今回は、天君の過去話を書きます。
それで、内容について不快感を覚えるかたもいらっしゃるかもしれません。
ご注意ください。
ではでは!
俺はゆめを見ていた。
夢でも、ユメでもない、ゆめ。
ゆめと言っても、そんなにハッピーなものじゃない。
これは、オレができる根源を作ったであろうゆめだ。
俺は、新藤の名字と天の名前を授かり、18年前に産まれた。
当時、俺はひどく大人しい赤ん坊だったそうだ。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
それで、俺が6歳の夏の時のことだった。家族でとある駅に行って、両親に駅で待っているように言われた。
俺は待ち続けた。いつまでも、いつまでも。
だが、両親は来ることはなかった。
悲しみに震えていた。駅のホームで、一人だった。
その時のことはよく覚えている。
まだ小学1年生のことなのにな。……それだけショックだったのだろう。
空蝉のように空っぽになった俺の心を満たしてくれた人は、親戚の叔父と叔母だった。
事故の後、叔父と叔母の元に引き取られた。
それで、中学3年まで育ててくれた。本当に感謝している。
ただ、いつまでもその状態は続けられない。叔父と叔母に悪い。
そう考えた俺は、中学の間、必死に勉強をした。
成績上位者の、高校入学優遇の為に。
それで、今の高校に通っている。無事成績上位者として入学できた。
ただ、その優遇は成績の下落が見られると、なくなる体制が取られていた。まぁ、当たり前と言えば当たり前だが。
俺は時間を惜しんで勉強した。他人よりも頑張った。だって、気概が違うのだから。
だが、周りからは避けられて。俺の事情も知らないで。
俺の行動の裏にある真意には、誰にも気付いていなかった。今まで、ずっと。
別に気付いて欲しいわけじゃない。避けられる理由が理由じゃなければ。
無意識の内に、俺は助けを求めていたのかもしれない。
俺は本当はこんな過去を持っているんだ、こんな事情があるんだ、って言って、環境を変えたかった。
だけれど、できなかった。
そして、誰も気付かないまま時だけが過ぎていき、俺への対応は、氷のように冷たくなっていった。
いつからだろうか。オレの考えができ始めたような気がした。自分でも気付かない内に。
周りを見返す、周りなんて信用できない。そんな考えが生まれたのは。
もしかしたら、6歳の時に既に芽生えた感情なのかもしれない。
当時、最愛の両親に捨てられ、周りからも避けられて。どんどんと、俺の存在価値が薄くなっていくのがわかった。
今思えば、幻想郷に来たのもこれが理由なのかもしれない。
今の環境から逃げて、俺を必要としてくれるところへ行く。
ひどい現実逃避だ。だけれど、それほどまでに追い詰められていた。
そして、俺を避けないでくれる人を、沢山見つけた。その中でも、銀髪の剣士は本当に友好的に接してくれた。
後から、庭師と聞かれて驚いたものだ。刀がとても上手いのにな。庭師もやってのけるとは。
そうして、人と接する中で、信頼の必要性を大きく感じていた。人間らしく生きる為には、必要不可欠なんだと知った。
好かれたら、今度は嫌われたくない思いが強くなっていった。もう、前のような生活に戻りたくない。
その思いだけが先行していった。
それで、今に至るわけだが。結局のところ、俺もオレも同じなのだ。
嫌われたくない。この思いからの行動が、さらなる信頼か、縁を切って孤独になるか。これだけの違い。
だが、オレはわかっていない。孤独になったら、悲しむ人がいることに。
悲しんだ人が、嫌いじゃないから嫌いに変わる可能性があることを。
信頼することの尊さを。
それらを、伝える必要がある。オレは、俺だから。
ゆめが覚めた。
体を起こす。今回は、体を限界まで動かした訳ではなかったため、起き上がることができた。
斬られた右腕には、服の切れた跡と、血液の跡が残っている。うわぁ……
どうやら、固定はされていないようだ。腱が切れて固定するのかはわからんが。
……ここは、どこだろうか。
少なくとも、白玉楼じゃない。このような病院特有のアルコールの、鼻を刺激するような匂いはないから。
となると、別の場所。それも、俺が今まで行ったことがないところ。
俺が周りをキョロキョロと見渡していると、部屋に一人の少女が入ってきた。
……女子、高生?
「あ、起きられましたか。待っていてください。師匠を呼んできます」
そう言って、パタパタと部屋を出ていった。
のだが、あれは頭に垂れたうさみみが付いていたよね……コスプレか? 幻想郷に?
そうして、待つこと数分。
さっきの女の子と、恐らく、『お師匠様』にあたるであろう人物が入ってきた。
「こんにちは。貴方が天ね。取り敢えず、ここは永遠亭、って呼ばれる……まぁ、病院みたいなものよ」
病院、か。俺の怪我を考えると、外科の方もやっているのだろうか?
幻想郷にもあったか。医薬品の類とかどうしてるのかと思ったが、この永遠亭と呼ばれるところで売られてるのか?
