東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!
不穏なタイトルですね。嫌な予感しかしない。
大半は甘々要素、最後だけシリアスです。
これらの両立を図りたいですね……

とうとうこの作品の評価バーに色が付きました!
皆さん、ありがとうございます!
今後も頑張りますので、よろしくお願いします。

では、本編どうぞ!


第31話 絶叫

月の光に照らされながら、彼の姿を見続けて。

 

「さってと……そろそろ終わるか」

 

天君がそう言って、玄関を通って部屋に戻っていく。

彼を追おうとして、彼の鍛錬した場所を見るが、前のように上着は置いていない。

彼の部屋に行く理由はない。口実だって作れそうにない。

 

けれど、私は惚けてしまっていた。ろくな判断さえもできない。

自分のやりたことをやる。今はそれが、彼の部屋に行くこと。

 

ふらふらとした足取りで玄関を通り、彼の部屋に。

障子を開けるが、彼はもう寝ていて、反応は一切ない。

 

「天、君……」

 

もう限界だった。胸が切なさでいっぱいになっていた。

きゅっ、と締め付けられて。彼を欲しがって。

 

あの時のように布団へ潜り込み、彼に密着する。これをやったあの朝、どうなったのかも忘れて。

彼の温かみを肌で感じ、体が震え始める。それは、寒さなどではなく、幸福によるもので。

自分の欲が満たされていくのをひしひしと感じながら、一層深くへ溺れてゆく。

 

ただ、それの繰り返し。見惚れ、惚けて、満たされ、溺れる。

溺れた状態から助かったと思いきや、また見惚れて。

でも、それがこの上ない喜びで、幸せで、満たされるのだ。

 

そして、安心しきった時に、さらに意識が落ちてゆく。

思いの外呆気なく、私は闇へと誘われて。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

窓や障子から、木漏れ日のように朝の陽光が差し込んでくる。

この感覚も久しぶりだ。まったく、懐かしいものだ。

と、布団を出ようとして。自分の体に何かがしがみついていることに気がつく。

 

い、いや、まさかな……?

 

掛け布団を開き、中を覗く。

 

俺の予想通り、というべきか、妖夢がいた。

二度目。一年の時を超えての二度目。見たことのある景色とはいえ、戸惑いを隠せない。

 

(お、おい、栞……起きてるか?)

(んぅ……おは――天……初夜、だったの?)

(違ぇよバカ! 何が――しょ、初夜だ! またなんだよ、また!)

(わ~お……積極的なんだね)

 

それはどっちが……? 妖夢が? それとも俺が?

俺の場合はまだ勘違いの可能性が高いので、気付けをせねば。

 

(俺はどうすれば――)

(抱いちゃえば?)

(あいよわかった――とでも言うと思ったか!?)

 

どさくさに紛れて規格外のことを言い始める栞。

 

(いいじゃん。天が連れてきたわけじゃないんでしょ?)

(いやそうだけど……)

(じゃあ抱いちゃえ。妖夢ちゃんから入ったんならいいでしょ。天ってそんなこともできない『ヘタレ』だったのかー)

 

むぅ……だがしかし。ここで抱くのも悪くないというか……むしろ嬉しい位だが。

ヘタレと言われるのも癪だしな……

 

(……わかったよ。一回抱いてみる)

(どうしてそうなったし)

(何だって?)

(なんでもないです~、どうぞ抱いちゃってくださいな。ささ、私に構わず)

 

俺と彼女は既に密着状態。今から後ろに腕を回すだけで抱けるのだが……

恋愛経験ゼロの俺にはそれさえも難しい。

 

(ほらほら、抱いちゃいなよ。ぎゅ~、って)

 

……

震えながらも、彼女の肢体に腕を回す。

優しく抱き寄せる。優しく、優しく。

やはり軽い。軽すぎる。殆ど力を入れずに抱き寄せてしまった。

 

(ついに自分からだね! 今まで妖夢ちゃんが寄ってきたところを抱いてたからね~。)

(あ、ああ……)

(おやおや? お声が震えていますね~。意識しちゃってるのかなぁ~?)

(仕方ないだろ! 妖夢なんだぞ!?)

 

才色兼備。その一言で片付けるには、あまりに勿体無く、おこがましい程の美少女を抱いている。

そう考えると、意識せずにはいられない。

 

そうして、俺は気付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()ことに。

 

「ん……ぅ……あ、あれ……?」

 

そして、妖夢の意識が完全に覚醒する。

 

(……あ)

(……何その『あ』って。嫌な予感しかしないんだけど)

(……妖夢が起きた。頑張って♪)

(うわああぁぁあ!)

