東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!

この作品の評価バーの色が黄色になりました!
おお……! なんとも嬉しい限りです!
ありがとうございます!

今回、幻獣は出せません! すみません!
それと、今回は少し長めです。8000字弱くらいです。
といっても、7957文字と、ほぼ8000字なのですが。
舞い上がってました。

今回は、タイトル通りの話です。

では、本編どうぞ!


第34話 俺の『好き』に、ようやく気付き。

対策会議が終わり、メンバーが発表された後。

俺は同じ幻獣戦闘グループのメンバーだけでも知らない人と知り合っておこうと思い、『妹紅』なる人物に話しかけていた。

名前からして女の子だが……

 

「よう、君が妹紅かい?」

「ああ、そうだよ。貴方とは初めて会うわね。私は藤原(ふじわらの) 妹紅(もこう)よ。よろしくね」

 

多少男勝りな印象を受けるが、しっかり女の子のようだ。

『もんぺ』と呼ばれるスボンを着用して、ポケットに手を入れている。ここでズボンの少女は珍しい。

さらに、白を基調とした、赤白の大きなリボンがある、長い白髪が周りの目を引くだろう。

白のカッターシャツが、もんぺとサスペンダーで繋がっている。

 

「よろしく、妹紅。俺は新藤 天。天で呼んでくれ」

「わかったわ、天。一応、戦闘能力だけ手短に伝えておくよ。能力も含めて」

 

やはり能力持ち。対幻獣となると、能力は持っている前提なのだろうか。

となると、幻獣戦闘グループの妹紅の能力は、かなり戦闘向けのはずだ。

 

「私の能力は、『老いる事も死ぬ事も無い程度の能力』だよ。不老不死、ってヤツだね」

「……わ~お」

 

感嘆のみ。もうここまでくると逆に清々しいな。

不老不死って、世界中の七つの星のボール集める、とかじゃないと叶わない気がする。

 

蓬莱人(ほうらいじん)、って呼ばれる人間は皆そうさ。あと、炎を使えるな。得意」

 

人、ってことは一応人間なのか。最近は人間以外の人種を多く見ている気がする。

『人間以外の人種』って哲学かよ。

 

炎か。俺の中の栞も火を使えるけど、俺はあまり使っていない。

スペルカードは一応一通り揃ってるけど、未だに使ったことがあるのは水のみ。それも、氷と霧。

バリエーションに乏しいのが難点だろう。その点、炎を得意とする妹紅は、頼もしい。

火よりも炎が強そうだし。

 

不老不死で炎って聞くと、フェニックスを思い出す。

実際には不死鳥じゃなく、薪の中に自分から入って命が尽きたら生き返るらしいけど。

妹紅もそんな感じだろうか。最初から死なないんじゃなく、死ぬけど生き返る的な。

 

「へぇ、俺も火が使えるけど、中々上手く使えそうにないんだ。一緒に頑張ろうな!」

「ええ!」

 

挨拶と自己紹介を手短に済ませて、一人の少女の元へ向かう。

俺が最近気になり始めたかもしれない、銀髪の少女の元へ。

 

自然と足が早くなる。

 

見つけた。人が多かったが、すぐに見つけられた。

 

「妖夢、ちょっと付き合ってくれないか? 人里に用があるんだよ」

「え、ええ……わかりました――って、ちょ、ちょっと天君、手を引っ張らないでください!」

 

妖夢の了承を受け、二人で人里へ向かう。

俺が彼女の手を引いて、飛んで、走って人里へ。

俺はだんだんと笑顔になってゆく。妖夢も、最初は戸惑い気味だったが、柔らかい笑みを浮かべている。

 

ようやく人里に着いた。少々息を切らせる程はしゃいで来てしまった。

 

「えっと……どうしたんですか、急に?」

「あのな……二人で、買い物をしたいんだよ。何か、お揃いのアクセサリーを買いたいんだよ。……いいか?」

 

俺がそう尋ねると、妖夢は一瞬ぽかんとした顔をして、すぐにくすくすと笑い始めた。

な、何なのだろうか……? 俺はおかしいことを言ったか?

