東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!
とうとう第30話、区切りです。
ここまで書き続けられたのも、読んでくださっている皆さんのおかげです。
今後も投稿は続けていきますので、よろしくお願いします。

今回から第4章スタートです!

余談ですが、SAOの19巻を買いました。
表紙のキリト君がかっこいい!

では、本編どうぞ!


第4章 幻獣
第30話 好きになれるなら


妖夢を受け止めて、数秒後。

 

「あぁ……この日を、ずっと待ってましたよ……」

「ははっ、そこまで言ってくれるとはな。俺も嬉しい限りだ」

「もう幽々子様には挨拶を済ませたんですか?」

 

……あ、重要な主に言ってない。

完全に忘れていた。でも、物は言いようなのだ。

 

「い、今から行こうと――」

「はいはい。忘れてたんですよね? もう行っていいですから、早く会いに行ってください」

 

だめでした。妖夢は俺の性格をわかっていらっしゃる。

 

「わかった。挨拶が終わったら昼食作り手伝うよ。待っててくれ」

 

そう言って、何度も通った木造の廊下を歩いてゆく。

一年経ったのにも関わらず、体が道を覚えている。

広い、広い屋敷の中を、ただ一つの部屋に向かって歩く。

そして、少しして目的の部屋の前に着く。

 

障子を開けて中に入り、部屋にいる桃色の髪をした女性と、一年ぶりの会話。

 

「ただいま、幽々子。戻ってきたよ」

「……ええ、おかえりなさい」

「……反応薄くない?」

「そんなことはないわよ? ただ、妖夢の所にすぐに行ったから、少し寂しかっただけ」

 

何で分かるんだよ……何でもお見通し、ってか。

――それよりも。今は話さないといけないことがある。

 

「幽々子。紅魔館にいてわかったことがいくつかある」

「話してみなさい」

 

真剣味を漂わせ、扇子で口元を隠し、目を細める。

それは、彼女が真面目な態度に変わった合図。

この部屋に充満し始める、緊張感。

 

出ていく前、妖夢と話してショックを与えたのは、俺でなく、オレであること。

今後に戦闘がある以上、オレを取り込むことは必須で、避けられないこと。

既に一回、オレが紅魔館の皆に対して、攻撃してしまったこと。

 

「……わかったわ。で、最近の動きは?」

「全くない。逆に怖いくらいにな」

 

 

「ま、天だから大丈夫よ! そんなことより、おかえり~!」

 

幽々子の表情は一気に弛緩し、扇子も既にしまわれている。

口調もいつもの通りになってるし、もうこの話は終わりなのだろう。

 

……え、終わりなの? 結構大変な問題だと思うんだけど。

 

「お、おい幽々子……? そんなに軽い問題じゃ――」

「大丈夫よ。一回そいつに飲まれたんでしょ? でも、天はここにいる。これからもきっとそうよ。それに、強くなってるんでしょ?」

「いや、そうだけどさ……」

 

話を聞いていたのだろうか? 栞だって真面目に話していたんだ。

少なくとも、軽い話などでは全く無いはず。

なのに、幽々子は一層顔を笑顔にして、両手を胸の前でパン、と音を立てて合わせて。

 

「あ、後で妖夢と模擬戦してもらうからね? もし負けたら――」

「もいっかい白玉楼出てくわ。じゃ、そういうことで」

 

俺が踵を返して部屋を出ようとする。

すると、幽々子が俺の服の端を掴んで止める。

 

「あ~ん、待ってよ~。負けのペナルティはなしでいいから~」

「……幽々子、口調がおかしくないか? 俺が帰ってきてはしゃいでるのか?」

「あ、バレた? そうなのよね~。で、やるの? やらないの?」

 

もうその質問自体意味がなくないか?

