東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

前回は、翔のイレギュラーな強さを見せてましたね。
当初は、闇落ちさせて敵につかせようかとも考えていたという裏が。

ちなみに、努力しても天に勝てないから、理想郷を作って天に勝とうとした。
とか考えてました。ボツ案ですが。

では、本編どうぞ!


第46話 第二の呼ばれた者

 い、今、何が、起きて……

 

 私が、負けた? いくら修行中でも、素人には負けないはず……

 

「ごめんね、大丈夫? 怪我、ない?」

「え、えぇ……」

 

 彼の薄い笑顔は、未だに崩れていない。

 何を考えているのかが、全く掴めない、自然におどけるような性格。

 

「じゃ、修行にしますか。天、妖夢ちゃん、やろ?」

「あ、あぁ、そう、だな……」

「そう、ですね……」

 

 私は、負けたことのショックよりも、彼の底知れない実力が気になった。

 あれは、あれを持つのは、普通の人間では届かない領域にある。

 

 ……本当に、ただの人間なのだろうか。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「飛べるようにならなきゃねぇ……」

 

 そう呟いたのは、修行後に俺と一緒にいる翔。

 その呟きに、魂がこう応えた。

 

「私が翔の中に入ろうか? 教えるよ」

「お、君が栞ちゃん? 初めまして。いいの?」

「うん、いいよ。じゃあ天、ちょっと行ってくるね?」

 

 俺の返事を待たずに、俺の中から栞が抜け、翔の中へ。

 こんなにも霊力のがなくなって、寂しくような感覚になるとは思いもよらず。

 

「お、おぉお! 天、翔の霊力、最初の天くらいあるよ!?」

 

 えっと……最初の俺ってのは、栞が入ったときだから、霊力を増やした後だな。

 

 ……え? それで、初期量?

 

「お、嬉しいねぇ。じゃあ、よろしくね、栞ちゃん」

「うんうん。誰かさんとは違って、暴漢じゃないし、丁寧だし楽しそうだし、いいね~」

 

 誰が暴漢で無礼な楽しくない人間だよ、誰が。

 俺ほどユーモアに溢れた人間なんていないだろうが。

 

 さって、夕食作りに行くか……

 

 

 

 

 

 

 

 妖夢と一緒に台所で夕食を作りながら、激しい虚無感を覚えていた。

 栞がいないだけで、こんなにもなるのか。

 

 精神的な意味でも、身体的な意味でも、支えられていたことに気が付く。

 まぁ、本当に今更なのだが。

 

「どうしたんですか? ぼーっとして」

「あ、あぁ、悪い。栞が翔の中に行って、な」

 

 そう言うと、妖夢は少し寂しそうな笑顔を見せた。

 そして。

 

「栞ちゃんは、大切ですか?」

「……ああ。俺にとって、かけがえのない程なんだろうな」

「……そう、ですか」

 

 俺がそう返事をしたら、妖夢の顔があからさまに沈んだ。

 ……どうしたんだろうか。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 自分が聞いておいてなんだけれど……少し、羨ましいというか、嫉妬してしまう。

 

 相模君と会った時の天君の笑顔は、滅多に見られない笑顔だった。

 本当に、心の底から嬉しそうだった。

 

 栞ちゃんが相模君の中に行ったと聞いた時の天君の顔は、寂しそうだった。

 かけがえのない存在とも言っていた。

 

 ……私は、彼の中でどれほどの存在になれているのだろうか。

 

 会っただけで笑顔を引き出す、そんなことができるだろうか。

 いなくなったら寂しくなる、そんな存在なのだろうか。

 そんなことを考えていると、少し……自信がなくなって、寂しくなって、苦しい。

 

 胸がキュッと締め付けられて、でも、彼のことしか考えられなくて。

 苦しみから逃れようにも、逃れられない。彼が頭に焼き付いているから。

 

 甘い思いと、苦い思い。それらが交錯して、私を放さない。

 結局は、どちらの思いも一緒にいたいという思いからきている。

 

 話せた時には嬉しいし、抱きしめられた日には、全身も思考も(とろ)けてしまう。

 他の女の子と話していたり、笑顔を見せている時には、それが私に向けた笑顔であってほしいと思う。

 私だけを見ていて、そばにいてほしい。私の独占欲の強さには、自分自身でも驚いてしまう。

 

 それでも。そうわかっていても。彼がほしい。

 

 そう考えていると、夕食を食べ進める箸の移動が遅くなる。

 そして、相模君の「へぇ……」という言葉と同時に、意地悪な笑みが浮かんでいた。

 

 

「で、どうして私をここに呼んだんですか?」

「まぁまぁ、いいじゃない。聞きたいことがあるんだよ」

 

 夕食が終わって、相模君の部屋に呼び出されたのだ。

 服等も紫様が、天君同様に用意したらしい。セルリアン・ムーンだってある。

 

