東方魂恋録   作:狼々

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第36話 貫き通せ!

高らかと、二人の声。

 

 

 

「「リベレーション!」」

 

 

 

間もなく、俺の体から、溢れんばかりの霊力が。

 

リベレーション。それは、俺と栞が紅魔館で練習し続けたもの。

 

 

栞の莫大な霊力の内の一部を、俺が譲り受ける。

 

自分の霊力を纏える限界を高め続けたのは、栞の霊力を少しでも多く使えるようにするため。

 

 

体の表面に、爆発ぎりぎりまで纏われたそれ。

 

 

 

 

 

 

それの力は、俺の今までの実力を飛躍的に高める。

 

 

まるで、発火剤の様に。

 

 

 

 

 

皆はそれほど大きな外傷を負っている訳ではなく、ゆっくりとだが、立ち上がり始める。

 

 

 

 

だが、唯一。妖夢が、動かない。血溜まりに、波紋を作ることがない。

 

 

 

 

 

 

「妖夢……!」

 

「待って天! 今近づいちゃだめ。 一緒に攻撃されたら終わり。今は、早期決着を優先!」

 

 

「くっ……了解!」

 

 

 

 

 

依然として、檮杌の姿は消え続けている。

 

 

 

速すぎるが故に、音を、風を置き去りにしている。

 

 

 

だが、あの黒の靄の独特の雰囲気はある。感じられる。

 

 

 

 

 

 

 

「そこ……だろっ!?」

 

 

「アアアアアァァァァッァァアアア!」

 

 

 

 

檮杌の叫び声が上がるが、スピードは落ちない。

 

俺に攻撃が来る。が……

 

 

「避け……るっ!」

 

 

 

リベレーションにより、反応後の動きを無理矢理に加速させ、避ける。

 

 

「あ……あぁあああぁっ!」

 

 

霊力刃を飛ばし続ける。霊力切れの心配はない。

 

霊力刃の密度を上げることもできた。今の俺の霊力刃を受けたら、檮杌に大きなダメージを与えられる。

 

 

 

 

しかし、追いつかない。檮杌のスピードが速すぎて。避けられ続ける。

 

 

 

 

 

 

俺の霊力刃は、音を超えることはできない。

 

 

 

 

なら。

 

 

 

「は……あぁあ!」

 

 

 

()()()()しながら、檮杌の攻撃を避け続ける。わざと、檮杌に当たらないところで、素振り。

 

 

 

 

 

 

 

この行為の意味。それは……

 

 

檮杌が、俺が素振りをした位置に来た時。二度目を通った時に。

 

 

「ギャアァァアアアア!」

 

 

 

残撃。霊力刃を残し続けた結果。荒れ狂うばかりの幻獣は、霊力感知など、できるはずがない。

 

 

 

 

不意の一撃は、大きな隙を作る。

 

 

 

「皆! 今だ! ……氷結符 『寒煙迷離の氷国』」

 

 

神憑を地面に突き立て、辺りを凍らせる。草の忙しない揺れが止まり、凍りつく。

 

 

 

 

無論、足を止めていた檮杌諸共凍らせて。

 

 

 

一度止まった獣の足は、容易には動かない。

 

 

 

「サンキュー、天! 魔砲『ファイナルスパーク』!」

 

魔理沙の、先に見た二回のスペルカードよりも、強いマスタースパークが、檮杌を襲う。

 

同時に。

 

「紅符『スカーレットマイスタ』」

 

レミリアが弾幕を張る。大小の紅い弾が次々と檮杌へ。

 

さらに。

 

「神霊『夢想封印』」

 

霊夢の多色の霊弾が、避けられることなく、檮杌へ向かう。

 

 

 

ほぼ同時に当てられたそれらが。

 

 

 

 

ドォォォオオオオオォォオオオォオン!

