東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!
最近、私の生活の中心が小説投稿になりつつあります。

朝起きて学校へ行き、授業を適当に受けながら頭で魂恋録のネタを考え、
学校が終わって走って帰り、すぐさまPC起動。小説を書き。
夕食の時間まで書いて夕食食べたら、また執筆。
そして宿題して、終わったらまた執筆。そして就寝という。

何という生活リズム。

楽しいんで私は満足ですが。

では、本編どうぞ!


第38話 私は『中』を知ってるから

俺が彼女を抱き締めて数分もしたところで、妖夢がようやく離れた。

……少し、残念というか、寂しいというか。

 

「す、すみません! わ、私ったら……!」

 

急に正気に戻った妖夢が、慌てている。

俺もビックリだが、意識がコントロールできないのだろうか?

俺の発情云々の時みたいな感じだろうか……?

 

――いや、だとしたら、妖夢が俺に――!

 

「あ、ああ、いいんだよ。辛くなったら、いつでも頼ってくれていい」

「……それは、天君なんじゃないですか?」

 

さっきまでの慌てようが急に引っ込み、眼差しが真っ直ぐになった。

……急にどうしたのだろうか。

 

妖夢はあまりふざけるような人物じゃない。それは長いこと接していてわかる。

第一、そんなことは長くなくともわかる。

この目が“本物”であることぐらい。

 

だったら、俺の返す言葉は一つだ。

 

「……いや、別に? 俺が辛くなることなんてないだろ。ここはいい所だ。俺が辛くなるようなことは何一つないよ」

 

隠す。隠し続ける。

隠すと言っても、本当になんのことかわからないのだが。

いきなり『辛いか?』、なんて質問に答えられない。何に対して辛いのかもわからないから。

 

「いえ、恐らくあるでしょう? ここ『は』いい所だと、貴方は言いました」

「……それが、どうした?」

「貴方のいた外で、何かありましたよね、辛いことが」

 

……なるほど。

俺がそう言われて頭に浮かんだのは、同級生の冷たい態度と、親に捨てられたこと。

今まで妖夢には、外の俺に関しては殆ど話してこなかった。

 

何故か?――自分が弱いと思われたくないから。

 

いつまでも過去のことに泣きついている奴なんて、誰が好きになろうか。

恋愛的な意味でも、友好的な意味でも。

ましてや、ここ幻想郷には一切の関係がない。無関係なことを、どこまでも引きずっていられない。

それが、自分の弱さに直結すると思っているから。弱いが嫌いに変わるとわかっているから。

 

故に、隠し続けることを選ぶ。

 

「……いや? 辛いことがない人間なんて一人もいねぇよ。それより――」

「そうですね。……じゃあ、貴方のその辛そうな、悲しそうな目はどうしたんですか?」

 

目……?

俺が目で、妖夢に助けを()うている。そう言いたいのか?

そんなはずはない。

 

「どうもないだろ。いつもと変わらないはずだよ。目の変化なんて、大したことじゃない」

 

そう言った直後。

 

 

 

 

「……じゃあ、もういいですよ」

 

 

 

 

彼女の冷淡な声が聞こえた。

こんな声を聞くのは、今までで初めてだ。

そして、目。何よりも俺が恐れた目。

 

 

人を見放す時の目をしていた。

そこで思い出したのは。

 

両親が、俺を捨てた時の目。

 

二人の目と、妖夢の目が、殆ど一致していた。

二人はまだ笑顔で柔らかさがあったからまだ良かったが、妖夢は違う。

 

真剣に、自分の心の奥から。本音で言っていることがわかるような表情をしていた。

 

そして、俺は感じてしまう。

 

 

 

 

――妖夢に、捨てられる。

 

「ま、待って――! 痛っ……」

「……天君?」

 

咄嗟に起き上がろうとして、傷を負ったばかりの腹が再び痛みだし、起き上がれない。

でも、俺にはそれ以上の痛みがあることを察知している。

 