何のために俺が一年頑張ってきたかわからなくなる。

スペルカードだって、『寒煙迷離の氷国』以外も作った。

『あれ』と、霊力刃のやつも頑張った。正直、初見の一回は勝てるだろう。

……勝てないと凹む。

 

「――やるよ。どうせやらないって言っても聞かないだろうしな。で、いつやるんだ?」

「昼食終わってすぐ♪ 早く成長した天を見たいわ~」

「早すぎだろ! 俺今帰ってきたばっか! 休みたい!」

 

ヤスミタイデス。カエッタバカリ。

 

「そんなことを言わないでよ。……貴方が出ていってからバレンタインまで、妖夢の元気がずっとなかったのよ。その分と思って?」

「……わかったよ、やってみる。勝てるかどうかはわからんが」

「天~、妖夢ちゃんと模擬戦?」

 

栞が会話に入る。

 

「そうだ。修行の成果を見せなきゃな」

「そだね~。多分勝てるだろうけど。初見は、ね」

 

ですよね~。逆に言えば初見以外勝てる可能性がない。

俺自身そう思う。

そして、幽々子が若干声を下げて。

 

「あらあら……うちの従者に勝てる、と。そこまで甘くないわよ……?」

「おお、怖い怖い。ま、初見だけだからな。それ以外は勝てん」

「いくら初見とはいえ、勝てると言ったんだから、それなりの行動を見せて頂戴な」

「言われなくとも。な、栞?」

「そだね~」

 

なんだ……? 栞のやる気がいつもに増して無い。

調子が悪いのか?

 

「栞、どうした?」

「いや、私が出なくても勝てるでしょ? まぁ、二回目になったら私が入っても勝てないし。やることないの」

「ふふふ……随分と妖夢を舐めてくれるわね」

 

俺、何も言ってない。栞、言った。

そんなに怒んないでよ……

 

 

 

結局、幽々子との話が長引き、先に妖夢が昼食を完成させていた。

ちょっと妖夢が不機嫌そうにしていた。そんな妖夢も可愛い。

 

妖夢って普通に可愛いんだよなぁ……そもそも幻想郷に美女・美少女割合が多い。

 

で。妖夢と模擬戦をすることになったんだが……

 

「寸止めの一回勝負、始めの合図で試合開始。いい、妖夢、天?」

「はい。……天君、私に勝てると言ったそうですね。……覚悟してくださいね?」

 

あぁ……笑顔が怖い。

不機嫌になった後は、怒ってるのか……まあ、やることは変わらないが。

 

「俺はいいよ。……じゃ、俺は手を抜くつもりはないからさ?」

「少しでも手を抜こうと少しでも考えたこと、後悔させてあげますよ」

 

「では……始め!」

 

幽々子の試合開始の合図が、高らかと空に響く。

10mほど離れていた、妖夢と俺が同時に刀を抜く。

 

その瞬間に、俺のスペルカードを発動させる。

『寒煙迷離の氷国』ではない、もう一つの水の能力を使ったスペルカード。

刀を突き立てるのではなく、『空気に触れさせるように』高々と神憑を掲げて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霧符 『一寸先も見えない濃霧』」

 

瞬間、俺と妖夢は勿論のこと、幽々子の周りさえもが濃霧に覆われる。

 

 

さぁ、見せてやるよ、俺の力……!

 

 

―*―*―*―*―*―*―

 

天君が神憑を掲げて突然、私の視界が急激に悪くなる。物理的に、一寸先は闇のよう。

濃霧に包まれるこの場所には、光さえも届かず、まさに闇。

 

「なるほど。いい考えですが……甘いですよ!」

 

私は、抜いた楼観剣を思い切り横に振る。

瞬間、濃霧は風圧で飛び、天君が元の場所にいることを確認できるくらいに視界が戻る。

 

「う、わぁ……さすがにそれは……」

「言ったでしょう! 後悔させる、って!」

 

私は天君との距離を一気に詰める。

それは、まさに刹那。短距離なら、幻想郷一ですから。

びゅん、と音を立てて加速し、それによって吹いた風により、完全に霧が晴れる。

 

「は……あぁ!」

「はや――うおっ!?」

 

楼観剣を振り下ろした直後、天君の神憑が閃いた。

楼観剣と神憑がぶつかり合い。

 

キャィィイン!、と激しい金属音が鳴り響く。

 

……おかしい。あれを止められるはずがない。

私自身、本気の振りだった。勿論、当てるつもりではなかったが。

天君に受け止められるはずがない。天君は、そんな並外れた反射神経は持っていないはず。

 

「い、いやぁ~……太刀筋見てなかったら、危なかったかもなぁ……?」

「……侮れませんね。太刀筋なんて普通体で覚えません。かといって、頭で覚えても間に合わない」

「今まで誰に教わってきたと思ってんだよ、師匠……?」

 

にっ、と不敵な笑みを浮かべる天君。

一年経っても覚えていてくれるとは、嬉しい。

けれど……師匠として負けられない。まだ負ける訳にはいかない。

 

「はあぁ……!」

 

ぎりぎりと刀が震える中、楼観剣が神憑を押し始める。

 

「っく……よ、妖夢、一つ良いか……?」

「なんですか……降参、ですか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……()()()()()

「……え?」

 

勝ち? 今は刀は拮抗状態。とても振るなんてできない。

なのに、勝ち?