 

 

 

異常なまでの爆発音を轟かせる。

 

台風が通過したかのような突風が、俺達の優勢を再確認させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……が、所詮は優勢なだけだった。

 

平原の中に佇むそれは、黒の靄を空に舞わせながらだが。

 

 

体の殆どをなくし、黒の靄となって消えそうになりながらだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

檮杌は、立っていた。

 

 

 

「ォォオオオォァァアアアア!!」

 

 

最大級の咆哮と怒りが轟き、周りは驚愕に包まれる。

 

 

檮杌はもう消滅寸前。にも関わらず、戦意喪失どころか、先程よりも破壊衝動が強くなっていると感じさせる。

 

 

 

 

 

……まずい。まずいまずいまずいまずいまずい。

 

 

皆は不意を突かれている。そんな中、またさっきの様に消えさせてみろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()()()。一人残らず、抹殺される。

 

 

 

 

 

「あぁぁぁあああああ!」

 

 

そう判断した瞬間、俺はリベレーションのブーストを受け、急接近を開始。

 

 

思い切り霊力を神憑にのせ、振り抜こうとした。

 

 

 

が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァァア!」

 

「が……ぁ、ぁあ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の体。腹には、長い長い牙が埋め込まれていた。

 

 

 

「ぁ……ぐぁ がはっ!」

 

 

熱い、熱い、痛い、熱い。ただ、それだけ。

 

牙からは俺の血が(したた)ち落ちる。穴の開いた腹から、俺の口から。

 

 

檮杌は、俺の血を浴びて、満足げな、至福だと言わんばかりの笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

もう、かんかくも、いたみも、ない。

 

 

 

 

ただ、ひたすら、あつい。

 

 

 

 

 

 

 

まぶたが、おもく、なって くる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けっきょ く お れは なに も まもれ な かった……

 

 

 

 

乱暴に頭を振った檮杌。俺の腹から牙が抜け、数瞬の浮遊感。

そして、全身に伝わる衝撃。

 

 

「「「天!」」」

 

 

皆の、叫び声。

 

 

 

 

 

 

 

目を開けたら、目の前には――妖夢がいた。

 

 

妖夢は既に意識を覚醒させていたが、起きられなかっただけのようだ。

 

 

すぐさま俺の血が流れ、二つの血溜まりが一つになる。

 

 

「ぁ……ああ、天君……ごめん、なさい……貴方を、守れませんでした……師匠の、私が……」

 

 

妖夢が弱々しい声で、俺に告げる。

 

 

「ぁ……もうひとつ……ネックレス、血で汚れちゃいました……ごめん、なさい……せっかく、天君がくれたのに……」

 

 

妖夢の声が、一層弱くなり、湿っぽくなっていく。

 

 

 

 

その中、チャリ、と音がして、ネックレスが見えた。

 

 

妖夢と俺の血で少しくすんでいるが、まだ輝きを持っていた。

 

 

 

 

俺には、その輝きでさえも、眩しすぎた。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、なさい……」

 

 

 

ついに、妖夢が静かに涙を流し始めた。

 

 

俺の胸が、今までの比じゃないくらいに痛めつけられている。

 

 

それこそ、この大穴の痛みの何十倍も痛かった。

 

 

胸にこみ上げてくる罪悪感と後悔。……そして、渇望。

 

 

 

せめて、彼女だけでも、助けたい……!

 

 

この際、俺の命はくれてやる。だから、彼女は、彼女だけは……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――おい、俺。死んじゃあ元も子もねぇ。一度きりだ。次はねぇ。

……さぁ、立て! 俺は、牙を突き立てられた。

 

 

 

 

 

 

――今度は、()()()()()()()()()()()()()! (ほふ)れ! 完全に、アイツを消滅させろ!

 

 

 

 

 

――守るんだろ? 信頼はどこいったよ? 俺を信頼したヤツはどうする? 

このままやられて裏切るのか? ……それじゃあ、オレと同じだな。

 

 

 

 

 

――信頼(守護)を貫き通すなら、今立ち上がらないでどうする!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間。

 

 

 

 

俺の体から白の霊力が――否。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()霊力が溢れ出し、天高くに黒と白の霊力の柱を作る。

 

 

 

 

 

立ち上がれ、俺。皆を、裏切らないために。

 

 

 

 

 

――皆を、守る為に!