「ま、待ってくれ! 行かないでくれ……!」

「何があったんですか……? そんなになって引き止めるのは、相当なことがあったんですよね……?」

 

相当なこと。

そうなると、両親の方の悲しみだ。

まだ同級生なら良い方だろう。けれど、それよりも大きい悲しみが、それ。

 

小学生になったばかりの俺に、酷な現実を突きつけられて。

悲しくないはずがない。現に、今でも俺の記憶の中で、心を抉り続けている。

 

「天君。違うなら違うと言ってください。……ご両親のこと、ですか?」

「なっ……なんで、わかる?」

 

先の通り、俺は一度も外の俺の境遇などは話したことがない。

数多くある可能性の中で、両親だけをピックアップすることは、偶然ではない。

いや、偶然はありえる。が、それが正解であることが問題なのだ。

 

「天君が寝ていた時。ついさっきのことです。『母さん、父さん、行かないで』、って聞こえたんですよ。貴方のその口から。目からは涙まで流して」

 

これは……何とも言えないな。

ゆめの中でそんなことは言った気がする。

こっちで声が漏れていたとは、何とも言えない、としか言いようがない。

 

「あっははは……いや~、まぁ大したことは――」

「大したことがないなら、あんな目はしてません」

「……全く、妖夢には敵わないよ。嘘なんて到底吐けたものじゃない」

「えっへん。……少しは、話してください。私も、貴方を支えたいんです」

 

いつもの女神の笑みが浮かんだ。

『ああ、この笑顔に、俺は惚れたんだ』、と心の底から感じる。

てか、『えっへん』だってさ。可愛いにも程があるだろ。

 

さすがに話さないってのも、限界があるか。

 

妖夢に座るように促す。

すると、妖夢は椅子に座らず、俺のベッドに座ってきた。

距離が近くて、余計に意識してしまう。

 

雑念を振り払い、俺は淡々と妖夢に話す。

 

「俺が6歳の時だ。……両親が、俺を捨てたんだよ」

「ぁ……」

 

妖夢が途端にばつの悪い顔をした。

聞いてしまったことの罪悪感だろうか。

 

「いいんだよ。……それでな? 俺は叔父と叔母――親戚に引き取られた」

 

できる限りいつもの口調を変えずに話す。

自分ではそんなに気にしていないことを装うために。

妖夢から視線を外し、天井を見て。

 

「で、色々迷惑かけたんだよ。学校に行くのもな。でも、勉強ができれば、あまり迷惑かけないで済むような制度が取られてたんだよ。俺は必死になって勉強してた」

 

妖夢はすぐに、真剣な顔に戻って、俺の話を真摯に聞いてくれる。

そのことが、少し嬉しかった。

 

「で、その制度を維持する必要があった。勉強するんじゃなく、勉強『し続ける』ってことだ。当然、俺は継続させた。……でもな、学校で……テスト、と言ってわかるか?」

 

妖夢が小さく首を横に振る。

なので、少しばかりテストの説明を。

 

「……で、そのテストが制度の基準だったんだ。そのテストの結果は、皆に見られるように掲示されてた。結果がいい人は点数だけじゃなく、名前も載った。で、俺が学校で一番だったんだよ」

「え!? す、すごいじゃないですか! 私まで嬉しくなりますね♪」

 

う……可愛い……!

この笑顔の破壊力が凄まじいことは分かっていたが、これほどまでとは……!