 

「……あまりふざけないほうが、身のためですよ!」

 

私はさらに力を込める。

それに対応して、神憑も押され続ける。

 

「違う……! それ以上は危ない、止まれ……! ()()()()……!」

「……喉?」

 

喉の方を見る。が、何ともない。

だが、天君が嘘を言っている様子はない。

苦しい表情を続けながら、天君が言う。

 

「なぁ、妖夢……何か感じないか? 例えば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()……?」

 

喉に、霊力……?

 

「なっ……!」

 

ある。喉の位置に、霊力が。()()()が。

それを認知した瞬間、天君から飛び退いて距離を取る。

 

「……何を、しました?」

「霊力刃を飛ばすんじゃなく――()()()んだよ」

「ぇ……え、えぇえ!?」

 

ありえない。霊力は、普通は空間に留まることはない。

いや、留まることはあるのだ。ただ、すぐに霧散してしまう。

 

「ど、どうやって……」

「簡単な話さ。霊力の密度を極めて高くした。最初は俺も戸惑ったよ。すぐに消えちゃうんだからな」

 

楽になった表情を浮かべて、少し飄々(ひょうひょう)と話し始める。

 

「それで、栞からアドバイスをもらった。霊力を限界まで固めるといい、って。俺の霊力は白だから、比較的見えにくいし」

「で、でも……いつ、残したんですか?」

「最初に霧を出した直後。まさか、喉の位置に残るとは思ってなかった。ごめんな、危険にさせるようなことして」

「いえ……天君が言ってくれましたから」

 

実際、言われないと危なかった。

言われる寸前まで気付かなかったのだから。

……負ける気はなかったんだけどなぁ。でも――

 

「……天君、すごいですね。驚きました。成長、しましたね」

 

私は、天君の成長を本心からの笑顔で喜べた。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

成長、しましたね。

 

あぁ……この一言をもらうために、俺はどれだけ頑張れただろうか。

この言葉をもらって、どれだけ安心できただろうか。

つくづく思う。頑張ってよかった、と。

 

「おう!」

 

だからこそ、笑顔を返すことができたのだろう。

 

 

 

夕食の時間まで修行をしていた。その途中のこと。

 

「天君……私に、()()()()()()()()()()? それも、かなり重要な」

「あ……? して、ないよ?」

「嘘ですね。自慢ですが、私は天君の嘘は大抵わかります」

 

自慢なのかよ。普通そこは、自慢じゃないですが、だろう。

……本当のところは、嘘だ。

 

オレのことを、話していない。話そうかどうか迷っている。

話して、余計な心配をさせるのではないだろうかと思ってしまう。

 

「……」

「言えないん、ですね……それは、私が信用できないから……?」

 

妖夢が悲しそうな、寂しそうな、泣き出しそうな顔で問う。

俺は首を横に振る。

信用できないからじゃない。逆なんだ。信用できるから、心配かけたくない。

 

「わかりました。いつか話してもらえると信じて待っています。だから……その時は、教えて下さいね?」

 

……胸が、痛い。

張り裂けそうだ。俺は、こんなにも俺のことを心配してくれている妖夢を、騙しているんだ。

言い方に語弊があるかもしれない。騙すなんて大層なことではないのかもしれない。

 

けれど、彼女の優しげな微笑みが、そう思わせることを許さない。

ひどい罪悪感に苛まれながら、修行をすることになった。

 

 

 

夕食を作り、食べ終わって。

俺の部屋に戻って、栞に相談をしていた。

 

(なぁ……俺って、妖夢のこと好きなのかな……?)

