東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

タイトルがあれですが、それは最後の方です。
それまでは、日常系です。

あと数話だけ、日常系を出します。
その後すぐに、幻獣戦に入ろうかと思います。

ではでは!


第47話 足掻け。そして、絶望しろ。

 翔の話が終わって、俺は外に出て、引き続き修行をしていたら。

 

(ねぇ、天。まだ気付かない?)

(あ? 何がだよ?)

 

 栞の声にそう反応すると、彼女の溜め息が聞こえる。

 その後、若干呆れ気味に言われる。

 

(……顔動かさないで。目線だけね。……今の天から三時の方向)

(はいはいっと……え?)

 

 三時の方向とか、どこの軍隊だ、とか思ってその方向に目線だけ動かした。

 

 その視線の先に、妖夢がいた。こっち見てる。

 檮杌戦の前夜、見てるっぽい発言を聞いたが……

 

(妖夢だな。で、俺にどうしろと?)

(ちょっとさ、今日は部屋に帰ってすぐ寝るのやめない? 布団に入ってくるの、気になるでしょ?)

 

 あ~……なるほど。

 今まで何回か入って来たことがあったが、不定期に来てたので、対処のしようがなかった。

 朝起きて、気付いたらいる。そんな感じなのだ。

 

(今日はちょっと早めに、今切り上げようよ)

(ん~……ま、いいけどさぁ)

 

 栞の提案に従って、修行を切り上げる。

 玄関、廊下を通って俺の部屋に向かうが、その間についてきてる気配なし。

 

 俺の部屋に着いて障子を開き、中に入って布団へ。

 目を閉じて狸寝入りをして数分したくらいだろうか。

 

 廊下に足音が響き、障子が開く音がした。

 それも、俺の部屋の。

 

(……来たね)

(マジかよ……妖夢から来てたのはわかってたが……)

 

 なんか、複雑な心境になる。

 むしろ、俺からしてみれば、好きな女の子に夜這いされるのも……と思ってしまうのが怖いところ。

 恋って、怖いよな……。

 

 しばらくして、布団が動かされ、中に妖夢が入ってきた。

 ドキドキが止まらない。

 さらに、妖夢が俺に手を回してきた。心臓が跳ね続けている。

 

「……やっぱり、天君は暖かいなぁ……」

 

 な、何だろう、このくすぐったい感じは。

 恥ずかしい……

 

(栞、俺はどうすれば――)

(抱・け・ば?)

 

 この三文字だけで、栞が調子に乗っていることがわかる。

 一つ一つが強調されているのが、これまた。

 

 さて、栞はああ言っているが。

 

 

 ……欲望には、勝てないよなぁ……

 

 彼女がしたように、俺も腕を回し、さらに自分の方に引き寄せる。

 やっぱり軽い。

 

「……ぇ?」

 

 ま、それは当然気付かれるわけで。

 

「で、何しに来たんだ、妖夢?」

「あ、えっと、その……起きてたんですね?」

 

 目を開けると、妖夢が苦笑いのような表情をしていた。

 笑って誤魔化しているつもりなのだろうか。

 

「あぁ、起きてた。で、何しに来た?」

「いや……ダメ、でしたか?」

 

 俺は、妖夢のするその目に弱い。

 うるうると自信なさげな上目遣い。まるで小動物のような、その眼。

 

「だ、ダメじゃ、ない……」

「妖夢ちゃん気を付けてね~。いきなり抱きしめる発情野郎の天は何するかわからないからね~」

「……おい。栞が抱きしめろって言ったんだろ」

 

 栞はすぐこうだ。何かあったら俺を嵌めようとする。

 抱けば、とか言ったのはどこのどなたでしょうかね?

 

「いやいや、私は抱けば? って言っただけ。判断は天だし、引き寄せる必要もなかったよね? つまり天は妖夢ちゃんを――」

「あー! わかった、わかったから! 俺が悪かった!」

「ほら! 妖夢ちゃん聞いた!? やっぱり天は変態なんだよ!」

 

 どう転んでもダメじゃねぇかよ。

 後で何をしてやろうか。

 

「で、でも……(天君なら、いいというか)……」

「あ? い、今――」

「な、なんでもないです! いいならそのまま寝ますよ! おやすみなさい!」

 

 そう言って、布団にうずくまって俺に表情を隠している。

 いや、いいならそのままって、ここで寝るのかよ。

 俺眠れないんだけど。

 

(……栞、どうすればいいと思う?)

(抱・け・ば?)