 

「いえ、おかしくありませんよ、あはは……」

「エスパーかよ!?」

 

心を読めるって……俺も妖夢に心を読まれたか。

もしくは、そこまで俺のことをわかってくれているのだろうか。

 

「ただ……いきなり引っ張って連れられたのに、いいか、だって……あ、はは……」

「い、いいだろ、別に……」

 

なぜ俺が急にこんな行動に走ったか。

それは、幻獣戦の前にしておきたいと、前々から思っていたことだ。

 

「それで……何故そんなことを?」

「……怒らないで聞いて欲しい」

「内容によりけりです。怒らせる様なことを言うなら怒ります。ついでに叱るかもしれません」

 

怒られた上に叱られるのか……一応、覚悟はしといた方がいいか。

俺は呼吸で一拍置いて、話を再開させる。

 

 

 

 

「……もし俺が幻獣との戦いで死んだら、妖夢がそれを見て、俺のことを思い出して――」

 

「怒ります。そこに正座ですね」

「早くない!? しかもここ人里のど真ん中! 周りの視線が痛い! そもそもまだ話は――」

「いえ、もう十分です。……貴方が死ぬ想像なんて、私は絶対にしたくありません」

 

妖夢が急に悲しい目と表情になり、俺の胸を抉る。

それほどの悲しみが、俺を襲った。そして、俺の発言をひどく後悔した。

 

「あ……ご、ごめん」

「別の理由に訂正するなら今のうちです。早く考えてくださいね? じゅ~う、きゅ~う……」

 

あ、妖夢がカウントダウンを始めた。

言葉を伸ばす子供らしい妖夢も可愛い……じゃなくて!

え、え~と……

 

「さ~ん、に~い、い~ち――」

「妖夢とお揃いのが単純に欲しいんだよ! 信頼の証みたいでさ!」

「……ふむ、まあ及第点でしょうかね。よかったですね、正座は免れましたよ」

 

よ、よかった……って、今の妖夢にSっ気が混ざっていた気が……

き、気の所為だよ、うん。ウッドフェアリー。

それ『木の精』じゃねえかよ。

 

「じゃ、早く行きましょう。()()()()()買いに!」

 

妖夢が『お揃い』をやけに強調して、満面の笑みを浮かべて。

今度は妖夢が俺の手を引いて、走り出す。

俺も妖夢の笑顔につられて笑う。本当に、楽しい。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

彼がお揃いのアクセサリーを買おうと連れてくれたらしい。

それも、珍しく彼がはしゃぎながら、私の手を引いて。

手を引かれる中、少しドキドキしながらついていった。

 

そして、アクセサリーを欲しがった理由を聞いた。

 

それは恐らく、自分が死んだら、そのアクセサリーを見て思い出して、忘れないで欲しいという内容だろう。

『恐らく』、『だろう』の理由は、彼が理由を話している最中に、続きを聞きたくないが為に、私が言葉を遮ったから。

想像もしたくない。けれど、一瞬想像してしまう。

 

血溜まりの中に倒れて、冷たくなった彼の姿と体を。

目は虚ろになっていて、何も映していない。

 

想像した瞬間、とてつもない寒気に襲われた。

いやだ――いやだ、もう、彼が死ぬのを認識するのは。

彼が白玉楼に来てちょうど一週間の時を思い出した。

 

私がどれだけ泣き叫んでも、動かなかった彼の体。

 

もう、見たくない。あの時は外傷がなかったからまだ良かったが、きっと幻獣戦での戦死は、血を伴う。

そうしたら、彼は彼自身の血溜まりに浮かんで死んでいることになる。

惑うことなき死。あの時の様に目が覚めるんじゃないか、という淡い期待を粉々にする。

 