 

今この状況を妖夢が認知したら、どうなるだろうか。

この布団に入ったのは十中八九どころか、十中十が妖夢の仕業だろう。

だが、その後は? 俺が起きた状態で彼女を抱き寄せていたと知ったら?

もし本当に恋をしているならまだいい。が、そうじゃなかった時は社会的に抹殺されてしまう。

 

こうなったら……!

 

(狸寝入りしか、ない!)

(ヘタレだ!? ヘタレ過ぎる! バレた時が大変だよ? 私は止めたからね……?)

 

一か八か。俺はそんな賭けに乗りたくはない。

だが、ここで起きてみろ。一も八もなく〇、ゼロ、零。

ならば、ここで狸寝入り以外の選択は、ありえない……!

 

ま、自分で蒔いた種だから何も言えないし……

 

「え……あ、あれ? 天く――」

 

貫け、貫くんだ。耐えるんだ……!

微動だにすることなく……!

 

「あ……そっか、また私――天君……?」

 

起きてません。俺、寝てます。

 

「……寝てますか。早く起きないと」

 

そう、俺の部屋から出たならこちらの勝ちなんだ。

が、しかし。妖夢の言動が、俺の思考を狂わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも……()()()()()()()()()()()……?」

 

そう言って、妖夢は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分から腕を回し、俺と抱き合う形になる。

 

(ええぇぇぇえ!?)

(どうしてこうなった。ってか、私の前でイチャつき過ぎでしょ……)

(ど、どうすればいい!? まさか抱き返されるとは思わなかったんだよ!?)

(どうしようもないね。私も予想外だったけど、早めに言っておいた方がいいことは確かだね)

 

だよなぁ……早めに言うのが吉か。

でもな~……言ったら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……天君? 起きてますよね?」

「アァ、バレテマシタカ、ヨウムサン」

 

オワタ。モウダメダ。オシマイ。

 

「はぁ……やっぱり起きてましたか。それで、どういう了見ですか?」

「スミマセンデシタ。ゴメンナサイ」

「……もういいですよ。怒らないですから、言ってください」

 

おぉ……女神よ。

この俺を許してくださる寛大な女神様よ。

 

「いや、布団の中に妖夢がいて……栞が抱いちゃえ、って」

「私のせいなの!? ねえ!? そりゃ促しはしたけど、実際に抱いたのは天じゃん!?」

「妖夢の前でそれ言うかよ!?」

 

その発言はまずい。

このままだと、いらないことまでペラペラと話してしまいそうだ。

 

「……わかりましたよ。私は先に朝食作ってますから、後で来てください」

 

そう言って、妖夢はそそくさと俺の部屋を出ていく。

特に何事もなく。本当に事なきを得た。

……え、あれ?

 

「お咎めなしなの? しかも意外とさっぱりしてたし」

(そう見えた? 私は、そうは思わないけどね♪)

 

栞の声は、どこか弾むように。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

私の足は、震えていた。しかし、軽くもあった。

今にも崩れそうな足で向かうのは、私の部屋。

 

台所までもいけないくらいに震えてしまっている。

私の部屋に入り壁に背を預けて寄り掛かると、ついに足が崩れる。

 

ペタン、と座り込んだまま足が動かない。

同じく震えてしまっている手を、自分の胸の上に置く。

 

トクントクン、と今までにないくらいに心臓の鼓動が速くなっている。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

激しい息切れと体温上昇。

私は半人半霊で、人間よりも体温は少し低めだが、今の私は普通の人間よりも高くなっていることだろう。

顔も赤くなりっぱなし。今の私の顔は、物凄くはしたなく興奮に満ちているだろう。

彼には狂わされっぱなしだ。

 

彼が、自分から抱いてくれた。

少なくとも、私を嫌いじゃない。

 

むしろ、好きなんじゃ――

そこまで考えて、さらに顔の紅潮と心拍上昇が進む。

 

彼が、私を、好き。

 

理想の様な話だ。この恋が、彼と同じものだなんて。考えただけでも……!

