東方魂恋録   作:狼々

44 / 90
どうも、狼々です!

今回で長かった第4章も最後!

ちなみに、今回は、5話以内に出すと言った、あのキャラのヒントが最後に!
もうわかっている方もいるのではないでしょうか?

いつの間にか毎日投稿復活! これからも頑張ってまいります!

それに、お気に入り数が50を超えました! 皆さん、ありがとうございます!
少なくとも、この作品を50人の方々が見てくれていると考えると、緊張しますね。
この緊張があることに、感謝感謝。

では、本編どうぞ!


第43話 私が全部、受け止めるから。

「天君に、嫌われ、ちゃいましたぁ……!」

 

 聞こえたのは、妖夢の落胆した、湿っている声。

 見えたのは、妖夢の泣きじゃくり、涙が止まらない姿。

 

 迂闊だった。私にだって、何かできたかもしれないのに。

 

 甘く見ていた。天がどれだけ悩んでいるのかを。

 甘く見ていた。妖夢が彼のことをどれだけ大切に思っているのかを。

 

 ……甘く見ていた。この二人の間にできる渓谷の深さを。

 

「……そう。それで、彼は止めたの?」

「止めようと、して、腕を掴みました。けどぉ……振り払われちゃって……!」

 

 声の震えは、次第に大きくなっていく。

 涙の落ちる間隔は、次第に短くなっていく。

 

 私も、そんな妖夢を見て、泣きたくなってきそうになる。

 ……けれど、妖夢の方が悲しいのだ。私は泣くべきではない。

 

 私は、彼の為にも、彼女の為にも、何もしてやれなかった。

 今、自分のするべきことは。

 

「貴女、一度くらいで諦められちゃうの?」

「諦めたくなんてないです! けど、彼はもう、外の世界に帰る、って……」

 

 なるほど。一生会えないのか、帰ったら。

 けれど、それは帰ることができたらの話。

 

「よく考えてみなさいよ。紫が呼び出したのよ? 帰らせるか決めるのは紫よ。天が勝手に帰るのは無理」

 

 境界を操る妖怪の紫でない限り、外の世界と幻想郷の行き来は、自由自在には不可能。

 たまに外来人がこちらに流れ込むだけ。

 

 自分の意識のままにそれができるのは、今のところ紫のみ。

 天が勝手に帰るのは、事実上不可能なのだ。

 

 紫が帰らせることを許可するならば話が別だが、その可能性も極めて低い。

 

 彼女は、結構さっぱりとした性格だ。

 もし今、このタイミングで外の世界に帰らせるくらいなら、とっくに紫の方から幻想郷を追い出していることだろう。

 

 これで外の世界に帰ることについては解決。

 

「でもねぇ……彼、一人だしねぇ……もし、幻獣が来たら……()()()()()()()

 

 あえて『死ぬ』ということを強調する。

 

 瞬間、震えていた妖夢の肩が、ビクンと大きく震える。

 

「死んだら、もう絶対会えないわね。外の世界にだったら戻ってくる可能性は、低いけどある。けど……さすがに死んじゃぁね……」

 

 もう一度、大きく肩を震わせる。

 

 妖夢は気付かない。ここが冥界だということに。

 彼女は、本当にどこか抜けている。彼と同じだ。

 

 

 

「……結局、最後まで一人で死んじゃうことになるのね」

 

 そう言った瞬間、妖夢が見たこともないような速度で飛び始め、冥界を降りた。

 私に「いってきます」も言わずに。

 

 そして、一人呟く。

 

「……バカね。お互い、嫌えるはずなんてないのにね」

 

 彼と彼女が帰ってくることを信じ、玄関へ。

 廊下を歩いて自室に入り、あたかも日常が流れていることを、自分に認知させる。

 

 

 

「はぁ~……お腹空いたわね。早く二人のコックは来ないのかしら」

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 幽々子様の言葉を聞いていて、いきなり飛び出してしまった。

 挨拶もしないで、彼のもとに。

 自分も今までにないくらいのスピードを感じて飛んでいることに気が付く。

 

 自分がどれだけ彼を想っているかが、明確な尺度となっている。

 

 どこにいるかはわからない。

 けれど、だからといって探さないのは嫌だ。

 それで、彼が死ぬのは、何よりも嫌だ。

 

 飛んでしばらくして。

 ……いた。間違いない、天君だ。

 かなり遠いけれど、絶対に天君だ。私にはわかる。

 

 のだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――落下し続けている。

 

 あ、あれ、なに、して……

 

 彼が落下する理由は、大きくわけて三つほど考えられる。

 

 一つ。栞ちゃんの含む霊力までもが切れて、飛ぼうにも飛べない。

 一つ。続いた厳しい修行の疲労で、飛んでいる途中で意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……一つ。自ら、死を――

 

「天君!!」

 

 私は、飛び出した。

 色々考えるよりも、彼を助けることが先だ。

 どれにしても、彼が自力で落下を止めることはない。

 

 そして、全力で飛び始めて、気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あ、まにあわ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――いやだ。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

 

 

 

 

 絶対に、間に合わせる!

