タイトルが不穏ですが、大丈夫です。
明るい内容ではありますので。
……安定のネーミングセンスのなさには、目を瞑って下さい。
では、本編どうぞ!
「あい、できたぞ~」
そう天から声がかかって、料理が並べられていく中、幽々子さんが目を輝かせる。
妖夢ちゃんだけじゃなくて、幽々子さんや早苗さんも可愛いんだよね~……
この幻想郷というところは、美少女の楽園といったところなのか?
それも、幻獣で潰されようとしているみたいだけど。
しかも、それを天が解決の要因になったらしい。親友として鼻が高いというか。
天がいきなりいなくなったのも、ここに幻獣を倒すために呼ばれたらしい。
ちなみに俺は、ただただ偶然に幻想入り、というやつをしただけらしいが。
俺は、呼ばれたわけではないのだ。
そう考えると、天と会えたのはすごい確率だよね。
……ちょっと天? どんだけ置いてくの? 量が多すぎて絶対余る。絶対。
「よし、食べるか」
皆で「いただきます」と手を合わせる。
天の料理は前に何回か食べたことがあるが、中々美味しい。
……俺? 少しならできる程度だよ。
おにぎり作ったり、炒り卵作ったり。
いや、ウソウソ。さすがに普通の料理くらいならでき――
「……えっ?」
何か、上手く言えないけど、
なにこれすごい。
「ほら幽々子、翔が驚いてるぞ? ……幽々子は、かなり食べるんだよ。かなりで済ませられるレベルじゃなく」
え、その細い体のどこに消えてるの?
亡霊云々の話も聞いたけど、太らなくなるのかな?
……やっぱり、胸にいってそうだよね、栄養。あれは大きすぎる。
妖夢ちゃんは小さいが、あれは“さらし”を巻いていると見た。
脱げば、普通くらいにはあると思う。
……何考えてんだろ、俺。
しばらく食べ進めて。
「あ、幽々子さん。一ついいですか?」
「ん? ほうひはほ?」
「ちゃんと飲み込め、幽々子」
幽々子さんが食べ物を飲み込むのを待つ。
「あのですね……俺も、
「なっ……! お、おい、翔――」
「いいわよ~、で、武器は何がいいの? できるだけ用意するわよ?」
「お、おい幽々子も……!」
聞く限り、相当危険らしい。
だったら尚更、親友を見守るだけ、なんてできない。
天は、結構な修行を積んでいるようだ。それも、この妖夢ちゃんに。
能力に関しても色々聞いたが、天は天らしい能力だった。
多分、俺には能力はない。皆の方が強いだろう。
けど、俺は自分の可能性に、見切りをつけたくない。
天の信じる、皆を信じたい。
「え~っと……片手剣、ブロードソードがいい。西洋のヤツ」
「りょ~かい。紫にでも頼んでみるわ。紫~」
「呼ばれて飛び出てぇ」
『紫』の名前を呼んだ瞬間……これがスキマ? ってやつができて出てきた。
話には聞いていた。いつでもどこでも現れる、天を呼んだ張本人の妖怪。
でもまさか、こんなにタネなし手品みたいに出てくるとは思わなかった。
しかし、聞くところによると、本当にタネなし手品をするメイドさんがいるらしい。
もうどれが本当なのかわからなくなる。
「片手剣ってある?」
「あるわよ~。ちょっと待っててね~」
そう言って、彼女がスキマに消えて数十秒後、また戻ってきた。
便利だなぁ~……
「よい、しょ……はい、これでいい?」
そうやって俺に見せられたのは、80cm弱くらいの長さの、鞘に入った片手剣。
俺の身長が170cm程なので、身長の半分くらいだろうか。天が高いだけなのだよ。
にしても、天の持っている刀は、相当に長いらしい。
妖夢ちゃんの刀も、その身長にしては長い。
「ありがとう、紫さん」
「いえ、いいのよ。話は聞いてたから。天の親友君らしいじゃない。結構いい武器よ、それ。抜いてみて」
持ってみるが、意外に重い。一キロくらいはあるだろうか?