 

 

 

 

 

 

 

俺は血溜まりから抜け出し、神憑を檮杌に向けて構える。

 

 

「ガァァア……?」

 

 

完全に勝利したと思い込んでいた檮杌が、再びこちらに敵意を向ける。

 

 

 

「天! もうやめて! このまま戦ったら、死んじゃう!」

 

 

栞の声。それに重なるように、皆の声が聴こえる。

 

 

 

が、俺には他の選択肢なんて考えていなかった。

 

 

 

逃げる? ――否。

 

諦める? ――否。

 

黙って死ぬ? ――否。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が、檮杌に、牙を剥く!

 

 

そう決意が固まった瞬間、一層白黒の霊力が強くなる。

 

「そら……くん……?」

「――待っててくれ。すぐ、終わらせる」

 

 

 

妖夢にそれだけ告げた後、両膝を曲げ、加速。傷なんて気にせず。

 

 

黒白の霊力が尾を引いて、俺の体についてくる。

 

 

 

その様は、まるで彗星の如し。

 

 

 

彗星の速度に反応できない檮杌。

 

 

 

 

――いける!

 

 

練習なんてしたことがない。失敗の可能性の方が高い。

 

 

けれど、どうせこのままだと死ぬんだ。

 

 

なら。一か八か!

 

 

 

成功の、望みに賭けて! 

 

 

 

自分を、仲間を、信じて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煉獄業火(れんごくごうか)(ひらめき)!」

 

 

 

俺の刀に、霊力が集まり。

 

 

それを燃料とするかの様に火が点き、燃え盛る。

 

 

 

それはまさに、閃光の様に。

 

 

 

 

閃光は、檮杌を切り裂き。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まだだぁぁあぁああ!」

 

 

 

 

集めていた霊力を、爆発させる。

 

 

 

 

霊力爆発。刀の周りの霊力を、爆発させる!

 

 

 

 

今、刀は檮杌を切り裂いている途中。

 

 

 

 

 

瞬間、爆発音が、檮杌の中で響いた。

 

 

 

 

「ァァァァアアアアアアアァッァアアアアァァッァアッァアアアア!!」

 

 

大絶叫。無理もない。弱点の霊力が、自分の中で爆発しているんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、檮杌はまだ倒れない。

 

 

 

絶対に守るという守護意志と、ゼッタイニコロスという破壊意志のぶつかり合い。

 

 

 

 

 

俺と檮杌以外の皆は、それを眺めることしかしていなかった。

 

 

 

 

 

コロスという意志の意地が、ヤツを奮い立たせて、立たせている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、もうそれも終わりだ。

 

 

 

霊力爆発を行った後、俺はすぐさま後ろに飛び退き、距離をとる。

 

 

さすがの檮杌も、さっきまでのダメージが積もり積もっている。容易には動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、神憑を――()()()()

 

 

 

 

唯一の武器である、神憑を、収めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、霊力を右腕に込める。

 

 

白ではなく、黒の霊力を。

 

 

 

 

 

白ではできないことも、黒でならできることがある。勿論、逆も然り。

 

 

 

 

 

今は、黒でしかできない。

 

 

 

 

 

 

腕が霊力爆発する寸前まで霊力を溜めて、再び加速。

 

 

 

瞬時に俺と檮杌の間合いはゼロになり、俺の右腕が檮杌へ勢い良く向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「虚無ノ……絶撃ぃぃぃぃいいいいいいいい!」

 

 

 

俺の右腕は、檮杌に当たり。

 

 

「ィィイイイギャァァァアアアァァアアアァァアァァアア!」

 

 

 

檮杌は、叫び声で幻想郷を揺るがしながら、吹き飛ばされる。

 

 

 

 

地面を跳ねながら、遠くへ。

 

 

 

やがて動きが止まり、檮杌はピクリとも動かなくなった。

 

 

 

 

そして、檮杌の体が黒の靄となって散ってゆく。

 

 

 

 

 

それは、世にも珍しい、黒の春桜となった。

 

 

 

 

 

桜が全て散り、檮杌は跡形も残らず、空に舞っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それを見送った俺は、こんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、守れたのだろうか……?