(もういい。おやすみ~。明日は覚悟しておくんだな)

(え、ちょ、ま――)

 

 栞との会話を無理矢理に終わらせながら、寝る準備をする。

 妖夢が俺の入る分を残しているあたり、妖夢らしい。

 

 でも、このまま終わるのも、なんかあれな気がしたんだよ。

 特段すごいことをやろうってわけじゃないが……

 

 妖夢のくるまった布団の中に手を入れ、頭を撫でる。

 

「……おやすみ、妖夢」

「……おやすみ、なさい」

 

 妖夢が一層くるまった姿勢になる。可愛い。

 

 彼女の一つ一つの行動や表情に、心を惹かれてしまう。

 満面の笑みなんて見た日には、その場で抱き締めたくもなってくる。

 優しげな笑みを見た日には、ついつい甘えてしまいたくもなってくる。

 恥じらいの表情を見たら、その愛らしさに理性さえも危うくなってくる。

 

 何事にも一生懸命になれる姿を見ると、俺自身も頑張れる。

 袖を引っ張られると、身長の差の上目遣いと合わさって、ドキッとする。

 彼女がこっちに走ってくる、トテトテとした走り方にも、可愛らしさが溢れる。

 

 今日の翔の話でも、首をかしげる動作には心を持ってかれそうになったなぁ……。

 

 案の定眠れない俺は、そんなことをしばらく考えていた。

 隣で静かに寝息が聞こえ、自分の体を起こし、布団をついめくってしまう。

 

 安らぎのある寝顔を今見ているのは、自分だけだと考えると、それだけで満たされる。

 彼女の素顔を見ているようで、新しい一面を知った気分にもなれる。

 

 頬を優しく突くと、甘い声が出て、興奮してしまう時もある。仕方がない。

 

(「ん、んぅ……」)

「あぁ、やっぱ可愛いな……」

(とっても可愛いのはわかるけどさ、犯罪には踏み込まないでね?)

(しねぇよ。……もし、もし俺が危なくなったら、止めてくれ)

(その発言も十分危ない気がするけどね。ま、本気でヤろうとしたら止めるよ)

 

 ヤろうとか言うな。仮にも女の子だぞ、仮にも。

 

 陶器のように白い肌は、柔らかく、艶がある。

 突くのをやめて、頬を撫でる。

 

 すると、妖夢の顔がふんわりと、柔らかい笑顔になった。

 

「ぁ……っ……!」

(ほんっと可愛いよね、妖夢ちゃん。……天? お~い、帰ってこ~い)

(あ、あぁ、ありがとう。あのままだとちょっとヤバかったかもしれない)

 

 あの顔は反則だろ。理性が吹き飛ぶ寸前だった。

 

(妖夢ちゃんに惚れるのも無理ないよ。こんなに可愛らしいんだもん)

(ホントだよ。ちょっとしたことで我慢が効かなくなる)

(え、その発言はちょっと……うわっ)

 

 おい。でも、ちょっと、ちょっとだけ、危なかった。

 強めに抱き締めたくなる気持ちに駆られたけど、妖夢を起こさないようにと耐えた俺の精神を褒めてよ。

 

 ……弱めなら、いいよな?

 

 寝る姿勢に戻り、妖夢を抱き締めて布団を二人で被る。

 満たされた気分が全身に染み渡っていく。この幸福感も、恋の怖いところだ。

 

 満たされたら、もっともっとと欲望が増してくる。

 どれだけ満たされようとも、限界が訪れることがない。どれだけでも欲しがってしまう。

 そう、まるで――

 

(病気だねぇ。恋の病。だって妖夢ちゃん大好きだもんね?)

(否定はしない。けどさぁ、病気じゃない恋ってのも、つまらないと思うんだよ)

 

 この好きな人に溺れていく感覚。それはまるで、病気のよう。

 けれど、それくらい夢中になれないと、つまらないと思う。すぐに冷めてしまうと思う。

 次々に求めあえるからこそ、恋人が続けられる、相手を大好きでい続けられるんじゃないだろうか。

 

(で、そんな病気の天。……いつ、告白するの? そろそろ頃合いだと思うよ?)

(……宴の時にしようと思う。一週間後の。花火も上がるらしいからな)

 

 早く告白しないと、最悪幻獣に殺されて、想いが伝えられないまま死んでいくことになるんだ。

 それだけは避けたい。死ぬとしても想いくらいは、伝えてから死にたい。

 

(ま、いいんじゃない? 一週間でちゃんと心の準備をしとくんだよ? おやすみ)

(おやすみ、栞)

 

 そう言って、妖夢を引き寄せて、目を閉じる。

 妖夢がすぐ近くにいることでドキドキしながらも、安心できた。

 なので、俺の意識が途切れるのも、そう遅くはなかった。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「ふわぁ~……」

 

 欠伸をして、少し早めに起床。いつもと違う天井を見つめる。

 それが、自分が白玉楼にいることを一層意識させる。

 

 さて、洗面所に行こうとして、部屋の障子を通って廊下に出た時。

 

「あれ……どうやって行くんだっけ?」

 

 昨夜、歯を磨きに皆と一緒に行ったのだが、屋敷が広すぎる。

 昨日の今日で覚えきれない。天は覚えたらしいけど、俺にそんなことはできない。

 

