくなるとは思わなかったんだよ)
(あ……いや、ホントにごめんね。言い過ぎたよ)
栞はいつもふざけてばかりいる。
けれど、真面目だったり本気だったら、決してふざけることはない。
全く、理解がいいのか悪いのかわからない。
「お待たせ~。ごめんね?」
翔が戻ってきた。俺と同じように、左肩から右肩にセルリアン・ムーンを引っ提げて。
意外とその彼の姿は、様になっている感じがする。
「皆。私は翔の方に入った方がいいかな?」
「あ~……ま、そうだな。妖夢、今日は霊力刃をやらないか?」
「えぇ、わかりました。いつかは教えないといけないですしね」
俺の中から、栞が抜けて翔の中へ。
あの時の喪失感が、再び。けれど、もう慣れたような気もする。
さっき、それよりもひどい喪失感を体験したから。栞には悪いが、やっぱり俺は妖夢が好きなんだよ。
それから、霊力刃の練習をしていたんだが。
「……すごいね~。天より霊力の使い方が上手いよ。ただ……」
「何でできないんでしょうね~」
そう、霊力の扱い方は俺より上手い……らしい。
けれど、霊力刃が全くもってできる気配がない。
栞の話では、もうすぐ空も飛べそうらしい。
霊力刃も、もうそろそろコツを掴んでできていても、おかしくはない。
「さあ? なくても別の戦い方でやるよ。向いてなかっただけでしょ」
まぁ、人には得意不得意があるからな。
あれから、俺も球形の弾幕は練習しているのだが、上達しない。
逆に、針型の弾幕は上手い具合に出せる。
この不得意をどうなくせるかだが……もう考えてある。
数が多くなくてもいいと考えたのだ。
まぁ、それはどうでもいい。
にしても、全くできていないのだ。
「どう思う、妖夢?」
「いや、私からは何とも……私が聞きたいくらいですね」
「俺は遠回しにディスられてるんだけど、ねぇ。できないものは仕方ないよ、うん」
いや諦めるなよ。武器までもらったんだろ?
「ねえ、俺はもう一回妖夢ちゃんと模擬戦がしたいな~。今度は堂々と剣術でさ」
「私はいいですが……」
妖夢がこちらをちらっと見てくる。
この控えめな感じもたまらない。それは置いといて。
「俺はいいぞ。幽々子を呼んでくるよ」
そう言って、一旦幽々子の部屋に。
障子を開けてすぐに。
「模擬戦でしょ? わかってるわよ。彼にそう言うように、私から言ったもの」
「へぇ、幽々子が。これまたどうして?」
「単純に剣の技術を見たかったのよ。あと、貴方との連携も。紫も呼ぶわ。先に行ってて頂戴」
紫も来るのか。
まだ俺も翔の剣術スキルは把握していない。
連携は取れるかもしれないが実力を把握できていない。
これから戦う上で、連携の邪魔になりかねない。
早めに掴んでおく必要があるか。
……あ、栞返してもらっとこ。
―*―*―*―*―*―*―
「いくわよ~。……よーい、始め!」
私の合図で模擬戦が始まる。
紫も、私の横で観戦もとい、実力の把握。
かくいう私も同じなのだが。合図かけるだけって、何か寂しいじゃない?
合図がかかって動いたのは、前回とは違って翔。
今回は、妖夢も少し慎重になっている。
無理もないわ。剣を捨てたんですもの。次は何をしでかすかわからない。
とはいえ、今回はちゃんと剣での勝負という約束なので、単純な実力勝負なのだけれど。
「……はぁぁああ!」
「攻撃はまだまだですね、相模君!」
「いやいや、まだ剣持って三日だからね? これは自分でもすごいと思ってる、よ!」
頑張って翔が攻撃を始めているけれど、さすがに全部流される。
まだ楼観剣しか使っていないので、相当攻撃を増やさないと、当たらないだろう。
と、ここで。
天が急激な速度で、二人の元へ走り出した。
「来ましたね……!」
「おっと、よそ見はダメって言ったよね?」
「え? あっ……!」
天へ一瞬目が行った隙に、翔が攻撃の手を早める。
そして、天が攻撃しようとした瞬間。
翔が楼観剣を弾いた。攻撃じゃなく、弾くことを目的とした行為。
後続する、天に攻撃のチャンスを与えるために。
「いくよ、天! スイッチ!」
「おう、相手はAIじゃないがな!」
翔が下がり、天が前に。
正直、完璧な入れ替わり。
「おぉ、今のすごい連携になってたわね」
「さすが、外の世界からの親友というだけあるわね。にしても、スイッチって何だろうね?」
外の世界の言葉で、電気の流れをどうこうするやつだったと思うけれど。
「あれは、えっと……MMOってヤツの用語の一つらしいわよ。攻撃を前衛と後衛で入れ替わって隙を突くんだって」
なるほど、だから今やったあれはスイッチか。
でも、スイッチをしても妖夢は二刀流のため、もう片方で受け流しができる。
隙を作るには、もう一本が使えないくらいに、体勢を崩す必要がある。
それができるのは、翔じゃなくて天だ。
霊力強化が使える天の方が、まだ現実的だろう。
案の定、白楼剣で流されて天との戦闘に。
と、思いきや。
「はい、スイッチ!」
「りょーかい、天!」
すぐさまスイッチをして、またもや入れ替わる。
私はその光景に驚く。
「ちょ、ちょっと、代わるの早くない?」
「二人もわかってるんでしょ。体勢を崩すにはどうすればいいか」
最初に翔が出なければ、とも考えたが、それだとテンポが遅れてしまうことに気付いた。
一撃目が流されるとわかっている以上、あまり長期戦は好ましくない。
いずれ負けるのだから。それは二人もわかっているだろう。
だからこそ、最初に翔が攻める必要がある。
最初に天が攻めてしまうと、翔が追いつくまでの時間が、どうしても長くかかってしまう。
それに比べて、後から追いつくのを天に決めると、一戦が短くて済み、危険も減る。
だったら、一戦を短くかつ天に弾かせるにはどうすればいいか。
最初に翔が弾いて、それで前に出た天にまた弾いてもらう。
二連続で弾かれた妖夢も、不意を突かれているだろうという算段だろうか。
「中々良かったですよ、二人共」
「なっ――!」
セルリアン・ムーンが空に飛んだ。
それは、翔が飛ばしたんじゃなく、妖夢が弾き飛ばしたもの。
すぐさま妖夢が、下がった天との距離を詰める。
逆に不意を突かれた天は、動けるはずもなく無力化される。
ま、私にも読めるくらいだから、剣専門の妖夢がわからないわけがないわよね~。
「私の勝ちです。大丈夫ですか、二人共?」
「あ、あぁ、完璧に負けだな、翔」
「そうだね~。さすがに剣術だけじゃ勝てないね~」
本来は剣術だけで戦うのだが。
……あ、これは上手いわね。
「ねえねえ、紫」
「どうしたの、幽々子?」
少し笑顔になって、三人を見つめて言う。
「
「……全く、ホントによく言ったものね」
二人なら、天を翔けるように。
あの連携があるなら、可能かもしれない。
皆で幻獣を、黒幕を倒す、大きな要因に。
ありがとうございました!
この天を翔のネタは、一話の当初から考えて名前をつけました。
もうその時点で翔君は、幻想入りが決定してたも同然だったのです。
ここで通知・お知らせ的な何かを。
第49話と第50話は、連続投稿となる予定です。
忘れていなければそうなります。忘れてしまえば、そうじゃないです。
なるべく忘れないようにしなければ。
ではでは!