 

 

 

 

その直後。

 

 

 

 

 

「……天! すごいぜ! ったく、無茶しやがって! この、このお!」

「い、いたいって、魔理沙……」

「ホント、無茶ばかりね。私達が情けなくなるくらいに無茶して頑張ってくれたわ。……ありがとう、お疲れ様」

 

 

 

魔理沙、霊夢が笑顔で、俺に(ねぎら)いの言葉をかけてくれる。

 

この笑顔を見られただけでも、いいか。

 

 

それより……!

 

「よ、ようむ……!」

 

俺は、妖夢の元へ行く。

ふらつく足で、何とかたどり着いた。

妖夢も、もう立てるくらいには回復したようだ。

 

「……お疲れ様でした。よく、頑張りましたね」

「……ああ、このネックレスに、ちか、った、から――」

 

 

 

 

 

 

そこが、俺の限界だった。

そこまで言って、足に力が入らず、地面に突っ伏す。

もう、起き上がる気力もない。瞼が再び重くなっていく。

 

ああ、今度こそ死ぬのだろうか……

 

 

 

 

最後に、妖夢に笑顔を見せられたから、よかったか。

 

 

 

俺は心でも笑いながら、意識を闇に閉ざした。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

彼が、天君が、頑張って戦った。

 

私も一緒に頑張ろうとしたが、結局動けなくなってしまった。

 

天君は、必死で頑張ってくれた。

 

「……お疲れ様でした。よく、頑張りましたね」

「……ぁ、ああ、このネックレスに、ちか、った、から――」

 

そう言うが否か、倒れた。

 

「ぁ……そら、くん……?」

 

どくどくと流れ続ける血は、私が流した血の何倍もの量があった。

 

背筋が凍てつく。思考が止まる。呼吸も困難になる。

 

 

 

――まさか、彼は――

 

「い、いや……やめてよ……」

 

屈んで、彼の体を揺するも、彼の体は動かない。

 

 

そして、昨日の想像を、思い出した。

 

 

血溜まりの中の、動かない彼。

 

 

それが示すのは、惑うことなき――

 

 

「ぁ……ぁあ……あぁぁぁぁあぁぁああああ!!」

 

 

私は、叫んだ。だが、どれだけ叫んでも、彼の返事は帰ってこない。

 

 

「いや! いやぁ! 死なないで! 私を残して、死なないでよ! ねぇ! 天ぁぁあ!」

 

 

泣いた。哭いた。ただひたすらに。それだけを。

 

体を揺すり続けて、チャリ、と音がした。

見ると、彼の首に、ネックレスがついていた。

 

思い出してしまう。彼の言葉を。

 

 

 

 

 

『……もし俺が幻獣との戦いで死んだら、妖夢がそれを見て、俺のことを思い出して――』

 

 

 

 

「ああぁぁあああぁぁぁあ! いや、いやぁぁぁぁああああ!」

 

 

そして、感じる。

 

 

 

 

 

――彼が死んだのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それを覆す声。

 

 

 

 

 

 

「まだ天は生きてる! 今永遠亭に運べば、まだ間に合う! 天は、助かる!」

 

栞ちゃんの声は、ここにいる全員に響いた。

叫び、泣いている私にも。

 

唯一の希望だった。

彼が生きている。その言葉に、縋るしかなかった。

 

「お願い! すぐに運んで! 天を、助けて……お願い、だから……!」

「……私が行きます、すぐにでも! 皆さん、後はお願いします!」

「わかった。魔理沙、報告に行くわよ。皆も、神社に向かって!」

 

そう言ってすぐに、彼を担いで、永遠亭に全速力で向かった。

一刻でも早く……!