 

 瞬間。

 

 白玉楼を出たスピードを、さらに凌ぐ程のスピードが。

 

 風を切り裂き、光景のスクロールは早く、目まぐるしく。

 

 けれど、それでも。間に合うかどうかはわからない。

 

 

 

 お願い! 間に合って――!

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 もう地面に半秒程で着き、大きな肉塊と血海をつくろうとしたところで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重力通りに、体が動かなくなった。

 正確には――誰かが俺を空中で受け止めた。目を閉じている俺には、わからない。

 

「はぁっ……はぁっ……間に、合ったよ……神様……!」

 

 この声は。しゃらん、と、鈴が鳴ったように高い、凛とした声は。

 

「妖夢……」

「よかった、ですよ……天君」

 

 目を開けて、彼女の優しげな表情が、俺の心に傷を付ける。

 この笑顔に見惚れ、惚れたのだと思うと。

 この笑顔で、死のうとした俺を、出ていこうとした俺を、助けてくれたと思うと。

 

「何で……助けたんだよ……! 俺はもう、ここでも外の世界でも毛嫌いされるんだよ……! このまま死ねれば、どれだけ楽だったことか……!」

 

 涙が自然に流れ、腕を目の上に乗せ、妖夢に見られないようにする。

 せめて、最後まで弱い所を見せたくない。

 

 妖夢に抱えられたまま、彼女が地面に着地。

 俺も、彼女の腕の中から出て、地面に立つ。

 そしてすぐに、下が地面なのも気にせずに、仰向けになる。

 

 未だに腕を乗せていて、昼の太陽が眩しいかのようになっていた時。

 

「ほら、天君。そんな所に頭をつけては、汚れますよ?」

 

 そう言って、妖夢は俺の頭を上げ、もう一度下げた。

 が、俺の頭がついたのは、硬く、冷たい地面ではなく――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――柔らかい、少し温かい、妖夢の膝だった。

 

 膝……枕……?

 

「妖夢……なに、して――」

「私を含めて、この幻想郷で貴方と関わった全員は、『()()()()』が好きなんですよ」

 

 そう言って、彼女は俺の頭を撫で始めた。

 優しく、優しく。細く小さい、他人よりも冷たい指と手。

 

 だけれど、俺にとっては、これほど温かい、頼りたいものはなかった。

 それに伴って、俺の流す涙の量も増える。

 

 さらには、妖夢の『好き』。恋愛的な意味ではないけれど。

 だからこそ、俺の心を揺らすのには、十分過ぎた。

 

「天君の力じゃない。他でもない、天君が。私は、天君の全部が好きです。努力を続けるところとか、優しいところとか、笑顔が眩しいところとかも」

 

 俺の涙はさらに増え、頭を撫でてくれる手は、依然として優しいまま。

 ……いや、さらに優しくなっただろうか。

 

 俺は、彼女の手を振り払ってしまったのだ。

 きっと、悲しかっただろうに。人から見捨てられたら、誰だって悲しい。

 俺が一番、知っていることだったのに……!

 

「でも、唯一ですが、嫌いなところもあります。それは、そうやって自分一人で抱えて、自分一人で頑張って、自分一人で泣くところです」

 

 俺の涙と共に、嗚咽が止まらなくなる。

 

 俺は、妖夢になんてことをしてしまったんだ……!

 

「いいじゃないですか、他人に頼っても。それは弱さじゃない。逆に皆が心配します。私が一番心配しているのには、自信がありますよ? ふふっ」

 

 妖夢の優しく笑う声が聴こえる。

 

 俺は、妖夢に、謝らないといけない……。

 

「妖夢……本当に、ごめん……俺は、なんてことをしたんだろうな……!」

「そうやって素直に謝るところも、私の好きな天君のいいところです。えらいえらい、なんて」

 

 妖夢の手が、頬にも移動した。

 頬を擦られた後、俺が流していた涙をすくい上げられた。

 

「泣いてもいいんですよ。少なくとも、私の前では。私も、嬉しいんですよ。私の前で泣いてくれることが。それだけ、私に心を許してくれていることが」

 

 そうして、最後に。

 俺は妖夢に体を起こされて、抱きしめられた。

 

「目一杯泣いてください。力に固執することはないんです。どんな悩みも外に出してください。……私が全部、受け止めるから」

「……妖夢ぅ! ぁぁぁああ!」

 

 震える声で。弱々しい声で。

 俺は声を上げて泣いた。今まで生きてきた中で、他人に見せた泣き顔は、一番ひどいものだったろう。

 他人に見せた泣き声は、一番濡れていただろう。

 

 そして、わかった。やっぱり俺は、どうしても妖夢が諦めきれない。好きなんだ。

 ――いや、()()()なんだ。

 

 

 どんよりと淀んだ灰色の雲は一切なくなり、ただ快晴の蒼い(そら)と、眩しい陽光だけが見えていた。

 その陽光が照らしたものは、決して場所や空間だけにとどまることはなかった。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 本当に良かった。

 天君を助けるのも間に合ったし、思い切り泣いてくれるし。

 