 

私の不快感を外に出すことなく、彼に訂正を求めた。

 

すると彼は、単純にお揃いが欲しい、信頼の証になる、だって。

もう、おかしくって。笑いを堪えるのに必死だった。

 

それ以上に、嬉しさをなるべく外に出さないようにすることが必死だった。

彼からそんな……こ、恋人チックなことを言ってもらえるとは。

 

今度は、私が彼の手を引いて。

彼もだんだんと笑顔になってくれる。

かくいう私も、目一杯はしゃいでいたのだった。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

「さて……どれにするかなぁ~」

「そうですね~……」

「決めてなかったの!? あんなにラヴラヴな感じだったのに……」

 

栞が口を挟むが、恥ずかしいので無視無視っと……

いや、まさか考えないまま来ることになるとは思っていなかった。

夢中で手を引いて、気付いたら買うもの考えるのを忘れていた。

我ながら抜けているというかなんというか……

 

「あ……これ、素敵だな……」

 

妖夢が独り呟いて、一つのペアネックレスを手に取る。

二つの銀のリングが付いている、シンプルな型のもの。

俺はこういうシンプルなものは好きだが……

 

「よし、それにすっか」

「え……い、いいんですか?」

「勿論。俺から誘ったんだし、妖夢が嬉しがるものが一番いい」

 

そう言って、ペアネックレスを手にとって、会計を済ませる。

正直、お金には困っていないので、支払いに苦しむこともなかったが。

 

「はいよ、これどうぞ」

「あ……ありがとう! え、えへへ……」

 

敬語の抜けた彼女の柔らかな笑顔には、確実な嬉しさが感じ取れた。

……破壊力がすごい。とんでもなく可愛い。

俺もそこまで喜んでくれると嬉しい。

 

早速、二人でネックレスを着けて帰っていった。

……あれ? 俺と妖夢が、人里の皆から暖かい目で見られている様な――

 

 

 

……ん? ペア、ネックレス……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それって、()()()()()着けるものじゃ……

そこまで考えが巡って、俺は赤面する。

 

「あ……ペア、ネックレ……」

 

そう言って、妖夢も赤面する。可愛く、愛おしい。

二人して赤面した姿は、実にシュールだった。

 

(ようやく天も妖夢ちゃんも気付いたのかい!)

(ということは、栞は気付いて言わなかったのか。後で何してやろうかな~……)

(はいはい。そう言って今まで何もしてないから怖くないよ)

 

だって何も手段がないんだもの。

仕方ないじゃん。ま、あっても多分しないとは思うが。

 

 

 

 

 

……多分。

 

 

 

 

そんなこともありながら、なんやかんやでネックレスは着けたまま白玉楼に帰ってしまった。

ついでということで、買い物もしてきたが、店員さんからは冷やかされまくった。全く……

 

現在時刻は昼ちょっと前。今から昼食を作り始めれば、昼には間に合うだろう。

夜は、幻獣がいつ来るかわからないので、幻獣戦闘グループのみが博麗神社に泊まることに。

防衛グループは、自分の住む周辺の人里を守る、ということで、各自待機だそうだ。

 

で、俺が心配なのは、部屋について。知らない人間もいたが、姿を見る限りは、全員女性。俺の部屋はあるのだろうか。

博霊神社はやや広く、部屋も沢山ある。……一応、トラブルとかも考えて、外で寝るか。やったことないけど。

防寒具とか着けてれば大丈夫だろう。部屋からもっていっとくか。今春だしね。

 

玄関に入り、早速料理に取り掛かる。

料理の最中も、妖夢はペンダントを外すことはなかった。俺もだけど。

 

 

料理を部屋に運んで、いただきます、と三人の声を揃えた時。

 

「……? ねぇ天、妖夢。そのペアネックレス、いつから着けてたの?」

 

しまったぁぁああ! 一番バレたくない人物に感づかれたぁぁああ!