 部屋の近い妖夢ちゃん、天の部屋は覚えているので、道を聞くために二人の部屋に。

 自分の部屋に近いのは妖夢ちゃんの部屋なので、先に彼女の部屋へ。

 寝ていることも考えて、静かに障子を開けて、中の様子を確認する。が……

 

「……いない?」

 

 そう、いなかった。

 料理は天と妖夢ちゃんで作っているらしいので、もう台所に行った可能性もある。

 しかし、台所までの道もわかるはずもない。天がまだ部屋にいることを祈るしかない。

 

 天の部屋に着いて、同様に開けて様子を確認。

 

「……え?」

 

 そこには、事後の天と妖夢ちゃんがいた。

 いや、服も着てるし、どこか乱れたところもない。けれど。

 

「なんで、一緒の布団で寝てるの?」

 

 それも、二人で抱き合ってるという、とんでもない現場。

 二人は付き合ってないんだよね? 告白がどうとかって言ってたからね。

 仮に成功が前提だとしても、まだその段階は踏んでいないはず。

 

「……あっ」

 

 そうやって口からこぼれ落ちた感嘆詞。

 瞬間、自分の口元が意地の悪い笑顔に塗り替わるのが感じられた。自分でもわかる。

 

「……紫さ~ん。いる?」

「はいは~い。いつもは寝てるけど、面白そうだから早起きしちゃった」

 

 小さい声で、紫さんを呼ぶ。二人を起こさないように。

 そして、その声を保ったまま、紫さんに頼む。口元を歪めたまま。

 

「あの……文ちゃんが持ってるような、カメラってわかる? それ、外の世界の俺の机にあるはずだから、取ってきてくれない?」

「あっ……なるほど、貴方も中々侮れないわね。じゃ、行ってくるわ」

 

 紫さんも俺同様口元を歪め、スキマに消えていく。

 文ちゃんとは、幻想郷に来て間もなく取材という名目で会った。

 適当に答えて終わった気もするけれど、まぁ気の所為だろう。

 

 俺が壁に寄りかかって、待つこと数分。

 

「はい、これであってる?」

「お、そうそう。ありがとね、紫さん」

 

 デジタルカメラを無音撮影・フラッシュオフの設定にして、レンズを二人に向ける。

 静寂の中、何枚もの写真がカメラに焼き付いていく。

 記憶じゃないので、忘れることはない。一応、脳内にも焼き付けるが。

 

「こんな感じでどうかな?」

「中々いいと思うわ。二人の笑顔がしっかり写りながら、抱き合って寝てるのがわかるから、ベストだと思うわよ?」

 

 二人の口元は、歪みを戻す気配すらない。むしろ、逆。

 どんどんと口角が釣り上がる。上がるどころじゃなく、()()上がるほどに。

 

「さぁてと……どれだけ遊び倒そうかな?」

 

 なんて下衆な性格なんだろうか。

 でも、それが楽しいよね。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「……おい。――と、オーク・餓鬼はいつ解ける?」

「えっとね……――もあと少し。二つに至っては、弱いからもう沢山解けてるよ」

 

 よし、第二波はもうそろそろ……あと一ヶ月もしないくらいだろうか。

 早かったら、一週間強から二週間くらいだろう。

 

「じゃあ、――が解けた時、二つはどのくらい用意できる?」

「アタシでできる分は~っと……ざっと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()()()くらいだと思うよ?」

「……くはっ」

 

 

 自然と、乾いた嗤いが。

 二百。この数は、でかいぞ。数の持つ意味だけじゃなく。

 

「……よし、叢雲。その調子で、丁度――が解けてすぐ、()()()()()()()()ぞ」

「了解。できるだけ数は増やしてみるよ」

「時雨。時雨は瘴気は――の方に重点的にかけてくれ。二つにはそんなにかけなくていいから、その分――に回すんだ」

「オッケ~。ま、二つの方も限界ギリギリまでやってみるけど、意味はなさそうだけどね」

 

 今度は、檮杌のようにはいかないぞ、天。そして、幻想郷の奴らよ。

 今回は、二つの場所を攻める。

 

 もう場所も決まっている。そして、時間もズラすことも。

 俺の勝ちは、約束された勝利なんだ。勝ちが決まったも同然だ。

 

 今は、俺は何もしていない。

 けれど、俺が直接戦ったら、絶対に負けない。負ける要素が何一つないのだ。

 

 だって俺は。俺の能力は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――『()()()()()()()程度の能力』だからなあ?

 

 俺の能力に、勝てる奴なんていないんだよ。

 いざとなれば、俺が出ればいい。ただ、それは本当に最終手段。

 俺は極力干渉しない。闇に潜んで、獲物を狩る機会をうかがう。

 

 

 

 足掻け。そして、絶望しろ。

 

 ――どうやっても、勝てない相手と戦うことに。




ありがとうございました!

不知火の能力が明らかに!
負ける要素がないらしいですが、天達はどう立ち回るのでしょうか。

スクフェスのAC譜面は、親指勢への死ねという通告なんですかね?
人差し指を練習中ですが、全くできません。

ではでは!

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