(へぇ、珍しいね。自分から色恋沙汰の話をするのは)

(それだけ悩んでんだよ。このまま放っておく訳にもいかないだろ)

 

三ヶ月前。栞には、そろそろ答えを出すべきだ、と言われたが、未だに答えが出せていない。

自意識過剰とか、そういうことを抜きにして、妖夢は俺のことを好きなんじゃないかと思う。

 

ふざけてだとか、ナルシストとかも抜いて。言動がもうそれらしかったから。

俺も鈍い訳ではない。かといって、鋭いわけでもない。思い込みかもしれないのはある。が。

 

(そうだね。さすがにもうはっきりさせないとねぇ……天自身はどうなの?)

(……わからない。他人よりは好きだ、それはわかる。ただ、恋愛となると、好きかもしれないし、そうじゃないかもしれない。単純に俺の恋愛経験が圧倒的に足りてないのも原因の一つだが)

 

決定的に足りていない経験。今までは大抵勉強しかしてこなかった。

ここに来て余裕ができてから、従来経験しなかったことも経験したり、しそうになったりしている。

その一つが、恋愛だ。

 

(じゃあ、もし妖夢ちゃんに告白されたら、受けるの?)

 

告白、されたら……

 

 

妖夢が、俺に好きだと言ったら。はっきりと意識のある状態で言われたら。

明確に好意を伝えられたなら。俺は、どう返事を返すだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……たぶん、()()()。)

(ま、ムリもないね。可愛いし、性格いいし。何より……天のことを、一番わかってる。あ、二番目は私だよ?)

 

栞も大分俺のことをわかってくれてる。が、栞以上にわかっているとなると、妖夢だけだろう。

幽々子も中々張り合えるが、妖夢とは交流の時間が圧倒的に違う。

 

(そうだよなぁ……俺なんか勿体無いくらいだもんな……)

(あ、あれ、スルー?)

 

ホントに、勿体無い。

あんなに魅力的な女性には、もっとふさわしい男性がいるだろうに。

ま、本当に好きかどうかも定かじゃないが。

寝ぼけてたから本心、ってわけでもないしな。でも、それだと行動に説明がつかないんだよな……

 

(でも、もし俺が妖夢を好きになれる可能性があるなら、好きになりたい。彼女の魅力に惹かれたい)

(おぉ~、恥ずかしいけどいい言葉だね……)

(恥ずかしい言うな!)

(……急いでも、焦る必要はないよ。むしろ、焦って間違った判断をされた方が困る。妖夢ちゃんを好きになりたいなら、ゆっくりと好きになれるところを探していけばいいよ。全部が好きってなら、今すぐ告白に行っても――)

(ゆっくり考えるか! ありがと栞。さてと、夜の修行行くか!)

 

今すぐ告白は当然ないとして。

惹かれるまでの間、この関係を楽しむのも、また一興だろう。

散々悩んだ頭は、外の夜の冷気によって冷やされ、落ち着きを取り戻す。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

まただ……もう一年も前のこと。

私が――彼を好きになった日のこと。

彼は、一人で隠れて夜に鍛錬を積んでいた。

今思えば、私は彼の頑張る、努力する姿のかっこよさに惹かれたのだろう。

 

その日と同じ。また、夜の足音。外に向かって、静寂に伝わる足音。

私は、無意識に彼を追っていた。

 

そして、あの時と同じく外に出る。

彼は既に鍛錬を始めていた。建物の影に隠れて、彼の様子を見守る。

真剣な横顔が、彼の努力の程度を物語っている。

 

その姿に、私はいつの間にか目が離せなくなっていた。

離そうとも思わない。自分でも、自分の顔が恍惚となっていることがわかった。

 

 

 

 

私は今、深い、深い海の中にいるようで。

呼吸は苦しく、溺れてしまっている。

 

決定的に違っているのは、不快感。

今、私には不快感どころか、幸福感に溺れている。

顔も熱くなっている。呼吸も荒く、苦しく。

心臓が鐘のように鳴り響いて止まず、音が小さくなる気配すらない。

 

彼は海。私を溺れさせる、海。

けれどそれは、とても暖かくて、光が乱反射している、眩しい海。

私を包んでくれて、安心感をもたらしてくれる海。

 

そんな海の波に、私は今日から再び流されて、沈んでいく。

しかし、どこまで流され、沈もうとも、決して光は絶えることはなく。

流されて、沈み続ける。

 

どこまでも、どこまでも、どこまでも。




ありがとうございました!
最後の方の海のくだりは、なんとなくです。
こんな表現もたまには入れてみようかな……?
と思ったもので。
まあ、要するに気まぐれです。

ではでは!

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