幽々子は絶対、知った瞬間にやにやと笑ってからかわれるだろう。目に見えている。

 

「い、いやぁ、結構前からだよ? 気付いてなかっただけじゃない?」

「声、上ずってるわよ。……ねえねえ妖夢、本当のところはどうなの?」

 

よ、よし妖夢、話を合わせるんだ。話を――

 

 

 

 

「今日会議が終わってからです♪ 天君が手を引いて連れてってくれました♪」

「よぅぅううむぅううう!」

 

瞬間、俺の描いたビジョンが、未来予知になったかの如く、想像通りの悪戯顔の笑みを浮かべる。

あ、オワタ。弁解も不可能。そもそも俺の話を聞いてくれるかも怪しい。八方塞がりだ。

 

「あらあら~、ラブラブじゃない。それも、『()()』ネックレスを『()()()()()』ねぇ……で、どこまで進んだの?」

「進んでねぇよぉおおお!!」

 

俺の怒号にも似た叫び声は、しばらく白玉楼に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

昼食が終わって、またしても俺が幽々子に残される。部屋には俺と幽々子のみ。

まだからかわれるのだろうか。昼食中は散々からかわれた。主に俺が。

妖夢もからかわれて赤面していたが、非情に愛らしかった。

 

「……で、本当のところはどこまでいったの? 恋人? それ以上? それとも――」

「進んでねぇっつってんだろ!」

「真面目に聞くわよ。……貴方、妖夢のことをどう思っているの?」

 

……まだ答えは出ていない。ずっと考えていた。

紅魔館でも、永遠亭でも、今に至るまでずっと。

……大体はわかっている。けれど、はっきりとした根拠がない。きっかけが、足りないのだ。

 

「……その様子だと、まだの様ね――妖夢、盗み聞きはあまり良くないわよ?」

 

直後、ひっ、という高い声と共に、タタタ、と廊下を駆けていく音が聞こえた。

聞いてたのかよ……って、今の一部を聞かれただけでも十分まずくね?

 

「さっきのもそうだけど、正直、妖夢はかなり貴方のことが気になってる。当然、異性として。それは、自分でもそうでしょ?」

 

無言で首を縦に振って、静かに肯定の意を示す。

数度目だが、俺だって鈍いわけでも、鋭いわけでもない。

妖夢とは長い時間接してきたが、俺に好意を持っている感じは結構前から感じていた。

それも、白玉楼から出て、紅魔館に行く前から。

 

「貴方が死ぬとは微塵も思わない。けど、幻獣と戦う前……今日にははっきりさせた方が良いわよ。生き残らなきゃいけない理由にもなるしね?」

「……わかった。今日は、博麗神社に泊まることになる。一人にさせて申し訳ないが、頼む」

「ええ。これでも私、強いのよ? 安心して戦ってきなさい。……訂正。戦って、()()()()()()()!」

「はっ、言われなくとも! もう神社に行く準備をしてくるよ」

 

俺が立ち上がって、部屋を出ようとする。

最後に、幽々子からの『頑張ってね』と声が聞こえて、心の中で返事を返す。

 

 

勿論、『四人で』頑張るよ、と。

 

 

妖夢と俺は先に博麗神社に泊まる用意を済ませ、少し暗くなる前まで修行をした。

できるだけのことはしたいものだ。

修行を終えて、博麗神社へ向かう俺たち。

もうこの時点で若干緊張し始めている。幻獣と戦闘になったら一体どうなるのだろうか。

緊張で動けない、なんて笑い話では済まされない。緊張なんて、する余裕はないんだ……

 

「天、緊張しないで。大丈夫だよ」

 

妖夢が、視線をこちらに向けて、真っ直ぐに俺を見つめて言う。

敬語も取れている辺り、至極真面目な話なのだろう。

 