抜刀する。そこには、鏡の様に光を反射する、真っ白な刀身――
――ではなく、青い海をそのまま刃にしたような、青い刀身があった。
「えっと……紫さん、これは?」
「その剣の名前は、『セルリアン・ムーン』。青の名前っぽいと思わない?」
「へぇ……セルリアン・ムーンね……」
受けた光をそのまま弾くでもなく、自分の中に取り入れて、その光を離していない。
まるで、青の月のように。
その光が、剣の中で閉じ込められていて、深みのある青の輝きがある。
その輝きに、自分までもが吸い込まれそうになる。それほど、美しさのある剣。
剣の持つ深みは、光を受けると同時に、増していく。深海の具現化、というのが一番的確だろうか。
「うん……とてもいい。気に入ったよ。ありがと、紫さん」
「ええ。ただ、それを扱えるかどうかもわからないし、すぐに幻獣と戦えるわけじゃない。まずは、空を飛べるようにならないとね」
空を飛ぶ、か……簡単そうに言うなぁ。
ここ、冥界の白玉楼にいる以上、飛行は必須なのだろうけどね……
仕方ないね。住まわせてもらえるんだし、空も飛べなかったら幻獣と戦えないかもしれない。
「わかった。天と一緒に修行してくよ」
「楽しみにしてるわ。それじゃあね」
おぉ、またスキマに消えていった。
移動とか便利だよね。『歩くどこでもドア』とか、『歩く四次元ポケット』とか呼ばれそう。
狸の妖怪ではなさそうだけどね。
「じゃあ、食べましょうか」
「そうね……妖夢、おかわり頂戴」
「……はい、どうぞ」
え、うそ、あんなにあった料理がなくなりかけている。
それに加えて、幽々子さんはおかわりをご所望。
……食費は考えない方がいいのだろう。
―*―*―*―*―*―*―
昼食を食べ終えて、片付けをした後に外へ。
今日からは、俺と妖夢と、翔の三人で修行だ。
だけど、西洋の剣については、刀と扱いが違いすぎるらしい。
なので、教えることもできないのだとか。
「ま、適当にやればいいんじゃない?」
この楽観的な性格は、今ばっかりは考え直してほしいものだ。
命がかかっているのだ。そんな甘い考えはまずいと言ったら、彼からは、
「でも、自分の感覚に頼るしかないよ。だったら、いつもの冷静さを欠くのはタブーだよ?」
と返された。彼も彼なりに、考えているようだ。
で、今は妖夢と俺が翔の動きを見ているのだが……
「……天君。あれ、感覚だと思いますか?」
「本人は、そう言っていた。少なくとも、俺が外の世界にいた一年前までは、剣の練習はしてないはず」
動き、というか、体の運び方が天才のそれなのだ。
踏み込み等、まだまだ細かい部分は甘いが、剣を握ったばかりとは到底思えない。
片手剣なので、どこかで練習するという機会自体も少ない。
一年の間で剣道をやったかもしれないが、片手剣とは動きが違うと思う。
剣に詳しいわけでもないので、はっきりとは言えないのだが。
剣の振りを止めて、翔がこちらに向いて言う。
「ねぇねぇ、妖夢ちゃんってどれくらい強いの?」
「かなり強いぞ。俺一人じゃあ、絶対に勝てない」
俺がそう言うと、興味があるのかないのかわからないような、「へぇ~」という声を翔が出した。
その後の翔の言葉に、俺は驚くことになる。
「へぇ~……じゃあさ、俺と天でなら、勝てそうじゃない?」
「バ、バカ、翔! 勝てるわけないだろ!」
俺がそう言葉を飛ばして、妖夢の方を見る。
え、笑顔が引きつってる……もう、戦う未来しか見えない。
「そ、そこまで言うなら、い、いいですよ……? 二人でかかってきてくださいね……?」
ちょ、ちょっと怒ってない?
さすがに剣持ったばっかの新人がこんなことを言い出したら、そうなるよね……
……え? 俺もやんの? 巻き添え? おかしくない?
「覚悟してくださいね……ふふふふ……」
あぁ、もう取り返しのつかない事態になってしまった。
幽々子もニヤニヤとこっちを見てくるし、主犯の翔も冷静になりすぎだし……
なんで俺が一番焦ってるんだよ……!
(栞、どうしたらいい?)
(諦めよう。どう頑張っても勝てる相手じゃないよ。降参も無理そうだしね)
ですよねー。これで降参ができるなら、今から土下座でもやってのける。
……いや、さすがに土下座はないかな?
「はいは~い、じゃあいくわよ~。……よ~い、始め!」
幽々子の声がかかった瞬間、妖夢が消えた。
音を、風を置き去りにする、この短距離を詰める疾走。
聞いたところによると、短距離に限っては、妖夢が最速だとか。
そうして、妖夢は翔に一直線。あぁ、さよなら、翔。君のことは一生忘れますん。
妖夢が、目では追えないスピードで楼観剣を振り下ろす。
そして――
――翔のセルリアン・ムーンが閃いた。
……え?