私の瞳は、どんどんと虚ろになる。

気力が無いようで、気力に満ち溢れたように。

 

私は、どれだけ彼に溺れていれば気が済むのだろうか。

 

「責任……とってくださいね……?」

 

恍惚とした顔で呟いた言葉は、期待でいっぱいだった。

 

早く台所に行かないと、彼に怪しまれる。

震える足で無理矢理に立ち、彼に会うことを楽しみにした。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

さて、お咎めなしで済んだのだが。

 

(なぁ栞。どう思うよ?)

(これはもう恋しちゃってますね。もうバレバレ。天は嬉しいの?)

(嬉しいに決まってんだろ。……だからこそ、この環境と関係が崩れることが怖い)

 

今の、幽々子と俺と妖夢の暮らしが。仲良く笑い合う環境が壊れることへの恐怖。

あの一ヶ月を、思い出にするのはまだ早いだろう。

 

(大丈夫だよ。恋愛一つで変わるほど小さい関係じゃないはずだよ)

 

それはわかっている。けれど、わかっていても、考えてしまう。

関係なんて、簡単に崩れてしまうのだから。

そして、それを再建するのは、崩すことよりも、一から作ることよりも難しく、大変だ。

でも、そんなことを考えていても、前に進むことはない。

 

(そこまで悩むなら、幽々子に相談すれば?)

(……いや、自分で答えを出すよ。彼女を、自分で好きになりたい)

 

好きになるならば、自分で。彼女の魅力に他人の助言で気付くくらいじゃダメだ。

自分の惚れるところは、自分で見つけて好きになる。本来がそうだから。

 

さて、妖夢に追いつくか。

今は少しでも、彼女との交流を増やしたい。

 

 

 

台所へ行き、朝直の用意を進める。

この感覚、久しぶりだ。やっぱりこっちの方がしっくりくる。

今まで一年、ずっと料理はしていなかった。咲夜の料理を俺が手伝うと不味くなりかねないからな。

それに、向こうから断られたし。

 

気付いたら、自然と笑みが溢れていた。

なんやかんやで、俺はこの環境が一番好きなようだ。

 

「ふふっ、なんだか嬉しそうですね。どうしましたか?」

「ははっ、いやさ、この感覚が懐かしいんだよ。隣に妖夢がいて、一緒に料理して、幽々子の部屋に運ぶのが」

「そうですか……私も、天君が帰ってきてくれて嬉しいですよ?」

 

彼女の眩しい笑顔に、胸を締められる。

どうしてだろうか。

 

「俺も嬉しいよ。さ、作り終わったし、運ぼうか」

 

お盆に料理を乗せて運ぶ。この感覚だ。長らく忘れていた。

俺にとっての日常が回帰したことを、遅まきながら実感する。

 

 

朝食を食べ終わり、修行を始めようとして。

 

「天君、もう一回模擬戦やりましょう!」

 

負けたままだと、師匠としての顔が立たないためか、指導に入る前に再戦の希望。

何度も言うとおり、二度目は勝てない。“残撃”――残る霊力刃も、霊力に感づかれて躱される。

『あれ』もあるが……正直なところ、使いたくない。

ま、負け覚悟で足掻きますか……

 

「わかった。……一応、幽々子を呼んでくるよ」

 

一旦玄関を通って幽々子の部屋へ。

用件を伝えて、了承を得て戻ってくる。

昨日と同じルールで、模擬戦をすることになった。

 

「では、よ~い……始め!」

 

刹那。

バァン! と音を立てて妖夢の体が加速する。早期決着を狙ってるか……

なら……!

 

俺も足に霊力を溜めて、妖夢の攻撃をギリギリまで待って、引きつける。

妖夢の楼観剣が抜かれて、楼観剣は眩い光を反射する。俺も同じく、神憑を引き抜く。

そして、楼観剣が右から左へ振り抜かれる。視認できないようなスピードで振られた楼観剣は、音も置き去りにする。

 

……ここだ!

 

俺は体を最小限に動かし、カウンターを狙う。服が楼観剣に掠り、少しばかり布を斬る。

今なら避けられないだろ――っ!

 

俺は全力で後ろに飛び退いた。

瞬間、白楼剣が抜かれて、俺のいた場所を一閃。

 

「へぇ……よく避けられましたね」

「中々嫌な予感がしたからな。俺って案外こういうのは鋭いかもな」

「では……次はどうでしょうか!?」

 

先程よりも速いスピードで距離を詰められる。

このままだと、避けられない。負ける。ま、まずい――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あ~あ、俺はだらしねぇなぁ!?