「私達なら、勝てる。もう、今までの天じゃない。独りじゃないの。幽々子様、栞ちゃん、それに私。苦しかったら頼っていいし、逆に私達が苦しくなったら助けてもらう。だからさ、そんなに緊張なんて、する必要はないんだよ」

「そうだよ、天。私はずっと見てきたよ、天の頑張ってるトコ。見る限りは、絶対に大丈夫」

 

妖夢は優しい笑顔と言葉で、栞は元気な励ましの声で、俺を支えてくれる。

俺は、なんていい仲間を持ったんだろうか。涙が出てきそうだ。

 

独りじゃない、大丈夫。この言葉を、どれだけ待ち望んでいたのだろうか。

前にも言われたことはあった。けれど、ここまで俺を強くしてくれた言葉はないだろう。

 

「……ああ、二人共ありがとう。絶対に、守る。皆で、な?」

「そうそう、天はやっぱりその顔が一番だよ」

「そうだね~、ま、『あれ』もあるし、負けないよ」

 

そう、まだ秘策はある。黒幕の監視がないとも限らないので、ずっと秘密裏に進めてきた特訓。

その成果。俺の紅魔館での努力の結晶と言っても過言ではないだろう。

それほどまでに、頑張れた。

 

「『あれ』ってなんですか?」

「お楽しみだ。取り敢えず、奥の手はある」

「その余裕はもう大丈夫ですね。さ、早くいこ?」

 

妖夢が飛ぶスピードを上げた。俺もそれに着いていく。

 

 

夜になる前に博麗神社には着いた。

今はもう夕食後で、皆寝た頃だろう。それぞれ、一緒に来た者同士でグループを作り、同じ部屋を使うようだ。

俺は決めておいた通り、外。風が思いの外冷たく、防寒具を持ってきて正解だった。

 

眠れず、いつもの様に夜の修行に励んでいた。

すると。

 

 

「こんな日まで夜の修行はいいんですよ?」

「え……妖夢? 寝てなかったのか?」

 

ふんわりとした笑みを浮かべて、夜空を背に立つ銀の少女、妖夢。

まさか起きていたとは。灯りが全部消えていたので、もう皆寝てしまったのかと思っていたが……

 

「はい。天君が見えましたから。部屋に戻ってください」

「いや、俺は外で寝るよ。沢山の女の子と一つの建物で、ってのも皆が嫌がるだろ?」

 

俺がそう言うと、妖夢はジト目を俺に向ける。やっぱり可愛い。

ってか俺の発言の何がいけなかったんだ?

 

「皆そう思ってないに決まってます。風邪引いて幻獣と戦えなくなった方が嫌がりますよ?」

「あ、確かにそうだな……」

「はぁ……ホント、天然というかなんというか……」

 

おっとそれはブーメランですよ妖夢さん?

オーストラリアの先住民のやつ並のブーメラン。狩りに使うほどだ。

主に小動物に使われたらしいが。いや、持ち主自身が小動物……これ以上はおかしくなりそうだからやめておこう。

夜になってテンションがおかしくなってしまっている。

 

「そ、その……部屋なら私の部屋に来ていいですから……」

「え、妖夢はいいの?」

「い、いい、というか、なんというか……(むしろ嬉しいというか……)

 

……ん? 最後いくら耳が良くても聞こえないような声で話したな……

俺は難聴系主人公じゃないぞっと。あいつら、いつも大事なヒロインとの恋愛フラグの言葉聞き逃すよね。

全く、ありえないにも程がある。

 

「ま、まあ妖夢がいいなら――一緒に使わせてもらうよ」

「は、はい。では、行きましょうか……?」

 

中に入り、廊下を進んで一つの部屋の前で一旦止まる。

妖夢が一瞬深呼吸をして、戸を開けて部屋に入る。

……ん? 何で深呼吸した? そう思いつつ、部屋に入る。

 

 

 

 

 

 

「その、布団が一個だけだったので、その……二人で、入りましょう?」

 

……ゑ? なんで?