 

自分の傷はお構いなしに、彼を救いたい一心で飛び続けた。

お願い、間に合って……!

 

―*―*―*―*―*―*―

 

黒。何度も来たことのある、場所。

――ユメ。

 

やはりここには、オレが居た。

 

――全く、世話を焼かせてくれる。

 

    ……ありがとう。オレがいなかったら、きっと勝てなかった。

 

 

あそこで黒の霊力がなかったらどうなっていただろうか。

きっと立ち上がることもできずに俺の人生が終わっていただろう。

 

 

――だろーな。ほんっと、感謝しろよ?

 

    ああ。このままいっその事取り込まれてくれれば楽なことこの上ないな。

 

――バカ言うな。オレは俺とは違う。一度きりだって言ったはずだ。

 

    はいはい、そうかい。いずれ俺の手で取り込むさ。

 

――ハッ、威勢がいいことで。今まさに死にそうだってのにな。

 

 

そうですね。いや、もうあの感覚は味わいたくない。

七つの星の球を集めて緑の星に行って、敵に腹を角で突き刺される感覚は、きっとあんな感じだろう。

大穴空いた瞬間、『あ、死んだ』って思ったもん。

半ば諦めかけてた。妖夢の前に転がらなかったら、何があっても起き上がることはできなかっただろうな。

 

昨日はペアネックレスを買っていて正解だったな。

もしこのまま死んでも、思い出してくれるだろうし。

 

 

    全くだ。煉獄業火の閃なんて、アイデアもなかったのにな。霊力爆発も取り入れてて自分でも驚いた。

 

――本当だ。虚無ノ絶撃も使うとはな。この先が思いやられる。

 

    成長が期待できる、の間違いだろ。可能性秘めまくった七色たまごだぞ。

 

――今は白一色の普通のたまごだがな。量産型だ。

 

スーパーに陳列されるくらいなのか。

何という安定感だろうか。

訂正。何と悲しいことだろうか。

 

    今から少なくとも、白と黒の二色のたまごにはなるな。

 

美味しくなさそうで、誰も買わないだろうな……

黒ゴマみたいな感じになっていることだろう。

おでんの煮玉子は茶色だから、案外惜しいところでもある。

 

――その自信はどこからくるのかね? ……次の幻獣、十分に負ける可能性があるぞ。

 

    ま、そうだな。それまでにオレを取り込むよ。

 

――いや、ダメだ。そん時は、オレが前に出る。下手なことはしねぇよ。する余裕もない。

 

    はいよ。秘策は用意しないとな。帰ったら修行だな。

 

――そうだな。それにだけは同意だ。にしても、リベレーションはどうだよ?

 

    霊力限界を上げれば上げるほど強くなれるな。まずはそれが最優先だな。

 

――それだけか? 今回の課題は他にもあると思うがな?

 

    何だよ、言えよ。

 

――言わねぇよ。そんくらい自分で気付け。……じゃあな。オレは行くよ。……お疲れさん。

 

    ああ、お疲れ。

 

……ったく、素直じゃねぇオレだ。ツンデレなのか?

 

うわ、寒気がしてきた。俺がツンデレとか、誰得だよ……

 

っと、それよりも。

まずは生きなきゃな。生きてますよーに。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

永遠亭に着いた。

早く、早く、彼を……!

 

戸を開けて、大声で叫ぶ。

 

「永琳! 天を、助けて……!」

「……! 鈴仙、手伝って」

「はい、師匠」

 

永琳は、慣れた手つきで、素早く天の処置に取り掛かってくれる。

……間に合うだろうか。

 

「貴女も結構な怪我ね。診せてみなさい」

「い、いえ。私よりも、天君をお願いします。……彼だけは、助かって欲しいんです」

「はぁ~……わかったわ。先にこっちをやる。終わり次第、そっちの処置に取り掛かるわ」

 

そう言って、永琳は天君の処置を進める。

 

「まぁ、また派手にやらかしてるわね~」

「そうですね、師匠。あれだけもう来ないように気を付けろ、って言ってすぐ戻ってきましたね」

「全くよ。……ったく、無理しすぎなのよ。……で、幻獣は倒せたの?」

 

永琳が私に問う。

 

「はい。皆で頑張ってましたけど、一番天君が頑張ってて、活躍してました」

「……そ。で、彼が目覚めたら、どうするの?」

 

ということは、生きる可能性は十分にあるのか。

ほっとした。このまま永遠に別れ、なんて耐えられない。

 

にしても……どうする?