 

 

瞬間。足に霊力が集まり、異様なスピードで後退する。

 

 

「はいは~い、残念だったね、妖夢」

 

俺が最も恐れていたことが起きてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――オレが、前に出てしまった……!

 

 

「妖夢、幽々子! ヤバい――」

 

それを最後に、俺の言葉は途切れた。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

天の様子が、おかしい。

あんなに飄々とした態度は、勝負事では見せないような性格の彼が。

そして、私は霊力の異変に気付く。

 

「ほら見ろよぉ! オレは強くなってんだろ!?」

 

そう言った彼からは、黒い霊力が溢れんばかりに流れた。

 

「妖夢! 本気を出しなさい! 死なない程度だったらなんでも良いから!」

「そら、くん……?」

 

ダメだ、気付いていない。

ショックなのはわかるけれど……!

 

「妖夢! しっかりしなさい!」

「あ……は、はい! 殺さない程度にいきますよ!」

「やれるもんならなぁ!?」

 

瞬間、二人の姿が消えた。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

オレは驚異的な速度での移動を続けている。が……

 

「ちっ! 速い……!」

 

妖夢がそれに追いついている。

一瞬でも気を抜けば、二本の剣に喰われる……!

なら……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレはあえて()()()()()()()()()()。まるで、『攻撃してください』、とでも言うように。

勿論、当たれば死ぬだろう。だが――

 

「……っ!」

 

振られた刀は、オレの胸の手前の空を斬った。

 

「ハッハハハハア! こいつは面白ぇな! 攻撃できないかよ? 大事なんだもんなぁ?」

 

予想通り。妖夢はオレに攻撃できない。

俺は妖夢に、オレのことを話していない。だからこそ、攻撃できない。俺がどうなるかわからないから。

 

まったく、傑作だなぁ!

 

「じゃあこっちから行く……ぜぇ! ……虚無ノ絶撃ィ!」

 

神憑を納刀し、黒の霊力を最大限に右腕に集める。

その黒は、まさに虚無。全てをも飲み込んでしまいそうな、虚。

霊力の密度が高い分、一筋の光さえも通さない。

 

腕の次に、曲げた足に霊力を溜めて、解放。

テレポートのように移動したオレの体は、妖夢の懐へ、

そのまま、霊力を溜めた右腕を――!

 

 

しかし、右腕は掠りもせず。

先程まで目の前に居た少女は、横に移動している。

はや――すぎるっ……!

 

「……すみません!!」

 

妖夢の楼観剣が、オレの腕を斬る。正確には、肩のあたりを。

ピシャッ! と鮮血が飛び散り、オレと妖夢の顔にかかる。

 

瞬間、二人は顔を歪めた。

妖夢は、大切な人を斬ってしまった罪悪感から。オレは、斬られた腕に激痛が走ったから。

 

「こ、この……!」

 

オレがもう一度右腕を上げて虚無ノ絶撃を放とうとする。が――

 

「アァァアア! イタイ!、イタイィ!」

「……腱とその周りの筋肉を、斬った。もう()()()右腕は動かない」

「ハハハ……敬語も、なくなったかよ……?」

「お前は天君じゃない。斬った天君には敬語ですが、お前には敬語を使う価値もない」

 

そう、かよ……オレも俺なのになぁ?

 

そこでようやく、俺が前に出る。

……が、激痛で言葉を話すどころか、意識も飛びそうだ。

 

「よ……妖夢、よくやった。ごめ……ん、な……」

「ぁ……天君! 天君!」

「紫! すぐに来て! 天を永遠亭に!」

 

俺が最後に見たのは、妖夢の泣き顔と、幽々子のこれまでで一番悲しい顔。

そして、スキマの中の大量の目だった。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

私は、天君を斬ってしまった。

斬ってしまった。きってしまった。キッテシマッタ。

私は何をすればいいだろう。

彼に会わない? 責任をとって、自分の腱も斬る? いっそのこと、死んでしまう?

 

「あ……あぁ……ああああァァァアァぁアァあ!!」

 

私の絶叫は、どこまでも響いて。




ありがとうございました!
さあ、次回は永遠亭からです。

腱を切ってどれくらい痛いかはわかりませんが、刀で一緒に切るのに必要な筋肉も切った、
ということで。

これ以上キャラ増やして大丈夫なのか心配です。
一部のキャラクターの出番が極端に少なくなる可能性があります。

文、勇儀、萃香は今後出そうと思っています。
交流の話も書きましたし。ただ、すごく後になるかもしれません。
ご了承ください。

ではでは!

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