どれだけ自分が妖夢の笑顔が好きなのかがわかるな。

 

「……だがな、妖夢みたいにいい印象を持つ人間なんていなかったんだよ。……あ、いや、一人くらいはいたかな?」

 

今頃、翔は何してんのかな……

俺が一年近く行方不明になって、世間はどれだけ騒いでいるんだろうか。

……そこまで騒いでもなさそうだが。

傍から見たら神隠しだから、ニュースくらいはありそうだ。証拠も残らず消えたんだし。

 

「どうして、ですか? 頑張ったのは天君です。称えることはあっても、悪いことを考える人はいないと思いますが……」

「あのな、俺も言いたくないんだが、外の人間は、ここの皆ほど清い心を持ってる訳じゃないんだ」

 

本当に、汚れてばかりの心を――いや、『しか』持っていない奴もいた。

 

「表面上だけで判断するんだよ。中身さえ見られないまま、その人の価値をレッテルとして貼り付ける。俺の場合だと、『何でそんなに勉強できるんだ』、って嫉妬みたいな感じだよ」

 

本当に迷惑な話だ。こっちの身にもなってほしい。

 

「何もしてない。かといって、することさえ許されない。一度型にはまりきった評価は、崩そうともさせてくれない。自分たちの価値観だけを押し付けていく」

 

勿論、全員がそうではない。が、何もしてない人間も、俺のことを何とかしようだなんて思ってない。

そう思われている時点で、俺は見放されているのだ。

 

「それで、同じ考えを持つ者同士で集まって、俺を卑下する。自分達の存在価値を少しでも上げようとするために。他人を下に見て、自分が優位であると錯覚させて」

 

そう、錯覚。

結局のところ、それは現実を遠ざけようとしているだけ。

ただ、多くの人間がその錯覚に縋る。それだけは錯覚じゃない。

 

「……っと、悪い。大分話がそれたな。ごめん。まぁ、あんま大した事ないから――」

「――おかしい……そんなの、絶対に、許せない」

「……妖夢?」

 

ふと、妖夢を見ると、今にも泣きそうな顔で声を絞り出していた。

いや、もう目尻には涙が溜まってしまっている。

 

「お、おい妖夢、何で妖夢が泣くんだよ。俺のことなんて――」

「その言い方、やめて。『なんか』なんて言わないで」

 

泣きながら、しかし強い、真っ直ぐにな眼差しで俺を見つめる。

妖夢の視線に、射抜かれた。

 

「私、今までずっと貴方の努力を見てきた。一切努力を惜しまないその姿は、かっこいいです」

 

かっこいい、と好きな女の子に突然言われ、こんな状況でも心臓が跳ねる。

跳ねた後も、暴れ続ける。全く落ち着く気配もない。

 

「正直、私からは、言わせておけばいい、なの。天には少し厳しいかもしれない。けど、貴方のいいところを限られた人だけが知っている。その中に、私もいると考えると、嬉しくてたまらないの」

「な、なにを、言って――」

「私は、天の努力を尊敬してる! 卑下なんてとんでもない!」

 

涙を振り払うかの様にして、一層に目を真っ直ぐ向けて、力強く言う。

 

「私は貴方の『中』を知っています。皆は『外』しか知りません。それでいいじゃないですか。私だけじゃない、他の皆も天君の『中』を知っていますよ?」

 

敬語に戻った彼女の声が、静かに、安らかに部屋に響く。

俺はまだ驚きを隠せない。

 

「……俺は、この言葉を、ずっと欲しかったんだろうな」

「それなら、よかったです」

 

妖夢の静かな笑いは、俺の頭に焼き付いて離れなかった。

 

 

 

 

妖夢とその後も色々会話した。

基本は俺への励ましだったが。実際、救われた。

 

今、妖夢は夕食を作らなければならないので、白玉楼に戻るとのこと。

で、再びあの三日が始まるわけだが。

 

(暇だな~)

(暇だねぇ~)

 

栞とのこのやる気のない会話。

どれだけ暇なのかが見て取れることだろう。

 

(にしても、天の性欲はすごかったね)

(まだその話を持ってくるかよ! それに性欲言うな!)

 

いくら暇とはいえ、こんな会話で楽しめる訳がない。

栞は面白そうだが。当の俺は全然面白くない。

不快感が募るばかりだ。

 

(でも、よかったじゃん。生きてる、ってことは、告白できる、ってことだよ?)