……ってか、今さっきまで、ここしか病院系の施設を聞いたことが無い。ここだけだとしたら、かなりまずいんじゃ?
「で、貴方の怪我……綺麗に腕の腱が切断されてたわ。最小限の傷だわ。事情は急いでた様だから知らないけど、何かあったんでしょう?」
「わかるんですか?」
「ええ。後、敬語は要らない」
そうか。俺はお医者さんとか店員さんには敬語を使う派なんだがな。
一応丁寧にしておこうと思ってね。
それにしても、最小限、か。さすが師匠、さすが妖夢といったところか。
優しさも感じる。あんなになった俺を容赦なく斬ってもおかしくないのに。
「わかった。――ってことは、貴女が治してくれたのか?」
「そうよ。――まだ自己紹介がまだだったわね。私は
中央で赤と青に分かれた服とスカートは、やや特徴的だ。
長い銀髪を、三つ編みにして後ろに流している。やはりと言うべきか、美人さん。
「ウドンゲ、貴女も自己紹介しときなさい」
「はい。どうも、私は
最初に気になった女子高生の制服と、垂れたうさみみ。
うさみみのついた髪は薄紫色で、とても長い。どれくらいかと言うと、膝に余裕で届くくらい。
スカートが短すぎるような気もするが気の所為だろう。やはり可愛い。
「よろしく、鈴仙、永琳」
「ええ。で、天の怪我についてはもう大丈夫よ。だけど、少なくとも三日は動かさない方が良いわ。動かすなとは言わないけれど、少なくともその刀を抜くのはやめておいた方が良いわね」
そう言って、部屋の机に置いてあった神憑を指差す。
おお、そこにあったか。寝てて感触がなかったから焦った。
……え?
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなに早く治るものなのか?」
時計を見るが、倒れたであろう時刻から数時間と経っていない。
腱が綺麗に切断されてたらしいが、そんなに早く治るのか? 少なくとも、手術はしたはずだ。
それに、見たような言い方だったから、その可能性は高いだろう。
「私なら治せるわ。『あらゆる薬を作る程度の能力』だもの。それに、薬だけじゃなくて、手術もできるもの」
何その天才。薬も作れるし、手術もできる。医者として結構すごいんじゃ……。
本当に病院に適した、というような人だな……
「そうなのか……ありがとう」
「いえ、いいのよ。試薬も使えたしね」
……ん? 試薬? 試す薬と書いて試薬? まさか俺って実験d……
これ以上は、考えることをやめた。
「そ、そうだ。鈴仙は何か能力持ってるのか?」
「ええ。『狂気を操る程度の能力』を。文字通りの効果です」
……病院にいていいのか? 狂気を操るって、発狂すんだろ?
あ、いや、操るだから、逆もありえるのか? カウンセリングとか上手そう。
永琳を『師匠』って呼んでたし、永琳が上司なのか? 師匠というより、上司の方が案外的確なのかもしれない。
「狂気か……それで、永遠亭って何処にあるんだ?」
「冥界の反対側よ。白玉楼から見て、妖怪の山とか、紅魔館とかのさらに先にある、迷いの竹林の中」
妖怪の山……? 確か、紅魔館を通った時に大きな山が見えたような見えてないような……まあいいか。
となると、結構遠くに来てるのか。
迷いってことは、相当に広い、もしくは幻術で同じところをぐるぐる回るかだな。
ま、飛べば大丈夫じゃないかな? さすがに冥界まで竹は伸びていないだろう。
「で、傷が完治するまで、貴方をここで預かるわ。患者としてね。三日経ったら戻っていいわよ」
三日か。まぁ大丈夫そうだな。白玉楼には妖夢がいるし。
むしろ期間は短すぎるくらいなんだ。感謝感謝。
「わかった。何から何まですまないな。この礼は必ず」
「そう。幻想郷を幻獣から救うのでチャラでいいわ。それより、その間にまたここを訪れないように気を付けることね」
「ぜ、善処しよう……」
やはり、唯一の病院ということもあり、幻獣は知ってるか。
となると、狂気を操る鈴仙がかなり使えそう。幻獣が操られて暴れてるなら、止められないか?
