東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

タイトルが不穏ですが、大丈夫です。
明るい内容ではありますので。

……安定のネーミングセンスのなさには、目を瞑って下さい。

では、本編どうぞ!


第45話 狂気の沙汰

「あい、できたぞ~」

 

 そう天から声がかかって、料理が並べられていく中、幽々子さんが目を輝かせる。

 妖夢ちゃんだけじゃなくて、幽々子さんや早苗さんも可愛いんだよね~……

 この幻想郷というところは、美少女の楽園といったところなのか?

 

 

 

 

 それも、幻獣で潰されようとしているみたいだけど。

 

 しかも、それを天が解決の要因になったらしい。親友として鼻が高いというか。

 天がいきなりいなくなったのも、ここに幻獣を倒すために呼ばれたらしい。

 

 ちなみに俺は、ただただ偶然に幻想入り、というやつをしただけらしいが。

 俺は、呼ばれたわけではないのだ。

 そう考えると、天と会えたのはすごい確率だよね。

 

 ……ちょっと天? どんだけ置いてくの? 量が多すぎて絶対余る。絶対。

 

「よし、食べるか」

 

 皆で「いただきます」と手を合わせる。

 天の料理は前に何回か食べたことがあるが、中々美味しい。

 

 ……俺? 少しならできる程度だよ。

 おにぎり作ったり、炒り卵作ったり。

 

 

 いや、ウソウソ。さすがに普通の料理くらいならでき――

 

「……えっ?」

 

 何か、上手く言えないけど、()()()()()()()()。それも、すごい勢いで。

 なにこれすごい。

 

「ほら幽々子、翔が驚いてるぞ? ……幽々子は、かなり食べるんだよ。かなりで済ませられるレベルじゃなく」

 

 え、その細い体のどこに消えてるの?

 亡霊云々の話も聞いたけど、太らなくなるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やっぱり、胸にいってそうだよね、栄養。あれは大きすぎる。

 

 妖夢ちゃんは小さいが、あれは“さらし”を巻いていると見た。

 脱げば、普通くらいにはあると思う。

 

 ……何考えてんだろ、俺。

 

 

 

 しばらく食べ進めて。

 

「あ、幽々子さん。一ついいですか?」

「ん? ほうひはほ?」

「ちゃんと飲み込め、幽々子」

 

 幽々子さんが食べ物を飲み込むのを待つ。

 

「あのですね……俺も、()()()()()()()なぁ~なんて――」

「なっ……! お、おい、翔――」

「いいわよ~、で、武器は何がいいの? できるだけ用意するわよ?」

「お、おい幽々子も……!」

 

 聞く限り、相当危険らしい。

 だったら尚更、親友を見守るだけ、なんてできない。

 

 天は、結構な修行を積んでいるようだ。それも、この妖夢ちゃんに。

 能力に関しても色々聞いたが、天は天らしい能力だった。

 

 多分、俺には能力はない。皆の方が強いだろう。

 けど、俺は自分の可能性に、見切りをつけたくない。

 天の信じる、皆を信じたい。

 

「え~っと……片手剣、ブロードソードがいい。西洋のヤツ」

「りょ~かい。紫にでも頼んでみるわ。紫~」

「呼ばれて飛び出てぇ」

 

 『紫』の名前を呼んだ瞬間……これがスキマ? ってやつができて出てきた。

 話には聞いていた。いつでもどこでも現れる、天を呼んだ張本人の妖怪。

 

 でもまさか、こんなにタネなし手品みたいに出てくるとは思わなかった。

 しかし、聞くところによると、本当にタネなし手品をするメイドさんがいるらしい。

 もうどれが本当なのかわからなくなる。

 

「片手剣ってある?」

「あるわよ~。ちょっと待っててね~」

 

 そう言って、彼女がスキマに消えて数十秒後、また戻ってきた。

 便利だなぁ~……

 

「よい、しょ……はい、これでいい?」

 

 そうやって俺に見せられたのは、80cm弱くらいの長さの、鞘に入った片手剣。

 俺の身長が170cm程なので、身長の半分くらいだろうか。天が高いだけなのだよ。

 

 にしても、天の持っている刀は、相当に長いらしい。

 妖夢ちゃんの刀も、その身長にしては長い。

 

「ありがとう、紫さん」

「いえ、いいのよ。話は聞いてたから。天の親友君らしいじゃない。結構いい武器よ、それ。抜いてみて」

 

 持ってみるが、意外に重い。一キロくらいはあるだろうか?