 間に合ったことに関しては、想いの強さが成せる技だったかな? とも思っている。

 恥ずかしいけれど、何をどう言おうと、私は彼が大好き。

 

 やっと、本当の意味で信頼してくれたんだ。

 今までも信頼するとは言ってくれた。それも嬉しかった。

 

 けれど、それは所詮口約束だった。でも。

 今はこうやって、泣いてくれている。

 

 私も泣きたい。嬉しさで、思い切り。

 けれど、今泣くのは違うと思うんだ。

 今は、笑顔で天君を受け止めるべきだと、そう思う。

 

 

 ふと、依然に私と彼の胸元にかかっているペアネックレスが。

 

 眩しい陽光を反射させて、精一杯の輝きを見せた。まるで、私達の『嬉しい』の気持ちのように。

 

 無限にも続く蒼い(そら)に、二羽の白い鳥が羽ばたいていくのが見えた。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「……ありがとう。もう大丈夫だ」

「ええ。それは良かったです。もう、無理しないでくださいね?」

 

 俺は妖夢に気付かされた。気付かせてくれた。

 大切なことを、たくさん。

 

 俺はもう、迷う必要も、一人で背負う必要もないんだ。

 力に執着する必要もない。

 

 ――皆は、()()()を必要としてくれているんだ。

 

 そう思った瞬間。聞き覚えのある声が二人分、頭の中で響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……やっと、気付いたんだね、天)

 

 ――やっと気付いたかよ。遅すぎだ、俺。

 

 

 

 妖夢と一緒に白玉楼へ飛んでいった。

 気がつけば、すぐに着いていた。

 

 向かう途中に聞いたのだが、幽々子もこのことを知っているらしい。

 それどころか、妖夢を俺のところへ行かせるよう、感化したらしい。

 

 

 廊下を歩いて、幽々子の部屋の前。

 この部屋に緊張感を持って入るのは、もう何度目になるかわからない。

 

 深呼吸の後に障子を開け、一人の亡霊の姿。

 そして、その亡霊は、いつもとなんら変わらない笑顔で、こう言ったのだ。

 

 

 

 

「あら、おかえりなさい、二人共。私、お腹空いたわ♪」

「ふふっ……ええ、ただいま作ります」

「ははっ……了解、主様。作ってくるよ」

 

 俺と妖夢は幽々子の部屋を後にして、台所へ向かう。

 

 本当、幽々子のこういうところはありがたい。

 何も気にしないで、あたかも何もなかったかのように接してくれる、寛大さと優しさが。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 そこは、ただひたすらに暗かった。

 私の部屋とは真逆。そして、目の前には、見慣れた影のような人物。

 

 

 

 

 

 

    君が私を呼び出すなんて、珍しいこともあるもんだね、ソラ?

 

 ――まぁな。ちょっと世間話っつーか、俺のことでな。

 

    ホント、手のかかる天だよね。あんなのはすぐに気づくべきなんだよ。そもそも間違えるべきじゃない。

 

 ――それには同意だ。全く、俺にはつくづく呆れる。なぁ、栞?

 

    ……ねぇソラ、丸くなった? 暴力的じゃなくなったねぇ。

 

 ――改心でもしたんじゃねぇの? 俺にも言われたよ。変わったな、って。

 

    本当に変わってるのはどっちだ? って返してやれば良かったねぇ。

 

 ――違いない。にしても、栞もオレへの対応が、随分と甘いんじゃね~の?

 

    天があんまし気にしなくなったし、大丈夫だと思ったんだよ。『信頼』してるんだよ? ほれほれ?

 

 ――それは馬鹿な俺にだけで十分だよ。……ただ、俺には信頼をつきこんでやってくれ。頼むぜ?

 

    ……まさか、ソラって――

 

 ――あぁ、そういうのいいよ。別にオレはどうでもいいだろ? ……それに関しては、俺には言うな。意味がなくなる。

 

    ……肯定と捉えるよ。わかった。言わないと約束する。……私は、天とソラ、二人を『信頼』するよ。

 

 

 そう言って、私は『黒』から抜け出して、白の部屋に。

 

 

 戻った後には、『黒』でこんな呟きが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――勝手にしろ。俺を『信頼』するにせよ、――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――オレを『信頼』するにせよ。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 

 

 ……どうして?

 

 目の前には、神社が広がっている。見たこともない場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あっれれ~……ここ、どこ?」




ありがとうございました!

ビクンと震える妖夢(意味深)。
な、なんて卑猥なんだ! けしからん!

狼々「僕がもっと妖夢ちゃんをビクンビクンさせてあg(ピチューン

すみません。いや、ほんとに。

てか、膝枕を代わってほしいよ、天君。

最後の口調は、もしや……?

只今、アンケートを取っています! 魂恋録と捻くれの投稿ペースについてです。
お手数ですが、活動報告もしくはツイッターにお願いします。
投票の際は、どちらか片方の投票でお願いします!
両方投票してくださっている方は、報告をお願いします。

これからの投稿に関わるので、
できるだけ参加して頂けると嬉しいなぁ……|д゚)チラッ

ではでは!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。