「それでさぁ……妖夢ちゃんは、今の関係を壊してでも、天と恋人になりたい。そう思う?」

「あ……」

 

 彼がほしい。それは、恋人の関係を築き上げるということに他ならない。

 それが、恋というもの。恋を叶えたいならば、今の関係が壊れることは、避けられない。

 

 上手くいっても、いかなくても、関係が変わってしまう。

 さらに、天君とは同じ屋根の下で暮らし、修行する以上、気まずくなるのは必然。

 ……いい意味でも、悪い意味でも。

 

「少なくとも、まだ決めなくていいと思うよ。ただ、告白するなら、宴の日だね。花火上がるらしいし」

「な、なるほど……」

 

 告白するかしないかは置いといて、するならば、宴がいい機会になる。

 一緒に、宴を過ごしたい。

 

「お酒の力を借りるのも手かもね。ここでは未成年飲酒もいいらしいから、天も誘える」

「で、でも……やっぱり自分の力で、こ、告白したいです。好き、って……」

 

 彼に直接言っているわけでもないのに、恥ずかしくなってしまう。

 この調子だと、いざ告白となった時には、どうなってしまうのだろうか。

 

「やっぱ可愛いですね、幽々子さん!」

「えぇ、ホントそうよね。純粋というか一途というか……」

 

 ……え? 幽々子様の、声?

 

 幽々子様の声が相模君の部屋に響いた後、障子が開いた。

 やはり、そこには幽々子様。

 私は、多少呆れ気味になりながら言う。

 

「……何で聞いてるんですか……」

「言っとくけど、呼んだわけじゃないよ? ただちょっと目配せして……」

「ねぇ?」

「それを『呼ぶ』って言うんですよ……」

 

 全く……二人は会ったばかりなのに、どうしてこうも仲がいいのだろうか。

 やっぱり、気が合う者同士、考えてることは通じるのかな。

 

 随分と前に、能力が似ている、ということで、天君と私は似た者同士という会話をしたことを思い出す。

 そうなると、私と天君は、考えが通じ合っているんだろうか?

 

 ……そうだと、いいな。

 

「まぁ、私はそのことだけここに来たんじゃないわ。今から天を呼んでくるわ」

 

 そう言うや否や、幽々子様が天君の部屋に向かった。

 な、何だったのだろうか。

 

 天君も連れてくるということは、少なくともふざけた話じゃない。

 全員を、この時間に集めるということには、何か訳があるのだろう。

 

 時期から考えると……

 

「相模君が一番怪しいですね」

「その言い方はダメだ、妖夢ちゃん。犯罪者みたいに聞こえるからね」

 

 そんなくだらない話をしていると、すぐに幽々子様が天君を連れてやってきた。

 神憑を持ってきているあたり、また修行をしていたのだろう。やっぱり、そういうところがかっこいい。

 

 ……後で見に行こう。

 

「で、幽々子。皆揃うってことは、何かそれなりの話なんだろ?」

「ええ。お察しの通りよ。内容は……翔について」

 

 やっぱり、そうだったか。

 昼のあの戦法といい、崩れていない微笑といい、何かあるとは思っていたが。

 

「さっき紫から聞いたわ。それはね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――翔に、()()()()()()()よ」

 

 天君と同様、外来人の能力持ち。

 ……何かあるとは思っていたが、まさか能力まであったとは思わなかった。

 

 そうなると、相模君がこの幻想郷に来たのは――偶然じゃない可能性が高い。

 仮にそうだとしたら、天君と同じように、紫様に呼ばれたのだろう。

 

「まだ起きてるはずだから、今呼ぶわね。……紫~!」

「ハイは~い、翔の能力についてよね。わかってるわよ」

 

 幽々子様の声がかかった瞬間にスキマが出来た。待ってましたと言わんばかりに。

 

「じゃ、まず順を追って説明するわ。まず、能力発現を見つけたのは、天を幻想郷に呼んですぐよ」

 

 天君が幻想入りしてすぐ。なら、何故すぐに幻想入りさせなかったのだろうか。

 戦力が足りない今、少しでも修行の期間を延ばした方がいいのではないか。

 

 そう考え、口を開こうとしたところで、天君が私を向いて話す。

 

「同じ時期に二人も接点ある人物が消えたら、不自然だろ。一人でも十分不自然だが、複数になったらそれが跳ね上がる。どうせ呼ぶなら、ある程度は時期をズラした方がいいってわけだ」

「そ。話が早くて助かるわ」

 

 な、何で考えてることがわかったんだろ……

 あ……考えが通じ合ってるのかな? そうだったら、嬉しい。

 こんな時でも彼を想う私も、相当だと自覚はしている。

 

「で、もう一つは武器の調達。ある程度の武器を揃えるのには、時間がかかるのよ。作ってある武器を保存し続けるのも限界があるしね」

 

 さすがに使わないままずっと放置するわけにもいかない。

 ある程度揃えないといけないので、維持するための整備も大変。

 いざという時に使えない程朽ちていたら、それこそ無意味だ。

 

「呼んだ理由も、最初から幻獣と戦ってもらうため。翔が天の友人だったから、説明を省いていきなりこっちに飛ばしたの。少しでも早く幻想郷に適応してもらうために」

 

 天君に説明を丸投げする程なのか……。

 呼んだ目的も、最初から幻獣との戦闘。これはまぁ、武器の話の流れから予想はつく。

 となると、能力も戦闘に使えるものだろうか。

 

「で、本題の能力よ。翔の能力は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――『狂気的な冷静さを持つ程度の能力』よ」

 

 ……ふぅん……え?