最短距離を通って、楼観剣の先に。
当たった瞬間に、甲高い金属音が鳴り響く。
当然、妖夢は驚きを隠せない。俺だって、とても驚いている。
「なっ……!」
「ほらほら、妖夢ちゃん。どうしたの?」
あのバカ、また調子に乗って……!
「いいですよ……なら!」
今度は連続で、楼観剣が消える。
消えては金属音、消えては金属音の繰り返し。
……それが意味することは、翔が妖夢の
妖夢が異変を感じ、一旦距離をとった。
「……貴方、どうしてそこまで――」
「あっれれ? 来ない? なら、こっちから行こうかな。……行くよ、天!」
「あ……? お、おう!」
いきなりの出来事についていけず、返事が遅れる。
翔は普通の速度で、俺は霊力強化で、一気に妖夢との距離を詰める。
神憑を振り下ろす。が、やはりと言うべきか、妖夢は俺を警戒して、俺の攻撃は確実に弾いている。
追いついた翔も別方向から攻撃しているが、白楼剣の方で防がれる。
俺達も一旦後ろに下がり、距離を置く。
「じゃ、天。行ってくるよ」
「あ、ちょっと待て――!」
俺が制止しようとしたが、それを聞かずに飛び込んでいく。
そして、翔が剣を振ろうとして、妖夢がその先に楼観剣を構える。
剣が振ろうとされた瞬間――
――セルリアン・ムーンが、空に飛ばされた。
翔の手からは、青がなくなっている。
な、なにやって……
「ちょ、ちょっと相模くん、それ――!」
「ほら、よそ見してていいのかい!?」
妖夢がつられて飛ばされた剣を見た、一瞬の隙を突いて。
翔が素早く妖夢の後ろに回り、左腕と彼の体で挟んで、妖夢の両腕をロックする。
そして、落ちてきた剣を右手でキャッチし、妖夢の首筋に軽く添えるように当てて。
彼特有の微笑を浮かべたまま、こう言った。
「はい、捕まえた。俺と天の勝ちだね」
―*―*―*―*―*―*―
「……紫、どういうこと?」
「何が?」
模擬戦開始と共に、紫が出てきて、一緒に観戦兼審判をしていたのだ。
翔は体の運び方は天才だった。けれど、剣の扱い自体に慣れているわけではない。
妖夢の一方的な勝ちで試合が終わると――そう、思っていた。確信していた。
けれど……あの試合は、何?
妖夢の攻撃は全て弾かれて、余裕の笑顔。
妖夢は簡単に負けるような相手じゃないはず。ましてや、天は殆ど何もしていない。
極端な話、翔だけでも勝っていたのだ。
もっと驚くべきことは――
――彼が、
勝負には勝っている。けれど、彼の勝因は、剣技だろうか? いや、違う。
まともな剣の使い方で勝っていない。意表を突くやり方だ。
それはそうだろう。武器を勝手に捨てているんだから。
だが、彼は初心者。天に刀を教えていることは知っているはずだ。
格上の相手と対峙して、武器を捨てるなんて愚行は、まず行動の選択肢にもないだろう。
それが、彼にはあった。それができるということは――
――彼が、
何故行動の選択肢にないか。それは、冷静に考えて、武器を捨てることが、負けに直結するから。
でも、それができる。それはもう、冷静だとか、冷静じゃないだとかの問題じゃない。
――まさに、狂気。狂気の
それは、一般の人間が持つには、到底かなわない。
「ねぇ、一つ聞くわ。本当に、一つだけ」
「なぁに? 一つだけなら、何でも答えるわよ?」
言質は取った。
この少年が、ここにいるのは、どう考えてもおかしい。
それが何によって、この状況を作り出しているのか。
「翔は、本当に偶然に幻想入りしたの? それとも――
――
そう私が聞くと、紫は微笑を浮かべて。
スキマを開いて、中に入って。
「いやねぇ……
――
そう紫が言った瞬間、彼女はスキマごと消え去った。
ありがとうございました!
翔君、超強い。
絶対に無双にはしませんが。
最初の方に『偶然幻想入り』と書いたのに、呼んだという。
詐欺です。
妖夢ちゃんの可愛さも詐欺級。
後書きが妖夢ちゃんへの愛で埋められつつありますね。
アンケートのご協力ありがとうございました!
結果なのですが、魂恋録優先と交互投稿の票数が同じになりました。
この二択でもう一度アンケートをとっても結果は変わらないと判断し、
誠に勝手ながら、「基本は交互で投稿、時々魂恋録を連続投稿」
ということにしたいと思います。
本当にありがとうございました!
ではでは!