(……まあ、そうだな)

 

死んでも亡霊になりそうなものだが。

死ぬことに未練があると亡霊なんだったか?

妖夢に会っただけで成仏してしまいそうだから、生きてた方がいいか。

会わなくとも、妖夢の元気そうな顔が見られれば、一瞬で成仏する可能性すらある。

 

(生きてる内に告白しなきゃね。そのためにもまずは、怪我の完治からだね)

(そうだな。ほんっと、死んだと思ったよ。あの感覚はもう二度と味わいたくない)

 

あの自分の体に異物が思い切り入ったかのような。

ただ痛くて血が流れるだけ。そんなもんじゃない。

まさか、あんな経験をしてこれからを生きるとは思わなんだ。

 

(私もビックリしたよ。……そう! 何あの『煉獄業火の閃』って! 練習してないよね!?)

(ふっふっふ、だろ? あれ、即興なんだぜ? しかも、あの『虚無ノ絶撃』もだぞ?)

 

俺は自信満々に言う。こればっかりは褒めてもらいたい。

間違いなく活躍してたろ。

 

(いや~、ホントに面白いね! 今まで天みたいな面白い人は見たことがないよ!)

 

それは褒めているのか? それともけなしているのか?

バカっぽい、アホっぽいとかの意味だったら許すことはできない。

 

(そうかい。ま、俺の才能、ってやつだな)

(……そうやって自分の努力を隠そうとするトコ、私は好きだよ)

(……は?)

 

それは告白か?

いやでも俺は妖夢が好きだしな……

 

(あはは、やっぱり面白い。からかいがいがあるね♪)

(おい今すぐ魂の部屋に連れてけ。話があるんだよとってもとっても大事ななぁ!)

(わーお、暴漢だ~!)

 

そろそろ俺もカチンと来るぞ……?

ふざけるのも大概にするんだぞ……?

 

 

そんな楽しい(?)会話を脳内でしていると。

 

「失礼します、天さん。……もう元気そうでなによりです」

 

鈴仙が部屋に入って、そう告げる。

狂気のない普通の笑顔で。

……うさみみってほんわかとした雰囲気を与えるよね。

 

「おかげさまでな。またここに来るのがこんなに早いとは、思ってなかったよ」

「ほんとですよ! ……次来たら、どうしましょうか?」

 

あの、鈴仙さん? その言葉と笑顔には恐怖を感じるんですが気の所為?

試薬投与は間違いなくされるとして。その後は……いや、考えるのはよそう。怖くなってたまらない。

 

「け、検討します……で、俺の神憑は?」

「貴方の刀のことですかね? それなら、そこに」

 

鈴仙が指差した先は、少し先にあるテーブルの上。

なくなっていたわけではなかったので、取り敢えず一安心。

……隠れて抜け出すことは、もうしようとも思ってないよ? 怖いからね。

せっかく全治三日なのに、それ以上に期限を延ばすことになる。

 

「そうか、ありがとう」

「いえ、それよりも、妖夢に欲情してたそうじゃないですか?」

 

な ぜ 知 っ て る し。

俺の頭の中で、一人の命の恩人(ヤブ医者)の悪戯な笑顔が浮かんで消えた。

あぁ……

 

「……男の子なら、仕方ないと思うんだ」

「そうですね~、好きな女の子になら当然だと思いますよ?」

 

な ぜ そ れ も 知 っ て る し。

再び、試薬大好きな医者(ヤブ医者)の顔が浮かぶ。そして消えない。

 

 

 

「えええぇぇぇえぇえええりぃいぃいいいいいいいん!」

 

 

俺の永琳のコールは、しばらく永遠亭に響き続けたという。




ありがとうございました!

次回、長らく出ていなかったあのキャラ出します!
丁度いい設定が揃ったので!

まだ永夜抄ノーマルもノーコンできません。
輝夜のとこまで行ったんですけどね~……

ではでは!

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