 抜刀する。そこには、鏡の様に光を反射する、真っ白な刀身――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ではなく、青い海をそのまま刃にしたような、青い刀身があった。

 

「えっと……紫さん、これは?」

「その剣の名前は、『セルリアン・ムーン』。青の名前っぽいと思わない?」

「へぇ……セルリアン・ムーンね……」

 

 受けた光をそのまま弾くでもなく、自分の中に取り入れて、その光を離していない。

 まるで、青の月のように。

 その光が、剣の中で閉じ込められていて、深みのある青の輝きがある。

 

 その輝きに、自分までもが吸い込まれそうになる。それほど、美しさのある剣。

 剣の持つ深みは、光を受けると同時に、増していく。深海の具現化、というのが一番的確だろうか。

 

「うん……とてもいい。気に入ったよ。ありがと、紫さん」

「ええ。ただ、それを扱えるかどうかもわからないし、すぐに幻獣と戦えるわけじゃない。まずは、空を飛べるようにならないとね」

 

 空を飛ぶ、か……簡単そうに言うなぁ。

 ここ、冥界の白玉楼にいる以上、飛行は必須なのだろうけどね……

 仕方ないね。住まわせてもらえるんだし、空も飛べなかったら幻獣と戦えないかもしれない。

 

「わかった。天と一緒に修行してくよ」

「楽しみにしてるわ。それじゃあね」

 

 おぉ、またスキマに消えていった。

 移動とか便利だよね。『歩くどこでもドア』とか、『歩く四次元ポケット』とか呼ばれそう。

 狸の妖怪ではなさそうだけどね。

 

「じゃあ、食べましょうか」

「そうね……妖夢、おかわり頂戴」

「……はい、どうぞ」

 

 え、うそ、あんなにあった料理がなくなりかけている。

 それに加えて、幽々子さんはおかわりをご所望。

 ……食費は考えない方がいいのだろう。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 昼食を食べ終えて、片付けをした後に外へ。

 今日からは、俺と妖夢と、翔の三人で修行だ。

 

 だけど、西洋の剣については、刀と扱いが違いすぎるらしい。

 なので、教えることもできないのだとか。

 

「ま、適当にやればいいんじゃない?」

 

 この楽観的な性格は、今ばっかりは考え直してほしいものだ。

 命がかかっているのだ。そんな甘い考えはまずいと言ったら、彼からは、

 

「でも、自分の感覚に頼るしかないよ。だったら、いつもの冷静さを欠くのはタブーだよ?」

 

 と返された。彼も彼なりに、考えているようだ。

 

 で、今は妖夢と俺が翔の動きを見ているのだが……

 

「……天君。あれ、感覚だと思いますか?」

「本人は、そう言っていた。少なくとも、俺が外の世界にいた一年前までは、剣の練習はしてないはず」

 

 動き、というか、体の運び方が天才のそれなのだ。

 踏み込み等、まだまだ細かい部分は甘いが、剣を握ったばかりとは到底思えない。

 

 片手剣なので、どこかで練習するという機会自体も少ない。

 一年の間で剣道をやったかもしれないが、片手剣とは動きが違うと思う。

 剣に詳しいわけでもないので、はっきりとは言えないのだが。

 

 剣の振りを止めて、翔がこちらに向いて言う。

 

「ねぇねぇ、妖夢ちゃんってどれくらい強いの?」

「かなり強いぞ。俺一人じゃあ、絶対に勝てない」

 

 俺がそう言うと、興味があるのかないのかわからないような、「へぇ~」という声を翔が出した。

 その後の翔の言葉に、俺は驚くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~……じゃあさ、俺と天でなら、勝てそうじゃない?」

「バ、バカ、翔! 勝てるわけないだろ!」

 

 俺がそう言葉を飛ばして、妖夢の方を見る。

 え、笑顔が引きつってる……もう、戦う未来しか見えない。

 

「そ、そこまで言うなら、い、いいですよ……? 二人でかかってきてくださいね……?」

 

 ちょ、ちょっと怒ってない?

 さすがに剣持ったばっかの新人がこんなことを言い出したら、そうなるよね……

 

 ……え? 俺もやんの? 巻き添え? おかしくない?

 

 

 

 

 

「覚悟してくださいね……ふふふふ……」

 

 あぁ、もう取り返しのつかない事態になってしまった。

 幽々子もニヤニヤとこっちを見てくるし、主犯の翔も冷静になりすぎだし……

 なんで俺が一番焦ってるんだよ……!

 

(栞、どうしたらいい?)

(諦めよう。どう頑張っても勝てる相手じゃないよ。降参も無理そうだしね)

 

 ですよねー。これで降参ができるなら、今から土下座でもやってのける。

 ……いや、さすがに土下座はないかな?

 

「はいは~い、じゃあいくわよ~。……よ~い、始め!」

 

 幽々子の声がかかった瞬間、妖夢が消えた。

 音を、風を置き去りにする、この短距離を詰める疾走。

 聞いたところによると、短距離に限っては、妖夢が最速だとか。

 

 そうして、妖夢は翔に一直線。あぁ、さよなら、翔。君のことは一生忘れますん。

 

 妖夢が、目では追えないスピードで楼観剣を振り下ろす。

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――翔のセルリアン・ムーンが閃いた。

 ……え?