 

「え、っと……相模君の前で言うのもなんですが、あんまり強そうじゃないです」

「おい、それは失礼。俺結構能力には期待したんだからね? 弱いとか遠まわしに言わない」

 

 とか言っているが、彼の顔には微笑が健在している。

 それほどショックなわけでもなさそう。

 

「あのね、彼にはこれから先、大きく役立ってもらう予定よ。その能力でも、戦闘センスでも」

 

 わけがわからない、と首をかしげていたら、天君から説明をもらう。

 ……天君、優しい。

 

「冷静さを常に保つなんてことができたら、戦闘ではどれだけ有利になれると思う?」

「え、えっと……攻撃を焦って躱さなくなる……あ!」

 

 今日の昼。微笑を浮かべたまま、私の攻撃をさばいていた。

 冷静さを保つことで、無理な回避をしなくなる。安定した動きで戦闘を運ばせられる。

 

「で、だ。その『冷静』は、狂気的なものだ。戦闘で武器を捨ててかかるってのは、特攻に近い。返り討ちにあったら終わりだ。それができるのは、ホントに狂気の冷静を持つ人だけ。返り討ちを躱せない」

 

 武器を捨てる。それは、わざわざ相手に隙を作る行為だ。

 そんなことをしたら、攻撃される一方だ。

 その攻撃を躱す、またはその前に押さえて無力化するのは、一般人なら不可能。

 

 どんな人でも、戦闘になったら、少しだけでも冷静さを欠く。

 武器を捨てる考えさえも持たないだろうし、捨てた後の対処がままならない。

 

 冷静。とはいえ、ただ冷静なわけじゃなく、『()()()()()()』冷静。

 それを持っているからこそ、相模君はあの戦法ができたんだ。

 

「そうなると、逆も有利だと言える。相手の奇襲に対してだ。反応さえ間に合えば、誰よりも的確な判断ができる。奇襲のメリットを限りなく相殺できるんだ。出現場所・時間が不明な幻獣戦において、かなり大きい」

「そうそう。さすが天ね。私が説明しなくていいのは助かるわ」

 

 紫様は楽したいだけなんじゃ……そ、それは置いといて。

 

 天君の考えを聞く限り、大きく有利になれる気もしてきた。

 ……相模君が若干自慢顔になっている。

 

 なんか、言いにくいけど、奔放な人というか、自由人というか……おちゃめ?

 

「で、それ以外にはなんかあるのか?」

「いえ、もうないわ。これだけ伝えたかったのよ。ありがと。紫も、ありがとね」

「いいのよ。じゃ、おやふみ~……ふぁう~」

 

 欠伸(あくび)をしながら、紫様がスキマに消えていく。

 

「じゃ、俺も行くわ」

「あ、待って。栞ちゃんを戻すよ」

 

 そう言ってしばらくして、栞ちゃんが戻ったのか、天君の顔が少し明るくなった。

 やっぱり、戻ってきたことが嬉しいのかな。

 

 それと同時に、幽々子様も部屋から出ていって、私と相模君だけが残って。

 

「ほら、今から天のとこ、行くんでしょ? 早く行ったほうがいいんじゃない?」

「な……! なんで、わか……!」

 

 そう言うと、相模君はニヤニヤと意地悪そうな笑顔を浮かべる。

 あ、わかった。子供っぽいんだ。

 

「ほらほら、大好きな異性のもとに行ってきな?」

「か、からかわないでください! ……いってきます」

 

 最後の声がとても小さくなって、それに反応した相模君が、また笑みを深める。

 中性的な顔立ちからも、子供っぽい感じが強く感じられる。

 

 その笑みを背に、部屋を出て外へ。

 多分、天君は黙って外で修行しているのだろう。

 

 

 

 外に出て、辺りを見渡して、彼を探してみる。

 

 ……いた。やっぱり。

 

 彼の真剣な横顔は、いつ見てもドキドキしてしまう。

 他の誰にも言わないで、黙って影で努力する、そんな彼が、私は大好きだ。




ありがとうございました!

前回、結構『冷静』を強調してたので、感づいた方もいるとは思います。
そのままの能力ですが。

相変わらず妖夢ちゃんのデレ具合。
翔君にからかわれながらも、しっかり行く妖夢ちゃん。

ではでは!

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