……けど、それで上手くいくなら俺呼んでねぇよなあ……。
あまり期待はできなさそうだ。
「じゃ、今日はもう寝ておきなさい。後、ここを無理に出ようとしても無駄よ。鈴仙が見つけるだろうから」
「ええ。骨を折ってでも粉々にしてでも連れて帰りますよ♪」
何それ怖い。もう治った後の傷よりも悪化する可能性が……
うさみみの可愛い顔して結構言うんだな……能力も『狂気』だし。
「お、おう。気を付ける」
「私はもう行くわ。何かあったら呼んで頂戴。じゃ、お大事にね」
「お大事にお願いします。失礼します」
二人が部屋から出て、俺が一人になる。
急に静かになったな……
「なぁ栞」
(どうしたの? 声出して。わざわざ声出さなくてもいいでしょ)
「いや、喋ってたい。声に出して、な。暇だし」
凄く、凄く暇だ。
話し相手もいない、修行もできない、何もすることがない。
今振り返って感じるが、俺の日常って結構パターン化されてんな。思いの外単純だ。
「じゃあ私も聞こえるように出すよ。特に意味はないけど。で……大丈夫? またあいつでしょ?」
「ああ。妖夢が抑えてくれたからよかったものの、どうだろうなぁ……嫌われたかなあ……」
途中で妖夢の敬語が抜けていたし。お前には敬語を使う価値もない、ってね。
オレのことを話していない妖夢にとって、俺の犯行だろ思われてんだろうな……
「大丈夫でしょ。天君には使う、って言ってたし、どこかで天とは違うってことがわかってたのかもね」
さすがと言うかなんというか。栞曰く、『天を一番わかってる』人物なだけある。自分でもそう思っているが。
となると、別の問題が……
「怒られっかなぁ……? 『何で言ってくれなかったの!?』って感じで」
「あ~……ありそうだね。もうこうなった以上、幽々子も黙ったままじゃないでしょ」
ですよねー。何のために言わなかったのか、わからなくなってくる。
心配かけたくなかった、と言えば、『信頼できませんか?』とか言われそうで。
むしろ一番信頼しているというかなんというか。
「だよな……帰ったらすぐに謝っとかないとな」
「そうだね。……もう、早くあいつは取り込んだ方がいいのかもね。できれば、幻獣が来ない今のうちに」
「……ごもっともで」
戦闘中に変わったらたまらない。
何するかわからないし、疲れるし、倒れるしでいいことがない。
「まぁ、三日は休んだ方がいいらしいじゃん。しばらくの休暇ってことで、休みなよ?」
「そうするか……じゃ、早速寝るよ。おやすみ~」
そう言って、俺はすぐに眠ってしまう。案外疲れがあったのか。
「あ……って、もう寝ちゃったのか。……相変わらず、天にだけ負担がかかっちゃってるなぁ……私だって……」
栞のその声は、眠っていた俺に届くことはなかった。
ユメ。また、あのユメ。随分と長く見ていなかったユメ。
悪夢のように続くユメ。
――おい、俺。弱すぎだ。オレが手本を見せてやったんだ。感謝しろよな?
はいはい。それより、オレには言いたいことがあるんだよ。
――へえ、何だよ珍しい。聞いてやらないこともないぞ?
そうかよ。……いつまでも孤独じゃいられないぞ。少しは信頼を覚えたらどうだよ?
――わかっている。そんなことは。……でもよ、どうしても信頼できない。裏切らないとは限らないからな。
意外だったよ。信頼を覚えようとしていたとはな。
――さすがに一人の限界を理解できないようなバカじゃない。
そうか。少しだけ嬉しくなくもないかな?
――どういう風の吹き回しだ? オレを嫌ってんだろ?
まぁな。でも、さっきの言葉を聞いて少し印象が変わった。オレも俺だし、悪いようにはしないよ。
――そうかよ。だが、オレはオレしか信用できない。オレは俺だから、俺を信じるのと同義だ。
何が言いたい?
――俺の可能性は信じたい。俺が、仲間を持って信頼の可能性があるなら、それを信じたい。
オレこそどういう風の吹き回しだ? 急に友好的になったなあ?
――気の所為だろ。俺が弱かったら、今まで通り無理矢理に前に出る。弱い俺の信頼もしたくなくなる。
俺の強さ次第では、信頼の俺に取り込まれる、ってことでいいのかな?
――ご勝手に。その飲み込む、ってヤツが少し気に入らないがな。元々俺なんだ。飲み込まれるのはオレだ。
そうだな。飲み込んだ時は、一緒に前を向けるようになれるといいな。
――なわけねーだろ。少しは絶望を知れ。そもそも、オレが俺を飲み込む可能性だってあるんだ。容赦はするつもりはないから、覚悟しとけよ!
そう言って、今までで初めてオレが先に抜ける。
少しだけオレの本質を知れたのかもしれない。まぁ、オレが厄介な存在であることに変わりはないが。
このやり取りが、後に大きく影響することを信じて。
―*―*―*―*―*―*―
さて、あれから約一年が経った。
とうとう幻獣が解放できる秒読み段階までこぎつけた。
「おい、
「えっと……アタシにかかりゃ、遅くとも五日だね。早いと四日だね」
ふむ……じゃあ、どうするか。
出す幻獣は決まっている。場所もその時の状況によるが、後は解放の日数のみが足枷だ。
さて……天よ。どう出る?
俺は口元を歪ませて嗤っていた。
今回は、あまり物語が進む回ではありませんでした。
天の過去に、新キャラの鈴仙と永琳、そしてアイデアライズの叢雲の名前が出ました。
アイデアライズの方は、あと一人ですね。
次回は、妖夢ちゃん書きます。前回叫ばせておいて、今回でなかったので。
ごめんよ、妖夢ちゃん……すみません、皆さん……
ではでは!