 

「い、いいいいや、妖夢はいいの!?」

「わ、私は別に……呼んだの私ですし……」

 

そこで、あまり冷静になれない中。灯りが消え、月の光が部屋を照らす中。

一つのことに気が付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()ことに。

普通、枕と布団はセットで置くはずだ。どちらかが多い、少ないなんてないだろう。

……ということは、今(ふすま)を開ければ、布団がある可能性が高い。

 

ん……? 妖夢さん、ちらちら襖見てません? バレバレですよ?

 

「い、いやでも枕g――」

「一つしかなかったんです!」

 

……ふ~ん。

 

「今襖開けたr――」

「一つしかないの!」

 

赤面した彼女はやはり可愛い。

……折れてやるか。

 

「……わかったよ。一緒に寝させてもらうよ」

「……(やった!)

 

彼女が小さくガッツポーズを決めている。

おっと今のは聞こえましたよ? 何がやったなんでしょうね~……

 

 

ドクン

 

 

……っと、ドキドキしてきた。あまりふざけるのも大概にするか。

 

「じゃ、明日いつ幻獣が来るかわからないので、早めに寝ましょう!」

「お、おう……声が大きいよ……皆が起きる」

「あ……すみません」

 

えへへ、とはにかむ彼女にも魅力があった。

 

 

ドクンドクン

 

 

さってと、彼女に促された通り、寝ますか……

俺が布団に入った後、彼女が同じ布団に入る。

……近い。

 

 

ドクンドクンドクン

 

 

「全く、いつもそんなに夜に修行しなくてもいいでしょうに」

「いや……でも、こうしないと眠れな――」

 

そこまで言って、もう一つ気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()。まるで……()()()()()()()()発言の仕方に。

まさか……!

 

「……? どうしたんですか?」

「あ、い、いや、なんでもない。寝ようか」

 

俺の努力の姿を、見ててくれてたのか……?

 

 

ドクンドクンドクンドクン

 

 

体が急に熱くなっていた。外は肌寒いくらいなのに。

彼女の暖かさもあるが、聞くところによると、彼女の体温は種族の関係で低めらしい。

じゃあ、この熱さは……?

 

 

「天君……」

「……あ? あ、ああ、何だ?」

 

彼女の呼びかけにきっちりと対応ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は今、とても幸せです……!」

 

 

 

 

彼女の見せた笑顔は、頬が上気していて……

月の厳かで、荘厳で、静かな光が彼女を際立たせて。

それはまるで、自然のスポットライト。彼女にのみ、光が当たって際立っている。

 

いや、他の場所も光っている。が、俺には彼女の姿しか見えない。視線を外せない。

 

今までの俺が見てきたどの彼女の笑顔よりも、ひどく愛らしく、扇情的で、魅力的で、可愛らしく、端麗なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンドクンドクンドクンドクン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、やっと、ようやくはっきりした。

ずっと悩み続けてきたことが、ようやく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――妖夢のことが、好きなんだ。

 

 

そのことを認知した瞬間、俺の意識は落ちた。




ありがとうございました!

今回、幻獣は出せませんでしたが、次回はほぼ確実で出せると思います。

難聴系主人公ありえねー、みたいなことを天君が言ってましたね。
……その言葉もブーメランだ、って言ってやりたいですね。

ちなみにですが、小文字表記を入れる方法は、ルビ機能の応用です。
文字の欄を空白、振り仮名の欄に小文字にしたい文を入れるとできます。
場所は、入れたいところにそのままで。文の途中でも大丈夫です。
知ってる人は多いでしょうが、一応書きました。

妖夢ちゃんが意外に策士だった件について。
布団一個だけ用意して呼んで、枕は二つ置く辺りが抜けているというか……

ようやっと二人がお互いに意識し合いましたよ。
いや~、長かった!よかったよかった。幻獣との対決前ですが。
後は死亡フラグとならないように

ではでは!

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