質問の意味がわからず、ポカンとしていると、永琳は、はぁっ、と溜め息をつく。

 

「……好きなんでしょ? 同じネックレスまでして。しかもペアの恋人用」

「ぁ……い、いえ、まだ付き合っているわけでは……」

「ホント、二人共馬鹿よね。……で、いつ伝えるの?」

 

どうしようか。

私の想いは、いつ伝えるべきなのだろうか。

いつ伝えるのが適切なのだろうか。

今の関係も楽しい。だから、失敗した時の関係の崩壊が、怖い。

もし、フラレたらどういう顔をして過ごしていけばいいのだろうか。

 

そう思うと、中々決断ができない。

 

「……落ち着いたら、いつか」

「……そう。じゃ、そこで待ってて頂戴」

 

はい、と返事をして、永琳に指さされた椅子に座る。

 

彼の命がつながることを、祈りつつ……

 

―*―*―*―*―*―*―

 

さぁ……何なのよ、これ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()でしょ……

 

臓器を綺麗に避けてる。少し位置がズレてるところもあるけれど、目立った外傷はなし。

……運命が、まだ生きろって言ってるのかしらね?

 

さて、試薬でも使いましょうか。彼が二度目来たら実験台にする、って決めてたし。

もう一回彼がここに来たのが悪いのよ。

 

「鈴仙、あれ取ってきて。最近完成した試薬」

「は~い」

 

小走りで鈴仙が試薬を取りに向かう。

にしても、天は本当に恵まれてるわね。

 

 

 

怪我といい、女性のことといい。

ペアネックレスをどちらも着けている、ってことは、少なくとも、お互い嫌じゃない。

早く付き合ってしまえばいいのに。

 

「……大体、恋の病は、私の専門外なのよ」

 

彼が起きるのは、いつになるのか。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

「……不知火。悪い知らせだ。……檮杌が、やられた」

「な、なにっ……!?」

 

ありえない。

あの幻獣は、封印されている中でも強い方だ。

それが、今の幻想郷メンバーにいるのか……?

 

ま、まさか――!

 

「そう、ご名答。……天。例の外来人が、殆ど殺った。アタシにも信じ難いけど、ホントだよ」

「……っ! そうか。次回からは、そいつを撃破すること。及び、そいつと親しい銀髪の少女剣士を撃破することを優先することにする」

「俺もそれがいいと思うよ。どうする? もう早めに俺ら出ちゃった方が確実かな?」

 

それもいいが。

まだまだ焦るようなときじゃない。たった一回やられただけ。

誤差の範囲だ。

 

「いや……次は、――でいく。封印の解除はそれを優先しろ、叢雲」

「おっけー」

「後はさっきの通り、時雨の能力で狂わせる。いいな、時雨」

「勿論。俺の『瘴気を操る程度の能力』なら余裕だね」

 

さて。今回は負けたが。

絶対に次はないぞ、天……!




どうも、狼々です!
と、共にありがとうございました!

前回から前書きなしで、直接繋げたほうが盛り上がるかな? と思ったので、
今回は前書きはなしです。

何とか胸熱展開にしたいのですが、中々上手くいきません。

前回、今回と戦闘シーンを書いたので、日常・恋愛編の方を書きたいですね。
甘々にできればいいですが。
他の方の恋愛小説は、この作品よりもかなりレベルが高いです。
まさに雲泥の差、提灯に釣鐘。

近々、アンケートを取るかもしれないので、その時は、ご協力をお願い致します。

ではでは!


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