 

 最短距離を通って、楼観剣の先に。

 当たった瞬間に、甲高い金属音が鳴り響く。

 

 当然、妖夢は驚きを隠せない。俺だって、とても驚いている。

 

「なっ……!」

「ほらほら、妖夢ちゃん。どうしたの?」

 

 あのバカ、また調子に乗って……!

 

「いいですよ……なら!」

 

 今度は連続で、楼観剣が消える。

 消えては金属音、消えては金属音の繰り返し。

 

 ……それが意味することは、翔が妖夢の()()()()()()()()()()()ということ。

 

 妖夢が異変を感じ、一旦距離をとった。

 

「……貴方、どうしてそこまで――」

「あっれれ? 来ない? なら、こっちから行こうかな。……行くよ、天!」

「あ……? お、おう!」

 

 いきなりの出来事についていけず、返事が遅れる。

 翔は普通の速度で、俺は霊力強化で、一気に妖夢との距離を詰める。

 

 神憑を振り下ろす。が、やはりと言うべきか、妖夢は俺を警戒して、俺の攻撃は確実に弾いている。

 追いついた翔も別方向から攻撃しているが、白楼剣の方で防がれる。

 

 俺達も一旦後ろに下がり、距離を置く。

 

「じゃ、天。行ってくるよ」

「あ、ちょっと待て――!」

 

 俺が制止しようとしたが、それを聞かずに飛び込んでいく。

 

 そして、翔が剣を振ろうとして、妖夢がその先に楼観剣を構える。

 剣が振ろうとされた瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――セルリアン・ムーンが、空に飛ばされた。

 

 翔の手からは、青がなくなっている。

 な、なにやって……

 

「ちょ、ちょっと相模くん、それ――!」

「ほら、よそ見してていいのかい!?」

 

 妖夢がつられて飛ばされた剣を見た、一瞬の隙を突いて。

 翔が素早く妖夢の後ろに回り、左腕と彼の体で挟んで、妖夢の両腕をロックする。

 

 そして、落ちてきた剣を右手でキャッチし、妖夢の首筋に軽く添えるように当てて。

 彼特有の微笑を浮かべたまま、こう言った。

 

「はい、捕まえた。俺と天の勝ちだね」

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「……紫、どういうこと?」

「何が?」

 

 模擬戦開始と共に、紫が出てきて、一緒に観戦兼審判をしていたのだ。

 翔は体の運び方は天才だった。けれど、剣の扱い自体に慣れているわけではない。

 

 妖夢の一方的な勝ちで試合が終わると――そう、思っていた。確信していた。

 けれど……あの試合は、何?

 

 妖夢の攻撃は全て弾かれて、余裕の笑顔。

 妖夢は簡単に負けるような相手じゃないはず。ましてや、天は殆ど何もしていない。

 極端な話、翔だけでも勝っていたのだ。

 

 もっと驚くべきことは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――彼が、()()()()()勝っていないこと。

 

 勝負には勝っている。けれど、彼の勝因は、剣技だろうか? いや、違う。

 まともな剣の使い方で勝っていない。意表を突くやり方だ。

 それはそうだろう。武器を勝手に捨てているんだから。

 

 だが、彼は初心者。天に刀を教えていることは知っているはずだ。

 格上の相手と対峙して、武器を捨てるなんて愚行は、まず行動の選択肢にもないだろう。

 それが、彼にはあった。それができるということは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――彼が、()()()()()()()を持っている、ということ。

 

 何故行動の選択肢にないか。それは、冷静に考えて、武器を捨てることが、負けに直結するから。

 でも、それができる。それはもう、冷静だとか、冷静じゃないだとかの問題じゃない。

 

 ――まさに、狂気。狂気の沙汰(さた)だ。狂気にも等しい冷静さ。

 それは、一般の人間が持つには、到底かなわない。

 

「ねぇ、一つ聞くわ。本当に、一つだけ」

「なぁに? 一つだけなら、何でも答えるわよ?」

 

 言質は取った。

 この少年が、ここにいるのは、どう考えてもおかしい。

 それが何によって、この状況を作り出しているのか。

 

 

 

 

「翔は、本当に偶然に幻想入りしたの? それとも――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――()()()()()の?」

 

 そう私が聞くと、紫は微笑を浮かべて。

 スキマを開いて、中に入って。

 

「いやねぇ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――()()()()()()()()()じゃない?」

 

 そう紫が言った瞬間、彼女はスキマごと消え去った。




ありがとうございました!

翔君、超強い。
絶対に無双にはしませんが。

最初の方に『偶然幻想入り』と書いたのに、呼んだという。
詐欺です。

妖夢ちゃんの可愛さも詐欺級。
後書きが妖夢ちゃんへの愛で埋められつつありますね。

アンケートのご協力ありがとうございました!

結果なのですが、魂恋録優先と交互投稿の票数が同じになりました。
この二択でもう一度アンケートをとっても結果は変わらないと判断し、
誠に勝手ながら、「基本は交互で投稿、時々魂恋録を連続投稿」
ということにしたいと思います。

本当にありがとうございました!

ではでは!

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